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デスペラードボム  作者: ゼド
第1章 爆弾を拾った日
3/19

 爆弾(仮)を空き教室に隠した後、いつも通り授業へと臨んだ私だが、授業の内容はほとんど頭に入ってこなかった。終始頭の中は爆弾(仮)のことばかり、先生に解答を指名されても「爆発すると思います」とかわけの分からないことを言ってしまった。

 そうやって4時間目までをやり過ごした私。現在昼休みで、教室にて真希と一緒に昼食を済ませたところである。


「美鈴、あんたまだアレのこと考えてんの?」

「うん」


 脳みその9割以上が爆弾(仮)のことが占めているため、必要最低限の言葉しか返せない。

 

「まぁまさか本物の爆弾じゃないだろうし、どっかのマニアックなショップで売ってる、なんちゃって爆弾とかそんなんじゃないかしら」

「そんなのあるの?」

「いや、適当に言っただけだけど」


 何事も適当に済ますことが多い真希である。

 それを知っているから、私は文句を言わずただ深いため息をついた。

 しかし、真希は適当でいいかもしれないが、私はそうはいかない。爆弾(仮)を手放してから4時間半ほどが経ち、あの物体の正体が何なのか、当初に増して更に知りたくなっていた。分からないままだと、今夜は眠れそうにない。


「私ちょっと行って来る」


 私はそう言って席を立つ。

 それを見て真希は肩を竦め「やれやれ」と続いて席を立った。

 

 †

 

「んきゃ!?」


 ドアを開いて空き教室に入った私は、いきなり声をあげて転んでしまった。

 

「えぇ!?」


 後ろで真希が驚きの声を上げた。

 

「いっつつつつ…」


 私は手をついて、呻きながら身を起こす。

 

「その年になってそんなパンツ穿いてるのってあんたぐらいよね」


 真希の言葉の意味がすぐに理解できず、四つん這いの状態で真希の方を振り向く私。

 そこで気付き、私は捲くれ上がっていたスカートを慌てて戻した。


「見るな馬鹿!」

「いいじゃないの別に女の子同士だし。うん、パンダって可愛いわよね」

「ぐっ…」


 興味なさそうに言う真希だが、顔はおもいっきり笑っている。パンダが好きなんだから別にいいじゃないか、と抗議したかったが、それもなんか逆効果のような気がしてやめた。


「そんなことより…」


 だから話をとっとと逸らすことにして、私は立ち上がった。

 

「どうしてそれが、そんなところにあるの?」

「え?あ、あぁ!気付かなかった!パンダに気をとられてて!」


 真希は尚もパンダ攻撃を続けてきたが、私は無関心を極めこむ。別にいいじゃない、好きなんだもの。

 そんなことより、今問題にすべきなのは、目の前にあるこの物体である。

 真希もふざけてはいるものの、それがそこにあることには少なからず驚いている様子だ。

 教卓の下に隠してあった爆弾(仮)が、何故かドアの前にあったのである。

 私が躓いたのはこれのせいだった。

 

「私、確かに教卓の下に置いたよね?」

「まぁ…そうね」


 さすがにこの短時間で思い違いはないだろう。真希も見ていたし、間違いなく教卓の下に置いてからこの教室を出たはずなのだ。


「何かの振動でここまで転がってきたんじゃない?」


 真希は言うが、その線は薄そうである。

 確かに爆弾(仮)は球体だが、重量があるためそう簡単にごろごろ転がるとは思えない。教室が傾いていれば別だが、まさかそれはないだろう。


「朝から昼休みまでの間に、誰か来たのかな?」


 一番可能性がありそうな事象を挙げてみる。


「まぁ、誰でも入れるといえば入れるからね、その可能性はあるかも。でも、誰かが入ってきてこれを見つけたとして、いちいちドアの前に置くかしら?」

「置かないよね…」


 誰かが入ってきて爆弾(仮)を触った、という線も、0ではないにしろ0に近そうであった。

 ならばどうして教卓の下にあったはずの爆弾(仮)がドアの前に移動していたのだろうか。まさか自分で移動したなんてことはあるまい。

 考えていると、真希が「よっこらしょ」と爆弾(仮)を持ち上げた。

 

「いいんじゃない?そういう細かいことは。それにしても重いわねぇこれ…」


 教卓の前に移動する真希。

 ドアを閉めて私もそれに続く。

 真希は教卓の上にどーんっと爆弾(仮)を置いた。

 

「そんなとこ置かないでよ…落ちたらどうすんの…」

「いやいや、本物の爆弾の線はもう0と思っていいでしょ?」


 最初爆弾(仮)を見たときは取り乱していた真希だったが、触ったりしてみて警戒心が解かれたのだろう、もう扱いに躊躇は見られない。

 私もさすがにもう本物の爆弾とは思っていないが、得体の知れない物体であることには変わりがないため、真希より警戒心は多少ある。

 落ちて潰れて、中からこれまた得体の知れないものが出てきたりしたら嫌じゃないか。にゅるっと。


「でもこれ、何なのかしらねぇいったい?」


 真希が爆弾(仮)をまじまじと観察し、突いて擦って揉みまくる。

 私もあらゆる方向から観察するが、答えがまったく浮かばないため、無言。

 

「ぬいぐるみとか枕の類だったら、綿とかビーズの感触があると思うんだけど、触った感じそういうのとは全然違うのよねぇ」


 無言で観察する私に対し、思ったことをひたすら口にする真希。

 

「おっぱいともまた違うし」


 柔らかそうな単語が真希の口から出て、私は思わず肩をぴくりと震わせた。

 ジト目で真希を見ると、彼女はどういうつもりか、片手で自分の胸を、もう片方の手で爆弾(仮)を揉んでいた。


「なにやってんの…」

「感触を比べてます」


 見れば分かることだったのだが、キッパリ言われると苦笑してしまう。

 そしてほとんど無意識に自分の胸に視線を落とす私。

 凹凸の気配が微塵もないそこに、小さく「けっ」と悪態をつく。

 まだ高1だし、まだまだこれからだし、真希みたいなのが異常なだけだし。


「どうした美鈴?」


 どこからどう見ても悪意しか感じられないその質問に、私は無視を極めこむ。

 その変わり、今度は私が爆弾(仮)を揉みしだいた。

 

「まるで特大の餅をこねているかのような感触だよね」


 昔、子供会の集まりで餅つき大会をやって、餅をこねる役を任されたことがあったが、そのときの餅の感触になんとなく似ている気がした。弾力的な面で。おっぱいとは全然違うきっと。

 私は爆弾(仮)を持ち上げて、真希に裏を見せてみた。

 

「裏ってどうなってる?」

「別に、ツンツルテンよ?」


 本当に、頭頂部の導火線の部分を除けば、完全な球体のようだ。縫い目とかもやはり見つからない。

 どれだけ観察しても、ピンッとくるものが思い浮かばなかった。

 

「これ、火つけたらどうなるのかしらね?」


 真希がさらっとそんなことを言う。

 私は戦慄を覚え、息を飲んだ。

 

「それはなんかヤバそうじゃない?」


 爆弾としての見た目のクオリティは相当なもので、それは形は当然のことながら、導火線の部分もリアリティ抜群なのである。そこくらいゴムやシリコンで作ったらいものの、ご丁寧に紙で被服された本物さながらの造りになっている。

 私は本物の爆弾、そもそもこういった形の爆弾なんて漫画でしか見たことがないわけだけど、この導火線に火をつければ燃えるということくらいは分かる。

 ただ、つければ結果どうなるか、そこが問題なわけである。

 

「まさかドーンなんてことはないと思うけど…そのまさかが起こった場合洒落にならないから止めておこうよ…」


 私はあらゆる可能性を危惧し、点火は却下した。

 ドーンとならなくても、有害な煙が発生したり、異常なほど燃えてしまったりなど、別の危険性は十分にあるのだ。少なくとも今ここで点火するのは危険である。

 

「まぁ、ライターとか持ってないから、つけようとおもってもつけれないんだけどさ」


 そう言って肩を竦めた後、真希は爆弾(仮)のニオイを嗅いだ。

 

「無臭か。正体どころか、素材すらサッパリ分からないわね」

「気になるなぁ…」


 ふたりして腕を組み、う~んと唸る。

 そんなとき、昼休み終了5分前のチャイムが鳴る。

 

「やれやれ、結局何も分からず仕舞いね。また今度にして、戻ろう美鈴」

「うん…」


 何も得るものがないまま昼休みが終わってしまい、後ろ髪を引かれる思いだったが、授業に遅れるわけにはいかない。私は渋々また爆弾(仮)を教卓の下に戻した。

 そして、真希と共に空き教室を後にした。


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