運命の日~学校 その2~
「てか、お前ら本当に仲いいな」
「「夫婦ですから」」
譲治の言葉に、夫婦寸分狂い無く返答する。やっぱ仲のいい夫婦はここまで出来るもんだ。
「全く、お前らは結婚して日常生活の大きな変革期を迎えているってのに、その事について深く考えた事は無いのか?」
「「ああ(うん)、無いぞ(よ)」」
即答だった。
「俺は美咲と生涯を支え合って行くって決めた。そして美咲と一緒に居られれば、それだけで満足なんだよ」
「私も同じ。薫と支え合えば、この先どんなことがあっても乗り越えられるって信じてる!」
夫婦揃って、そう断言する。
思えば俺が美咲に惚れたのは高校に入ってすぐのこと。クラスで他の女子と会話しながらイラストを描いているのが目に留まり、その描いていたイラストが俺の好きなゲームのキャラだったので話し掛けたら、言葉を交わして数秒で意気投合。そこから関係が始まり今に至るわけだが、互いに惹かれていく内に、
──俺は絶対、美咲を生涯支えて幸せにしてみせる!
という感情が芽生え始めた。それは美咲も同じだったようで、互いの意見をぶつけたら距離が一気に縮まり、「互いに支え合って行くのに遅いも早いも無い。だったら今から始めよう!」という結論に達して結婚に漕ぎ着けた。
俺と美咲の両親も結婚には寛容で、そこら辺の話は驚くほどすんなり進み、美咲の両親に至ってはローン肩代わりで家まで用意してくれるという懐の広さ。あの時は美咲といっしょにジャンピング土下座で感謝しまくったよ。
俺の両親も家具の手配やらなんやら肩代わりしてくれたので、結婚後はすぐに二人だけの夢の新婚生活をスタートさせることが出来た。
こういう事があって、今のラブラブな俺達夫婦が存在するわけだ。
「やれやれ、清々し過ぎて呆れる気にもならねぇ。お前らは本当にどうしようもないラブラブ夫婦だ」
「ありがとう──最高の誉め言葉だ」
「へいへい、ゾッコンってやつね」
別に俺達夫婦だけが互いにゾッコンという訳では無いだろう。確か今年の初めに校内で話題になった一年の夫婦がいるが、あちらも互いにゾッコンと聞いている。
「あ、そろそろ授業始まるから行くわ」
「おう、頑張れよ」
そう返事を返すと、譲治は教科書類と筆記用具を持って他の生徒数名と教室を出ていった。彼は理系なので一部授業は別教室で行っているのだ。ちなみに俺と美咲は共に文系なので教室移動はない。
さて、そろそろ今日の学校生活が始まる。
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そして、流れるように時は経ち放課後。
ホームルームが終わり、クラスの面々は続々と帰宅の路に着く。俺達夫婦もそれに続いて教室を後にする。
「じゃあ、帰って荷物置いたら買い出し行こうか。晩御飯は何にする?」
「んー、そうだな……。今はハヤシライスって気分だ」
「なら玉ねぎと牛肉とハヤシライスソースを買わないと。ご飯は朝の内に炊いたから大丈夫だし」
なるほど、今日の弁当に米が無かったのはそう言う訳か。というか俺が晩飯に米を多めに使う料理を所望するのを見越していたのか。謀ったな、美咲。
その後はハヤシライスの付け合わせのメニューを考えながら歩き、10分程で二人の愛の巣に到着する。
「ん、なんだこれ?」
と、玄関の扉の隙間に何かが挟まっているのが見えた。
どうやら手紙のようで、珍しく青色の便箋で封をされていた。裏を見ても差出人の名前は記されていないようで、単に「幸せな新婚夫婦に送る」とだけ書かれている。
「どうする、薫?」
「どうするって言われてもな……。ま、中で読んでみるか」
あからさまにフラグ以上の怪しさがプンプンするが、読んでみないことには始まらないので中で読んで見ることにした。迷惑メールと違って別に変なサイトに飛ばされる事は無いから見ても問題ないだろう。
鍵を開けて家に入ると、早速荷物を置いてリビングで件の手紙を開封する。
そこには、こう記されていた。
今回薫の話の端に出てきた一年の夫婦というのは、作者の別小説「元ホームレス、お嬢様の妹(仮)始めました。」の登場人物、天世風露と原賀進のペアの事です。