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デスペラードボム  作者: ゼド
第1章 爆弾を拾った日
2/19

 私はぜぇぜぇと息を切らしながらふらふらと校門をくぐる。

 必死に抱きかかえているのはご存知、爆弾(仮)だ。

 5kg強という重さは私にとって許容範囲ではあるものの、持ち続けるとなると辛い重さであり、現在疲労困憊、もう腕がパンパンであった。

 周りにいる生徒の視線を感じながら、校舎に入る。


(なにやってんだろ私…)


 持ってきてしまったことを後悔しながら、私は上履きに履き替えた。

 私は1年生。教室は4階なので、階段を登る。

 爆弾(仮)を抱えての階段の登りは、いつもの何倍も辛かった。

 4階まで辿りつき、教室へ向かおうとして、思い直す。


(こんなの持って教室に入ったら変に思われちゃうかも…)


 この物体の正体が何であれ、爆弾の形をした何かを持って教室に入ろうものなら、注目の的になることは免れないだろう。

 ここまで来るまで何人かに目撃されているが、そのほとんどが驚きの眼で私を見ていた、気がする。

 私は教室のある方向とは反対側に向かった。


(空き教室って鍵かかってなかったよね…)


 半分物置と化している空き教室の前で立ち止まり、私は爆弾(仮)を脇に抱え直し、ドアの取っ手を掴んだ。

 予想通り鍵はかかっておらず、ドアはすんなりと横にスライドした。 

 基本的に生徒が立ち寄る場所ではないため、ここならこの爆弾(仮)を保管しておけるだろう。

 

「ちょっとここで待っててね」


 そっと呟き、教卓の下にそっと爆弾(仮)を置いた。

 そして、空き教室を出て自教室に向かった。

 

 †


 1年3組の教室に入り、私は窓際の自分の席に着いた。 

 机に頬杖をついてため息をつく。

 

(なんであんなもの持ってきちゃったんだろう…)


 咄嗟にとった行動とはいえ、後先考えなさすぎた。

 あんなもの持ってきてこれからどうするのだ。

 また帰るときアレを持って帰るのか。持って帰ってどうするのだ。

 どれもこれも無計画だった。

 私は視線を上にやって眉をしかめた。

 とそのとき、私のもとにひとりの女子生徒がやってきた。

 

「おはよう美鈴。どしたの?浮かない顔して」


 私は頬杖を解き、椅子の背にもたれかかった。


「あぁ、おはよう真希」


 彼女の名は篠原真希(shinohara maki)、私のクラスメートであり、友人だ。いつも元気なスポーツ大好きっ娘である。

 文系の私とは正反対な性格だ。

 

「もしかして宿題やってくるの忘れた?あっちゃー残念、見せてあげたいけど今日は無理だわ。何故なら私もやってないから!あっはっはっ!」


 ひとりで勝手に絶好調の真希。

 私はそんな真希の様子を見てふぅと一息。


「忘れるわけないでしょ。もし忘れても真希に助けはもとめない、だっていつもやってないもの」

「あーこりゃ手厳しい!」 


 真希はぺちんと自分の額を叩く。

 いつもの他愛も無いやりとりである。

 

(あ…)

 

 私はふと思い至った。

 

(あの物体、私ひとりで悩んでも何も分かりはしないわ。友達だもの、旅は道連れよ)

 

「真希」

「んあ?」


 きょとんとする真希。

 私は立ち上がって彼女の手を掴む。


「ちょっとついて来て」

「えぇっ?ちょっと美鈴!」


 何のことか知るよしもない真希に構わず、私は真希の手を引いて教室を後にした。


 †


 真希を連れ、再び空き教室にやってきた。

 無言で教卓の方に歩み寄る。


「美鈴、いきなりどうしたのさ?こんなところに連れてきて」

「ドア閉めて、ちょっとこっち来て」


 真希の問いにすぐ答えず、私は教卓の前で手招きをする。

 怪訝な表情を浮かべながらも、真希は言われた通りにドアを閉め、私のもとに歩み寄ってきた。

 私は真希の肩に手を添え、真剣な眼で彼女の目を見据える。


「な、なに?」


 何故か頬を紅潮させる真希。


「も、もしかしてそっち系の話?駄目だよ美鈴、私、百合には興味ないからさ…」


 とんでもない勘違いをしているようだが私はそれを正さない。それどころではないのだ。

 私は無言で、真希とともに腰を下ろした。そして、教卓の下から例のブツを取り出して見せた。


「…これ、なんだと思う?」


 恐る恐るといった感じで訊ねると、今までアワアワしていた真希の表情は一変した。

 文字通り「ぎょっ」と言う顔になった。


「ば、ばば、爆弾!?」


 その物体の形を見て、真っ先にヒットしたであろうワードを叫ぶ真希。

 これを見てまず最初に爆弾だと思わない人の方が珍しいだろう。


「いやいやいや何持ってきてんのさ美鈴!こんなところであんたと心中なんてゴメンよ!そんなことなら百合の方が100倍マシだわ!」


 立ち上がろうとする真希を制し、私は人差し指を自らの手にあてがって「しーっ!」と口にした。


「別に死ぬつもりなんてないって。ただこれが何なのか聞きたかっただけだから」

「何なのかって…どっからどう見ても爆弾にしか見えないだけど…」


 ごもっともだと私は思った。しかし、それであぁやっぱり爆弾だったのかと納得するわけがない。


「真希、常識的に考えて、こんなところに爆弾があると思う?」

「え?いや、それは…」


 私も心の中で「道端に爆弾が落ちているわけがない」と自分に言い聞かせていた。


「触ってみてよ真希」

「はぁ!?嫌よそんなの!何かの間違いでボンッってなったらどうすんのよ!」


 首をぶんぶん振って却下の意を表する真希。


「大丈夫だって、私もさっき散々触ったし。触ったらびっくりするから、絶対」

「べ…別にびっくりしたくないんだけど…」


 私は大丈夫だと証明するように、爆弾(仮)をぺしぺしと叩いてみせた。相変わらずの弾力だった。

 その行為にいちいち身を震わせる真希。当然といえば当然である。

 躊躇っていた真希だが、私の視線に負けたのか、おずおずと手を伸ばす。


「爆発したら天国でボコボコにしてやるわ…」


 そうこう言っている間に、真希の人差し指が爆弾(仮)に触れる。


 むにゅ。


 私の時と同様、人差し指は爆弾(仮)にめり込んだ。


「柔らかっ!」


 これまた私と同様の反応を示す真希。


「うっわぁ何これ、くせになりそう…」


 一気に警戒心が解けたのか、真希は撫でたり突いたり揉んだりを繰り返した。

 まったく同じことを先ほど体感した私は、無意識にうんうんと頷いた。

 暫く自由に触らせた後、再び訊ねた。


「それで真希、これ、なんだと思う?」

「…え?」


 我に返った真希。当初の疑問なんて既に霧散していた様子である。

 ぐにぐにと揉みしだきながら「う~ん」と考える。


「ぬいぐるみ…的な?」


 これまた私も思い至った回答であった。


「やっぱり真希もそう思うよね…」

「思うよねって…なんなのこれ?この感触、どう考えても爆弾じゃないわよね?」


 私もつられて爆弾(仮)を揉みしだく。


「私も分からないの。だから真希に聞いてみたのよ」

「分からないって…」


 私はそこで、爆弾(仮)を見つけてここまで運ぶまでの経緯を簡単に話した。


「え、これ道に落ちてたの?」

「そう、道のど真ん中に。最初ボールかと思ったんだけど、近づいてみたらどっからどう見ても爆弾でさ…」


 真希は揉むのを止め、少しだけ持ち上げてみせた。


「なにこれ、想像以上に重いわね…!」

「うん、ここまで運ぶの相当苦労した…」


 今でも腕が張っているのが体感的に分かる。


「なんでこんなものいちいち持ってきたのよ…」


 持ち上げるのをやめ、再び床におろし、真希はため息をついた。


「いや、自分でもよく分からないんだけど、なんか誰にも取られちゃいけない気がして…」

「誰が取るってのよこんなの。いや…部屋に1個欲しいかもしれないわね…」


 真希はすっかり柔らかさの虜になってしまったようである。

 私と真希は顎に手をあて、爆弾(仮)を見詰めながら「う~ん」と唸る。

 と、そのとき、ホームルーム開始5分前を告げるチャイムが鳴り響いた。


「取りあえず戻りましょう美鈴。これのことはまた後で考えるってことで」

「うん、そうだね…」


 得体の知れない爆弾もどきのために遅刻するわけにはいかない。

 私は頷き、爆弾(仮)を教卓の下に戻した。


「ここでじっとしててね…」


 爆弾(仮)にそう声をかけ、私は真希とともに空き教室を後にした。 


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