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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仙人の?いいえ魔女の弟子!〜最強に育てられた僕は今日こそ旅へ……出かけない!

作者: ヒロちゃむ

 短編を書いてみました!


 スローライフ系イチャイチャ物、て感じでしょうか?とりあえず(っ・ω・)っどぞー

 仙人が住むと言われる山の隣には大きな山脈がある。位置上は隣ではあるが常人からすれば遥か先に離れた山脈の山頂付近。


 そこに一つ、それなりにしっかりとした、それでいてそれなりに古そうなログハウスがぽつんと立っている。


 こんな場所に誰かが住んでいると言うだけでも驚きである。この山脈には数多の凶暴なモンスターが生息しているからだ。


 伝説の存在であり神の眷属とも呼ばれるドラゴンや神狼とも呼ばれるフェンリルが発見された噂もある。


 建物を建てることも、それを維持することも通常では不可能に近い。この山ではたとえ腕の立つ武人であろうと数日過ごすことすら困難な環境にあるのだ。


 にもかかわらず長期間にわたり立っていると思われる人工物、これを見た者がいるとすれば自身の目と正気を疑うだろう。


 夜が明け、太陽が登り始める朝方、そのログハウスから一人の少女が現れる。


 歳は14〜15歳程だろう、地上より遥かに日が近いにも関わらずその肌にシミや日焼けの跡はない。髪は銀色をしており光を反射し虹色にも見える。身長はこの世界の平均からすればやや低い……160cmに届かない程度だろう。


 山に暮らしているにも関わらずゴツゴツとした所のない全体的な雰囲気そのものが柔らかそうな印象を受ける。


 彼女は気持ちよさそうに大きく伸びをすると口に指を咥えると思いっきり息を吹く。


 ピィーーーーー!


 彼女の指笛が山へと木霊する。それを聞き満足そうに頷くと少女はすぐログハウスへと戻っていく。その少女こそ僕だ。





「師匠ー!もう朝ですよ!起きてください!」


 僕は大声で叫びながら師匠の寝室兼書斎である部屋へと一直線に歩いていく。一応、ノックをするが中から毎度の如く反応がないため遠慮なく部屋へと突入した。


 そこには古今東西ありとあらゆる書籍が所狭しと集められている。その数は数千を超えおそらく万に届くかもしれない。


 内容は様々、魔法に関しての本、兵法や政治、いくつもの国の地理や歴史書、それに何故置いてあるのかわからない漫画や娯楽用の小説……誰が書いたか官能小説。


 どこから集めて来たのやら…。


 だがその本達は無残にも本棚から下され至る所に転がりいくつもの山を築いている。これもいつものことだった。


「師匠!寝るのならちゃんとベットで寝てください!それにこんなに散らかして!毎回片付けるの僕なんですからね!」


 僕はそう叫びながら手頃な本の山から漁り始める。


 この山々のどこかに師匠が居るはずなのだ。何冊も本をどけてある程度纏めていると僕の探している山とは違う山が動き崩れ落ちていく。


「ん〜、もう朝かい?」


 そんな寝ぼけたコメントと共に本の下から現れたのは僕よりも幼く見える少女であり、この山に前から住んでいた魔女である……僕の師匠だ。


 ちなみに山とは決して今埋もれている本の山のことではない。


 寝癖で爆発した薄いピンク色の髪に眠そうに細められ今にもまた目蓋がくっ付いてしまいそうな橙色の瞳。お気に入りなのかいつも羽織っている真っ黒なローブが特徴的だ。


「そうですよ!毎回言ってるじゃないですか。ちゃんとベットで寝ないと風邪引いちゃいますよ!」


 僕は怒りながらも本の山から抜け出せないでいる師匠を救い上げ抱っこするとそのまま運び出し風呂場へと移動する。


「いやいや、これでもホントベットで寝ようとしたんだよ?だけどどうにも睡魔に勝てなくてねぇ…。」


「そんなババ臭いこと言って、もう…。」


 師匠は見た目こそ幼女のようにも見えるが僕よりもかなり歳上の女性だ。出会って10数年、容姿は今の姿から変わっていない。


「それに私はこれまで数十年、風邪なんて引いたことはないから安心しておくれよ。引いたとしても簡単に治せるしね。」


 師匠は僕に抱き抱えられながらケラケラ笑う。歳上…と言うより年寄り臭い仕草と口調を無視すればかなりの美少女に見える。


 そのため見た目からの印象だと口調がチグハグだが、そこもまた可愛く思えてしまうのは身内贔屓からだろうか?


「そんなにベットで寝ないのなら僕のベットに放り込みますよ?一晩中監視下に置きましょうか?」


 ジト目を向ける僕だが師匠は気にしていないようだ。


「おやおや?それは夜のお誘いと受け止めてもいいのか、ぶくぶくぶく…。」


 僕は師匠話している間にも教わった魔法を使ってお風呂にお湯を溜めていた。最初こそ苦戦したが今では片手間だ。


 師匠は黒いローブを脱がせるとその下は何も着ておらず、すぐ下着になっているので脱がせ易い。


 後はニヤニヤしながらおかしなことを言いだす師匠を湯船に叩き込めば今の状況だ。


 ちなみに今日はくまさん柄の上下だった。実は僕作である。今ではほとんどが僕が作った物だ。


 師匠は山をあまり下りないため仕方ない。


 師匠からの抗議の声を無視するとお風呂場を後にする。タオルに今日の着替えももう用意してあるのだ。後は流石に師匠一人で出来る。出来る……と思う。


 僕は再び玄関に向かうと剣を取り出し外へと歩き出す。


 ログハウスから少し離れた場所には森を切り開いた広場になっている場所がある。


 僕がそこへ到着するとほぼ同時に突風が僕に襲いかかる。耐えられない程ではないが少々鬱陶しい。


 乱れる髪を押さえながら空を見上げるとそこには―――黒く艶のある鱗、二本の角を持ち、大きな翼を広げた一体のドラゴンが降りてくるのが見える。


「今日も時間ぴったりだね、結構結構。」


 そう呟きながら着陸したドラゴンに近づくとドラゴンは唸り声を上げながら僕の方へと目を向ける。天空の覇者であり生物の頂点に君臨しているドラゴンの迫力は壮絶だ。


 けど、今の僕にとってこのドラゴンは大した脅威に感じない。強がりで唸っているだけだ。


「おやおや、いつもそんな反抗的な態度をとるけど……僕の機嫌が悪かったら本気でボコっちゃうよ?」


 僕の言葉に少しビクつくドラゴン。


 通常のドラゴンであれば人の言葉を理解しても言うことを聞くことはない。けどこのドラゴンは僕の言葉に従う。力関係を理解しているのだ。


 ドラゴンはため息とばかりに大きく息を吐くといつも通り僕に背を向ける。ドラゴンには立派な尻尾が存在しているがこのドラゴンの尻尾は先端付近で切れてしまっている。


 本来ならドラゴンは高い生命力により部位欠損を起こしてもしばらく期間を開けばまた再生する。だけど僕がほぼ毎日呼び出すため尻尾の長さが元に戻らないのだ。


 何故尻尾が戻らないのかと言えば、


「ふっ!」


 掛け声と共に持っていた剣でドラゴンの尻尾を斬りつける。そのままドラゴンの尻尾は数cmの長さで断ち切られた。


 ドラゴンは斬られた痛みに絶叫をあげた。


 こんな声を聞けば一般人なら卒倒物だが今では騒音程度にしか感じない。てか、煩い。


 けど、まぁ、許そう、今日はいい感じの手応えで斬れたし。


「うん、今日もいい感じに斬れたね。お肉の確保完了♪」


 通常、ドラゴンの身体は高硬度の鱗に覆われ、尻尾にもビッシリとくっついついるし、皮も防刃性及び魔法耐性に富んでいる。一般の剣では傷付ける前に折れてしまう。


 なら、何故僕がドラゴンを切れるのかといえば―――剣に秘密がある。僕の持っている剣は師匠のお手製なのだ。


 師匠曰く、


「なんか色々あった金属とか適当に放り込んで魔法で作った品でね?ドラゴンの鱗とか蟲の骨格とか最近見つけた赤黒いエネルギーの塊になってる石とか色々使ったせいかなんか無駄に硬い物質の剣になったんだよねぇ。」

 

 とのことだった。


 師匠は謎剣なんて呼んでいるが個人的にはエクス○リバーと呼んだ方がしっくりくる。とある騎士王の剣を彷彿とさせるのだ。


 剣の切れ味も然ることながら鞘付きのこの剣は使用者に高い回復能力や身体強化やら色々与えてくれる。


 これのおかげで僕はドラゴンの尻尾を簡単に切り裂くことが出来るようになっている。


 正直、剣なしでもドラゴンと対等以上には戦えるだろう。けど多少は苦戦するだろうし、そんな時間のかかることはしたくないため重宝している。


「うん、尻尾は貰ったからもう行っていいよ!」


 ドラゴンはしばらく痛みに呻いていたが僕に声をかけられると息を荒げながら顔を向けてくる。その瞳は潤んでおり荒い息にはどこか熱がある。


 まぁ、ドラゴンにはブレスを吐くため確かに息は熱いがこの熱はどこか違う。いや、知っている、知っているのだ。このドラゴンは―――M気質だった……。


「このドMの変態ドラゴンめ…。」


 僕が嫌な顔をして小さく呻くとドラゴンは小さく……僕から見ると大きく身体を痙攣させる。小声のはずだけど聞こえたんだろう。無駄に地獄耳だ……。


「ほら!もう尻尾は貰ったし何処へでも行きなよ!」


 僕がシッシッとするとドラゴンは一吠えして痛みに悶えながら何処かへと飛び去ってしまう。姿はすぐ見えなくなるがおそらくそう遠くへは行ってないはずだ。


 僕の指笛が届く範囲にしか行かない気なんだろう……普通なら僕らから距離をとりそうなものだが、そのうち近くに住みだしそうで怖い……。


「はぁ、ドラゴンは誇り高いはずなのにあの変態ドラゴンはそんな物持ってなさそうだなぁ…。」


 ため息を吐きながらドラゴン肉を回収して戻ろうとするがすぐ近くの茂みから一体のモンスターが飛び出して来る。


 普通なら警戒するところだがその必要はなかった。


「やぁ、リル。今日も元気そうだね。」


 僕の前に躍り出たのはフェンリルの子供である、リルだった。名付けたのは僕だ。異論は認めない。


 リルはあの変態ドラゴンに襲われているところを僕と師匠が保護した際、僕に懐き近くに住み着くようになった。


 まぁ、保護と言ってもこの子を保護した時僕はまだドラゴンに勝てる程強くなかったため師匠がドラゴンをボコった。


 だけど戦っていた師匠ではなく戦闘の凄まじい余波からリルを逃した僕に強く懐いたようだった。


 リルは一瞬ドラゴン肉に視線を向けて鼻を動かすがすぐに僕へと顔を向けると甘えるように鼻を鳴らしてすり寄ってくる。


「おや、リルは今日も甘えん坊さんだね。」


 フェンリルであるリルは子供でもそれなりに大きく結構ぐいぐい押されてしまう。僕を乗せて移動できる程大きいのだ。


 リルをしばらく撫でていると満足したのか自分の身体に縛った籠を僕へと差し出してくる。籠の中身はこの山やその周辺の森で取れる山菜や木の実、キノコだった。リルは毎日、こうやって僕らにお裾分けしに来てくれるのだ。


「おぉ、ありがとうリル!今日もご飯食べて行くかい?」


 リルを撫でながら声をかけると「ウォン!」と肯定するように一吠えする。それと同時にその身体が光り輝き始める。


 光が収まるとそこには10代前半位の少女が立っていた。フェンリルの毛並みと同じ青い銀色の髪と金色の瞳が特徴の獣人のように見える。


「母様!リル、あの阿保ドラゴンのシチューがいい⁈」


 それはリルが人化した姿だった。


 多少の意思疎通は狼の状態でも出来るがこうやって自分の希望が言いたい時は人化した方が伝え易いのだ。リルが籠を背負っていたのも人化して身体に結びつけているらしい。


 それにしても…


「やっぱり人化すると裸なんだね……。それに僕はお母さんて訳じゃないんだけどね……。」


 苦笑いする僕だがリルは特に気にした様子もなくパタパタ尻尾を振りながら首を傾げている。


 リルはフェンリルからすればまだまだ子供……それどころか赤ちゃんと言ってもいい年齢だがモンスター達は子供として親に守られる期間が非常に短い。


 これも師匠の言だが、


「寿命が数百から数千年単位あっても人の子供みたいに親に守られる期間て言うのは凄く短いのさ。リルも年齢だけならおそらく20歳から30歳くらいで人間で言うならまだ赤ちゃんクラスだけど身体だけなら10歳前後位なんじゃないかな?」


 とのことだった。


「はいはい、わかったよ。とりあえず家に戻るよ、おいで。」


「はーい!」


 リルは僕のことを本当の母だと思っている訳ではないだろうが素直で、僕の指示には従ってくれる。


 親代わりと思ってるんだろうか?まぁ、正直細かく聞く気はないため放置している。可愛いしいいじゃないか。


 狼の時は服が着れないため毎回人化すると全裸なのは玉に瑕だがそれもまた、愛らしいところだろう。多少眼福だと思ってるのは内緒だ。


 僕は家に戻る道すがらリルに気になっていたことを聞いていた。


「それにしてもやっぱりあのドラゴンは嫌いかい?」


「うん!あの阿保ドラゴンいつかとっちめてやるんだ!」


 リルは耳と尻尾をピンッと立てて叫ぶ。それも側から見れば愛らしい仕草だが彼女からすれば真剣そのものなんだろう。


 僕らが助けなければドラゴンに食べられてしまっていたかもしれないため仕方なくはあるが出来れば歪まず育って欲しいものだ。


「まぁ、こうやって僕がお仕置きしてるから勘弁してやってよ。」


 僕は剣に刺さったドラゴン肉をリルに見せる。ドラゴン肉は美味しい上、取るのが楽なこと以外にもリルを襲ったことへのお仕置きも兼ねているのだ。


「ぴぃ⁈」


 だけどリルはドラゴン肉を見ると耳をペタンと閉じて尻尾を股の間に入れてしまう。流石に尻尾を切断されるのは同じように尻尾を持つ者には刺激が強いらしい。


「母様?リルは……リルはちゃんといい子にしてるからね?」


 恐る恐ると言った様子で下から見上げてくるリル。別にリルが悪戯したところで尻尾を切り落とす気はないがリルはそうは思っていないようだ。


 僕は安心させるようにリルの頭を撫でながら微笑む。


「別にリルの尻尾まで切り落としたりしないよ?それよりもちゃんと服を着てね。」


「う、うん。」


「よしよし、うん可愛いね。」


 キッチンに肉を置くとリル用に用意しているワンピースを着せる。尻尾を出す穴もちゃんと開けてあるためそこからモフモフの尻尾が出てくる。


 お風呂から出てきた師匠と合流すると食事の時間になる。リルが希望したためドラゴンシチューになった。


 自分で作ったため自画自賛になるが美味しい。それに関しては特に問題ないが……リルはもうちょっと綺麗に食べようか、顔中がぐちゃぐちゃになってしまっている。


「うまうま!」


「相変わらず私の弟子の食事は美味いねぇ。このまま居着いて欲しいものさ。」


 師匠の言葉に僕は顔を少し顰めてしまう。


「おや?悪いことを言ったかな?私としてはいつまでも居てもらって構わないんだけど。」


 師匠はそう言って寂しそうに笑う。


「そう、ですねぇ……。」


 僕は師匠の言葉に昔を思い出すように目を細めた。






 僕は元々は捨て子だった。生後たったの3日で山へと捨てられたのだ。別に両親が僕を育てられない程生活に困窮していたわけではない。捨てられた理由としては僕自身に原因があったようだ。


 僕は生まれた時点で忌み子と呼ばれた。身体の一部に銀が混じる者をそう呼ぶんだそうだ。


 僕は生まれた時から少し髪があり、その色は今と同じ銀色だった。


 両親ははじめ、それを隠して育てようとしたようだが出産の手伝いをしていた産婆がそれを咎め許さなかった。両親は抵抗したようだがそれも虚しく僕は捨てられることになった。


 そうすると、両親は出来るだけ行動を遅らせ、何か出来ないか考え、そして一縷の望みにかけてある山へと僕を捨てた。


 その山には仙人が住むと言う伝説があり、両親はその可能性に賭けたのだ。もし本当に住んでいるのなら僕を見離すはずがない、はずだと。誰にも託せない彼らに出来たのはそれ位だった。


 結論から言えば、両親の判断は間違ってはいなかった。その山には仙人は住んでいなかったが、替わりに一人の人物が通りかかったのだ。それが師匠だった。


「へぇ、こんな森の中、親も居ないのに泣かないのか……。面白そうだね。」


「それに銀色の髪……忌み子てことかな?なら、持って帰っても問題ないかな。」


 師匠は僕に興味を示すと連れて帰りこの歳になるまで育ててくれた。まぁ、育児に不慣れな師匠は時々珍事を起こしたがそれについては深く語るまい。


 途中から僕が師匠のお世話をするようになったが今はそんなことはいいだろう。


 まぁ、なんで魔法で師匠自身に母乳が出るようにしたのかはいつか聞いてみたくはあるが…。



 ん?なんで僕がそんなことを知っているのかが気になる?師匠は通りかかっただけでそんなことまで知らないはずだ?そうだね、たしかにそうだ。


 その理由は簡単だ。僕は生まれた時点で既に自意識があったからだ。


 その存在を簡単に説明するなら、こう呼ぶんだろう


『転生者』と。


 前世、この世界とはまた別の世界に僕は生まれ、そして死んだ。最初から最後まで身体中にホースの管を通してただ生かされる日々だった。最後の瞬間も両親に感謝も、挨拶も、罵倒も何も言えずに静かに息を引き取った。


 だから、記憶を持ったまま生まれた時は本当に驚いたものだ。世界が変わっても言語が変わらなかったのが唯一の救いか視界は狭く、声も聞き取り辛かったが僕は両親の顔も声も見えたし聞こえていた。


 それが僕の現状を把握していた理由だ。


 後は、声を出せるようになると僕は師匠に事情を全て話した。僕を救ってくれた人に隠し事はしたくなかったし知識欲の強い師匠はきっと僕の話を面白く思うだろうと考えたからだ。


 実際、師匠は僕の話にとても興味を持ち前世の話を聞くことを楽しみにしてくれた。僕自身、それはかけがえのない時間であり、楽しいひと時だった。


 そして、師匠と生活する中で僕はとある目標を設けた。


 一つ、健康に生きる。


 二つ、強くなる。


 三つ、世界を見て周る。


 四つ、両親に会いに行く。


 僕を捨てた両親だが、それが彼らの本意ではなかったことを3日間の話し合いを聞いてよくわかっていた。最後の瞬間も僕を心配し、祈るように去って行った。


 彼らにも彼らの暮らしがある、子供は僕一人ではなかったのだ。焦る気持ちはあれど、咎める気にはなれなかった。


 少なくとも、彼らの僕への愛は本物だと思った。前世、僕を少しでも生かそうと奮闘した両親のように。


 前世は男だったが今世では女の子に生まれたことは色々思うことはあったが今は特に気にしていない。


 どうせ僕の息子は使う予定もなかったし、たとえ使ったとしても一回戦終わる前に腹上死するのが目に見えていた。


 それでも男としての意識までも捨てるのかと言われればそれも微妙ではある。少なくとも僕の意識はまだ男だと思う。この先どうなるかまではわからないけど……。



 僕は明日で15歳になり、この世界では成人と認められる歳になる。それを期に僕は一度、師匠の元を離れる決断を下し師匠にもその旨を伝えていた。





「僕の意思は変わりません、余程のことがない限り明日ここを発とうと思います。」


 僕は師匠の目を見てそう返した。


「そっか。」


 師匠はただそう呟くと食事を再開した。その顔はやはり少し寂しそうだった。リルはシチューに夢中で特に話を聞いていなかったようだ。



 食事を終えた後は自由時間だ。ベトベトになったリルの顔を拭いて僕も顔中舐められたり、師匠の散らかした本を戻したりと、この辺はいつも通りだった。


 その後、特にやることもなかった僕達はまた書斎に籠ろうとする師匠を妨害すると外へと連れ出した。


「師匠、ずっと籠ってないで少しは身体を動かさないといけませんよ?」


「そーだよししょー!」


「私のことはいいでしょ、動きたくない、働きたくないでござる〜。」


「なにそれししょー!」


 その後はリルが狩りをしたいと言うのでリルに乗せてもらい山中を駆け回った。途中、師匠がグロッキーになり、僕は泥んこになった。


 結局、狩りは諦めて釣りをしてみたりとのんびりした時間を過ごした。


 ちなみに、釣りで一番魚をとったのはリルだった。方法は石を水面に叩きつけて魚を気絶させる方法だった……。釣りとは一体……。




 そして夜、泊まることにしたリルとお風呂に入り皆で同じベットに入った。


 リルがベットで大の字になって寝静まった頃。


「やっと眠ったかな、魔獣とはいえ子供とは単純なものだねぇ。」


「師匠も見た目は子供みたいですけどね?」


「おや、言うようになったね。」


 僕と師匠はリルの寝顔を覗きながら笑い合う。


「本当に明日行ってしまうのかい?君が望むのなら何年でも居てもらって構わないんだよ?それにリルも悲しむ。」


 未だに僕を引き止めようとする師匠に嬉しく思うが苦笑いになる。


「それはそうですけど、別に今生の別れってわけでもありませんし、数年程度で戻ろうと思ってますよ?」


「むぅ、そうかい?」


 師匠も僕の決意が固いことがわかったのかむむむ、と唸り声を上げた。そんな師匠を見て僕は少し悪戯心が芽生える。


「師匠?一つ提案……提案?と言うか確認があるんです。」


「む?なんだい?」


 僕は師匠にある提案を伝えてみた。すると師匠はコテン、と首を傾げてみせる。


「門出だから私に何かして欲しい?」


「そうですよ、可愛い弟子の門出なんですから師匠から、何かないんですか?ほら、師匠が読んでる小説とかで弟子に師匠がよく贈り物とかするじゃないですか?」


 僕の提案は師匠からの贈り物の催促だった。何となく、何も考えていなさそうではあったが図星だったようだ。


 師匠は僕の提案に困り顔になってしまう。


「む、たしかにそんなこともあったけど……。さて、何を渡したものか……。因みに何か欲しい物は?」


 師匠はしばらく考え込むが何も思いつかなかったのか僕に直接聞きに来る。


「普通、そういうのは本人に聞かずに自分で悩んで渡すものでは?」


 師匠の潔さには感服するがまた苦笑いが漏れてしまう。


「むぅ、私にそういうことは向かないんだよ……。」


 師匠がむくれてしまう。こういったところはまるで見た目相応の少女のように見える。


「じゃあ、そうですねぇ…。」


 師匠は僕の言葉を待ち受けるように僕の顔を覗きこんでいる。


 僕は悪戯っ子のように口角を上げながら爆弾を投下した。


「なら、キスして下さいよ。」


 その言葉に師匠はしばらく時間でも止まったかのように動きを止めてしまう。


 時間にして数秒、じっくりその言葉の意味を吟味していた師匠はその意味を理解すると途端に顔を赤くし始める。


「な、ななな!にゃにを言うんだい⁈」


 変な声と共に師匠は素っ頓狂な声を上げた。そんな光景に満足しながら僕は話を続ける。


「いえいえ、師匠の読んでいる小説にもあるでしょう?可愛いヒロインが主人公に無事を祈って……とか?」


「私は君の師匠であって!そ、その……こ、恋人とか、そういうんじゃないんだけど……。」


 師匠は人差し指を突き合わせながら忙しなく視線を彷徨わせる。


 師匠は自分からアクションを起こす分には大丈夫でも急に僕からアクションを起こされると途端にしおらしくなってしまう。


 師匠は僕の精神が男であることを知っている。普段は意識していなかっただろうが提案を聞いて思い出したんだろう。


 狼狽る姿は乙女のそれだ。


「師匠?そんなに僕にキスするのは嫌ですか?昔は、よくしてくれたじゃないですか?それとも気持ち悪いですか?」


 師匠のリアクションを内心楽しみながら僕はわざと悲しそうな顔を作り師匠を見る。


「い、いや!別に嫌ってわけじゃなくてね⁈いや、むしろそういうのを師匠である私が一番に持っていくのはどうかと思うわけでして⁈」


 師匠はパニックになってアワアワ忙しなく手を動かしているが何故かその手の動きはワキワキした妙な動きになっている。


 色々言動が一致していないのが面白い。


「今更師匠が一番だとか気にしませんよ?むしろご褒美です。」


 キリッとした顔で言い切る。


「う、うぅぅ〜〜〜。」    


 師匠は顔を赤くしたまま俯いてしまう。


 少し揶揄い過ぎたようだ。


「それに、一体どこにキスするつもりだったんですか?」


 僕は出来るだけ口角を上げないように意識しながら師匠の顔を覗き込む。気を緩めるとニヤニヤしてしまいそうになる。


「そ、それは……その……口び……。」


 師匠はゴニョゴニョ口を動かしながら上目遣いで僕の顔を見るが、更にその顔を赤くさせ、口をパクパクさせる。


 確かに僕はキスしてくれとは言った。言ったが誰もどこになんて言っていない。


 気恥ずかしくはあるだろうが、これこそ()()()()()キスしてくれればいいのだ。ほっぺたや、おでこに。


 師匠もそれに気づいたらしく目に涙を溜めて僕を睨んでくる。おそらくニヤニヤしてしまっていたんだろう。


「そんな顔しないで下さいよ、勘違いしたのは師匠じゃないですか?ムッツリですね。」


 師匠はムスッとした顔のまま黙り込んでしまう。


 正直どこであろうとキスしてくれるのならそれで全然構わなかった。それに嘘はないしご褒美だとも思ってる。


 師匠は僕にとって、魔法の師匠であり、育ての親であり、そして最愛の人だ。敬愛しているし尊敬もしている。


 前世では何も出来なかった僕が、今世では自分で動き回れ、魔法を覚え、この歳になるまで大した怪我もなく過ごせたのは間違いなく目の前の女性のおかげだった。


 そして、師匠も僕を愛してくれている。


 そうでなければ何度も引き止めたりなどしないだろうし、ある程度成長して力を付けた時点でその辺の村の近くにほっぽり出しただろう。


 僕が居なかった時は師匠は一人で生活していたのだから。


 これは門出前のちょっとした戯れだ。しばらく会えなくなるから、ちょっとした思い出作りのつもりだった。


 師匠もそんなことはわかっているだろう。本気で怒れば魔法を使ってくるのが師匠だ。


「師匠?」


 しばらく会えなくなる、だから言っておかなきゃ……。


 僕が口を開きかけた時だった…。


「ん?ししょーはしないの?じゃあリルがやってあげる!」


 そんな元気な声と共に僕はベットへと押し倒された。


「へ⁈な、うむぅ⁈」


 そのまま僕が何か言う前にいきなり唇を塞がれる。


 それは今まで寝ていると思っていたリルの仕業だった。


 一体どこから出してるんだと思える程の力で僕をベットへ押さえつけ上からのしかかる格好で僕の唇を自分の唇で塞いでいるのだ。


 リルはそのまま尻尾をパタパタ振りながら僕の唇を貪り始める。


「あむっ、はっ、むちゅっ。」


 ヌルっとした感触と共にリルの舌が僕の唇を押しのけ中へと入り込んで来る。


「リルっ!ちょっ、まっ!んっ!」


 初めての感覚に困惑する。


 やわらかい⁈ヌルってする⁈なんかいい匂い⁈


 僕はどうにか声を出してリルを静止しようとするがリルは興奮しているようで全く話を聞いてくれない。


 フェンリルは狼でもある。そのため愛情表現の一つで口付近を舐めることがある。今までも何回もされたし、それは人化しても変わらなかった。


 でも、今回は明らかにキスという行為が何かわかっていてやっている。ただチロッと舐める行為とは訳が違う。


 僕を母様と慕い、後ろをトコトコ付いてくる可愛い少女が今目の前で顔を蕩けさせながら僕にのし掛かり身体をすり合わせてくる。


 蠢く感覚に身体が反応しそうになる。


 侵入した舌はそのまま僕の口内を蹂躙してくる。


 リルをどかせてもらおうと師匠へと目を向けるが……


「あわわわわ、うわっ、これが……うわっ、えっ、そんな感じに……。」

  

 師匠は真っ赤にした顔を手で覆って何か口走っている。勿論、覆っている手は隙間だらけで覆う意味がない。


「はむっ、ちゅっ……はっ、ふぅ……っ」


 リルの舌は僕の舌と絡み合う度に湿気の混じった音を部屋へと響かせる。


 どれ位の時間そうしていたのかわからない。一分にも満たない時間なのか、それとも数分にも及んだのか、時間の感覚が麻痺し始める。


 けど、このままでは何か不味いことになる……。


 酸欠と女の子の甘い匂いとキスの感覚に溺れそうになる中、絞り出した理性は何とかリルの拘束から抜け出した片手を動かし、リルの尻尾を掴んで扱き上げた。


 するとリルは目を見開き、身体を痙攣させるとやがてピンと背筋を伸ばすと悶えるように僕から顔を離した。


「ふにゃぁ〜〜〜!」


 そんな間延びした声と一緒にへたり込むリル。


 リルの尻尾は暴走したリルを大人しくさせる安全装置のような役割がある、今回はそれが役に立ってくれた。


 もう、自分の物かリルの物かわからなくなった唾液を拭き取ると息を整える。残念ながら師匠は自分の世界から帰って来なかったようだ。


 今も顔を互いに真っ赤にしながら見つめ合うがどうしたらいいのかわからなくなってしまった。


 リルはベットに横たわり自分の尻尾を抱きしめてフーフー息を荒げている。痛いわけではなく何か我慢しているようにも見える。多少は理性が戻ってきたらしい。


「えーっと、その〜。」


 今から何を言えと言うんだろうか?


 目の前で熱烈なキスを見せつけたばかりだ。


 僕からじゃないとはいえ特に抵抗も出来ずに受け入れてしまったばかりのこの状況で更に師匠に想いを伝えたところで真意は伝わるだろうか?


 それでも今言わなければその先、言う機会が来るかも怪しい。


 普段一緒に居る程タイミングがよくわからなくなる。そのままなぁなぁになりかねなかった。


 ベットの上、僕は師匠との距離を詰めようとするが僕が近づいた分師匠は離れてしまう。


 正直泣きそうだがそんなことは言っていられないのだ。男として腹を決めるしかない。たとえ断られようと伝えないと……。


 今女だけど……。


 何度か師匠との距離を詰めてベットの端へと追い込む。


 師匠は何故か涙目でプルプルしているため小動物を追い詰めてるような罪悪感と優越感が僕を襲うが今更言っていられない。


 逃げられない所まで来ると最後は覚悟を決めたのか身体を強張らせながらきゅっと目を閉じてその場で師匠は動かなくなる。


 僕は師匠に触れられる距離まで来るとゆっくりと手を伸ばし、そのまま師匠を胸の中に収める。


「師匠?」


 出来る限り優しい声色で師匠へと語りかける。


「僕は師匠のことが好きですよ?ただの好きじゃなく、愛しているって意味です。師匠はどうですか?」


 愛おしい存在を胸の中に感じながら言葉を紡いだ。


 簡単な言葉だ。けれどそれがはっきり言える人はきっと、そうは多くないだろう。


 心臓がバクバク脈打っているのがわかる。吐きそうな程緊張している。口の中が渇きそうだ。


「私も、君のことは好きだよ?」

 

 師匠は僕の胸の中、か細い声で答えてくれる。


「やった、両思いですね。」


 師匠は僕を見上げながら恥ずかしそうに頬を赤く染める。


「私だって君のことが好きさ?だけど私と共にいるのはあまりオススメは出来ないよ?」


 でも、師匠は僕を気遣うような顔をする。


「もう、長く生きた。でも、まだ私の生に終わりはない。一緒に居てくれるのは嬉しいよ?本当に嬉しいさ。けど、それは永遠を共に居てくれる程なのかい?いつか、終わりが来る?それはいつまで?」

 

 師匠はついさっきまで言っていたこととまるで逆のことを言い出し始めてしまう。


「愛だっていつかは終わるんだよ?もう、何回も見てきたよ。それでも私と一緒に居てくれる?本当に?百年を超えて、千年でも?それよりも長く?」


 そんな言葉を聞いて僕は察してしまう。


 師匠は僕をもう暫く引き止めたい。けれど、一生共に居てほしいとまでは思っていないんだろう。


 師匠がどれだけ生きているのかは知らない。聞いたことはないし興味もなかったからだ。


 けど、師匠はその長い生の中で愛や好意が終わる所を見てきたんだろう。何度も。


 好きだし、側に居て欲しい。けど、そう遠くない未来に師匠は僕と距離をとるつもりなんだ。


 永遠なんてないんだと。いつか冷める物なら要らない。欲しくない。傷つきたくなんかないんだと。


 それでも一緒に居てくれるのかと……。その覚悟は?と。


「一緒に居ますよ。死が僕らを分つまで。」


 僕はとある魔法を発動させる。


『契約魔法』


 僕の身体を一時的に光が包む。優しくあり、それでいて強い力を秘めた物だ。


 それは魔法によってその言葉を縛る魔法の光だった。


 これで僕は死ぬまで師匠と一緒に居ることを誓ってみせた。


 永遠なんて物はないんだろう。いつか気持ちが変わるかもしれないし、それが歪むこともあるかもしれない。


 それでも僕は師匠と一緒に居ることだけは誓ってみせる。例え暫く離れたとしても僕はちゃんとここへと戻り一生を師匠と共に歩むことを。


 僕の胸の中で、不安を隠そうともしない顔で僕を見つめる人のために躊躇なく契約してみせた。


「あぁ、君ってやつは……。」


 師匠は僕の魔法に気付くと嬉しさと申し訳なさとそれ以外の感情の混ざった顔をする。


「男らしく誓ってみせましたよ?」


 そう言ってニヒルに笑ってみせる。


 ニヒルって虚無的とかそんな意味合いで実はカッコつけた時使うわけじゃないがニュアンスは伝わるだろう。


 師匠は僕を見上げながらポロポロ僕の胸を涙で濡らし始める。


 言葉は、なかった。


「むっ」


「ちゅっ」


 どちらかともなくキスを交わすした。


 先程までの熱烈な物ではなく、初々しい、ただ少し触れ合うだけのキスだった。


 けど、それだけで先程までとは比べ物にならない程の恥ずかしさに襲われる。

 

 すぐ口は離れてしまう。


 けど、またすぐに近づきあう。


「ふっ、あむっ。」


「はっちゅっ。」


 先程までとは少し違う。もう少し熱烈なものだ。


 何回も、何度も、僕らはキスを交わす。


「はふっ、むっ、ちゆっ……シャ、ルル。ちゅっ、んっ、ふぅ……っ」

 

「ちゅっ、ふふっ、やっと僕の名前を呼んでくれましたね。」


 ニコニコしながら語りかけるが師匠は夢中になって僕の唇を吸っている。

 

 リルの時と比べ物にならない程、僕らはキスを交わし合った。

 

 そして、互いに息が続かなくなり顔を離す。


 銀色の糸が引いてなんとも淫靡だ。


「シャル、シャルル……。」


 師匠は僕の名前を呟きながら息を整えている。


「やっと僕の名前をちゃんと呼んでくれましたね。」


 師匠の髪を撫でながら感慨にふける。


 いつからか僕のことを君と呼ぶようになった師匠が僕の名前を呼んで求めて来るのはなかなかに反則的だ。

 

 そのまま僕は師匠に覆い被さる体制になる。


 師匠はポスッとベットへと倒れた。


 暫くぼーーっとしていたが僕を見ると師匠は両手を差し出してくれた。


 その意味を理解出来ない程僕は愚かじゃない。


「師匠……」


 僕らはそのまま……。


「リルもーーっ!」


 そう言って今まで意識の外にいたリルが僕らに飛び付いて来る。


「リルもっ!リルもするもん!母様、リルもっ!」


 リルは駄々をこねるように僕らに抱きついてくる。


「えっ、でもリル?意味はちゃんとわかってるよね?」


 雰囲気をぶち壊されて怒りたいところだがリルはそういう子だ。放っておいた僕らが悪いし、しばらく待っていてくれただけでもリルの優しさだろう。


 リルは僕の言葉の意味を理解出来なかったのか、キョトンとした顔で首を傾げていたが……


「ん?今からししょーと母様がこー……」


 口を塞いでおいた。意味は理解していたようだ。


 口から手を離すが、


「ん?じゃあ、母様がししょーにたね……」


 残念ながら口を塞いだ意味は理解していないようだった。


 僕は色々頭が痛くなる。


「リル?僕達とそういうことをする意味を理解はしているみたいだね?けど、いいのかい?君は僕を母だって……。」


「ん?母様だからするんだよ?リルも赤ちゃん欲しい!」


 純粋な好意でリルは僕のことを見ている。


 そして僕はこめかみを押さえながら一つあることを思い出していた。



 フェンリルは絶対数が極端に少ない。そのため、他のフェンリルに出会うこともなく家族以外と接する機会がないことが多いのだ。


 そのため、フェンリルは親や兄弟で子孫を残すことが多いそうだ。むしろ、その方が圧倒的に多いと。


 それがフェンリルの中での普通である、と。


 つまりリルにとって僕はそういう対象なんだろう。


 残念ながら僕との間に子供が出来ることはないと思うが、言わない方が幸せだろう。いつか、出来るようになるかもしれないし……。


「シャルル?受け入れてあげないの?」


 ベットで横になっていた師匠がムクリと起き上がり僕に語りかける。


「師匠?ですが……。」

 

 師匠の言葉に、言外にそれでいいのかと聞くが師匠の顔は真剣そのものだった。


「私は、構わないよ。後はシャルル次第だ。」


 つい先程、師匠に告白したばかりなのに僕が他の人と仲良くすることを許すんだろうか。


「リルも私にとっては家族も同然さ、シャルルが受け入れるのなら私は歓迎するよ。」


 師匠はそう言って微笑む。


「母様?」

 

 リルは心配そうに自分の尻尾を抱きながら僕を見つめてくる。


「ん、わかったよ。おいで?」


 師匠はリルを認めた、僕もリルのことは好きだ。師匠を想う程では無いにしても。


 種族は違うがリルの好意は嬉しい物だ。そして、師匠と一緒に居てくれる者が多いのも歓迎すべきことだった。


「えへへ!」


 リルは僕に飛びついてグリグリと身体を擦り付けて来る。


「師匠?本当にいいんですね?」


 僕はリルも胸に抱いて師匠に最終確認をする。


 師匠は朗らかに笑った。


「うん!」


 つい先程までとはまた変わった雰囲気となったが、それでも僕らは今ここで家族として想いを確かめ合った。





 次の朝。


 僕は部屋の窓を開けて外の空気を部屋へと通す。締め切っていたため色々と溜まっていたのだ。


「うん、門出日和とはこのことだね。」


 外は雲一つない青空。空気も澄んでいて、いい気持ちで出かけられそうだ。


「師匠!リル!起きて下さい!」


 そう声を上げて振り向くが……


「うっ……うぅ。」


「母様ぁ……。」


 師匠はベットの上に座り込み涙目だ。ベットから降りる気配がない。


 リルはベットから降りているが産まれたての小鹿のように足腰がプルプルしている。

 

 昨日は色々頑張り過ぎたようだ……。リルは底無しだし、師匠は敏感だった。


 こういう時はむしろ僕が動けなくなりそうなものだが回復魔法とは偉大だった。師匠は魔力では勝っていても体力はなかったしリルは回復出来なかった。


「あ〜、今日明日位、出かけずに居た方がよさそうですね?」

 

 僕が声をかけると二人ともコクコク頷いた。


 僕は苦笑いになる。だが、自業自得だろう。旅に出るのはもうしばらくおあずけのようだ。


 少なくとも今日の二人を残して旅に出かけられる程図太くも冷たくもないつもりだ。


 僕は二人に歩み寄って介抱を始める。


 結局、僕は今日旅にでかけることはなかった。





 その後も、魔族の少女が迷い込んできたり、尻尾の切れた竜人が訪ねてきたりと僕はなかなか旅にでかけられないがそれはまた別の話だ。



 




 

 少々、一人称と三人称が混在した感じになったのは反省点ですね…難しいです。ちなみにシリアスには、しきらないのが自分のやり方ですw


 是非感想、コメントいただきたいです!


 これで連載版書いてみるのも面白いかも?w

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