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デスペラードボム  作者: ゼド
第1章 爆弾を拾った日
9/19

「何度爆発してもなくならない…?」


 真希は眉を潜め、クラスター博士の言葉を繰り返す。

 クラスター博士はそれに対し「うむ」と頷いた。

 

「正確に言うと、爆発してもこいつは瞬時にして再生する」

「そんなことってあり得るんですか?」


 今度は私が口を開いた。

 本物の爆弾なんて見たことがあるわけではないが、何度でも使用可能な爆弾なんてあるとは思えない。

 

「あり得ないことを可能にした、といったところかな」

「なんでまたそんな…」 

「私は研究者だ、あらゆる可能性を試したくなるものなのさ」

「はぁ…」


 私はデスペラードボムに目をやり、頬をかいた。

 

(これが校舎を大破させた原因…何度も爆発可能…)


 今得た情報を頭の中で反芻させる。

 言葉上理解はできるが、やはりどうも信じがたい。

 

「まぁ、信じられないだろうね?」


 私の心を見透かしたようにクラスター博士。

 

「え?あぁ、まぁ…だって、ねぇ?真希」


 隣でデスペラードボムをにぎにぎしていた真希に助けを求める。

 

「そりゃあねぇ、実際爆発したところ見たわけじゃないし」


 彼女の言うとおりであった。

 私たちはこれが爆発したところをこの目で見たわけじゃない。

 起爆方法が寂寥感だとか何度でも爆発可能だとか言われても、なるほどと納得できるわけがない。

 目の前のこの博士がデタラメを言っている可能性もあるのだ。

 

「確かに君の言うとおりではあるね」


 クラスター博士は顎に手をあて小さく息をついた。

 

「しかし、今ここで実際に証拠を見せるわけにもいかんしな」


 彼女の言う『証拠』が『爆発』であると気付いて私は戦慄を覚えた。

 校舎の一角を大破させたあの威力の爆発をここで起こされたら、私たちは終わりである。

 

「それに、さっきも言ったようにこいつの起爆方法は寂寥感だ。今ここで爆発させようとしてすぐできるようなものではない」


 クラスター博士はう~むと唸り、そして、

 

「…理解してもらう必要があるんだがね、特に君には」


 私に向けて、そう呟いた。

 目を丸くして、私は無言で自らを指差す。


「あぁ、理解していてもらわないと、後々大変だ」

「ちょっと意味が分からないですが…?」


 所有者と思しき人が目の前にいるのだ、話が終わり次第この爆弾はとっととお返しするつもりである。

 デスペラードボムとはここでお別れ、理解しようがしまいがもう関係ないはずだ。

 この柔らかい触感は捨てがたいものがあるが、それはもう忘れよう。

 とか思っていたら、次にクラスター博士はとんでもないことを打ち明けた。

 

「今後、これの所有権は君になるわけだからね」


 数秒間の沈黙。

 言葉の意味は分かるけど、ちょっとばかし理解に苦しむ。

 

「それってどういう…?」

「言葉どおりさ、そのデスペラードボムの持ち主は三条美鈴くん、君になるということだ」

「いやあの、なんでそうなるんですか?」


 一方的にそんなことを言われても理解できるわけがない。

 落ちてるのを勝手に持ってきたのは確かに私だが、それだけで所有者と認定されても困る。

 拾った物は拾った人の物なんて決まりはないだろう。

 

「ふむ、そこも説明が必要なところでもあるんだよ」


 クラスター博士は足を組みなおし、続ける。

 

「それの開発者は確かに私であり、持ち主も当然私であるわけだ。しかしだね、そいつからすればちょっとばかし違うのだよ」


 彼女の言うそれとかそいつだとかは、当然このデスペラードボムのことであろう。

 

「そいつは、自らの意思で所有者を判断するんだ」

「はぁ?」


 理解ができず、私はコメカミ辺りに手をやる。

 隣に座る真希はさっきからずっと眉間に皺を寄せている。


「犬が自分の主人が誰であるかを判断するといったようなイメージかな」

「犬がって…これ、爆弾なんでしょう?意思とか言われても…」


 爆弾を犬で例えるとか、いくらなんでも無理がありすぎるだろう。

 

「あくまでイメージだよ。そういう風に作られているからね」

「ちょっと…信じがたいのですが…ねぇ?真希」


 真希に助けを求めるが、真希は眉間に皺を寄せたまま「何がなにやら」と一言呟いただけだった。

 

「そいつの起爆方法は寂寥感であると言ったろう」

「はい」

「じゃあ、何に対しての寂寥感だと思う?」


 いきなり問題を投げかけられ、私は無言になる。

 デスペラードボムをじっと見て考えるが、答えは浮かばない。

 

「そうだね、ならば、飼い犬はどういったときに寂寥感を覚えるだろうか?」


 ヒントのつもりなのか、今度はまた犬に例えて聞いてきた。

 しかし、それならば答えは簡単に出てくる。

 

「飼い主…ご主人が居ない時ですか?」

「その通りだ」


 当たりのようで、クラスター博士は大きく頷いた。 

 正解はしたものの、それがどういうことなのか、私はまだ理解できない。

 いかんせん、例えられているものが犬だから、爆弾とうまく繋がらないのだ。


「それってもしかして…」


 今までずっと眉間に皺を寄せていた真希が呟いた。

 見ると、眉間の皺はとれていて、今度は目を丸くしていた。


「どういうこと?真希」


 真希に訊ねたが、答えはクラスター博士が告げた。

 

「そいつは、君と離れて寂しかったから、爆発したんだよ」


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