第1話
「有希っ!もうすぐだ、頑張れ!頑張れっ!」
ウ〜ウァ〜ウゥ〜!
「痛いのは分かる!だけど落ち着いて、大丈夫だから!ほら!ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
モゥ〜ゥウ〜
俺は今、この世で最も神秘的な場面に立ち会っている。
「凛!美羽!花奈!お前たちも頑張るんだ!後少し、後少しで子供が産まれるぞっ」
メェ〜メェ〜ッ
ガルルッガル〜ッ
パオ〜ンオゥ!
「くそっ!楽にしてあげたいが、こればかりはどうしようもない!」
ギー、バンッ
「凛冶さんっ!産まれましたか?!」
「凛冶!大丈夫かっ!?」
「手助けすることはないかっ?」
「ああ!今は皆んな無事だし、まだ産まれてない!すまないがお茶か水を持ってきてくれないか?昨日の夜から何も口に入れてないんだ」
「あぁ!分かった、すぐ持ってくる!」
「私は食べるもの持ってくるわっ!」
「俺は他の皆んなを呼んでくる!」
「あぁ、すまない!」
さっきこの出産室に入ってきたやつらは俺が通っている高校の友達だ。
皆んないいやつらで仲もいい、大切な友達だ。皆んなそれぞれ違う部活に所属しているにも関わらず、こうして俺たちのために助けに来てくれたり、心配してくれる。口にはしないが、本当に感謝している。
ンモォ〜〜
メェ〜〜ッ
ガル〜ッ
「う、産まれるのか! 頑張れ、後少しだっ!」
ボトボトボト
…ミ〜ミ〜
…ミュ〜
…キュ〜キュ〜
「やった!やったぞ!子供が産まれたっ!良く頑張ったな有希、凛冶、美羽!あとは花奈だ、無理するなよ!」
良かった…3匹子供が産まれた。それぞれ牛、ヤギ、虎の赤ちゃんだ。
やっぱりかわいいな〜赤ちゃん。
後で皆んなと一緒にこの子たちの名前を考えよう。
象の花奈が子供を産んでからだけどな!
「花奈、足は出てきてるぞ!もうすぐだ!」
花奈から赤ちゃんの足は見えているのに中々産めない、この状況が長く続いている。
もしかして、長い時間産む力を使っていたせいで全て出し切る力が残ってないのか?
花奈は初出産だから力の配分が分からないだろうしな。
よしっ!結構こういう状況は経験してるし、俺が象の赤ちゃんを引っ張ろう。
「花奈!今から俺が手伝うからな!一緒に頑張ろう!」
俺は花奈にそう声をかけた。
パオン〜パオッ
どうやら痛みと疲労で聞こえていないようだ。
こんな時は誰か手助けが必要だけど素人に手伝ってもらうのは危険だし、俺が1人でやるしかないな。
俺は手袋をはめて花奈に近づき、赤ちゃんの足を握った。
「花奈、引っ張るぞ!」
花奈に無理のないように、ゆっくり赤ちゃんを引っ張っていく。
ズルズル
「後5分の1位か、慎重に、だ」
ズルズル…ズルズルッ、ボトッ
…ブォーフゥ、ブォ
「ふ〜、良かった、産まれた。赤ちゃん元気そうだし、良かったな!花奈!」
・・・
「花奈、どうした?体調は大丈夫か?赤ちゃんこっちだぞ」
俺は赤ちゃんの側を離れ、花奈に近づく。
ツルッ、 トスッ
「痛っ、下ちゃんと見てなかった、後で掃除もしないといけないな」
花奈の後ろ足の周りに流れでた体液と血で俺は足を滑らせて転んでしまった。
だ、誰も見てないよな?こんなおめでたい日に皆んなに派手に転んだの見られて晒しものにされたくないぞ!
俺は転んだままの体勢で後ろを向く。
…ふぅ〜、誰もいない、晒しものにならなくて済んだな。
結構時間経ってると思うんだけどあいつら遅くないか?まぁ、俺が頼んだんだから文句は言えないけど、どこまで行ったんだよ。あれから1時間は経ってるぞ…
俺は赤ちゃんを眺めながらそんな事を考える。
「はぁ〜、赤ちゃんかわいいな〜。やっぱり、命が産まれることを見て実感できるということは素晴らしいな。…名前、つけるからな〜、楽しみに待っておくんだよ〜」
俺はニコニコしながら赤ちゃんに話しかける。
ん?なんだ?影がーー
ドスンッッ!!
ーー振動音が聞こえた瞬間、俺の意識は暗転した