第十八話 水面と高くそびえる山。 -渚視点ー
「ねー渚!?」
「……。」
「ねーってば!!」
「わっ!……びっくりした~!」
話しかけられていることに全く気が付かなかったよ…。
「びっくりした、じゃないよ~」
「ごめんね雪乃」
雪乃、三浦雪乃がむーって感じの顔でこちらを見る。
「別にいいけどさー。それで、部活はどうする?」
入学式の今日、先生から仮入部の用紙が配られた。尋音はどうしたんだろう。クラス違くなっちゃったからすぐに聞くこともできないよ…。
ちなみに私のクラスには誠司くんがいて、あと雪乃がいて、あまり話したことないけど去年の大会で尋音が負けたーって言ってた修也くん(だったっけ?)がいる。
「ねぇ渚!?」
「わ!っとっと」
思わず椅子から落ちそうになっちゃった。ホントどんくさいなぁ私って。
「もう!二回目だよー?大丈夫?」
「ごめんごめん、もうホントに大丈夫だから。」
「次同じことあったら今度こそユッキーって呼んでもらうことにするからね!」
「う、うん」
「それで?どうするの?」
「あ、えーと…まだ決めてないんだよね…。」
「そうなの?じゃあちょうどいいや!一緒にバレー部入らない?」
「バレー部?それってボール使う方の?」
「もちろん!第一、私みたいに・・・」
「おチビちゃんにはきれいに回ったりできないだろってか?」
「そーそー……って誰がチビじゃアホゆうちゃん!」
いきなり現れてスムーズに雪乃をからかう雄星くん。やっぱり何気にこの二人ってお似合いなのかも。夫婦漫才って感じかな。
「っていうか!ゆうちゃんクラス違うじゃん!」
「いやーちょっと仲間を探しててさ」
「仲間?」
「よく聞いてくれました渚ちゃん!そう、仲間とは!苦楽を共にし、苦しいときは共に支えあい、嬉しいときには共に喜び合い……ワンフォアオール、オールフォアワンの精神の仲間さ!…だがそんな仲間同士、いくら強い絆があったとしても時には裏切りものが出てしまうこともなきにしもあらず…。」
「裏切りって?」
「渚、聞いてもしょうがないよ…。」
少し呆れ気味に雪乃が言う。そして雄星くんが待ってましたといわんばかりに話を続ける。
「そう、辛く、せつなく、悲しい裏切り…。それは・・・」
「それは・・・?」
少しの緊張感が漂う。
「それは…彼女をつくることだ。」
「そ、そんな・・・ってえぇ?」
「そう!俺たちモテない人々にとって・・・!」
呆れた。その言葉がぴったりだと思う。さっきの雪乃の反応の意味がよーくわかった。
「ね?」
「うん…。それで、なんでいきなりバレー?」
「ふっふっふーそれはだね渚君」
雪乃がバックの中から秘密道具でも出すかのように雑誌を取り出す。
「じゃーん!週刊誌ー!」
「うん。見ればわかる、けど?」
「もーそうじゃなくて」
雪乃がページをめくる。
「・・・お、あったあった。ほらこれ」
雪乃が指さした記事を見る。
これは・・・。
そこには(天才リベロ!!現役大学生!身長はなんと160cm未満!)
とある。
「ね!?かっこいいでしょ!?」
やっぱり見事に影響されちゃってるね・・・。
「うーんそう?」
「そうだよ!それにこの人身長小さいのにこんなに活躍してるんだよ!?ってことはうちでもできるかもしれないよ!?」
そう言って雪乃がピョンピョンと飛び跳ねる。それと一緒にツインテールの髪もピョコピョコ動く。美咲が大きくなったらこんな感じなのかなぁ・・・。
「な・ぎ・さ?」
「わーっ!ちゃんと話聞いてる!うん!ゆ、雪乃って身長何センチ?」
「…もー。今は146cm。」
「わー小さいんだね。」
「う、うるさーい!!今は、だもん!あくまで今は!!」
あはは。まぁ女の子って小6くらいに一番伸びるはずなんだけどね。私も小5くらいから伸びはじめて、あと少しで尋音を追い越すってところで尋音の背もまた伸び始めちゃったんだよね。私は今152だから尋音は160くらいあるのかなぁ。
でもこっちは全く成長してない…(涙)。ちらっと雪乃の胸を見る。よしっ雪乃はまだみたい。でも私も中学入ったら大きくなるかなぁって思ってたんだけど・・・。
ふと胸を手で触る。うん。立派な壁です。
「渚ー!」
「あ、月海!」
「もークラス違くなってさびしいのよー!?」
なんかちょっと月海言葉づかい女っぽくなった?ってそれよりも・・・。
月海は私の壁に比べると天と地の差。いや、水面と山、かな。その山も富士山なんてもんじゃなくてエベレスト、ですね。
「ちょっと渚?」
「うわーん月海!なんでこのタイミング??」
「え!?なにが?ちょっと意味が分かんないよ?」
「月海さんよ。あんたには一生わかんない悩みですぜ。」
「ちょっと!雪乃ちゃんまで何言ってんの!?」
さすがに教室で同じ話を続けるのもちょっとあれだから歩きながら話をすることにした。
「・・・だから、裏切り者には死を・・・。ってあれ?渚ちゃんにユッキーは?」
「あーあいつらならさっき帰ったぞ。」
「な、なにぃ!!お、おれの力説が聞き流された…。って君。ところで我が仲間。サッカー部に入らないか!?」
「いやだな。俺はこのまま家でグータラ過ごすんだよ」
「なんだとー!中学校だぞ!青春だぞーーー」
教室を出てすぐそんな会話が聞こえてきたけど、なんだ、雄星くんサッカー部の仲間を探してたんだ。
「あのねぇ・・・。あんまり大きいのもいいことじゃないのよ?」
「「嘘だ!!!」」
雪乃と声がハモる。
「だって肩はこるし運動するときも邪魔だし・・・。」
「そんな嬉しい悲鳴聞きたくないよー!」
「雪乃に同感。」
「なんかあたしだけ仲間外れー」
むっと月海がふくれっ面をする。
でも、しょうがない。雄星君じゃないけど裏切られた気分なんだもん…。
「それで、あたしが話をしたかったのは、部活どうするかってこと。」
「あ、うちはバレー部に入るよ!!」
雪乃がげんきいっぱいに言う。
「渚は?」
「わ、私はまだ考え中…。月海は?」
「私は少しでも誠司と一緒に居たいからテニス部にしよっかなぁって」
「ふーんそっかぁ」
確かにこの学校のコートは男子と女子のテニス部が隣り合う二面のコートを半分ずつ使っている。それなら誠司くんとべったりとまではいかなくても互いにすぐに話しかけられる距離だ。
ん?テニス部?
「ちょっと待って!!ホントにテニス部にするの!?」
「ん?特にほかにやりたいのがないからそうしようかなって。」
「やっぱりダメ!!」
ダメダメダメダメ!!こんな月海がテニス部なんか入ったら、きょ、きょに○うテニス少女・・・ダメ!!そんなことなったら尋音が目を奪われちゃうかもしれない!!
「もーわがままねー。じゃあ渚も入ればいいじゃない。」
「え?わ、私は・・・」
確かに技術面に関しては尋音が褒めてくれたから、自信がないわけじゃないんだけど・・・。でもそれ以前に私は体が・・・。
ってか私が入っても月海がやめないなら意味がないし!
「わた、しはほら!運動音痴だし!」
「とか言ってー。いっつも体育の授業では大活躍じゃん!」
もう!雪乃!嬉しいけど余計だよぉ。
「なんだかよくわかんないけど、渚はとにかくあたしにテニス部に入ってほしくないのね?」
「う、まぁそんなところ、です…。」
月海がはぁーとため息をつく。はい、私のわがままです。すみません。
「なら他にも考えがあるわ。」