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13.浜辺にて

「今日はお忙しい中こちらまで来ていただき、大変ありがとうございます」


「アリスちゃん、そんな堅苦しい挨拶いらないよー」


「なんでこんな寒い中、浜辺でバーベキューなんだ? あんたまた体調崩したりしないだろうな?」


 あの日、倒れた少女に慌てて救急車を手配したものの、すぐに意識を取り戻した少女は「休んでいれば治りますから」と救急車が来る前に自ら断わりの電話を入れた。

 治るにしても心配だったので、ヒロシが少女を背負って車まで戻り、安全第一な朔哉の静かな運転で、少女の最寄り駅まで送り届けた。

 車に乗ってからもぐったりした様子だったが、最寄り駅に着く頃には少女の体調は回復し、しかし申し訳なさそうに言った。


「残念ですが、今日はこれでお暇します。後日あらためてお目にかかりたいです」


 それであの日から1週間後、またヒロシと朔哉と少女の3人で集まることとなったのだ。

 それがなぜか初冬の海辺でバーベキューという、なんとも奇妙なお誘いだったのだが、朔哉とヒロシは受けた。


「今日は準備も抜かりありません。おそらく立ち歩かなければ体調も大丈夫だと思います」


 不合理なことに、冷たい風が吹きぬける浜辺に置かれた椅子の後ろに、いくつもの暖房器具が用意されていた。

 顔や手先は潮風に吹かれるが、背中から暖められているので寒くはない。


「よーし。俺がばんばん焼いていくから、アリスちゃんも朔哉も座ってていいよー」


「俺はそこまで弱くない。それより、この焼き器だ」


 朔哉は目の前にある調理器から目が離せなかった。

 一般的なバーベキューの焼き網セットではない。

 通常の網のように上にも食材を置けるだろうが、熱源が二段あり、上下の間にも置いて焼けるようになっている。


「朔哉さん、お気づきになられたのですね」


「見たことない形だけど、外国の?」


SOUVENIR(スーベニア)の焼き器だ。これで狩った獲物の肉を焼く。実際は、狩りの直前に食べて付加魔法をつけてから狩りに行くんだが」


「へー」


「今回ご厚意で調理器を貸していただき、『竜肉』『獅子肉』『蛇肉』『夢肉』も一緒にいただきました。お手数をおかけしますが、借りる条件が、SOUVENIR(スーベニア)をご存じの方、知らない方に、焼き加減や味の感想をおうかがいすることでしたので、ぜひ感想をお聞かせください」


「シシってイノシシ肉? 蛇もまぁわかるけど、竜や夢肉って何肉よ?」


 少女の横に大きなクーラーボックスが鎮座しているが、いったい中にはどんな肉が入っているのか。


「ご安心ください。すべて食べられる肉で作られています」


「うん。まぁ、食べるんだけどね。はぁ。まさかバーベキューで闇鍋みたいな気分を味わえるとは思わなかったよ」


 ヒロシと朔哉がクーラーボックスを開くと、いかにもバーベキュー用の串にさした野菜と肉とは別に、2本の串に刺さった平たい肉や、骨付き肉、なにかの葉に包まれた大きな塊があった。


「これぞまさに『竜肉』!」


 朔哉が嬉しそうに一番大きな塊を取り出した。 


「え、そこテンション上がるとこ?」


「『竜肉』は中段に入れて焼いてみてください。下味をつけてから全面を焼き、アルミホイルを巻いてじっくり中段で焼けば良い感じに焼けるそうです」


「楽しみだ」


 朔哉はさっそくクーラーボックス横に用意されていたテーブルにアルミホイルを広げ、下味をつけると塊肉を焼き始めた。


「『竜肉』は時間がかかりますので、それまでは『獅子肉』や『蛇肉』をどうぞ。『夢肉』は少し癖があります」


「どんどん焼こう」


 珍しくテンションマックスな朔哉が率先して串を並べていくので、ヒロシは焼き手を朔哉に任せることにして、少女の隣に座った。

 置いたそばから、美味しそうな匂いがしてくる。

 ああ、この匂いは豚肉と鶏肉だな、良かった普通の食材で、とヒロシはほっとした。


「ヒロシさんはお肉、苦手でしたか?」


「そんなことないよ」


「こちらにはスープもご用意しました。良かったら飲んでくださいね」


「まさかそれも」


「はい。SOUVENIR(スーベニア)で作られている現地のスープをイメージしています」


「ちなみに現地のスープはその土地での加護が得られる。海辺なら耐水性や、対水生物だ」


 保温ポットからこれまた用意されていた人数分のカップに入れると、具だくさんのクラムチャウダーだった。


「海の近くではやはり海の物をと」


 ヒロシは素早く香りを嗅いだ。うん、普通そうだ。


「前回は本当にお世話になりましたので、ぜひ楽しんでくださいね。そうだ。こちらを上からお召しになってください」


「エプロン?」


「はい」


「へー。至れり尽くせりだね」


 ヒロシは単純に服を汚さないためかと思ったのだが、朔哉が目を見開いた。


「それは調理人のエプロン!」


「はい。朔哉さんもぜひどうぞ」


「ありがたく着させていただこう!」


「アリスちゃん、これって?」


SOUVENIR(スーベニア)で調理人が調理する時に身に着けるものだそうです」


 ちなみに本日の少女はセーラーカラーのあたたかそうな長袖のワンピースにカラータイツを合わせている。その上にPコートなので、どこかの制服のようにも見える。


「アリスちゃんも着けた方がいいんじゃない? その服汚れたら困るでしょ?」


「そうですね」


 少女用に小さめサイズもあったようで、3人でおそろいのエプロンをつけることになった。

 しっかりとした黄みがかったベージュの生地で、形は無骨だが、ぐるりと青い糸で刺繍が施されている。

 刺繍はSOUVENIR(スーベニア)の文字で、食への感謝と探求を宣言し、毒から身を守る呪文が縫い取られているらしい。


「最初の肉が焼けたぞ」


 朔哉がそれぞれのお皿に一本ずつ置いていく。 


「んじゃ、まぁ」


「いただきます!!!」


 クラムチャウダーで乾杯してから3人は串肉を食べ始めた。

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