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雨上がりの空に虹が架かる時

作者: 六文

 

 重い足取りでノックをし、職員室の中へ足を踏み入れる。

 今日が二学期の始業式ということもあってか、他の先生はおらず、俺を呼び出した横田先生だけが職員室に居た。


 職員室の中は冷房が効いていて、むせ返るように熱い外気とは対照的に涼しかったが、横田先生の暑苦しさで台無しだ。

 こんな残暑にも関わらず上下とも長袖長ズボンのジャージを着ている横田先生は一体何者だろうかと思う。


 目くばせで座れと言ってくる横田先生。仕方なく先生の対面にあったパイプ椅子に腰かける。


「西原。夏休みはどうだった?」

 唐突に投げかけられた質問の意図が良く理解できなかった。


「えっと。宿題していつもみたいに素振りとかしてました」

「そうか、てっきり野球部を引退してから燃え尽き症候群になったと思っていたが、そうじゃなかったみたいだな」


 横田先生の何気ない一言がきっかけで嫌な思い出が一瞬だけ蘇る。


 散々踏まれて殆ど見えなくなった白線が引かれたグラウンド。陽炎(かげろう)が揺らめく青空。

 そして、一対二と書かれたスコアボード。


「そりゃあそうですよ。中学の三年間は一度も試合に出られませんでしたけど、高校でも野球を続けたいですし、落ち込んでいる暇なんてありませんよ」


 実際にやっていないことを語っている後ろめたさか、横田先生と目を合わせることが出来ない。


「はっはっは! そうか! 確かに西原らしいな!」


 こんなチンケな嘘にいともたやすく引っかかる横田先生を見て、嘘をついた罪悪感から強く手を握り締める。その掌は豆だらけでごつごつしているのが自分でも分かった。


 そんな俺の拳に目を遣った後、横田先生は一つの提案をしてくる。


「西原。駅伝、やってみないか?」

「……え?」


 これまた唐突だった。今度こそ、この人の意図していることが分からない。

 唖然とした表情の俺を見て笑いながら横田先生は語り掛ける。


「うちの中学には陸上部が無いから、毎年駅伝のシーズンに他の部活から引退した選手を集めて混合チームを作っているのは知ってるだろ? そして、今年のチームメンバーの一人をお前に頼みたいんだが、やってくれるか?」


 そういって、俺に一枚のプリントを差し出してくる。駅伝大会の参加申し込み用紙だ。


「はぁ……」


 ひとまずプリントを受け取り、内容をざっと見た。

 名前を書き込める枠は一つだけ残っており、その他には見知ったメンバーが名前を書き連ねている。


 夏休み前の俺ならば迷いなくプリントに名前を書いていただろう。

 だが、今の俺は参加するか否かを考えている。


 動いてないのは半月ほどだから、今から頑張れば元の体力に、更には元以上の体力になるかもしれない。それならきっと参加してもいいのかもしれない。


 でも……それをやったところで意味はあるのか? 頑張ったところで体力が向上するなんて保証もない。それならやらない方がマシなんじゃないのか……?

 今までだって、頑張ってもダメだったし、俺が参加したらみんなに迷惑かけそうだな……


 一つの疑念が更なる疑念を呼び、ついに疑念は自分に対する不信感へと変わる。

 結局、俺は何も書き込まずプリントを机に置いた。


「すいません。辞退させて下さい」

「ほう、そりゃどうしてだ?」


 俺の返答は予想外だったのか、少し不思議そうな顔をして、横田先生は尋ねた。


「自分じゃ力不足だからです。部活だってずっとベンチだったし、体力テストでも俺より持久走が早い奴だってたくさん居ましたし。きっと自分が駅伝を走ったら足手まといにしかならないと思って。それに――」


 ――これ以上努力しても無意味な気がするので。


 そう言おうとする俺の言葉を遮って横田先生は、少し語気を強めて


「それは違うぞ西原。他のメンバーの実力に一歩及ばなかったお前は確かにずっとベンチだった。でもな、先生はお前が誰よりも熱心に練習していたのを知っている。だからお前が自分自身を諦めるような言葉を言ってくれるな」


 横田先生の説得が自分に関係のない、どこか他人事のように思えて仕方がなかった。

 セミがいつもの二割増しでうるさい。


 こんな暑い日も、去年は白球を追いかけていたのに、どうして俺はこんな涼しい部屋で横田先生の話を聞いているんだろう。


 そんなことを考えている内に、伽藍洞になっていた胸の奥が少しずつ熱を帯びる。


 生じた熱はやる気だとか決意だとか、そんな清らかな熱ではない。もっと醜く、浅ましいドロドロとした怒りだった。


「分かっていましたよそんなこと! 俺が下手くそだってことも! 今のままじゃダメだってことも! もう嫌なんですよ! 頑張ったって何も得られるものが無いくせに、頑張っても報われることの無いくせに、終わりのない努力を続けるのが!」


 言いたい言葉はもっとあるはずなのに喉からは掠れた呼吸音しか出てこない。

 気づけば、目から透明な水が頬を伝っていた。

 幼稚だと自分でも分かっていた。それでも零さざるを得なかった。


 黙って俺の言葉を聞いていた横田先生は少し曇った顔を見せる。こんな表情の先生は初めて見た。


「お前の悔しさは分かってる。それでも一つだけ言わせてほしい。駅伝で大切なのは才能じゃないんだよ。本当に必要なのは、ソイツがしてきた努力の量だ。だからお前に敵う奴なんて誰も居ない」


 セミの鳴き声が一斉に止んだような静寂の中にいるような錯覚を受ける。


 俺は自分が何をすべきなのか分からずにいた。まるで、いきなり砂漠のど真ん中に放り出された気分だ。


 何か行動を起こそうとしても、起こそうとするだけで実際に行動が出来ない。

 それを見かねたのか、横田先生は参加申し込みのプリントに俺の名前を書く。


 お世辞にも綺麗な字とは言えなかったが、丁寧な字だった。


「だから今は名前を書くだけでもいい。お前がもう一度だけ自分を信じて頑張ってみようと思ったら俺に相談してきてくれ」


 そう言って横田先生は職員室の奥に鎮座している冷蔵庫から二つの缶コーヒーを取り出す。

 そして、その内の一つを俺に手渡してきた。


「それは先生のおごりだ。他の先生には内緒だぞ」


 受け取ったコーヒーを恐る恐る一口だけ飲んでみる。

 口に広がったのは甘さなんて微塵もない真っ黒な苦みだった。


 そうして胸の奥にある虚しさは埋まらないまま、翌日から駅伝練習が始まった。



「頑張れー! あと一周だ!」


 トラックの外周から聞こえる声がひどく遠く感じる。呼吸はとうに乱れ、脳に酸素が十分に行き渡っていない。

 それでも、自分の走っている前には何人もの人が居ることは認識できた。


 俺は結局追い抜くことも、ましてや追いつくことも出来ず、トラックを一周する。


「はい、西原君。お疲れ様!」


 マネージャーの女子がタオルと飲み物を手渡してきた。

 それを受け取りながらとぎれとぎれの質問をする。


「それで……タイムは……?」


 えーとね……と前置きしてマネージャーはストップウオッチを見て言った。


「九分四十秒だね。ベスト記録より二秒遅い位かな」


 俺にはその言葉が死刑宣告にも感じた。


「ハァ……! ハァ……!」


 満身創痍で荒い息を吐き続けながらグラウンドのフェンスにもたれかかる。

 太腿もふくらはぎもパンパンに張っていて、乳酸が溜まっているに違いない。


「何で……! 何でタイムが伸びないんだよ……!」」


 溜まった乳酸を追い出すというより、思うままにならない自分自身への苛立ちでふくらはぎを殴りつける。

 鈍い痛みが広がるがそんなことはお構いなしだ。


 駅伝大会までの日数が半分を切ったのにこのザマだ。今日は何時にもまして焦燥に駆られる。


「やった! めっちゃタイム伸びてる!」

「あ、お前も? なんか最近タイムが良く伸びるようになったし、行けるんじゃないかこれ!」


 自然と他の駅伝メンバーの会話が耳に付く。

 ふくらはぎを殴っていた拳は無意識の内に標的を背後のフェンスに変えた。

 フェンスは音を立てて揺れるが、そのことに誰も気づかないし、フェンスにも何の影響も与えなかった。


「やっぱり頑張っても駄目じゃないか……」

 ため息交じりに呟いた一言は、秋風に乗って消えていった。



「……何をやってるんだろうな、俺は」


 次の日の放課後、俺はあろうことか練習をサボって自分のクラスの教室で窓から見える景色を眺めていた。


 夕日が落ちるにはまだ少し早く、太陽は鬱陶しい位に輝いている。

 二階建て校舎の二階に位置するこの教室からはグラウンドの景色が良く見える。

 無論、グラウンドの中には野球部の姿もあったし、駅伝の練習をしている駅伝メンバーの姿もあった。


 それをただ眺めている俺は一体何なんだろうか?

 今のままじゃダメだということを分かっているくせにどうしてここで頑張れないんだろう。


 ――やっぱり俺はダメなやつじゃないか――


 また、出てしまった。いつもの悪い癖だ。


 窓から視線をそらし、深く息を吸う。それでも、胸の動悸は留まることを知らない。

 野球部を引退してからはいつもこうだ。他人が努力している姿を見ると自分を卑下したくなってしまう。


 どうして俺は頑張っているのに結果が出ないんだ。と


 なるべくそのことを考えないようにして、ようやく落ち着いてきたところで教室のドアが勢いよく開く。

 入ってきたのは長身の坊主頭だった。


「おっ、西原じゃん! 何してんの?」

「別に、ただグラウンドを見てただけだ。つーかお前こそ何してんだよ坂野」

「俺? 俺は中間テストの追試。いやー数学の設問が意味わかんなくてさー」


 と苦笑いで頭を掻く坂野は、野球部で正捕手だった男だ。更には、駅伝メンバーにも選ばれている。


「というか、何で今日は練習出てねぇの?」


 と、坂野が思いついたように言ってきた。こういう質問は返答に困る。


「今日はなんかそういう気分じゃなかったから……」

「え、マジで!? お前が沖田みたいな理由で練習を休むなんて初めて聞いたんだけど」

「……何でそこで沖田が出てくるんだよ?」


 あまり聞きたくない名前が出てきたせいで、つい声が不機嫌な感じになってしまった。


「別に他意は無いぜ。けどさーお前、沖田に対しては当たりが厳しいよな。沖田の事嫌いすぎかよ」

「普通に考えてみろよ。アイツは自分が天才っていうことに胡坐をかいて練習をかなりの頻度でサボるような男だぞ。三年間ベンチだった俺が嫌いじゃない訳が無いだろ」


「お前の性格上それは分かってるけどさ、よくまぁ三年間一度も沖田と張り合わなかったな……」

「いや……そんなこと考える余裕なんて無かったな。誰かと張り合う以前に自分の事で一杯一杯だったし」


 隠す気も無しに仏頂面をしていたせいか、坂野は沖田に関する話題を打ち切ろうとする。


「まぁそれはおいといてさ、今日はもう帰ろうぜ。実は説教を喰らう前から腹減ってしょうがないんだよ」

「お前、引退しても飯の量変わってないのな……」


 身支度を整えながら他愛もない話をして教室を後にする。

 校舎を出てから空を見上げると、世界を茜色に染めていたはずの太陽が暗雲に隠れて見えなくなっていた。


 一雨きそうだな……


 そう思ってダッシュで坂野と校門前まで来たところだった。


「おい西原。ちょっと待てよ」


 不意に俺を呼び止める声がする。正直言って振り返りたくも無かったが、奴は俺が振り向くまで同じことを繰り返す面倒なタイプであると知っていたため、仕方なく背後を見た。


 整った顔立ちで、傲慢とも見て取れるほどの自信にあふれた表情をしている一人の男がそこにいた。噂をすれば何とやらだ。


「何だよ沖田。俺に何か用か?」

「お前も駅伝メンバーに選ばれてるんだろ?」


 どうでもいい用事だと思った俺は、あからさまに面倒そうな顔を沖田に見せつけ、背中を向けて言い放つ。


「一度も練習に来てないお前が分かるはずもなかったんだろうけど、確かに俺は駅伝メンバーに選ばれているよ。それがどうかしたのか?」

「お前が変なやる気を起こす前に言っとくけど、さっさと辞退しろ」


 今まで一度も言われたことのない強い語調の命令に、俺は足を止め、沖田の方に振り向かざるを得なかった。


「………どういう意味だよ」


 沖田の目を見てやっとのことで絞り出した返答がこれだ。


「どういう意味ってそのままの意味だけど? まぁ正直に言うとだな――」


 と前置きをして、一歩ずつ俺へと近づいてくる沖田は心底不機嫌な顔をしていた。

 そしてソレは素っ気なく放たれる。


「――見ていてイラつくんだよ。お前」


 その一言は俺の胸を抉るのに十分すぎるほどの威力を有していた。

 さらに、俺を追撃するように沖田の主張は止まらない。それどころか、主張は俺の胸倉を掴むという形でも現れていた。


「努力しても何も成し遂げることの出来ない雑魚が俺と同じチームに居るっていうだけで不快だし、第一お前のクソみたいな記録はチームにとって足枷でしかないんだよ。チームの為を思うんならさっさと辞退して一人でジョギングでもしてろ」

「……………」


 胸倉を掴まれても何も言い返せなかった。沖田を睨みつけていた顔は下を向いて、体から力が抜ける。


 確かに、記録の伸びてない俺がこれ以上いてもチームの迷惑になるだけだ。


 という考えが俺の頭を支配して、これまでやってきたことが無意味に感じてしまう。

 この状況にたまりかねたのか、坂野が俺と沖田の間に割って入って言う。


「おい沖田やめろよ! 言い過ぎだ!」

「お前は黙ってろ坂野。それにお前だって西原はチームに不要だと思ってるんだろ?」


 視線を坂野の方へ移す。坂野は毅然とした表情で即答した。


「そんなこと思う訳無いだろ!」

「それはどうかな? つー訳でまぁ精々いい返事を期待しているぜ西原」


 怒鳴る坂野を尻目に沖田は一足先に校門を出る。

 後には俺と坂野が残されただけだった。


 ぽつり、ぽつりと空から透明な雫が落ちてくる。


「雨、降って来たな。この分だと土砂降りになりそうだし、帰ろうぜ西原」



 西原は首尾よく鞄から折り畳み傘を取り出し、傘を開く。


「…………何も言い返せなかった」


 蚊の鳴くような、消え入るような声で呟く。


 それから間もなく空から轟音と共にバケツをひっくり返したような量の雨が降りそそぐ。

 当然体のいたるところがびしょ濡れだ。でも、そんなことは些細な問題だった。


 一度点火した種火が導火線を辿って火薬庫を爆発させるように、切り出した言葉から連鎖的に言葉があふれだす。


「俺は何も言い返せなかった!! 沖田の言っていることは言いがかりだってことも分かってたのに、アイツの言葉が正論のように思えたんだ! 何もやってもうまくいきやしない! そんなこともう気づいてたんだよ! 目を逸らしていただけなんだ! だから今日の駅伝の練習だって、頑張っても意味がないような気がしてサボったんだ! もう俺は俺を信じることが出来なくなったんだよ!」


 そしてその爆発はあろうことか近くにいた友までも巻き込んでしまう。


「それに、さっきはああ言ったけど、ホントはお前だって俺は要らないって思ってんだろ! 俺なんかに気を使わなくていいのに何でそんなこと言ったんだよ!? 正義の味方を気取って何になるんだよ、この偽善者が!」


 最後の一言を吐き出した瞬間、顔面に冷水を浴びたような感覚を受けた。

 なんてことを言ってしまったんだろう。と今更冷静になってももう遅い。


 この後訪れるであろう正論の罵倒を覚悟した俺は視線を落とす。

 しかし、坂野から出た言葉は俺の予想を遥かに超える物だった。


「そうだな、確かに俺は偽善者かもな。でもさ、俺はお前が不要なんて微塵も思わない。だって西原は誰よりも強いじゃん」

「えっ?」


 俺が……強い? 努力しても何も成し遂げられない、弱い俺が?


「本当に強い奴っていうのはさ、スポーツが得意な奴でも、ましてや努力しなくても何でもできる奴でも無くて、今の西原みたいに自分の弱い所を認めることが出来る奴だと思うんだ。そんで自分の弱さを知った上で実力が上の奴に勝つために足掻いて足掻いて最後には勝っちまうんだ。それってスゲーかっこよくないか?」

「弱さを認める事が強さ……」


 坂野の言葉を反芻する。胸に空いた穴にすっぽり収まるような、そんな暖かな気持ちだ。


 だが、その言葉は空いた穴にすっぽりとはまるパズルのピースに過ぎず、それが収まるべき穴には歪なピースが無理やりねじ込まれていてどうやっても取り外せない。


「それでも……俺は自分が無価値に思えてしょうがないんだ。俺の存在が駅伝メンバーのみんなに迷惑かけてるだろうし……」

「他人の目なんて気にすんなって。最後にお前の価値を決めるのはお前自身なんだぞ」


 坂野からあっさり放たれた一言に思考が一旦停止する。

 歪なピースにヒビが入る音が鳴った。


「だからさ、西原が無価値かどうかなんて俺には分からない。だけど、自分が無価値だと思っても、それでも自分を信じて進むことが大切なことなんだよ」


 土砂降りの雨は通り雨だったらしく暗雲の隙間から晴れ間がのぞき始めた。


 歪なピースが音を立てて砕け、正当なピースが開いた穴を埋めることでパズルが完成した。

 しかも、そのパズルの完成図は以前の俺が思っていたものとは違う。だけど、いまの方が何倍も素晴らしかった。


「は、はは……」


 自然と口角が吊り上がる。おかしいな。口元はこんななのに、目からは別の感情を象徴する現象が発生した。


「ははははハハハハハハハハ!! そうか! そんなことで良かったのかよ……!」


 嬉しいのか怒っているのか悲しいのか楽しいのかもう分からない。

 それでも、いまの感情がポジティブなものであることは確信できた。


 沖田の言葉で失っていた全身の力が沸々と湧き上がる。

 それは丁度雨が完全に止み、太陽が完全な姿を見せたと同時だった。


 坂野に背を向けて、手に持っている荷物を全部押し付けてやった。


「悪ぃ坂野! 先帰っててくれ!」

「あっおい西原どこ行くんだよ!?」


 坂野のツッコミの声が遥か彼方に聞こえる。

 湧き上がった力は一時的に足へと溜まり、俺の足を動かす。

 服が雨水を大量に吸い込んで重くなっているはずなのに、全然重さを感じなかった。


「ちょっと職員室まで! もう一度自分を信じて頑張ってみようと思ってさ!」


 目の前の問題は依然として解決していない。

 だが、胸の奥にはどうにかなるだろうという漠然とした思いではなく、どうにかして見せるという断言にも似た決意が満ちる。


 職員室に向かう途中で見上げた空には色鮮やかな虹が広がっていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] すばらしい作品をありがとうございます。 とても上質な、上質な青春小説だったと思います。 駅伝の結果がどうなろうとも、それが主人公の財産になるといいなぁと思いました。 あと、坂野くんは高校二年…
2018/04/28 15:39 退会済み
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