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〜第6章・翌日(昼)〜

 1時限目の数学は巧みな話術で先生からヒントをたくさんもらって無事に問題を解き終えることができた。

 しかしその後もなぜか全ての授業で指名されるという不幸に見舞われたがどうにかこうにか乗り切った。4時限目が終わるころには疲労しきっていて昼休みを告げるチャイムが天使の福音に聞こえたくらいだ。

「…やっと飯だ」

 いつもならテンションぶっちぎりの状態で叫ぶこの台詞にも今日は力が入らない。

「大変だったねぇ。今日おみくじ引いたら間違いなく『大凶』だね」

 さんざん不幸を味わった俺としてはちっとも笑えない冗談を言いながらM氏は弁当の用意をする。

「今日一日だけでこの不幸が終わることを祈ってるよ」

「佐々木はこの程度の不幸ならプラマイ0だろ?」

 クロは隣の列のやつからイスを拝借してくる。配置としてはM氏と俺が机を向かい合わせにして、その横にクロがくるような感じだ。

 授業で限界まで疲労していた俺はクロの一言にまっこうから挑む。

「まぁそうかもな。つか全然幸せのほうが勝ってるよ」

「いやいや今までのなんてきっと序の口だよ。覚悟しといたほうがいんじゃないかな」

 いつものように話の流れがつかめないM氏はキョトンとしている。

「なんの話?佐々木君いいことあったの??」

「あー、とりあえず飯にしようよ。その件については後でゆっくり話すから」

とりあえず飯を食う3人



「で、さっきの続きは」

 切り出したのはクロ。ホントに飯を食ってすぐ、ちゅうかまだ俺の口の中には最後に食った唐揚げが残ってる。

「ほひふへひょ、ふぇっはひははぁ」―――訳:落ち着けよ、せっかちだなぁ

「口の中に物入れてるときは喋っちゃダメだよ」

 M氏の天然っぷり爆発のツッコミを聞きながら唐揚げを飲み込む。

「ふぅ…とりあえず場所かえよぜ」

 弁当箱を片付けながら俺は言った。

「ここじゃダメなの?」とM氏

「ま、一応な」

 教室を見回す。昼飯を食い終わってめいめいが思い思いの昼休みを過ごしている。誰に聞かれるかわからない状況ではあまりよろしくない。

「そろそろ屋上も空くころだろ」

 クロの提案を採用し俺たち3人は屋上へと向かう。

 C組の教室の前を通るときちょうど加奈が出てくる。一緒にいるのは木下だ・・・こいつら仲よかったんか?

「お、Mくん!どうしたの??」すかさず木下が声をかけてくる

「ん?ちょっとね、佐々木君がいいことあったらしいから。その話を聞きに屋上に」

 おいおい、状況考えてくれぃ…つってもM氏はなんの事情も知らないのだからしょうがない。誰を責めるわけにもいかない

 M氏の発言に女子2人は何を考えているかわかり易いリアクションをした。当事者として自覚があるのだろう、加奈は赤くなって俯いた。そして木下はというと・・・あからさまに何かを企んでいる笑みを浮かべた

「へ〜、興味ある。うちも聞きたいなぁ・・・ね、加奈も興味あるでしょ?」・・・やっぱり

「でもほら、男子だけでしか話せないようなことかもしれないじゃない。邪魔しちゃ悪いよ」

 ナイス加奈!俺は心の中でガッツポーズする

「んなことないよ」

 思わぬとこに伏兵が。一番気まずいだろうと思っていたクロが…なぜ???

「さ、時間なくなるから早く行こうぜ」

 状況の変化についていけない俺をほったらかしでクロが屋上へ向かう。

「わーい♪」

 木下大喜び、加奈赤面、M氏傍観、俺・・・ド焦り



 屋上には何人かの人がいたがうちの高校の屋上はそれなりに広いので場所は十分あった。

 できるだけ人口密度の薄いほうの隅につくと木下が口を開く。

「で、なにがあったのぉ?」いつのまにか主導権を握っている

 俺は全員の顔を見るフリをして加奈の様子を確認する。なかなか複雑な表情だ。

「まぁ、なんだ。そのぉ・・・」

 やっぱり言いづらい・・・秘密にしようとか加奈と決めたわけでもないが、付き合った次の日に他人に報告ってのを加奈はどう思うだろうか。

「なんだよ、言うなら言うではっきりしろよ」

 クロと木下が「ざまぁみろ」と言わんばかりのニヤケ顔で囃し立ててくる。・・・覚悟を決めるか。

「え〜、わたくし佐々木ホニャララと、なぜか、偶然にも、こちらにおりますナンチャラ加奈さんは…昨日よりお付き合いさせていただくことになりましたことを、ここに宣言します」

 声高らか、というわけにもいかなかったが、はっきりと言い切った。途中言葉遣いがおかしかったり選手宣誓みたいになったりは御愛嬌だ。

 一仕事終えた感じで余韻にひたりつつも周りの反応を確認する。なんだかんだで俺は小心者なのだ。

 加奈は耳どころか首まで真っ赤にしてもじもじし、M氏は「おめでとー」と祝福の言葉を。ここまでは予想通りなのだが問題は残りの2人、クロと木下だ。2人で顔を合わせて…頷きあって・・・笑って・・・こちらを向く。なんだよ、怖いよお前ら

「プロポーズの言葉は?」「お2人はどこまでの関係なんですか?」「お互いのことはなんて読んでるんですか?」「どこが好きなんですか?」

 木下はメモ帳を持っているフリをしながら質問責め、クロはカメラを構えているフリをしてカシャカシャ言ってる。

 …芸能人の結婚記者会見かよ……冷やかしもここまでくると清々しい。

 俺の思考回路はけっこうお笑い思考だ。よってここで照れたり怒ったりしたら負けだ・・・

「すいません、彼女がテンパってるんで質問はひとつずつお願いします」

 極上の作り笑いをしながら加奈の肩を抱き寄せる。実際にテンパっていた加奈は「わわっ」と驚いている。

 まさか俺がノッてくるとは思わなかったのだろう。取材陣(クロ&木下)は対応に困っている。

「んじゃ2人の馴れ初めを教えて」

 と、今まで干渉してこなかったM氏が質問してくる。こいついつもこんなんだな・・・

「馴れ初めかぁ…馴れ初めって出会い?付き合ったとき?」馴れ初めという単語が詳しくわからない

「細かいことはとりあえず今度ってことで、付き合ったきっかけってことで」

 なるほど、初めからそう言ってくれよ。きっかけとなると…俺が告られたわけだが、俺が言うのもはずいな。とりあえず加奈の様子を確認する。

 と、いつのまにか混乱状態から復帰した加奈と目が合う。加奈も同じことを考えていたのだろう。向こうが意味ありげに頷いたので加奈に任せることにした。

「昨日、わたしから佐々木に告ったの。で恥ずかしながらその場は逃げちゃいました」その時のことを思い出したのだろう、照れ笑いを浮かべる

「それでそれで?」

 記者(木下)が架空のメモ帳の上にペンをはしらせる。

「このままじゃよくないと思って夜にメールで呼び出して、もう一度しっかりと気持ちを伝えました」

 記者会見ごっこの雰囲気なのか、加奈が心なしか敬語なのが面白い。せっかく和やかになってきたので茶化してみる。

「う〜ん、75点。一部嘘が含まれてるなぁ」

 俺は横から口を出す。

「告ったっていやぁ聞こえはいいけど実際は言いたいこと言ってすたこら逃げたし」

「えっ、そうなの?ダメじゃん」

 木下が驚き半分、呆れ半分の表情を浮かべる。

「ちょ、別にみんなにばらさなくたっていいじゃん!」

 焦りまくる加奈。俺の横腹を攻撃してくる。いくら運動部に所属していても女子、あまり威力はない。が、グーで殴る(いい感じのレバーブロー)ってのはいいかがなものだろうか・・・

「おいおい、そのリアクションは肯定ととられるぞ?」

 念のため忠告してみる。

「あっ、嘘!?ちょ、違うからね」

 言われて気づいたらしい

「ふ〜ん、そうだったんだ。へ〜」クロが一言

「そっかぁ、いつも元気な加奈さんもそういう時は一人の乙女なんだねぇ」とM氏

「お、Mくんいいこと言った♪加奈も可愛いもんだ、うんうん」これは木下だ

 みんなして加奈の怒りに油を注いでいく。このままではまずそうなので俺なりにフォローをば…

「ま、そこらへんにするさ。あまり俺の彼女をいじめないでくれよ」

 朗らかに笑いながら言う。我ながらナイスフォローだ。

 なんて思っていると加奈の顔がみるみるうちに赤くなって…


 ぼふっ


 ・・・俺の腹に激痛がはしる。へ???

 加奈はぷいっと顔をそむけると屋内へ続く扉のもとへと走る。

「あちゃ〜、やりすぎたっぽいね」

 木下も加奈を追う。残されたのはいつもの男3人。

「見事な右ストレートだったな」感心した様子でクロが言う

 なるほどこの痛みの原因は加奈の右ストレートってことか。しかもこの痛さの感じは鳩尾にはいったらしい。

「…いいもん、もってんじゃん。…ぐふっ」

 どこかで聞いたことのあるような最期の一言を残し俺は膝から崩れる。こうして我が高校の屋上で開催された記者会見は幕を閉じた。

 


 最期の言葉とか言いつつ、この後俺はしっかり自分の足で教室に戻り午後の授業を受けた。

 とりあえず加奈にメールをしたものの返ってくるのは素っ気ない返事ばかり。授業を受けながらも『なにがいけなかったんだ?』なんてマジに考えている。

 俺って・・・鈍感???


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