プロ小説家を目指す人が耳を塞ぎたくなるお金の話
ライトノベルの新人作家の小説の発行部数は、レーベルにもよるが、大手レーベルでだいたい8,000部とか10,000部ぐらいらしい。
作家が得られる印税収入は、これまたレーベルにもよるが、ライトノベルの場合、新人作家で8%ぐらいらしい。
印税は発行部数に依存するので、税抜価格600円のライトノベルで重版がかからなかったとしたら、作者がもらえる印税収入は、600円×8,000~10,000万×8%=384,000~480,000円。
……とかいう計算は、本気でプロ小説家になろうとしている人なら、やったことがある人は結構いるんじゃないかと思う。
だけどここで取り上げたいのは、それじゃなくて、出版社側の直面している数字の話だ。
小説家にお金を払っている出版社の側では、どういうお金の動きを見ているのか。それを見ていきたい。
ひとまず数字の拠り所にするのはこちら。
http://blog.livedoor.jp/shuppankyodo/archives/10454178.html
ライトノベルではないが、まあものすごくズレるということはないだろう。
税抜価格600円のライトノベルを10,000部刷ることを想定する。
このうち作者に払う印税が8%で480,000円、絵師に支払う報酬が350,000円、印刷に掛かるコストが30%で1,800,000円とする。
ここまでで、コストは合計2,630,000円。
書籍全般の返本率は40%ほどということだが、ネット上を調べると、ライトノベルの返本率は全体にかなり少なめとのこと。
具体的にどのぐらいか、正確な数字は分からないが、以下の記事を見るに30%を下回るということはなさそうだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20061003/111060/
ここでは35%で計算してみる。
600円の本を10,000部刷って35%が返本となると、売上は600×10,000×65%=3,900,000円。
ただこのうち30%が書店の取り分になるので、出版社に入ってくるお金は2,730,000円。
2,730,000円のうち2,630,000円はコストで消えるので、出版社の元に残るお金はわずか100,000円となる。
出版社にも働いている社員──編集者とか──がいるからその給料を支払わなければならないし、事務所があるならその家賃、光熱費なども支払わないといけない。
仮にあるレーベルで月10本の新刊を出しているとすれば、それによる収入は100,000円×10=1,000,000。
このレーベルに仮に月給300,000円の編集者を何人置けるかと考えると、まあ2~3人が限度だろうなぁという計算になる。
ところで、返本率35%はあくまでも平均値の話だが、仮にある新人作家の作品が10,000部中、1,000部しか売れなかったとする。
すると、出版社には売上収入が420,000円しか入って来ず、コストの2,630,000円を差し引くと、2,210,000円の赤字を被ることになる。
ところで、あなたがプロ小説家になる夢を諦め、本気で就職活動をしたにも関わらず、何十社という企業からお断りの通知をもらったと想像してみてほしい。
その後に、月給30万をもらえるライトノベル編集者の仕事にどうにかありつけたあなたは、この企業を首になったら次はなく、常に仕事に対しては自分の持てる最大限の力を持って取り組まなければならないと思っている。
そのあなたが、もしも自分の采配・判断によって、自分が勤める会社に221万円もの損害を負わせてしまったら、あなたはどうするだろうか。
おそらく今のあなたの気持ちが、あなたがプロ作家になった後にあなたの前に立つ、あなたに「売れる作品を書け」と指摘する、編集者の気持ちであろう。
彼は、彼の人生にとって重すぎるほどの責任を、彼の判断1つ1つに対して、負っているのである。
ところで、そういう視点を持ってみれば、この小説家になろうというサイトの評価システムは、なかなかに面白い仕組みを持っているとも思えてくる。
要は需要のある「売れる」作品が、爆発的に高い評価を受けるようになっているのである。
これは現実の市場にかなり近い環境であるわけで、プロを目指すライトノベル作家の卵の練習場としては、なかなかに優れているのかもしれない。
2021/10/9追記
これは僕が書籍化を経験する前に書いたものなので、具体的な金額に関してはネット等で手に入った情報をもとに書いています。
今の見解は、作家印税(ラノベ)に関してはちょっとこれ悲観的すぎる気がします(具体的な金額は逆に言えなくなりましたが)
編集さんの温度感も、ここで示している雰囲気とはちょっと違う印象ですが、これも具体的に言っていいものかどうか判断に迷うので伏せておきます。
いずれにせよ、この本文の内容は書籍化したことがない人が書いたものとしてお受け取りください。