②
悩んだ結果、意を決して両親に全て話すことにした。
犬のようにキャンキャン咆えるわけわけじゃないし、黙っていても問題ないかとも思えたが、得体の知れない物を部屋に隠し持っているという罪悪感のようなものがそうさせた。それに、今後外に連れ出すことにもなるだろうし、いずれにせよ存在が発覚するのは時間の問題だと思われたから。
お父さんはもう仕事に行ってるだろうから、まずはお母さんだ。
ベッドに正座で座り、デスペラードボムをじーっと見つめながら、何度も頷く。
大丈夫、多少驚かれるかもしれないけど、お母さんなら大丈夫だ、
何が大丈夫なのか自分でもよく分からないが、とにかく自分に言い聞かせる。
「よしっ」
私はその声をバネにするように、立ち上がった。
†
私はデスペラードボムを抱きかかえ、ゆっくりと階段を下りる。
下りながらふと思う。今私は、デスペラードボムをどの向きで抱きかかえているのだろう。
前後左右が分かると言ったが、よく考えると前後の区別は曖昧であった。
もし今、私の方を向いていると考えると、ちょっと恥ずかしい気持ちになった。
だって考えようによっては向かい合わせで抱き締めてるわけであって…
「こほんっ…」
私は小さく咳き込む。
爆弾相手にいったい何を考えているのかと、すぐにその考えは霧散させた。
1階に着き、そろりとリビングの方へ。手前でデスペラードボムを床に降ろす。
開いた戸からそっと中を窺うと、お母さんが鼻歌交じりにテーブルに朝食を並べているのが見えた。
焼き魚の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
私はごくりと唾を飲み込み、深呼吸してから中に呼びかける。
「あのぉ…お母さん…」
囁くような声だったけども、お母さんは気付き、こちらを振り向いた。
「丁度用意が出来たところだから、座ってて」
「あの、それもなんだけど、ちょっとお話が…」
お母さんは目を丸くして「なぁに?」とひとこと。
「見てほしいものがあるの…」
エプロンで手を拭きながら、首を傾げるお母さん。
「あの、その、見ても、驚かないでほしいんだけど…」
「なに、どうしたの?」
打ち明ける決心が寸でのところでつかず、ドギマギする私に、お母さんは怪訝な表情。
小学生の時、庭の植木鉢を割ってしまった事を打ち明けた時以上に緊張する。
きっと私の目は泳ぎまくっていることであろう。
「あのね、その、昨日道端で変なもの拾っちゃって…」
お母さんから目を逸らし、徐々に徐々に打ち明けていく。
「それで、その、捨てるに捨てられない状況になっちゃって…」
お母さんが無言である。黙ってるから最後までさっさと言えということだろうか。
私、昨日爆弾を拾ったの、とあっさり言ってしまえたらどんなに楽なことか。
「仕方がなく持って帰ってきちゃったんだけど…」
言いながら指先をもしょもしょと弄くる。
「扱いさえ間違えなければ決して危ないものじゃないの…」
そこで私は一息つく。
いずればれることである、だから打ち明けるのだ、私。
「私昨日、学校行く途中でばく…!」
「美鈴、それなぁに?」
意を決して打ち明けようとしたところ、お母さんの言葉に遮られた。
出鼻を挫かれた感じで、私は「へ?」と素っ頓狂な声をあげてお母さんを見る。
お母さんは私の右下辺りに視線をやり、目を丸くしていた。
釣られるように私もその場所を見て、文字通りぎょっとした。
「なんで勝手に出てきてんのよ!」
戸で隔てるように置いたはずのデスペラードボムが、私の後ろからひょっこり顔を出していた。




