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17.アリスの答え

「施設の誰かの話を聞いてもいいか? もちろん、話していい範囲でかまわない」


 しばらく考えてから少女は話し始めた。


「山で育ったおじいさまは、幼い頃、食卓を豊かにするために川で魚を捕るのが仕事でした。まず川の岩べりにいる虫をつかまえて、釣り針につけます。川中の岩の合間で動かすと川魚が釣れ、家族に喜ばれました。でも、おじいさま自身は、餌である虫を見ているので、川魚はあまり食べたくなかったそうです。同じ理由で、エビも苦手なのだとか」


「あー」


「なるほど」


 食材がなにを食べているかを追求するとなにも食べられなくなるので、あまり考えたくないところだ。

 ヒロシと朔哉は昔見た食にまつわる映画を思い出した。


「やはり山で育ったおばあさまは、幼い頃、味噌も醤油もお茶もご自分のおうちで作っていました。お兄さま方は川に釣りに行ったり、山に薪を集めに行ったり。女の子たちは家の掃除をして食事を作り、着る物をこしらえ縫い物をします。畑仕事は家族総出です。学校へ行く他は、なにかしら家の仕事があります。ご飯を炊いたりおかずを作ったりするのはかまどで、お風呂を沸かすのにも薪がいり、パンもかまどで焼きます。おやつに芋やおまんじゅうを蒸すのもかまどなので、薪がたくさんいるのです。野菜もお米も家族で作っていました」


「すごいな。家庭で醤油やお茶も作れるのか」


「実際作っていると大変だろうけど、今聞くとすっごく贅沢な感じだね」


「とってもお洒落なおばあちゃまがいらっしゃいました。いつ見ても、お洋服にアクセサリー、お話の仕方とすべてお上品で、でもユーモアがある、素敵なおばあちゃまでした。私は勝手に、おばあちゃまはお金持ちのお嬢様だと思っていたんです。馬に乗って林を散歩した話を聞きました。馬が茂み(ブッシュ)を軽やかに飛び越えるのが心地よかった、と。野イチゴを摘み、湖の近くで涼んだのだと。私の想像の中では、物語に出てくる外国のお姫様のようでした。でも、違ったんです。戦争の波から逃れる汽車の中、ずっと赤ちゃんの泣き声が響いていたのが、やがて聞こえなくなったと。汽車に乗っているみんな食べるものがなくて、骨と皮だけで、薄暗い中で目だけがギョロギョロ光って見えた、と」


 つまり赤ん坊は母親が栄養不足で母乳をもらえず死んでしまったのだろう。

 昔話や映画の中のような出来事は、ほんの数十年前の現実なのだ。


「皆さんのお話を聞くことは、私にとって、最初は架空の物語を聞くことと同じでした。私が体験することは絶対にない、遠い世界の物語でした。でも、病気が治ってから皆さんの話を聞くと、『私はなにも知らないんだ』と思ったのです。私は普通の生活だって知りません。魚を捕まえることも、虫をつかまえることも、ご飯を作ることも、野菜を育てることも、馬に乗ることも、飢えに苦しむことさえ知らない。でも、なぜか私の病気は治ってしまった。まるで、生きていていいのだ、いえ、『()()()()()()()()()()』と言われたようでした」


――どうして生きなくてはならないのか?


 それはずっと少女が疑問に思っていたことだった。


「アリスちゃんは『答え』を見つけたんだ?」


「『答え』かはわかりませんが、今は『知りたい』と思っています」


「なにを『知りたい』んだ?」


「なんでもです。知らないのは皆さんに失礼だと思ったからです。皆さんの家にご挨拶にうかがうのも、皆さんのご家族の方を知ることが嬉しかったから続けられました」


 一軒訪問するたびに倒れて寝込んでしまい、すべての家をまわるのに一年近くかかってしまったそうだ。

 ついには少女の体を心配した少女の家族から、外出禁止令が出てしまった。

 それでも行きたくて、倒れないことを条件に外出するようになった。


「うわ。それ、俺んちでも山でも破ってるよね?」


「無理しているつもりはないのですが、なかなか体力が追いつかなくて」


「まずは体力作りをしたらどうだ?」


「しています! でも、早く知りたいのです」


「その気持ちはよくわかる」


「ふふっ。朔哉さんの集中力は素晴らしいですもんね。遅くなりましたが、あらためて、『紅葉の謎』を解いていただき、ありがとうございました」


「どういたしまして。俺も助かった」


「そういえば、サクはSOUVENIR(スーベニア)の『紅葉の謎』は解けたの?」


「解けた」


「え? 聞いてないんだけど?」


「言ってないからな」


「いやいやいや。で、なんだったの?」


「それは教えられない」


「はあ? なんで? ここまできてそれはないでしょ?」


「勝手な想像になるが、すでに解いたプレイヤーは何人もいると思う。誰も明かしていないだけで。だから俺も明かさない」


「ええー? なにー? 気になるー」


「気になるなら自分で解くんだな。ヒントはすべてそろっている」


「うぅ。アリスちゃん、なんとか言ってよー」


「すみません。私も解いたんです」


「はああ?」


「施設に『紅葉の謎』を解いた連絡を入れたら、SOUVENIR(スーベニア)社員の方と話すことになって、ゲームの登録をして『紅葉の地』に行ったら、そのまま解けてしまいました」


「えええええ?」

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