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(主役じゃないけど)主人公はこっちです→

作者: 竹馬有限

 

 サブカルチャーが大好きな人なら、一度は考えたことあるんじゃないだろうか。


 “異世界トリップ”というものを。





「・・・えっ、はい?」

『ですから、先にこの地に降り立った勇者様の知となり剣となり・・・って、ああもう!!何故この方はこう間抜けた顔をしたままなのですかっ?!』

「うわあぁあっ!?」


 なんか怖いよこの人!!突然大きい声出してきて!!



 いやいや、それより。


 ここはどこ?

 わたし、学校から帰ってる途中だったよね?電車の座席に座ってたよね?なんでこんな、教会みたいなところの台に座ってるんだろう。

 荷物は・・・ある。背中にあるリュックの重みはちゃんと感じるし、電車に乗ってる時と変わらず膝の上にはスクバがある。あれ?いつの間にか、近くの座席のわっかにかけてた傘持ってる・・・ま、いっか。


 そして目の前には知らない女の子。この綺麗な女の子はなんなの?

 日本語喋って欲しい・・・っていうか、彼女は本当に地球人だろうか。極彩色っていうのか、目に痛い配色の髪をしておられ・・・あれ、気のせいか、髪の色変わってる?七色っぽい?オパールを見たときみたいな、色の変わり方をしてる気がする。 


 え。

 髪の色が、変わる?


 =人間じゃ、ない?


 おおおお、落ち着けわたし!!

 そうだこういう時は素数を数えて・・・1、2、3、5、7、9って、あああもう9は素数じゃないしまず1が素数だったかも怪しいし!

 お、落ち着け、落ち着けわたし。


「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

『・・・なんですのこの方・・・』


 ってこれラマーズ法だ!?ダメだ全然冷静じゃない!!



 そんな時、扉を開けたような音がした。



「メルディーちゃーん、聖剣まだー?」

『ゆ、勇者様!?まだ呼んでませんよ!?』


 混乱していたわたしの頭に、すっと入ってくる言葉。


 日本語。

 

 さっきまで女の子が喋ってたみたいなちんぷんかんぷんな言葉じゃない。間違いなく、わたしが日常的に見聞きし口にしている、日本語だ。

 それに惹かれるように聞こえた方を見ると、茶髪の男がさっきの七色髪の女の子と喋っているみたいだった。


 あの人、女の子の言葉わかるんだ。すごいなあ。 


「いやー、待ちきれなくってさー。来ちゃった。あっはは」

『そんな理由でっ、軽々しく結界に穴を作らないでください!!』

「でもまた張ってくれるんだろ?ごめんごめん、でも、いつもありがとな」

『あ、あうぅ・・・』


 な、撫でポ?まさかこれ、リアル撫でポですか!?

 あのお兄さん凄いな!!

 顔もアイドル系な感じだし、身長はよくわかんないけど、女の子との差から見て低くはないだろうし・・・わあ、ハイスペック。

 

 でも会話内容はまったくわからない。

 距離もあるし、まず女の子の方の言葉がわからないから、内容はさっぱり。


 ・・・ていうか、あのー、そろそろこの放置プレイ、やめませんかね?


「あ、あのー・・・?」

『ハッ!?そうでした!【沈黙】っ!』

「ん!?」


 え、あれっ!?声が出ない!?口も動かせない!?なんでなんで?!


「メルディちゃん?」

『失礼、少し羽虫が煩わしかったので』

「ふーん」


 もごもごするわたしに近づいてくるお二方。


 な、なんですか?誘拐?身代金の要求?まさか何かやらかしたのを見られて、邪魔だからわたしをやっちゃうとかですか?


 やめてー!まだ死にたくないー!!


『・・・【固定】』


 ぴきっ、と体が固まった。

 う、動かせない・・・どうして?なんで?


 スクバを振り回そうとした変な格好で固まっているわたしを、ぶしつけにもジロジロとお兄さんは見てきた。

 な、なに、これ。顔が熱くなって、ああ赤いんだろうなあと思った。

 そんなわたしに女の子が冷ややかな目を向けているのに気づいて、一気に顔の熱さはなくなった。今度は顔が青くなったに違いない。

 同性にここまで冷たい視線を向けられたのは初めてだけど・・・なんていうか・・・女子ってこわいと今初めて思った。


 お兄さんはわたしを見ることをやめて、女の子の方を向いた。



「これ・・・ホントに聖剣か?魔剣の間違いじゃないよな?なんか、真っ黒だけど・・・」


 え、せいけん?


『・・・前にもお話した通り、聖剣というものはその時の主により形を変化させます。勇者様のその強大な魔力は、全てを飲み込むようでありながらも温かさを感じるものです。以前、黒色の魔力をしていらっしゃるとお伝えしましたよね?』

「あー、あったな。全ての魔力に大きな適正があるから黒だっけ?」


 まりょく?


『ええ。適正にばらつきがあると、わたくしのように反発が起こり結果として色が全て出てしまいます。しかし黒は全てが合わさった色。完璧であることを表すのです』

「ふうん・・・ま、禍々しいわけじゃないってのがわかるだけいいか」


 まがまがしいッ?!


 混乱してるわたしをよそに、二人は何かを喋り続ける。


 お兄さんの言葉――日本語しかわからないけど、その至る所におかしな単語が出てくる。

 さっきのせいけん、まりょく、もそうだけど、まおう、まぞく、まもの、ゆうしゃ、めがみ、その他etc・・・。  

 全部変換してみたら、もしかしてだけど。

 聖剣、魔力、魔王、魔族、魔物、勇者、女神、とかになっちゃったりしますか?


 てことは、もしかして。


 

 わたし、(サブカル大好き人間なので)憧れの“異世界トリップ”とやらをしてしまった!!??


 やったぁああああ!!!!!






 とか思ってた時期がありました。はい。



 現在わたし、鍛冶屋にいます。



 何故!?と最初は焦ったよ!

 ここまで来るにもいろんなことが起こった。起こりすぎだって思うくらい起こった。


 まず、ここはやっぱり異世界でいいらしい。

 というのも、あのあと女の子と話終わったらしい茶髪お兄さんは、わたしに手を伸ばしてきて、


「聖剣よ、俺の力を受けて目覚めよ!・・・こんなのでいいのか?」


 とかなんかアイタタタなこと呟いたかと思ったら、わたしの左手になんと剣が。(ちなみに右手にスクバを持っていた。振り回そうとしていたから。)


 剣。


 そう、剣が出現した。柄も刀身も真っ黒な剣が。


 見た目だけ。ぜんっぜん重くない。


 いやそれよりもさあ!?

 だって左手って、傘持ってたのに、えっ?ちょ、これどうなってるの!?わたしの傘は!?ちょっと高かったけどいい感じですっごい気に入ってたあの傘は!?

 なんでこんな可愛くない剣になっちゃったのさ・・・しっかり重さはあの傘と変わんないし・・・詐欺じゃん・・・この剣絶対使えないよ・・・。


 打ちひしがれてるわたしだったけど、お兄さんの声で更に混乱に。


「えっ!?なんか非常口のやつみたいな棒人間が聖剣持ってる!?」


 もしかしてその非常口のやつみたいな棒人間って、わたしのこと?え、まさかわたしのビジュアルですか?!なんでそんな感じになってんの!?


 ていうかこの剣(元:傘)、聖剣なの!?それがなによりびっくりですよ!!


『・・・古来より、聖剣はそれに宿りし剣霊という精が、女神に選ばれた勇者の魔力を元に肉体を作り、自ら聖剣を扱うと伝えられてきました。ですから、その・・・ひじょ?のぼーにーげん?というものが、勇者様の魔力を元に剣霊が形作った肉体かと』


 うん、やっぱり女の子、何言ってるか全然わからない。


 ビジュアルは非常口の棒人間。

 背中には教科書にノートにペンケース。右手には体操着(今日は体育があったから持ってきてただけなんだけど・・・)とか貴重品が入ってるスクバ。左手にはお気に入りの傘がジョブチェンジしたらしい全身真っ黒な聖剣()。

 しかも言葉は全然わからない。多分、喋っても伝わらないだろうし、まずお兄さんはわたしが見えてないみたいだった。あのアイタタタな言葉を言われて、わたしの手に聖剣()が現れて初めて認識したみたいな・・・非常口の棒人間って認識だけどね!!


 あ、これダメだ。

 わたし、異世界トリップしたのに詰んでる。



 そう思ったあとは怒涛の展開。


 お兄さんに話しかけられる→問答無用で女の子とお兄さんに連れて行かれる→外は切り立った崖で混乱するも女の子に無理やり引っ張られて下りて?いく→ふもとにあった中世イメージな街っぽいところの、武器がいっぱい置いてある店にぼっちでおいていかれる→そこのいかついおじさんに連れられて鍛冶場に(今ここ!!)



 わけがわからない・・・なんなのこれ・・・。


 案の定、おじさんとは会話できなかった。

 わたしが相手の言葉を理解できなかったというのもあるけど、わたしがどれだけ声をかけても、おじさんが反応してくれなかった。言葉が通じなかったら通じなかったで何かアクションがあると思ったのに、まさかのガン無視。泣きかけた。目に涙が浮かんだ。


 おじさんは、わたしから聖剣()を強奪して何かをし始めた。見てる分には鍛冶っぽいけど、聖剣()にそれをする必要性が理解できない。


 お兄さんがわたしを置いていくにあたって、「聖剣ってメンテ必要なのか・・・」とか言ってた気がするから、多分それかな。尚更理解できなくなった。


 わたし立ちっぱなしだけど、いいのかな。おじさん、わたしのこと邪魔に思ってないかな。聖剣()は元々傘なんだけど、そこらへんの事情はどうなってるのかな。

 わたし、帰れるのかな。これからどうなるのかな。


 とか、色々考えた。全部後ろ向きな考えになるのも仕方ないと思う。不安でしょうがない。



 おじさんが剣を研いでいる?のをぼーっと見学しながら、これまでのことを思い出していた。



 異世界トリップに憧れはしても、したいとまでは思ってなかった。そこまでヘビーな趣味ではなかった。


 したとしても、だ。


 こう、勇者みたいな「世界を救ってください!」みたいな感じで召喚は王道。わかるわかる。

 勇者とかの召喚に巻き込まれて、みたいな感じもまだわかる。

 そこに、異世界語自動翻訳(読み書き話す)やらチートがついてたら最高で、ついてなかったらなかったで努力のしようがあるからまだいい。


 でも、わたしの今の状況はなに?


 人間兵器としての召喚ですらない感じとはどういうことだと叫びたい。


 ビジュアルがあの棒人間とかギャグか!

 なんで持ち物そのままなのよ!

 傘が聖剣()になるとかどんな特典だ!!



 これはあれですか。


 わたしは異世界トリップという名の、憑依とやらをしてしまった感じですか?


 異世界の人間じゃなくて、聖剣なんていう異世界の()()に。




 チェンジで!全部チェンジで!


 というかわたしに、まともな異世界トリップをください!!

登場人物紹介


・「わたし」

→本編では一切名前が出なかった女の子。ここでも出ない。ちょっとテンション高めなJK。サブカル好き。ラノベ好き。まさかの異世界トリップ(憑依)をするも、憑依したのが聖剣という残念加減に早くも嫌気をさしている。魔力の色・適正・大きさがはっきり見えるような者でなければ彼女の本来の姿を見たり、声を聞くことが出来ない。ちょっと魔力が見える程度だと非常口の棒人間(黒)にしか見えず、声も聞こえない。現時点ではお決まりの自動翻訳やチートはまったくない様子。戦闘力も現時点では不明。


・勇者様

→本編では「勇者様」と呼ばれていたお兄さん。「わたし」よりも前にこの世界にトリップした青年。どうやら女神に選ばれた勇者らしい。染めたっぽい茶髪にアイドルのような顔を持つイケメン。大学生くらいに見える。「わたし」が「俺」だったら多分爆発しろと言っていた。「わたし」なのでイケメンな勇者は眼福。雰囲気や言動がチャラい。ちなみにメルディちゃん大好き愛してる!だが、彼女には微妙に伝わっていない。自動翻訳がついているらしい。現時点での戦闘力は不明だが、魔力はすごいらしい。だが「わたし」を棒人間としか認識できてないので、別に魔力が見えてるわけじゃないらしい。


・メルディ(メルディアノース・バラック)

→本編では「メルディ」と呼ばれていた女の子。この世界の神子と呼ばれるもの。見た目小学生~中学1年生くらいの女の子。大きな魔力を持ち適正も凄いらしいが、得手不得手があるらしい。その証拠に、髪はオパールのように七色にころころ変わる。実は目の色もそんな感じで定まっていない。女神の言葉を伝える者として、勇者をお供に世界を旅しているらしいが、本編では一切出てこなかった設定。現時点では「わたし」を召喚した犯人のようだが定かではない。勇者がシスコンな兄のように思っているが嫌いじゃない。むしろ好き。恋愛感情かは不明。戦闘力も不明。



もっとちゃんとした設定もありましたが、短編としてはここまで。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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