①
この日の朝、私、三条美鈴(sanzyo- misuzu)はとんでもないものを見つけた。
場所はいつも登校する際に通っている路地。
そこにあるのが当然であるかのように、それは私の目の前に鎮座していた。
(うそぉ…)
通学鞄を胸に抱き、私はごくりと唾を飲み込んだ。
形は丸。大きさはサッカーボールくらい。色は黒でテカテカ。てっぺんに出っ張りがあって、そこからひょろりと導火線と思われるヒモが生えている。
要するに、それは漫画とかイラストでよく見かける爆弾の形をしていた。
これを見た者のほとんどは即座に「あ、爆弾だ」と思うことだろう。
(そんなわけないよね…)
だが、爆弾の形をしているからといって、それが本物の爆弾であるとはかぎらない。
爆弾の形をした何か、の可能性もじゅうぶんある。否、普通に考えてその可能性の方が限りなく高い。
それ以前に、こんな形をした爆弾がこの世に存在するのか。
誰もがその考えに辿りつくことだろう。
私も然りで、それが爆弾であると認めなかった。
(本物の爆弾がこんな所に転がってたらそれこそ大問題よ)
ならこの物体は何か、当然私は考える。
見なかったことにして学校へ向かえばいいものを、私は爆弾(仮)に近寄っていく。
傍でしゃがみ込み、まじまじと見つめた。
(よくできてるなぁこれ)
てっぺんに導火線(仮)さえ生えていなかったら鉄球かと思ってしまうほどの美しい丸。そして艶。
触感はきっと固くてツルツルだと、見た目から想像ができた。
果たして実際はどうか、私は恐る恐る爆弾(仮)に手を伸ばした。
むにゅ。
人差し指が爆弾(仮)にめり込んだ。
「柔らかっ!」
想定外の感触に思わず声をあげてしまう私。
まるでモチモチ肌の頬を指先で突っついたような感触だった。
「うわぁ~何これ何これ、すっごい気持ちいい」
くせになるような感触に、私は感極まった声をあげる。
何度も何度もツンツンし、調子に乗って揉んでみたりもした。
とにかく柔らかい。寝るときに抱いていたいようなそんな気持ちよさがあった。
(でも、結局いったい何なのこれ?)
我に返り、当初の疑問に戻る。
この柔らかさ、爆弾の線は薄そうである。
爆弾の形をしたぬいぐるみの線が高いが、どこを見ても縫い目とかそういったものが見当たらない。
完成度の高いぬいぐるみと言えば聞こえはいいが、果たしてどうか。
導火線のヒモの被覆といい、爆弾としての見た目は完璧である。
私は眉間に皺を寄せ、考えた。
そのとき、後方から何者かが歩いてくるのに私は気付いた。
私と同じ高校に通う学生2人組のようだった。
今は学生の通学時間帯だし、ここを誰かが行き来するのは不思議なことではない。
というより、今まで人がいなかったのがたまたまなだけだ。
別に見られてはいけないことをしているわけではないのに、私は何故か焦った。
通学鞄を肩に提げ直し、爆弾(仮)を抱え上げる。
「重っ!」
予想を超える重量に私の腰が悲鳴をあげた。
めちゃめちゃ重いわけではないが、恐らく5㎏以上はありそうだ。
スーパーで売ってる5㎏の米より少し重く感じる。
あって数100gだろうと思っていただけに、余計に重く感じる。
ぎっくり腰というのはこういうときになるのだろう。
「よいっっしょっ」
私はお腹で爆弾(仮)を抱えるようにして持ち、トコトコと路地を駆け出す。
どうして持って行こうと思ったのか、私自身もよく分かっていなかった。