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〜第17章・責任重大な十代の若者〜


 本日最高気温は30℃を超えるらしい。そんな暑い日の午後――

「暑い…と、溶ける…」

 まだ部活が始まってすらないのに俺は汗だく。ネットを張るために支柱を運ばにゃならんのだが、これがまた重いのなんのって。

「体育館内は風吹かない限り蒸し風呂状態だもんねぇ」

 そう言いながらM氏は部室から持ってきたネットをほどいている。

 はっ!こいつ、汗かいてねぇ…M氏、侮りがたし。

「支柱もねー、こんなボロボロなんだしー、カーボンだかのー軽いやつにしてくんねーかねー」

 さて新キャラ。この間延びした声の持ち主は同じバレー部1年の酒井。身長182cmでダントツの次期エース候補だ。

「なぁ酒井よ。そのぐでーっとした喋り方なんとかなんねぇの?暑さに拍車がかかる」

「えー、それは八つ当たりってもんじゃーないのー?」

 まぁ確かに、あまりの暑さになんでもいいから苛立ちをぶつけたい気分ではあるが…

「まぁまぁ佐々木君、落ち着こうよ。苛立つと余計暑く感じるよ」

 M氏に諭されてしまった。って、いつものことか…

 ぶつくさ言ったところで今が夏である以上はこの暑さはどうにもならないわけで。人生16年以上やってきてるからそんくらいのことは学習している。うん、俺って大人

「こっちはいーよー。佐々木ー、引っ張ってー」

 酒井の間延びした声で思考から現実に戻ってくる。なんか必要以上に悔しい…

 が、怒りはネットにぶつける。怒りを力に変換しネットをきつく張る。そう、暑さへのどうしようもない苛立ちだろうがなんだろうがボールなりなんなり、八つ当たりしても大丈夫なものに力としてぶつければ問題なっしんぐ。

「なっしんぐは古いよなぁ…」思わず苦笑

「うん、確かにこの支柱はもう古いよね。錆だらけだし」

「へ?支柱」

 振り向くとそこにはM氏。声に出てたか…はずっ

「あ、先輩だ。こんちゃーっす」

 体育館に先輩が入ってくる。新部長の鈴木先輩、ポジションはセンター。

「あちゃー、もうネット張っちゃったか」

 コートの真ん中に張られてるネットを見て額をペチッとする先輩。鈴木先輩はこういうわざとらしい動作がけっこう好きらしい。

「え、なんかまずかったっすか?」

「いやな、今日は高さを220にして欲しかったんだわ」

 220ってーと、女子の高さだな。なんかあんのかな?

「うちも女子も世代交代しただろ?だからこれを機に体育館の使用日を決めなおそうかと思ってな。実戦経験を積むいいチャンスになるし試合形式で―――勝ったほうが使用権を得る。ってな感じで月火水木金の5日分だから、5セット勝負」

「なるほど、だからネットの高さを女子に合わせるんすね」

「でもー、いくらうちのガッコはー女バレが強いからってー男子と女子じゃー実力差ありすぎじゃーないですかー?」

 酒井の言うとおりだな。女子のネットに合わせれば女子はいつも通りプレイできるだろうけど、その分こっちはネットが低いから楽だし…

「そ。それじゃ意味がないしつまらない。だから両チーム1年同士が試合をする」


「「「えーーー!!」」」 


 あまりにびっくりしてしまって酒井が自分のキャラを無視して普通に叫んでいるではないか!

「せ、先輩?それはいくらなんでも急なんじゃないでしょうか?」

 俺も思わずいつも以上に丁寧な敬語になってしまってるようだ。

「ん?急なこたぁないさ。1年が試合するってのは3,4日前には女バレの部長と決めてたからな」

 うーん、初耳。

「でも鈴木先輩はそれを僕らに言ってないですよね?」

「…まぁ、確かにそんな気はするな」

 あはは、と陽気に笑う鈴木先輩。

「あのー、それをー僕らに言わなきゃー意味ないんじゃないですかー?」

 お、酒井はいつの間にか落ち着きを取り戻したらしい。

 と、そこで体育館に男には出すことのできない甲高い声が響いた。どうやら女子が来たらしい。

「ま、今更なにを言ったところでどうしようもないんだ。女子も来たことだし、さっさとアップしろ」

「…うぃす」「はい」「わかりましたー」

 先輩の言うとおり、もう試合をするしか道はないのだ。覚悟を決めよう…

 女子もアップをするのでコートの半分を使ってアップをする。俺らがランニング、ストレッチ、ダッシュと順調にアップを進める中、着々とチームメイトが集まってくる。エース対角の山村、ライトアタッカー岡本、センターが高橋と天野。

 体育館に入ってから全員がだいたい同じようなリアクションをとる。体育会系の部活では珍しくなく大声で挨拶をして体育館にはいってくる。まず女子がいることに疑問を抱きながら奥に来る。(しかしついつい女子に目が行ってしまう悲しい男子高校生の性。)珍しくコートの隅でアップをする先輩に事情を聞く。驚くor焦る。

「おい、佐々木どうすんだよ?」

 すでにキャッチボールに入ってる俺のそばに来て天野が尋ねる。

「どうするもこうするも…幸いにも各ポジションに経験者を入れられるし、どうにかなるだろ」

 言いながら俺はネットの向こうに目をやる。加奈も千夏も、他の女バレの1年も落ち着いてアップをしている。どうやら向こうはちゃんと事前に連絡されていたらしい。…ま、それが普通か

「アップ済んだら半面で動きの確認だけしよっか」

 ボールを持ったM氏が俺の後ろに立っていた。中学から一緒だったM氏の実力は分かっている。コイツがリベロに入ればレシーブは心配ないだろう。あとは俺があげて、打つ奴がいればどうにかなるか…。

「注意すんのは…女子特有の粘り強さと、千夏の高さだな」

 部活を時間交代でやってるからたまに女子の練習を見ることがあるが、男子と比べても長身の千夏が放つスパイクは県内でもレベルの高いうちの女バレの中でも目立っている。

 その他、敵にも味方にも懸念材料が多すぎる。

「ま、せっかくだし、勉強させてもらうか」


 公式ではないが、これが俺の高校デビュー戦ってことになる

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