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流血、無理矢理、いろいろR15かも。

苦手な方はとばしてください。

 生まれた時から傍にいた。

 4つ上の幼馴染。

 アルハイム国王である私のお父様と、貴族であるリュイのお父様は、昵懇の仲で。

 私の記憶には、最初から彼が存在していた。

 二人のお姉様と、リュイと、それから私。まるで4人兄弟のように過ごした。

 大きくなったらリュイのお嫁さんになる、と言って周囲に笑われた事もあったっけ。

 リュイは、ある日突然、騎士になると宣言した。

 僕は兄ではないから。ロザヴィーの一番近くにいつまでもは居られないから。

 一番ではなくても傍にいるために騎士になる、

 そしてロザヴィーを守るために生きていく、

 と、少年のあの日、リュイは私の目の前で誓いを立ててくれたのだ。



           ***



 「ロザヴィー………姫様………………好きだ………ずっと、好きでした………」



 何をされているのか、私には分からなかった。

 聞こえるのは、耳元で熱っぽく繰り返されるリュイの言葉だけ。

 そうだ、寝台に押し倒されたのだわ、とぼんやり思い出した。

 リュイが………確か、私の寝室に窓から入ってきて………抱き締められ、「愛している」と言われ………それから………どうしたのかしら………?


 「ロザヴィー、我が姫………」

 リュイが、唇を重ねてきた。その感触に違和感を感じると、麻痺していた触感が不意に戻ってきた。身体の奥からぞくりと悪寒がする。

 違う。

 これは、私の愛する人ではない。

 愛しい白の王子、ヴァイス王子の口付けとは違う。


 「―――や、やめて、リュイ」


 「ロザヴィー………ロザヴィー………ロザヴィー」

 やっとの思いで出した拒絶の言葉は酷く小さく、熱に浮かされたように私の名を呼ぶリュイには届かなかった。涙が溢れてくる。執拗に繰り返される口付けの所為で呼吸が満足に出来ず、続く懇願も途切れ途切れなものでしかなかった。

 「やめて………!リュ………やめて」

 私を守ると言った。

 信じていた。

 兄のように慕っていた。


 リュイの指が私を蹂躙する。夫にも触れられた事の無い部分をさまよう無遠慮なその動きに、恐怖よりも、嫌悪感がまさった。

 「ヴァイス様!!助けて―――」

 嗚咽交じりではあっても、まともな声量で叫びが出た。びくり。リュイの動きが強張る。その時、感じた事の無い痛みが走った。

 「痛っ………!」

 「え」

 リュイが驚いた顔をして、私を見た。「………姫様?」



 「―――何を、している」

 地の底から響くような声がした。

 弾かれるように身を起こし振り返ったリュイの顔に、一瞬のうちに閃光が振り下ろされた。 

 赤い、飛沫しぶきが舞う。

 「私の妻に、何をしている―――と訊いたのですよ」


 そこに立っていたのは、ヴァイス王子だった。

 否、ヴァイス王子………のはずだった。

 見慣れた優しげな微笑は面影すらも無い。

 別人かと思う程、冷ややかな表情。

 鮮血が滴る剣を片手に下げ、鬼気漂うその姿は、見知らぬ他人のようだった。

 酷薄な光を湛えた琥珀の瞳が、悲鳴を上げて床に転がるリュイを冷厳と見下ろしていた。


 「答える口は無いようですね。………死にますか?」

 脅しでもなんでもなく、本気の言葉だと分かった。

 「………ヴァイス様!」

 私は、ヴァイス王子に縋り付いた。

 王子の纏う殺気が、氷柱つららが氷解するように、解けていくのを感じた。労わる様に抱き返してくれる腕の中に囲われると、安堵のあまり、体中の力が抜けていくようだった。


 ああ、やはり、私の王子。

 助けに来てくれた。

 私の白の王子だ、と思った。


 彼は涙に濡れた私の頬を優しい手つきで拭い、乱れた衣服を整えてくれ、それから私の額にそっと口付けを落とした。

 「………済みません。怖い思いをさせましたね。でも大丈夫です、ロザヴィー。すぐにこの下種を掃滅しますから」

 いつも通りの優しい笑み。

 しかし、その瞳の奥底には狂気が見え隠れしていた。


 「ヴァイス様………」

 言葉が出てこなかった。

 怖かった。嫌だった。心底助けを願った。

 でも、それでも、相手はリュイなのだ。


 「この男は、貴女を穢した……………清らかな、穢れの無い、私の薔薇を。―――万死に値します」

 「く……っ………姫は、まだ貴様のものではないだろう!」

 リュイが、出血の止まらない左目を押さえながら立ち上がる。彼は、額から目を通って顎まで、顔の左半分を縦に斬り裂かれていた。

 「それがなんだというのです。自らの唾棄すべき行為を正当化できるつもりですか。この私が、慈しんでいるものに手を出されて、黙って引き下がるとでも?」

 ヴァイス王子が合図をすると、扉の向こうから数人の男達が入ってきた。彼らはあっという間にリュイを拘束し、

 「この男を地下牢へ!」

 ヴァイス王子の指示で、室外に引き摺り出す。リュイは抵抗もせず、唯々諾々と従った。王子は血に汚れたリュイの金髪を鷲掴み、耳元に唇を寄せると、優しいとさえ言える声音で囁いた。

 「―――お前は、苦しめて苦しめて殺してやる。死が、慈悲だと感じる程に」



 ―――貴女だけは、そのまま。

 どうか、綺麗なままで。


 いつか、ヴァイス王子に囁かれた睦言が、私の耳の中に蘇った。




 「………さて、姫」

 男達と共にリュイがいなくなると、おもむろにヴァイス王子が振り返った。

 蠱惑の美貌、優しげな微笑。蕩けそうな甘い眼差しが私を見つめる。


 「貴女を、もっと頑丈な鳥籠に移さなくてはなりませんね」


 

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