第十五話 卒業式。 ー渚視点ー
「ほーたーるのー」
今時律儀にほたるのなんちゃらを卒業式で歌う学校って少ないと思う。
でも私達の学校はその少数派のほう。
国家を歌って、校長先生からお話があって、その後に長く緊張した卒業証書授与。
そしてよくわかんない人のお話。生徒代表から、などなどして順調に卒業式は進む。
そして最後に合唱。
一年生の入学式。ただ叫ぶようにして歌ってたあの時とは違って今はしっかりと綺麗な声になってきている。
成長したんだなぁってそんなとこからも感じる。周りにもそれを思ったのかぐすぐすと声を殺しながらも泣いている人がいる。
もうこのメンバーでは過ごせなくなるんだ。
この学校では過ごせなくなるんだ。
私もすこし泣きそうになってきちゃったよ。
「大きな期待を胸に、今、私たちはこの学校を卒業します!」
あ、尋音の声だ。このあとはみんなで揃えて
「「「「卒業します!」」」」
尋音がシメだった。まぁ立候補じゃなくて推薦、強制的に決められてたけど。
その後惜しみない拍手と共に卒業生は退場していく。感動を残して。
式が終わると教室に戻って最後の授業が始まる。といっても堅苦しいことじゃなくて、担任の先生から話をされて最後の時間を惜しむという感じだ。
ちなみに保護者も参観可能。
「みんなこれから先は歩んで行く道は異なると思います。でもここで学んだことは必ずみなさんの力になっています。だから寂しい、辛いと思うことがあったらいつでもこの学校に帰ってきてください。………まぁ先生がいつまでもここにいるとは限りませんが。」
最後にどっと笑いが起こる。
「では羽ばたいてください未来へ!」
「はい!!」
ちょっとクサイセリフな気がするけど今日は卒業式。なんでもありだ!
「ねぇ渚」
「なに?」
最後の授業も終わっていよいよ帰るだけ、となりみんなが別れを惜しむ中月海が話しかけてきた。
「あたし今日誠司に告ろうと思う!」
「ええ!?」
卒業式の日に!?まぁベタだけど定番でいいの、かな?
「が、頑張って!」
「う、うん、緊張する~!」
「ほら、早くしないと誠司くん帰っちゃう!」
「あ、ちょっと待ってよ~」
いっそ私も尋音に…って思ったけど、やっぱそれは私自身のタイミングにしよう。
外に出ると案の定尋音と誠司くんが話しながら楽しそうにしていた。
「ヒーロト」
「お、渚、…もう卒業だな~」
「って言っても中学同じだけどね」
中学一緒ってだけで安心感があるなぁ。
少なくとも学校では会えるもんね。
「ちょ、ちょっと誠司いい?」
「え、うん」
「なんだ?俺も行くか?」
「尋音はいいの!さ、月海頑張ってね!」
「もう!………あっち行こ」
そう言って月海はあっち、へと歩いていった。月海のセミロングの髪が春風に吹かれて綺麗に揺れていた。
かっこいいね!月海の姉御!私もいつか頑張りますから!
「なんなんだ?」
「もー尋音!察しなよ!」
「って言われても何をだよ?」
「卒業式に、男女が二人、それも月海と誠司だよ!?」
「いつもじゃんか」
「まぁ…でも今日は特別なの!」
「ふぅーん。……ってもしかして告白か!?」
「そうだよ!遅いよ!」
「そっかそっか~。……で、どうなるかな」
「気になるね…」
そうして話すこと五分。月海が戻ってきた。
誠司と手を繋いで。
「ちょ、月海恥ずかしい」
「いいの!えへへ~」
ちょっと展開早すぎませんか?
しょっぱなからラブラブしすぎでしょ!
見てるこっちが恥ずかしいんですけど!
「上手くいったみたいだね…」
「イェイ!」
「誠司おまえ……頑張れ(生きろ!)」
「うん…(大丈夫かなボク)」
とりあえず、私の師匠は成功したんだから、あとは私が頑張るのみ!
「渚ー!」
「あ、お母さん!」
校門のところでお母さんが手を振る。
「みんなで写真とらない?」
「あー。どうする?」
「いいんじゃね?」
「賛成!」
「うん」
満場一致。
校門のところへ行くと来た時も見たけど看板があった。
『祝卒業 第67回卒業証書授与式』
それをバックに撮ることに。
「はーい撮るよー?」
「誠司ー」
「ちょっと!くっつき過ぎ!」
「照れんなよ誠司ー」
「あはは月海やるー」
「いいですかー?」
「「「「はーい」」」」」
「じゃ、4397×6512÷16−1789577は?」
「長っ!」
「「「2」」」
パシャッ!
シャッター音とがなりフラッシュが光る。
そこには驚く尋音と笑顔の渚、さらに笑顔の月海、やや困り顔の誠司が映るーーー。
「だってこういう時は普通答えが2でしょ」
「た、たしかに!…俺バカだなぁ」
うん、知ってる。
「そうだ、ちょっと久しぶりだし、テニスしない?」
「えぇ?私下手くそだから…」
「頼むよ、な?」
「うん。まぁいいけど」
今まで何回か一緒にしたことはあるけど遊び感覚で……。少なくとも全国行くような人の相手になる自信がないよ…。
尋音からラケットを借りてやって来たのは、いつも尋音と海人お兄ちゃんが練習してるあの公園。
「はい!」
「え、いきなり?」
いきなりサーブを打って来た。
ちょっと準備運動とか!
「えい!」
パコ!
ふう、なんとか返せたけど…!
「いきなりはないでしょ!」
「はは、悪りぃ悪りぃ。久しぶりだから早くやりたくてさ!にしてもよくとれたなー」
「もー!びっくりしたよ!」
「……じゃとりあえず打ち合いね」
「うん!」
そこからラリーが続く。
パァン!
さすが、尋音はいい音するね!
ってかもう少し手加減してよね!
「ちょっと休憩しよっ」
「えー?早くねぇ?」
「いいから」
「相変わらず体力無いのなー」
「すみませんね!」
「……でも技術はかなりだな。たぶん、県大会レベル、いや、東北大会レベルだな」
「またまたーっていうか東北に住んでること言っていいの?」
「別にいいだろそろそろ細かい設定が決まってきたんだから。ーーってそれよりも!おまえ中学入ったらマジでテニスやんねぇ?」
「えー?買いかぶりすぎだよー。それに私体力無いしさ」
「んー。まぁ確かに体力か…。でももったいないなあ。けっこういいもんもってんのに」
「お気持ちありがと!さ、続きやろ!」
「おう!」
そんなにうまいかなぁ…。でも褒めてもらえて嬉しい!
そのあと一時間くらいして、帰ることに。
「尋音は中学でもテニス!でしょ?」
「まあな。兄貴の壁は高いけど」
「あはは、全国制覇だもんね!」
「俺だって!兄貴を超えてやる!」
頑張れ尋音!尋音ならできるよ!
そうやって絶対諦めないとことか、かっこいいし大好き。ずっとそばで応援してるからね。
………これを声に出して言えればいいのに。そうすれば月海みたいに、あんなふうに幸せになれるのに。あ、でも成功するとは限らない、か。
「じゃ、じゃあな!」
「うん、バイバイ」
尋音に手を振って…
っていっても尋音の家まで歩いて20秒の距離だけどね。
「ただいまー!」
「おかえりー」
「お腹すいたなぁ。お昼何?」
「………その前に少しお話があるの」
え?なんか、いつもと違う…?
「あなた。」
「うん。なぁ渚。おまえ今まで生きてきてなんか不自由はなかったか?」
「え?何もないけど…。」
「ホントにか?」
「う、うん。しいて言うならちょっと体力がないくらいで……。」
「…そうか、やっぱりか」
え?やっぱりってどういうこと?
ねぇお母さん。どうしてそんな暗い顔なの?
「卒業式の日に言うのもあれなんだが…。渚ももうすぐ中学生だ。そろそろ知っておくべきだと思ってな」
なにを?私はなにを隠されてるの?
「今まで運動してきて、たぶん短距離とか、あとは他のスポーツも苦手ではなかったろ?」
「…うん」
確かに、体育の授業とか、みんなに頼りにされてるほうだと思ってた。でもバスケットもすぐに途中から息が切れて動けなくなって、それがみんなより少し早いなぁとは思ってた
「でも長時間は動けない。もっても一分が限界。そうだな?」
「あ、うん。」
「………今まで黙ってたがそれには訳があったんだ。」
え?なに?聞きたくない!いや!
「実は…」
「やめて!!」
「な、渚」
「いや!やめて!聞きたくない!怖いの!」
「大丈夫だ、渚」
「いやだ!」
「渚!!」
お母さんが叫ぶ。なんで?なんで泣くの?
「お母さんとお父さんが黙ってたのはね、あなたがまだ幼かったから…でもあなたは今もう成長した。受け入れられると思ったからなのよ。」
でも、でもまだ私12歳だよ?それで何を受け入れればいいの?
「……聞いてくれるか?」
お父さんが口を開く。
……うん、もう覚悟を決めよう。
「…うん」
「渚…おまえはな……………」
「うそ……。」
「…ホントだ。」
「わ、私……」
「ゴメンな、何もできなくて」
「………少し一人にさせて…。」
「な、渚!」
「母さん!……今はそっとしといてやろう」
「……でも」
「大丈夫だよ。少し、少し風に当たってくるだけだから。」
「渚…。 」
今の季節まだ少し寒い。
でも今はその風の冷たさも感じられない。気にしてる余裕がない。
どうしてだろう。周りがモノクロに見える。
私が尋音のことを好きになっても意味が無いんだ。どうせ叶わない夢なんだ。
好きになっちゃ……いけないんだ。
神様は不公平だ。でもそんなふうに神様を恨んでもどうしようもないんだ。
知ってるよ。でも、でも何かのせいにしたくなっちゃうんだよ!!
なんでなの!?なんで私なの!?
みんなは普通に生きれるのにどうして、どうして私だけ?
はぁはぁ、こうして泣くだけでも息が苦しくなる。
あと、残りの人生。人より短い人生。
幸せにはなれない。なりたいって思っちゃダメなんだ。
でもせめて楽しく生きることくらい許してくれるよね?楽しく、笑顔でいさせてください。
意地悪な神様。それだけはお願いします…。
第一章 完。
……第一章完です。
次回から中学編です。