回想(2) 無垢
中畑胡桃は見つからなかった。僕が探しても見つからなかったし、無垢と千穂に手伝ってもらっても見つからなかった。
その後は、やっぱりみんなで探すしかなかった。人をたくさん呼んで、警察の人も呼んで、たくさんの人で探すしかなかった。
それでも、見つからなかった。中畑胡桃は、とうとう見つからなかった。
加えて、その翌日は別の女の子がいなくなった。みんなで探したけど、やっぱり見つからなかった。
そうやって、一日にひとりの女の子が消えた。
「なんかこっちに、くるみちゃんがいる気がする」
「え?」
そんなことを無垢が呟いたのは、日曜日のことだった。僕と無垢は公園にいて、一緒に鉄棒をして遊んでいた。
というかまず、ふたりでできる遊びが鉄棒しかなかった。他の遊具は朽ち果てて原型を留めてなかったし、かくれんぼは、できないよな。
身軽な無垢は器用に、地面からの高さが一番高い鉄棒に腰掛けていた。一方の僕は、一番下の鉄棒に掴まってブラブラしていた。
「こっちだよ」
無垢は鉄棒から飛び降りて、てくてくと歩いていく。公園の奥、森の中へ。
「あ、待ってよ!」
僕も当然、後を追いかけた。無垢は僕が追いついていることを確認せずに、どんどん森の奥へ入っていく。
森にはけもの道すらない。道なんて呼べるものが無かった。それでも、無垢は迷い無く進んでいく。まるで行くべき所が分かっているかのように、進んだ。
僕は無垢を見失わないように、必死についていった。後ろを振り返ると、もう自分たちが入ってきた所が分からなくなってしまっていた。周囲を三百六十度、森に囲まれた。
春の暖かな気温も、激しい運動をする僕たちには暑く感じられた。すぐに、額に大粒の汗が浮かんだ。汗は、動きに合わせて額から滑り落ち、僕の顎を伝った。暑いのは無垢も同じなのか、前を進む無垢は時折腕で額を拭った。
何があるんだ? 無垢はひたすら、森の奥へと進む。徐々に太陽の光が入らなくなってきて、辺りが暗くなる。まるで夕方のような暗さに、僕は思わず身震いした。どこか、入り込んではいけないところに入り込んでしまったようで怖かった。
ふと、風が僕たちを通り抜けた。微かながらも心地の良い向かい風だった。木々がざわめき、不気味だった森に音楽が生まれる。音は僕の中から恐怖を引きずり落してくれたようで、楽しげだった。
それに風は、汗を乾かした。体から暑いものが取り除かれて、少し気分が落ち着いた。
「……あれ?」
でも何故か、風には臭いが含まれていた。錆びた鉄のような臭い。さっきまで遊んでいた鉄棒からするような臭いだった。
でも、もう鉄棒とはだいぶ離れたはずだ。それに、今の風は向かい風だった。鉄棒の臭いがここまで運ばれたとは、思えなかった。
「こっちこっち」
気づくと、無垢は少し先にいた。そこで立ち止まって、こちらに手招きをしている。宝物でも見つけたように、満面の笑みだった。
「早く」
「わ、分かったよ」
草に足を取られそうになりながら、何とか無垢の傍まで辿り着いた。直後、足が水溜りを踏んづけたけど気にしなかった。
「何を見つけたの?」
「くるみちゃん」
無垢は自慢げに言って、人差し指を見つけたものへ向けた。
「胡桃?」
「うん、くるみちゃん」
無垢が何を言っているのか分からなかった。どうして今になって、胡桃が見つかるのか。無垢の言葉の意味を確かめるために、僕は無垢が指差した方を見る。
「………………あ」
そこには、中畑胡桃がいた。
血まみれだったけど。
「…………ああ」
胡桃だけじゃなかった。今日までにいなくなっていた女の子が、全員いた。
血まみれで、徹底的に死んでいた。
「ああああ…………」
僕は思わず、一歩下がった。そして、さっき踏んづけた水溜りが血溜まりであることにも気がついた。
「…………なんで、なんで?」
「なんでここで倒れてるのかな?」
無垢が僕の言葉を引き継いだが、彼女の口から出たのはまるっきり見当違いの言葉だった。




