3.SOUVENIRの『謎』(下)
『紅葉の謎』のあまりの解けなさ具合に、朔哉が運営している謎攻略サイトへの書き込みが増えたので、やりとりをしているSOUVENIR社員にたずねたことがある。
「『紅葉の謎』はバグじゃないですよね?」
「もちろん。ちゃんと解ける『謎』だよ。ただ、他の『謎』と同じようには解けないだろうね。アリスの協力がいるんだ。悪いけど、これ以上は話せない。頑張ってね」
アリス? そういえばそんな名前のNPC(コンピューターが制御しているキャラクター)がいたな、と朔哉は思い出した。あちこちの名所にいるゲーム中の女の子だ。
「最近になってメロン味が増えたんですよ!」
「ここからの景色が最高なんです!」
といった感じで、最新トリビアを教えてくれたり、名所のベストビューポイントをアドバイスしてくれたりするキャラだ。
名所に同時に存在しているアリスは、服装こそ違うけれども同じ名前で同じ顔、同じ黒髪おかっぱキャラなので、ただの名所案内役なのだろうと、気にもとめていなかった。
このアリスというキャラは、朔哉がゲームとしてSOUVENIRを楽しんでいる時はまだおらず、名所巡りをするようになってからしばらく後のアップデートで追加されたはずだ。
名所に今までいなかったNPCがいて驚いたのを、よく覚えている。
でも、『紅葉の地』にアリスはいない。
(もしかしたら出会っていないだけなのか? 他の名所ではNPCらしく常時い続けているけれども、紅葉の地ではアリスが出現する時間が決まっているのか?)
そう考えた朔哉は、24時間『紅葉の地』にへばりつくことになったが、一日中いても出てこなかった。
(ゲーム内時間じゃないなら現実の日付か?)
そう思いついてからは、朔哉はひたすら『紅葉の地』で待機していた。
ようやくリアルで紅葉の季節になったのだ。そろそろアリスが現れるかもしれない。
電話がかかってきたのはそんな時だった。
「……なに?」
『おいおい。相変わらず愛想ないなー。元気?』
「ヒロ、用件」
『お前……。まぁいいや。サクってMMORPGにめちゃ詳しかったよな? SOUVENIRも知ってる?』
「もちろん」
知ってるどころか絶賛稼働中だ。
『じゃあさ、「こうようの謎」って知ってる?』
「なんで?」
『あー、なんかさー、女の子に聞かれたの。「こうようの謎」を知ってる人を紹介して欲しいって』
「誰?」
『詳しくは知らないんだけど、じぃちゃんつながり。中学生かな? アリスちゃん。あ、あれは名前じゃないんだっけ?』
「アリス? 黒髪でおかっぱの?」
『ボブカットだよ。レトロなワンピース着てリボンカチューシャつけてた。なに? 知り合い?』
「アリスはなんて言ってた?」
『ちょ、スルー?』
「なんて?」
『もー。たしか最初はSOUVENIRを知ってるか聞かれて、知ってるって答えたら「こうようの謎は解かれましたか?」って言われた。俺が知らないっつったらガッカリしたから、知ってる人を紹介しようかって話になったんだよ』
「いつ会う?」
『あ、会ってくれるんだ。良かったー。なんかアリスちゃん、すっごい真剣そうだったからさー。なに? ナゾトキ流行ってんの?』
「日にち決まったら連絡して」
『ちょ、待』
朔哉はスマートフォンの電源を落とした。
(急いで各名所のアリスに会いに行かなくては。『レトロなワンピースを着てリボンカチューシャをつけ』たアリスはどの名所だった?)
朔哉は二台目のPCを立ち上げると、SOUVENIRに別キャラでログインした。
そうして、今いる全NPCアリスのセリフと衣装を名所名と一緒に書き出していった。