〜第5章・翌日(朝)〜
入学してから初めての雨。
カッパを着てチャリってのもありだけど今日はバスで登校することにした。同じ考えのやつは多いらしくバスは同じ制服を着た同年代の男女でひしめきあっている。俺の隣には加奈がいる。
「混んでるな」
「うん………」
さっきからずっとこんなんだ。バスのなかで俺を見つけた加奈は俺の隣まできて俺に声をかけた。しかしそこから会話を切り出すわけでもなく、俺から話をふってもさっきのようにことごとく切り捨てるのだ。
「そんな照れるなら声かけるなよぉ…」思わずつぶやく
どうやら加奈には聞こえなかったらしい。俺だって恋愛経験が豊富なわけではないし、正直かなり照れてます。
人のはなつ熱気にいい加減イライラしてきたころ俺らの高校の最寄のバス停に到着した。
先に降りた俺はなんの気なしに傘を加奈の上にかかげてやった。俺としてはバスから降りた後に傘を差したほうがバス停が混雑しないと思っての行動だったのだが…
「ありがと」そう言って加奈は俺の傘に入って、寄り添ってきた
なるほど、たしかにそう解釈するのが普通だ。俺が…相合い傘しようとした、と。
「………」
ヤバいくらいに恥ずかしい。実際、かなりの量の視線を背中に感じる…追い抜くときに振り返って傘の中を覗き込んで行くやつすらいた。確かに入学して、四月中に付き合いはじめるってのは珍しいか。
だがしかし、そのくらいでめげる俺ではない。なんてったって隣にいるこの女子はクラスメイトや部活の仲間と話してるとよく名前が出る。学年一とは言えないが十本の指には入るであろう人気だ。その人気者が俺の彼女なんだ!気分がいいからもっかい言うが、俺の彼女なんだ(しかも現在相合い傘中)!
とまぁ俺が脳内幸せ自慢を繰り広げられている隣でその噂の彼女とやらは何をしていたかというと、熱気ムンムンのバスから降りて頭が冷えたのかはたまた俺同様脳内会議でもしていて結論がでたのか、普段の調子を取り戻し表情が戻っていた。
「元気んなったけ?」
「うん、もう大丈夫。うじうじしてるのなんかわたしらしくないよね」
笑顔で俺を見上げてくる。俺はこういう笑顔がたまらなく好きだ。
「おう、やっぱ加奈は笑顔でいたほうが可愛いよ」
半ば反射的に言ってしまった。今日二度目だ、昨日浮かれすぎて口のネジが外れたか…
「ちょ、なに言ってんのさ」やはり赤面してしまった
「悪ぃ…」
傍から見たらこういう初々しさがムカつくんだろう。俺も自分の目の前にこんなやつらがいたら思わず殺意を抱いてしまう。男が知ってるやつなら後ろからドロップキックくらいかますかもしれない。
人の幸せを妬む通り魔はいなかったらしく俺たちは無事に学校に着いた。玄関で加奈が友達に会ったのでそこで別れそれぞれの教室へ向かう。去り際に振り向いた加奈の口が「あとでメールする」と動くのが確認できた。俺ってば幸せすぎて死ぬんじゃなかろうか…
教室の前まで来て立ち止まる。クロにはどんな顔をして会えばいいんだろう…ちゃんと報告するべきなのか。
悩む俺に誰かが後ろから声をかけた
「おはよ。なにやってんの?」M氏が不思議そうな顔でこちらを見ている
「おっす、別に何でもねーよ」
どうにか笑って誤魔化しながら扉を開ける。
まず視界にはいったのは、丸くて顔より少し多きいくらいで青・黄・白の…バレーボールだった。
「はぐっ」
もちろん顔面直撃。そりゃそうだ、気づいたときには視界いっぱいにバレーボールがあったのだからよけれたら俺はボクシングでも始めるだろう。
「…大丈夫?」M氏が心配して覗き込む
「大丈夫なわきゃないだろ…なにすんだよっ!!」
俺は犯人を探すがだいたいわかっていた。そいつは俺の席に座りニヤニヤと笑っていた。
「おいこら、どういうつもりだ。納得いく理由を原稿用紙3枚分でのべろ」
俺は犯人、もといクロににじり寄る。
「宿題聞こうと思ってたのに、来んのがおせぇんだもん」…原稿用紙一行分くらいか
どう話し出すかをさんざん迷っていた身としてはなんであれきっかけができてよかった。まぁバレーボールを顔面にくらうくらいは認めよう。
それにしても理由でっちあげるのに宿題ってありきたりだなぁ。宿題はないだろ宿だ…い??
「…宿題って、なんの?」
念のため確認する。冗談であることを祈る俺にM氏が無情な言葉を放つ。
「1時限目の数学、方程式の練習問題をみっつやってこいってやつ」
………………
「マジンガー?」
「Z??」キョトンとした顔でM氏がノってくる
「どうしよ、やってない…」
昨日の夜は勉強どころではなかったのです。頭んなか真っ白だったし。
クロがニヤッと笑う。
「俺はもう写させてもらったよ。20分くらいかかるから今からじゃ無理だね」
嬉しそうに言いやがって…。くそぉ、こおいうオチかよ…
「こうなったら授業で当たらないことを祈るしかないな…」
浮かれ過ぎはよくないと悟った15歳の俺…