〜序章〜
「はい、お届けもん」
いきなり背後から声をかけられたM氏はびっくりして振り向いた。
(M氏とは決してイニシャルトークではなく、それがこいつのあだ名だからだ。本名は松本ナントカ。松本のMをとってM氏。断じてこいつが被虐愛好者だからではないのであしからず)「ったくよぉ、なんだって俺がこんなことしなきゃなんねぇさ」
自分の行動をぼやきつつも頼まれたもん(彼女からのラブレター)をしっかり渡す。
(ちなみに俺は郵便屋さんでもなければ恋のキューピッドでもない。佐々木ホニャララ、15歳。つい先日高校の入学式を終えたばかりだ。)
「ごめんね、いつも」
俺の羨望半分、皮肉半分の発言に律儀に礼を言うM氏。こういう真面目なやつなんだよ、こいつは。
「いいけどよ、早くそれ読みに行こうぜ」
「あ、うん」
返事をしてM氏は席から立った。
とまぁ二人して男子便所の個室に入って手紙を読んでるわけだが、無論俺がM氏に届けたラブレターはM氏に宛てたものであり俺が読むものではない。
そんな一般常識は俺もわかっているのだ。ではなぜ読むかというと、M氏が許可したからである。というか、M氏は俺が冗談半分で言ったことを真に受けてしまい『ラブレターを届けてやる代わりに手紙を読ませる』ことにしたのだ。もちろん木下には秘密で。
(ここで初めて出る名前があるわけだが、だいたいの人は察したであろう。木下○○、ラブレターの送り主でありM氏の彼女である。)
なんだか俺が悪い気がしてくるが気にしていたら世の中やっていけない。
まずM氏が読んで、さしつかえなければ次に俺が読む。内容はだいたい放課後どうしましょ、とかこの前は楽しかったね、とかまぁそんなもんである。
「毎度毎度こんなこと手紙に書くなら携帯買えよ。木下は持ってるんだろ?」
「うん。そうなんだけど…今んとこなくても困ってないし、いいかなぁって」
そう、今のところ困るのは毎度配達している俺くらいのものだ。意外にも友達想いな俺は文句を言わないが…あぁ優しいな、俺。