表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

7.もうひとつの手がかり

「サク? どうした? サク?」


 立ったまま動かなくなった朔哉にヒロシが何回か呼びかけるが、反応がない。

 朔哉の頭の中は目まぐるしく動いていた。


 家電メーカーASAKURAは、CMにSOUVENIR(スーベニア)の画像を使っているメーカーだ。

 ASAKURAのメーカーロゴが前の社長の時にアルファベットのAと桜の花をうまくデザインしたものに変わった。

 その由来は前社長夫人の名前からだとどこかで読んだ。

 確かそこには、『家内と一緒に行った思い出の地を再現して欲しくてSOUVENIR(スーベニア)に協力した』とも書かれていたはずだ。


(どこで読んだ?)


 本棚へ突進する朔哉を、ヒロシは面白そうに見ている。


「なんか見つけたんだな」


 平野もうんうんと頷いて、少女を安心させる。


 しばらくしてテーブルに戻ってきた朔哉の手には、一冊の経済誌があった。


「これ」


 テーブルに開かれて差し出されたページには、前ASAKURA社長のインタビュー記事が載っていた。


SOUVENIR(スーベニア)に家電ASAKURAも参入! 「家内との思い出を残したくて」』


 朔哉はインタビュー記事の一部分を指さした。


『私たちは旅行が趣味で、若い頃はよく二人で海外をまわりました。私はどこに行ってもつい仕事と結びつけていましたが、家内は美しい土地が好きで、いつも一緒に見ようと強引に誘うので困りました』


 ――それでも毎回ご一緒されていますよね?


『ええ。家内とまわるうちに、一緒に見た景色をよく覚えていることに気がついたのです。その時の風景だけではなく、風のやわらかさや日射しの強さ、匂いや考えていたことまではっきりと覚えている場所もあります』


 ――特に印象深かった場所を教えていただけますか?


 そこで挙げられていたのが、まさに今、SOUVENIR(スーベニア)でまわった名所だった。

 その中のひとつは初期に消えたエリアのひとつだったが、もうひとつ、今SOUVENIR(スーベニア)内で行かなかった場所が書かれていた。


『X県には思い入れがあって、山の一部分を購入させてもらいました』


「日本のX県かー」


(そうか。私有地なら関係者以外は入れない。今まで誰もたどり着くことができず、アプリも反応しなかったのにも頷ける)


 ただ、聖地がわかったのに『紅葉の謎』が解けない。

 『紅葉の謎』の答えは聖地名じゃない?


(まだなにかあるのか?)


 SOUVENIR(スーベニア)の『紅葉の謎』には、他の『謎』とは違って、入力欄も選択肢もなかった。

 おそらく『紅葉の地』の特定の場所に行くか、特定の行動をとらないと解けたことにならないのだろう。

 だが、それがわからない。

 『紅葉の地』に幾度となく訪れ、あらゆることをしてきた朔哉でも解けなかったということは、当てずっぽうでは解けないということだ。

 聖地に行けばなにかわかるかもしれない。

 さいわいなことにX県は隣の県だ。


「ヒロ、次の休みにX県に行くぞ」


「は? マジ?」


「遅くとも来週だ」


「いやいやいやいや。今回の休みとるのだって、俺けっこう無理したんだけど」


「時期がずれると『紅葉の謎』が解けなくなる可能性がある」


 紅葉はもう始まっている。

 まだX県の山のどこかまで詳しくはわからないが、山ならここよりも紅葉が早い。

 急がないと手がかりが消えてしまう可能性がある。


「もーわかったよ。アリスちゃんは来週も空いてるかな?」


「もちろんです。私がお願いしたことなので、予定があっても空けます!」


「可能なら、朝倉夫人と連絡をとって、私有地に入る許可をもらってほしい」


「あの、朝倉さんはもう……」


 言外で、朝倉夫人はすでに亡くなっていることが伝わってきた。 


「ごめん」


「いいえ。あ、朝倉さんからは『紅葉の謎』を解くのに困ったら使ってと、手紙を預かっています」


「それ、今持ってる?」


「はい」


 少女は鞄からしっかりとした白い封筒を取り出した。


 まだ開けられていなかった封を見て、朔哉がペーパーナイフを手渡すと、少女はぎこちない手つきで開封する。


 中から出てきたのは、地図のきれはしとなにかの許可証だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ