どこかにあるかもしれない物語
へたくそですが書きました。こういうのあると思います。
魔王城、やっとここまで来ました。門番、四天王を倒し、今いるのは魔王の目の前。
私は奴隷で、勇者パーティーの荷物持ちです。
今の代の勇者は、どうやら今までで最も強いらしく、魔王とも互角に戦っている。そこにの王国一の魔法使い、剣聖、聖女が戦いに加わっていく。魔王が
「本気を出す」
とか
「最終形態だ」
とか言い始めましたが、まあ楽勝でしょう。
やはり問題なく勇者パーティーは魔王を倒し終えました。さて、私も魔王を倒した勇者様たちが喜びあっている輪の中に入るとしましょう。
勇者様は奴隷である私でさえも気にしてくださいます。
(勇者様は優しい人ですから)
私は魔王を倒した勇者様の冒険の終わりに複雑な感情を覚えるのとともに、私にとっての冒険の始まりを思い出していました。
五年ほど前、私は勇者様に救われました。奴隷としてオークションにかけられ、変態貴族や魔女やらに買われて、きっとろくな死に方をしないと思っていました。
「そこまでだ!」
そこに勇者様が現れました。どうやらその奴隷商人は、違法な奴隷を扱っていたらしく、王国の法律を破っていたため、勇者様が捕まえに来たそうです。
その頃の勇者様は、今よりも弱かったものの十分に強く、仲間もそろっていました。
行くところがなかった私を勇者様は、荷物持ちとして私を雇ってくださいました。私がパーティーにいてもいなくても、魔王には勝てたでしょうし、むしろいるほうが邪魔なはずなのに。
(勇者様は正義感の強いお方です)
パーティーのほかの方は勇者が奴隷を連れていることは、あまりよく見られないことなどを理由に私がパーティーに入るのを反対していましたが、勇者様が説得してくださいました。
勇者様の名前は、カイ、というそうです。カイ様、と何度か反芻します。そうすると勇者様が少しびっくりしたような顔で、
「笑うとそんな顔をするんだな」
と言いました。どうやら笑っていたようです。無意識でしたので自分でも少しびっくりしました。気を付けなくては。変に思われてしまうと困ります。
カイ様はいろんな方々に好かれるようです。王国の民や貴族からの支持も厚くいろいろな支援をしてもらっているようです。
そしてもちろんパーティーの方々からも。皆さん、カイ様から離れようともせず、いわゆるハーレムです。
私もそう思っていたのですが、しかし、カイ様は誰ともお付き合いをしているわけでもないのです。しかも誰にも手を出すこともなく。
明らかな好意を向けられているというのになぜ手を出さないのか、不思議に思っていました。
どうやらカイ様はほかの世界から来たらしく、元の世界に恋人を残してきたため誰とも付き合わないそうです。
(勇者様は一途なお方です)
まあ、パーティーの方々からすれば、関係なくアプローチをし続けているようです。
冒険して三年ほどたったある日、ついに我慢ができなくなった皆さんがカイ様に、夜這いに行くと話していたのを聞いたので、私も一緒についていきました。あわよくば手を出してもらえればと思い。
結果、カイ様は誰にも手を出すことはありませんでした。しかし、私たちをきづかって謝った後、デートをしてくださると約束してくださいました。もちろん、一対一で。
しかし、一対一のデートと言ってもほかの方が自分の番以外のデートが気にならないわけもなく、尾行付きのデートになってしまいました。
私はカイ様と一緒に服を見たり、食事をしたりなど普通の男女のようなデートを楽しませていただきました。
ほかの方々は、それぞれ少し性格に難ありなので普通のデートではなく、少し変わったデートをしていました。
魔法使い様は、ツンデレといわれるような性格で、すねたと思ったら今度は嫉妬したりと忙しそうでした。
聖女様はデートのはずなのに孤児院に行ったり人を助けたり、デートなのか少し疑問に思いました。
剣聖様に至ってはなぜか模擬試合をしていました。あれはさすがにデートとは呼べないと思います。
そのすべてにカイ様は付き合い楽しそうにしていました。
その一年後私たちは、カイ様をこの世界に呼んだ、女神様の導きによって試練を受けていました。といっても私は魔王城に最低限ついてこられるようにするだけのものでしたが。
ほかの方々も厳しい試練に苦戦していましたが、その中でもカイ様の試練は厳しく、魔王を倒すための聖剣を手に入れるというものでした。
カイ様は傷つきながら、時にあきらめそうになりながらも試練をこなしていきました。そして最後の試練では、身体ではなく精神への試練でした。
カイ様はその試練を乗り越えて聖剣を手にすることができました。
「おーい、大丈夫?」
勇者様に呼ばれて現実に戻ってきました。少し私も疲れているのでしょうか。思い出すことに集中してしまったようです。
「はい、大丈夫です。」
勇者様は、女神さまと約束していたそうです。魔王を倒したら元の世界に返してもらうと。
これはもとから決まっていたことであり、パーティーの他の方々も知っていました。だからこそ皆さんは、勇者様を引き留めようと自分のことを好きになってもらおうと必死でした。しかし心変わりをさせることはかなわなかったようです。
「ごめんね。」
勇者様は言いました。
泣きながら、最後の挨拶をほかの方々がしていきます。
でもみんな決して、これが最後ではないと、また、と言葉と抱擁を交わします。形見のように兜や手甲をそれぞれに渡しました。
そして最後私の番になりました。
「勇者様、いえカイ様」
ここまで本当に長かった。五年の冒険とても濃密な時間だった。感極まって泣いている私にカイ様は聖剣を預けてくださいました。
「ほんとうに楽しかったです、ありがとうございました。」
そして最後の抱擁とともに私は、
聖剣を勇者様に突き刺しました。
ああ、本当に長かった。勇者様あなたが優しくてよかった。正義感か強くてよかった。一途でよかった。そのおかげで私はこうして目的を果たせました。
私は魔族で親が殺され、孤児になったところを誘拐され奴隷にされました。魔族といっても姿が人と変わらなかったから誰も気づきませんでした。
奴隷オークション会場で助けられたとき思いました。
(ああ、こいつだ)
、両親の仇だ、と。
(そんなわけで、復讐を果たしましたけど、あんまりうれしくありませんね。)
この世界には死者をよみがえらせる魔法などなく、死は不可逆。
死んだ勇者から聖剣を引き抜いて流れる血を見て、思います。ああ少し、かなしいなと。
勇者パーティーの皆さんが呆気に取られているうちに聖剣を自分にも突き刺して死ぬ瞬間、思います。
やっぱり楽しかったなと。ごめんなさいと。