〜番外編・クロ〜
「彼女欲しいなぁ」などと思う今日このごろ。はじめまして(?)クロです。今回は番外編ということで、本編から遡ること数日の僕の思い出を・・・
正直、一目惚れだったんだ。入学式ってクラスごとに縦に並ぶでしょ?彼女は僕の二つ横の列で、少し前に座っていた。僕はA組だから彼女はC組だとわかった。
激しく胸が高鳴った。これが恋というやつなのだろう・・・どうやらいままで僕が恋だと思っていたのは思い込みにすぎなかったらしい。
入学式は終わり割り当てられた教室へと向かう。僕のクラスはA組。クラスには同じ中学だったやつもちらほら・・・部活が同じだったやつもいる。というか部活の中でも仲の良かったやつだ、名を佐々木という。
「よう、1年よろしくな」
とりあえず先生がくるまで暇なので声をかける。僕が『ク』、やつは『サ』なので席は近い。
「ん?おぉ、クロじゃん。同じクラスだったんだ」
「おいおい、知らなかったのかよ」呆れた・・・
こいつはなんというか飄々としたやつで、つかみどころのない性格だ。しかし会話は面白いし真剣な時はそれなりに頼りになる、いい奴だ。と言っておく・・・
「いやぁ、すっかり緊張しちまってよ」
あはは、と笑う顔に緊張は見られない。
「M氏もいるよ」
きっと知らないだろうと思い補足説明をしてやる。
「そりゃまた偶然だな。どこだ?」
と言い佐々木は教室を見回す。『マ』だから席は教室の隅。
こいつはまぁ簡単に言って、天然だ。どこか『世間知らずのお坊ちゃん』って雰囲気がある。ちなみに頭がいい。
「ほら、あそこ」M氏の席を指差す
「お、いたいた。なんだ、けっこう知ってるやついるもんだな」
その後も雑談を続けたが先生が来たのでそこで話しは途切れる
「うっしゃ、今日からよろしくな」
と佐々木が言う。今は放課後、というか今日は入学式なので午前で終わり。場所は教室、いるのは僕、佐々木、M氏、他数人。
「うん、よろしくね」「よろ」
僕とM氏は思い思いの返事をする。
「で、2人は部活どうするさ?」と佐々木が聞いてくる
たぶん珍しい(と思う)がうちの高校は入学直後から部活に入部できる。
佐々木が続けて言う。
「俺はもちバレーやるけどよ」
「僕は少し見学しようかと思ってる」と答えるのはM氏
「クロは?」
「ん…俺はラグビーでもしようかなぁ、なんて」
「「へ????」」2人が声をそろえる
これは春休み前から思っていたことだ。せっかく高校に入ったのだから新しいことをしようかと
「なんで?バレーは??」
同じ部活でバレーをやっていた佐々木としては気になるらしい。
「まぁ、中学で十分楽しんだから」笑いながら言う
これは嘘。ホントは・・・自分の限界に気づいちゃったってとこ。佐々木はセッターで僕はライトだった。ポジションは違うけど僕らの才能の差は歴然としていた。そもそもがっちりしていて明らかに重そうな僕の身体にバレーは不向きだったんだ・・・
なんてこんなこと言えるわけがない。ラグビーに興味があるのはホントだからあながち嘘じゃないし。
「そっか、でもクロならラグビーもすぐ上手くなるだろうな」
「そうかなぁ・・・」あまり自信はないんだけど
「だってお前、努力家じゃん」
「そぉか?」
「うん、そうだね」
M氏も同意するってことは世間の僕に対する評価は『努力家』らしい。
「今日はどうするの?みんな部活行く?」とM氏の質問
「さすがに入学初日から部活行く気にゃならんて」
という佐々木の発言に首を縦に振って同意する。
「んじゃ寄り道しながら帰りますか」
3人でぞろぞろと玄関へ向かう。
玄関は体に馴染んでいない制服に身を包んだ生徒がたくさんいた。その中に入学式で見たあの子がいた。C組の下駄箱には見慣れた顔の奴がいる。同じ中学で何度か話をしたこともあるやつだ。ちょうどいい…
「おぉ、○○じゃん。そういやお前もココだったな」
なにげない感じで話しかけてみる。もちろん特に用はない。近づいて彼女の使った下駄箱をチラ見・・・名前を確認する。
(加奈さん、かぁ)
心の中で名前を呼ぶ。もしかするとかなり重度な恋の病なのではないだろうか・・・
「んじゃまた」
用は済んだので会話はしてないが佐々木たちのもとへ戻る。かなり挙動不審だろうが『恋は盲目』ってやつだ
数日後、彼女が女子バレー部だと知り既にラグビー部に入っていた僕は後悔する。高校に入ってますます仲良くなった佐々木が加奈さんと知り合いになったことを知り影ながら感謝した。彼女が一部男子の間で評判がいいことを耳にして少し焦る。
そして、思い切って佐々木に相談することを決意。このころには既に結果が決まっていたことに気付いたのは、そんな後のことではない・・・