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15分ほどが経過しただろうか、私と真希は終始無言で一点を見つめたままである。
どのような挙動も見逃すまいと、一瞬たりともデスペラードボムから目を離さなかった。
しかし、こちらの行動を裏切るように、ボムはぴくりとも動きはしない。50mほどの距離をあけているため、ぴくり程度の動きは分からないかもしれないが、少なくとも、視認できる範囲の動きは確認できていない。
さすがにじっと一点を見つめるのは疲れてきた。頭も痛いし、そろそろ引き上げたい気持ちである。
逆に真希は仁王立ちのまま、こちらもぴくりとも動かずだ。
すさまじい集中力、彼女はそれほどまでにデスペラードボムに興味があるのか。
と、感心したのはつかの間、真希の顔を窺い見てその感心は氷解した。
「寝てるでしょ」
一言呟くと、真希の肩がびくんっと跳ねた。
「そ、そんなわけないじゃん、目ぇ瞑ってただけよ」
「動きを見張ってるのに目ぇ瞑ってたら意味ないじゃない…」
私はため息をひとつ。
真希は誤魔化すように笑い、頭をかいた。
「いやぁ~私、昔っから観察とかしてたらすぐ眠たくなるのよね。忘れてたわ」
「私も忘れてた、授業中起きてたためし無いもんね」
だとしても立ったまま寝るとは、呆れてものも言えない。
「そんなことより、アレ、動かないわね」
話を本題に切り替える真希。
寝てたのに動いてないってどうして分かるのか。
まぁ状況からして察しはつくだろうけども。
「本当に動くのかな…適当に誤魔化されてるだけなんじゃ…」
普通に考えてあの物体が『動く』とは考えにくい。
根拠や証拠があるわけじゃないため、クラスター博士への疑念が一層に増す。
「おーい、こっちこっちー、おいでー!」
真希がデスペラードボムに向けて手招きをして呼びかけ始めた。
「ちょっと何よいきなり…」
「呼んだら来るかもしれないじゃん」
放っておいても動かないなら呼んでみようという作戦らしい。
正直、そんなことをしてあれが動くとは思えない。
私はうんざりとしながらも、デスペラードボムの様子を窺う。
暗い中にぽっつりと見える丸いそのフォルムは、先ほどと同様、ぴくりとも動かず。
「もう諦めて帰ろうよ…下手したら私たち騙されてるだけかもしれない…」
冷静に考えて、あれがクラスター博士の言うとおりの代物である気がしなくなってきた。
爆発現場を見た後だったから、まさかと信用してしまったが、そもそもアレは本当に爆弾なのか。
信じていた気持ちは、今や疑いが大半を占めるようになった。
真希は腕を組んで「う~ん」と唸る。そして、
「美鈴も呼びかけてみ?」
そんなことを言い出した。
「えぇ私も?なんでよぉ」
「持ち主の特権ってやつかもしれないじゃない」
真希は博士の言葉を信じているようで、なんとかしてデスペラードボムを動かしたいようだ。
持ち主、という言葉に私はがっくりと肩を落とす。なんという1日だ今日は。
「それやったら帰るからね…」
それで真希の気が晴れるなら、と、私も呼びかけてみることにした。
念のため、周りに人がいないのを確認してから、口元に両手で輪を作った。
「おいでぇ…」
自分で言うのもなんだが、蚊のなくような声が出た。
「何よその地縛霊のすすり泣きみたいな声は」
「ひどい言われようだね…」
いくら真希しかいないといっても、静かな場所で大きい声を出すのは性格上、ちょっと恥ずかしいのだ。
でも、さすがに小さすぎたとは自覚していた。
「こっちおいでー!おーい!」
今度は思い切って声を出した。
そして、ふぅとひと息。
「これでいい?」
訊ねると、真希は「おーけー」と頷いた。
「こんなので動くとは思えないけど…」
そもそも、持ち主のもとに戻るように作られているとは言われたが、呼んだら来るとは言われていない。
博士を信じるかどうかの前に、今私たちは的外れなことをしているのだ。
10秒ほど待って真希を肩を叩く。
「ほら、やっぱり動かないでしょ?」
私は真希に帰るよう促す。
真希はデスペラードボムの方を見たまま視線を動かさない。
この期に及んでまだ諦めがつかないというのか。
と、そのとき私は、真希の口が小さく開かれ、細かく震えているのを見た。
目も大きく開かれ、それはまるで驚愕の光景を見ているかのようであった。
「どうした…の?」
私は真希の視線の先、デスペラードボムの方に目をやった。
そしてそこで、私も真希と同じように目を見開いた。
言葉が出ないとはまさにこのことか。
デスペラードボムが、弾むように跳ね、こちらに向かってきていた。




