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12.紅葉の謎

 朔哉とヒロシが見守る中、少女が缶のプルトップを開けようとしているが、なかなか開かない。


「おい。なにを遊んでいるんだ?」


「アリスちゃん?」


「これ、どうすればいいんですか?」


「ここにひとさし指をかけて、そうそう。そのまま、こっち側に引っぱるんだよ」


「こうですか?」


 乾いた音を立てて、ようやく缶が開いた。

 少女が無造作に缶の中へと手を入れようとしたので、ヒロシは慌てて止める。


「缶の縁は切れやすいから、手を切らないよう気をつけて」


「わかりました」


 注意深く取り出したのは、プチプチで包まれたなにかだった。


「開けますね」


 少女がプチプチをとめていたテープを外して包みをほどいていく。


「鍵?」


「鍵ですね」


「鍵だな」


 そのままペンダントトップにしても良さそうなアンティークなデザインの、優美な鍵が出てきた。


 これが『紅葉の謎』の解答?


(いや、違う)


 3人ともが黙り込んだが、朔哉はすぐに否定していた。


 だいたい、SOUVENIR(スーベニア)での『紅葉の謎』の位置にはなにもなかった。

 もちろん鍵も出てこない。


SOUVENIR(スーベニア)社員はなんて言ってた?)


――ちゃんと解ける『謎』だよ。ただ、他の『謎』と同じようには解けないだろうね。アリスの協力がいるんだ。


 アリスの協力。


 現実で助けを求めてきた少女はまさしく『アリス』だろう。

 でも、SOUVENIR(スーベニア)を見たこともない少女は、SOUVENIR(スーベニア)内にはいない。

 ならば、『ちゃんと解ける謎』だと話した社員が言う『アリス』とは、NPCアリスのことだ。

 当然のことだが、SOUVENIR(スーベニア)内には他にもNPCが多くいる。

 その中で、どうして『アリス』なのか?

 精密に作り込まれたSOUVENIR(スーベニア)には、NPCでも名前はもちろん顔も種族も体格も違っていて、同じNPCは2人といない。

 『アリス』だけが各名所に同時に存在しているのに、名所『紅葉の地』にだけ『アリス』がいない。


(『アリス』の存在自体がヒントなんだ)


 なぜ『アリス』なのか?

 朔哉は『不思議の国のアリス』を思い出していた。

 確か物語のアリスも、物語の中で鍵を見つけていた。

 その鍵は、アリスが行きたかった場所を塞いでいた扉の鍵だったはずだ。


(扉があるのか?)


 ここは山だ。扉があるような建物は……ひとつだけあるが、もしもこの鍵で山にある小屋の扉を開くことができても、朔哉には納得がいかない。

 SOUVENIR(スーベニア)の『紅葉の地』はただ美しい紅葉のある場所で、特別な建造物はないからだ。  


 今まで解いてきたSOUVENIR(スーベニア)の謎は、簡単なものとはいえ、どれもフェアなものだった。

 『紅葉の謎』も、同じように解けるはずなのだ。


『目と口を閉じて

 N35E135』 


 『目と口を閉じ』るのだから、視覚や味覚や発声は考えなくていい。


 『N35E135』が北緯35°東経135°だと言われているが、SOUVENIR(スーベニア)内には緯度や経度は存在しない。アップデートでエリアの追加や削除が行われるからだ。


「鍵が出てきたってことは、どっかに宝箱でもあったりして」


「見てみたいです」


「なんかさー、意味深な地図とか鍵とか、歩かされるところなんか、ほんと昔のゲームっぽいよね」


 『歩かされる』『昔のゲーム』


 何気ないヒロシの言葉が朔哉の耳に飛び込んできた。


 SOUVENIR(スーベニア)では試したことがあった。 

 『N35E135』が昔のゲームのように、『(north)に35歩、(east)に135歩』進めばいいのではないか、と。

 でも、なにも起きなかった。

 だからこの方法は違うのだと諦めていたのだけど、『アリス』なら違うのかもしれない。

 なにしろ名所にいる『アリス』の体格は、どの『アリス』も同じなのだから。

 モデルになっていると思われるこの少女と同じだとしたら……。


「あんた、歩けるか?」


「え、あ、はい」


「じゃあ、言う通りに歩いてくれ」


 朔哉はパッドで方角を確認する。


「北の方角に35歩、歩いてほしい。草が邪魔だろうから、俺たちが先に歩くけど、俺たちに合わせないで、自分の歩幅で歩いてくれ」


「はい!」


 朔哉とヒロシの二人が草をかきわけ踏みしめながら進む後に、少女が数えながら歩く。


「次はどっちー?」


「東に135歩だ」


「りょーかい。んじゃ休憩してから進もっか」


 35歩歩いた場所で息を切らした少女のために少し立ち止まってから、東に向きを変えて進む。

 これが正解だというように、一度も木に遮られることはなかった。


「……135」


 3人の目の前には一本の桜の木があった。

 周囲も同じ桜ばかりなので、たまたま目の前に当たったとも考えられるが、息を整える少女を待つ間、朔哉とヒロシは木の根元に目的の物を見つけて頷き合う。


「ここで、正解、なんですか?」


「アリスちゃん、あそこをよーく見て」


 ヒロシが指さす目の前の木の根元だけ落ち葉が盛り上がっている。

 落ち葉の下に、土があるのか石があるのか、とにかくなにかあるようだ。

 少女がかがんで落ち葉を払っていくと、いかにもな古ぼけた宝箱が現れた。


 開こうと少女が蓋に手をかけるが、開かない。

 はっとした様子で、少女はポケットから先程の鍵を取り出す。


 カチリ


 少女の震える手で宝箱の蓋が開けられた。


 中に入っていたのは、キラキラしい宝物ではなく、ラミネートされたあたたかな紅葉色の色紙だった。


『おめでとう

 ここまでたどりつけたのなら もう一人じゃないのでしょう

 わたしたちは あなたの未来をずっと見守っています』


 達筆な筆文字のまわりには、何人もの筆跡で寄せ書きが飾られていた。


 のぞき込んだヒロシは、寄せ書きの中に祖父の名前を見つけた。

『私の孫には会えたか? きっと助けになるぞ』


 朔哉は、朝倉夫人の名前を見つけた。

『ここは一年通して素晴らしい所なのよ。またいつでもいらっしゃいね』


 どうやら、この寄せ書きは、施設にいた人たちから少女へのメッセージのようだ。


 少女は寄せ書きを手にしてボロボロと涙を流し始めたが、その寄せ書きを落とした。


「アリスちゃん?」


「大丈夫か?」


 慌ててヒロシと朔哉が支えたが、少女は意識を失っていた。

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