1.5
依頼数の五頭目のルプスを見つけた。
何か獲物を狙っているようで、その先に目を向けて驚愕する。
何でこんな森の中に女の子がいるんだ?!
ここはAランク以上の者しか狩れない魔獣が生息する森で、今だってそこにいるルプスはAランクの魔獣だ。
驚きは一瞬で、俺は冷静に狩りに出た。
ルプスを仕留めると、最後のこいつは持って帰ろうと縛り上げる。
……ずっと視線を感じる。
少女は幻ではないようだ。
しかたない。俺は近づかないまま声をかけた。
「こんなところで何をしている?」
おおっ。真正面から俺を見て、目を合わせて答えている。俺のでかい身体と強面のせいで女や子供から怯えられるのは常なのだが。
こんな風に怯えられず会話ができたのはガキの頃以来久しぶりだ。
礼まで言われた事にも驚く。ずいぶん豪胆な少女だ。
会話を進めていくと、少女はどうしてここにいるのか、どうしていいのかわからないという事だった。
会話しながら観察する。
特筆すべきは、とても綺麗な子だという事。
女に縁のない俺でもわかる、かなりの美少女だ。
全く荒れていない、真っ白で傷も汚れもない手足。艶のある髪も肌も、少女が平民ではない事を物語っている。
丁寧な口調や、着ている物も見た事もない上等な物で、かなりいいとこのお嬢さんと思われる。
お家騒動か何かで逃がされたのか?
逃げた先がこんな森の中じゃ逃げた事にはならないが。
「魔法で飛ばされでもしたのか?そういやあんた、着てるものも見た事ないし」
可能性の一つとして尋ねると、少女は黙ってジッと俺を見つめた。
…… …… …… …… ……
何か考えているのか?!
いつまで待てばいいんだ?!
そう言わないでとりあえず待てたのは、少女の目のせいだった。
出会って間がないというのに、少女の目には、たぶん俺に対する好意の色が浮かんでいる。
こんな事は初めてで、俺はものすごく戸惑っていた。
俺自身や職業柄、恐怖や嫌悪の目で見られる事が多かった。もう慣れた事だし諦めてはいたが、何も思わない事はない。
他の奴らの好意的な態度や視線というものは見た事はあったが、まさかそれが自分に向けられるとは。
……どうしていいかわからない。
内心かなり動揺していると、問いかけとは全く別の方向から答えが返ってきた。
「こんなところに置いて行かれたら、そう遠くないうちに死んでしまうと思われます。ご迷惑とは思いますが、どうか一緒に連れて行ってくれませんか」
「……一度助けたのに見捨てたりしねぇよ。 あんた裸足だけど歩けるのか?」
言った事は本心だけど。
この子ともう少し一緒にいたい、なんて、柄にもなく思った自分に驚いた。
それから、どう考えてもこんなところを歩けばすぐに傷つきそうな足を見て抱き上げた。
この行動にも驚きだ。姿を見ただけで怯えられ、近寄れば子供には泣かれるような今までを思い返せば、とても抱き上げるなんて事はできないのに。考えずに行動していた。
抱き上げれば慌てて降ろせと言われる。
重くはない。持ち帰ろうと思っていたルプスより軽いくらいだ。
そういえば自分から名乗られたのも初めてだった。名前を知ったからって何もしねぇっての。
ただ、存在に怯えられる理不尽ばかりだった。
それにしても家名持ちか。やっぱりいいとこのお嬢さんなんだな。
見た事のない食べ物を、食べるかと聞いてきた。これも初めての事だった。
いつもどこかで戦があるこの辺の国々は食べ物は圧倒的に少ない。自分の分を人にわけようだなんて奴はいない。せいぜい親子くらいだ。
食べる事に困っておらず、アイテムボックスとかいう高度な魔法も使える。
この辺りの情勢に疎いらしく色々質問してくる。本当にどこのお嬢さんなんだろう……。
これがランとの出会いだった。