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14.皆さんからのお願い

「あふっ、おいひぃ」


「美味しいですね」


「おいしいが、これはなんだ? (いのしし)じゃないだろ?」


「『獅子肉』をイメージして作られた豚肉の串です。SOUVENIR(スーベニア)での獅子は、体の大きさの割にかなりの運動量をこなす魔物だそうで、普通の豚肉よりもしっかりした肉質の放牧豚が使われています」


「なるほど。確かにイメージに合う」


 話しながらも、朔哉の焼く手は止まらず、焼き上がったものをそれぞれのお皿に入れるのも忘れない。

 次は、甘辛い匂いが食欲をそそる平たくて2本の串が刺さった蒲焼き風な肉だった。


「あ、これいいね。好きな味だ」


「これも蛇じゃないな」


「はい。こちらの『蛇肉』は鶏肉のささみ部分です。『獅子肉』にしても『蛇肉』にしても本物のイノシシやヘビを使うことも考えたそうですが、やはりなじみのある肉の方が良いかという話になりました」


「雰囲気を楽しめたら十分。普通の食材で嬉しいよー」


「……」


 冒険はしたくないヒロシとは反対に、朔哉は不満そうだ。

 それでも口には合うようで、スープを飲みながら、もくもくと食べている。


「『夢肉』はラムチョップだな」


「わかりましたか! SOUVENIR(スーベニア)でトリッキーな働きをする魔物ということで、癖のあるラムを使ったそうです」


「レアな魔物を食べていると思うと、癖も嬉しいな」


「トリッキーって、その魔物はどんなことすんの?」


「出現ポイントが決まってないから会えるだけでもレアなんだが、いきなり逃げ出したり、別の魔物の群れを呼んだりする。でも、経験値が高いんだ」


「あー。なるほど」


 ヒロシは銀色のぽよんとしたアレや、針を飛ばしてくる緑のアレを思い出した。 

 朔哉は口の中の物を飲み込むと、全面を焼いた『竜肉』をアルミホイルにあげ、きっちり包むと中段に入れた。


「なんでこんな手間かけてくれたの? 準備とか大変だったでしょ?」


「私一人ではなく、お手伝いしてもらいましたし、なにより、お二人に少しでもお礼をしたかったんです。私一人では『紅葉の謎』を解けませんでしたから」


 少女の様子は今までになく晴れやかだ。


「そろそろ話してもらえるのか?」


「はい」


 上段の網の上で焼かれていたすべての肉をお皿にうつすと、朔哉も椅子に座った。


「私は、その……。なにからお話しすればいいのか……」


 言葉を探す少女に、ヒロシと朔哉は頷きあう。


「もうだいたいわかってるからさ。ざっくり言ってくれていいよ?」


「あんたは見舞客じゃなく、施設の入居者の一人だったんだろう?」


「どうしてわかったのですか?」


「俺は勝手に誤解してたけど、アリスちゃんは一言も、自分のことを『見舞客』だなんて言ってないもんね」


「『みんなとは離れてしまった』と言ってたな。それは施設にいた方々のことだったんだろう? 親よりも年上だから『友達』とは言いづらかったし、ほとんどの方が亡くなってしまったから『離れてしまった』と表現した」 


 二人の根拠はそれだけではない。

 朔哉もヒロシも山から戻ってから、自分のわかる範囲で少女を調べていた。

 それまでは、ヒロシは仕事に、朔哉は『紅葉の謎』を解くために忙しかったからそこまで気を回せなかっただけで、少女につながる糸はあったのだ。


 ヒロシは山から戻ったその足で、死んだ祖父について話を聞こうと終末医療施設を訪れた。

 ピクニック中でもやはり少女は口を割らなかったし、祖父が最期に過ごした場所を自分の目で見てみたかったからだ。


 朔哉は、SOUVENIR(スーベニア)社員に、現実で『紅葉の謎』を解いたと話したら、現朝倉社長から呼び出しを受けた。

 あの山には朝倉夫妻が眠っている。春になったら、あらためて許可証を持って訪れて欲しいと言われた。


 ヒロシと朔哉はそれぞれ、少女が終末医療施設の利用者の一人であり、十代で死ぬところだったが奇跡的に治ったことを聞いた。

 病気は治ったものの体は弱っているので、まだ少しの運動にも耐えられない。

 山に行ったのは、かなりの強行軍だったようだ。

 どちらからも、できれば少女を見守って欲しいと頼まれた。


「私は物心つく頃からずっと『もうすぐ死ぬ』んだと言われて生きてきました。でも、もうすぐ死ぬのなら生きている意味はあるの? どうしてしんどい思いをしてまで生きなくちゃいけないの? ってずっと思っていました。治療もやりつくして、病院にいられなくなって家に戻っても、馴染みのない家で私にできることなんてなんにもなくて。そんな私を両親は腫れ物に触るように扱いました。だから施設に入るのは嬉しかったんです」


 終末医療施設は穏やかな死を迎えるための場所だった。

 入居者は死へのカウントダウンが始まっている人ばかりで、高齢者が多かった。


「施設の皆さんは、自分たちの楽しかったこと、面白かったこと、大事な思い出に残っていることをたくさんお話してくださいました。それが悲しいことであっても、どのお話もキラキラしていて、私にはそれで十分でした」


 施設にいる間、何人かの方が亡くなりましたが、施設ではその方を悼んで皆さんとお話することもできました。

 きっと自分はここで亡くなった方と同じように穏やかに死ぬんだ、私が死んだ後もこういう風に話してもらえるのなら『もうすぐ死ぬ』のもいいかもしれない、そう諦めがついたのに。 


「いきなり『病気が治っている』と言われたんです。『数値が良くなっている。このまま良くなれば普通に生活できるでしょう』と。それを聞いたとき、私は倒れました。嬉しくてじゃありません。怖くて。普通の生活なんて今まで一度もしたことがない私には、『普通の生活』は恐怖でしかなかった。病気が治って施設から一人で放り出される。それが『一般的には良いこと』なのでしょうが、私は『捨てられるんだ』という気持ちになりました」


 もう穏やかな心持ちではいられませんでした。


「泣き叫んだり、塞ぎ込んだりする私に、皆さんは『頼みたいことがある』と静かに話し始めました」


『わたしたちの代わりにやってほしいことがある』


 お願いのひとつは、亡くなった方々それぞれの家にお参りに行くことでした。

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