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デスペラードボム  作者: ゼド
第1章 爆弾を拾った日
4/19

 帰りのホームルームが終わって、私は通学鞄に入れてある携帯電話を手にとり開いた。

 私はいつも一息入れてから教室を出るようにしている。放課後に突入してすぐに教室を出ても、廊下や下駄箱ルームは生徒でごった返しで疲れてしまうからである。

 大抵、携帯のメール確認や、よく行くwebサイトの更新チェックなどをしてから教室を出るのだ。

 それは今日も然り。

 携帯のディスプレイには受信メールがあることを知らせるアイコンが表示されていたので、慣れた手つきで受信箱を開く。

 届いていたメールを見て、私は顔をしかめた。

 そんなところに、真希がやってきた。


「んで、結局どうすんのアレ」


 ハッとして顔をあげる。

 メールに意識がいっていたせいで彼女の存在に気付かなかった。


「私、部活あるから、持って帰るって言っても手伝えないんだけど」


 ホームルームが終わる直前まで机に突っ伏して船を漕いでいた真希は、言いながら盛大にあくびをする。

 

「今日は置いて帰ることになりそう。お母さんに買い物頼まれちゃった」


 小さなため息を漏らす私。

 届いていたメールはお母さんからのものだった。

 帰りに買い物をしてきてほしいとの旨が書かれていた。


「アレを抱えてスーパーに寄るのはさすがに抵抗があるしね」


 一度帰ってからスーパーに向かうのもありだが、そこまでして爆弾(仮)を持ち帰る必要性があるのかと言えば疑問だ。持ち帰るのは日を改めてでも別に問題はないだろう。

 正直なところ、持ち帰らなくて済む理由ができて若干ホッとした、というのも少しはある。


「それがいいわ。あんなの抱えて歩いてたらきっと周りの視線が痛いわよ」

「私もそう思う…」


 今朝も何人かの生徒にぎょっとした目で見られているから、周りの反応は大体が予想できた。

 わざわざ今日持ち帰る必要はないだろう。

 家に帰って、先にネットで爆弾(仮)のことを調べてみることにしよう。もしかしたらリアル爆弾ぬいぐるみみたいなのがあるかもしれない。持ち帰るのは手がかりを掴んでからでも遅くはない。


「それじゃあ私は部活行くわ。また明日ね美鈴」

「うん、ばいばい」


 手を振って真希が教室を出るのを見送ってから、私は携帯を閉じて、さてとっと立ち上がった。


 †


 持ち帰らないにしても一応様子だけは見て帰ろうと、私は空き教室に立ち寄った。

 扉を開いて、ぎょっと目を見張る。まさかとは思っていたが、本当にまさかだとは。


「なぜ…」


 爆弾(仮)がまた、扉の前に鎮座していた。

 意識せずに足を踏み入れたらまた躓くところだった。

 そんなことより、どうしてまた移動しているのかと、ゴクリと息を飲んだ。

 私は廊下をキョロキョロと見渡した後、教室内に入って扉を閉めた。

 どっこいしょと爆弾(仮)を抱えて教壇に移動する。


「誰かに見つかったのかな…」


 教卓の上にどんっとそれを置いて、呟いた。

 誰かの仕業と考えるのが一番自然だ。

 教室が傾いているわけでもないのに、勝手に物が扉の前にくるはずないのだから。

 だとしたらどうしてわざわざ扉の前に置いたのか。ちょっとしたイタズラのつもりなのだろうか。

 いくら考えてもそれは予想でしかなく、首を傾げることしかできない。

 答えは当然出ないまま、再び爆弾(仮)を教卓の下に戻す。

 今日は持ち帰らないことにしたのである、後ろ髪を引かれる思いではあったが、ため息をひとつこぼし、空き教室を後にした。


 †


 帰りの道すがら、おつかいを済ませるべくショッピングセンターに立ち寄った私は、食料品売り場に向かう前におもちゃ屋を訪れた。理由はもちろん、例の爆弾(仮)の手がかりを探るためである。

 やはりぬいぐるみの線が高そうだと思い、ぬいぐるみ売り場を重点的に探りをいれる。

 しかし、動物やアニメのキャラクターのぬいぐるみは目立つものの、爆弾のぬいぐるみも、それらしき物も見当たらない。別に期待していたわけではないので、落胆することもなく肩を竦めた。


「お誕生日プレゼントか何かですか?」


 近くにいた女店員が訊ねてきた。女子高生がひとりぬいぐるみ売り場にいるという構図は、店員の目には、自分の物というより誰かのプレゼントを選んでいるように映ったようだ。


「いやまぁそんなところなんですけど…」


 全く違うわけだが、私は適当に返した。そして、これはチャンスと言わんばかりに訊ねる。


「あの、爆弾の形したぬいぐるみってありませんか?」

「は…はい?」


 眉根を寄せる女店員。


「爆弾って言っても、漫画に出てくるやつみたいな形のやつです。こう、丸くてツルツルで…でも見た目と裏腹に感触はムニムニしてて、持ったらずっしりと重いんです」


 両手で丸を描いたりして形を表現する私。

 それを見た店員は苦笑を浮かべた。


「えっと…そういうものは当店には…」

「そうですかぁ…そうですよねぇ…」


 いったい私は何を聞いているんだろうと、今度は自分が苦笑する。

 やや困惑気味の店員に気をつかい、私はそそくさと売り場を後にする。

 やはり家に帰ってネットで調べてみるのが一番手っ取り早そうだった。


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