第十一話 本心。 ー渚視点ー
気づいたのはいつだろう。
少なくともこの林間学校の間だけど。
ずっと考えたこともなかった。
ただ楽しいだけで、それだけで満足で。
でも星香ちゃんの真っ直ぐな気持ちが気づかせてくれたのかもしれない。
尋音にも、月海にさえも言ったことがない、私の好きな人。
まぁ気づいたばかりだから言ったことなくても当然なのかも。
「ねぇー渚ちゃん!」
「あ、星香ちゃん」
「今日はなんか聞けた?」
あぁ、うん。聞けたよ。
なぜか声に出せない。
あぁ、たぶん頭の中の整理がついていないんだろうなぁ。
算数の問題も、最近は二桁のかけざんも頭の中だけでスラスラ解けるようになったのに。
でもこればっかりは問題練習できないから、
勉強のしようがないよね。
「うん。」
「なになに!?なにが聞けた?」
「んと、今はまだ好きな人いないってさ。」
「そっかぁ!じゃあ私にもチャンスがあるんだね!……他には他には?」
「んーと、見た目じゃ判断しないけど、髪は短いほうが好きみたい。」
「……………そう…なんだ。」
星香ちゃんが自分の髪を触りながら少し遠い目をしている。
「いやいや、切る必要はないんじゃない!?」
「…でも…………。」
「外見で判断しないって言ってるんだから今のままの星香ちゃんで大丈夫だよ!」
「そう…かなぁ」
こんなに可愛い星香ちゃんに髪を切らせることまで考えさせるなんて尋音もやるじゃないですか。
「うん、そのままで充分可愛いもん。」
「…ありがとっ!」
まぶしいよ、その笑顔。
「でさぁ誠司ったらねぇ!」
「うんうん!」
「……。」
「ちょっと渚~聞いてる~?」
「あ、ゴメン、続けて」
「なんか渚さっきから元気ないよ?」
「あはは、大丈夫。心配してくれてありがとね、雪乃」
「う、うん…」
月海にも、雪乃にも心配かけちゃってたんだ。しっかりしないと!
「でね~」
「あはは!ツグミんやる~!」
「あはは」
月海の誠司くんに対する思いはブレることもなくてホントに真っ直ぐだ。
うらやましいよ。
月海は私のお姉ちゃんみたい。頼れるし、憧れだし…あ、憧れって胸の話じゃないよ!
ちなみにツグミんとは雪乃のオリジナルな月海の呼び方。
「おー!消灯の時間だぞー!」
「「「はーい!」」」
先生が各部屋にまわって呼びかけているみたい。
「じゃうちらも寝ますか!」
「そーだねー」
「じゃ、おやすみ~」
さ、寝ようかな~。
…………………………………………。
「誰か電気消さないの?」
「えー!私もう布団かぶっちゃったからー」
「ウチもー!」
えー。私暗くないと寝れない派なんだけどー。
「じゃあジャンケンしよ!」
「えーこのままでもあとで先生来て消してくれるでしょー」
「ダメ!」
「もー渚の傲慢!」
誰がごうまんだって~!?
「はい、ジャンケン、ポン!」
…………………………………こういうのって言い出しっぺが負けるのが鉄則だよね…。
あーあ。もう寝る体制だったのになぁ。
「じゃ、今度こそホントにおやすみ~」
「「はーい」」
ぱちっと電気を消す。
寝れば頭スッキリするよね!
「………ん、今何時ぃ…?」
夜中にふと目が覚めた。
まだ外が暗いのが分かる。
「えーと、2時半?」
ちょっと早く起きすぎたなー。……もう一回寝よう。
ん?あれ?
「雪乃!?」
あ、大きな声出しちゃった。
三つ並んだ布団の私とは逆端の月海がんーっと寝返りをうつ。
ゴメン月海。
ってそれより!なぜ隣には雪乃が!
「んぅー。うるさいよ渚ぁ~」
「なんで私の布団に!?」
「寒いんだもーん」
はいぃ?
まぁ確かにこの時期日中は暑いけど夜は結構冷えるけど!
「月海のほう行けばいいじゃん」
「だって蹴られるもーん」
そう言って雪乃はまた眠りにつく。
だからって私の体温奪わないでよ~。
私も結構寒がりなんだから…。
それよりも雪乃の寝顔かわいい…。
普段はツインテールの髪も今はおろしてるからなんかそのギャップがすごくいい!
あれ?私ってレズ?
!!!
それは絶対ない!だって好きな人がいるから…。
「はぁ~」
小さくため息をつく。
「ため息つくと幸せが逃げるんだよ?」
「!」
月海!?
「起きてたの?」
「さっきね。」
「そっか…ゴメンね起こしちゃって」
「ううん。それより…さ。」
「ん?」
なんだろう…。
「あ、その前に、ちょっと寒いけど窓の近く行こっか。」
「あ、うん。」
雪乃に毛布を掛け直してから立ち上がって窓際に行く。
やっぱちょっと寒いかも。
「雪乃今度は渚のほう行ったんだ。」
月海が笑いながら言う。
…あなたが蹴るからこっちにくることになっちゃったのですよ。
「…星香ちゃんって尋音のこと好きなの?」
「え!そ、それどこで?」
「やっぱりそうなんだ…。見てれば分かるよ。あたしを誰だと思ってんの?」
「月海さんです…。」
やっぱり。月海には全部お見通しなんだね。
ホント、頼れるお姉さんだよ。
「それで?好きなんでしょ?」
「へ!?誰を!?」
「尋音に決まってるでしょ」
「えぇ!」
そこまでお見通しなんですか!?
むしろ何者ですか!?
「そんなに頭にはてな浮かべてーあたし達何年の付き合いよ!」
「えーと4、5年?」
「そう!人生の半分近く一緒にいるんだから!」
月海さん。人生って言ったってまだ私たち11年しか生きてませんよ?
「それよりも!尋音とは11年も一緒にいるんでしょ?それなのにパッと出の星香ちゃんに取られちゃっていいの!?」
「パッと出のって…。でも星香ちゃん可愛いし、尋音とお似合いだし…。」
今日だって、遊んでる姿はもう付きあってるって言ってもおかしくないくらい仲よかったし…。
「! 渚と尋音の11年ってそんなもん!?」
「! 月海にはわかんないよ!」
「確かにわかんないよ」
「なら余計なこと」
しゃべってる途中で月海が歩み寄って来る。
月海が手を上げる。
あ、叩かれる。そう思って身構えたけど次の瞬間には頭を撫でられていた。
私より背が高い月海。クラスの女子でも1番背が高い月海。
その手はすごく暖かいーー。
「わかんないよ…。でもね、あたしは誠司に対しては自分に素直でいたいと思ってるし、今も実際にそうしてるよ。」
「……。」
「でもね、簡単にしてるように見えてるかもしれないけど、けっこう勇気いるんだよ。
……もしかしたらうっとおしく思われてないかな、とか、ね。」
「!」
意外だった。いっつもダイレクトに誠司くん、自分の好きな人にぶつかって行く月海。
たまにヒヤヒヤするけど心の中ではいっつもうらやましいなぁって思ってた。
それなのに、こんなに怯えたりもしてたんだ。月海だって、どんなに強気だって結局は普通に女の子だもんね。
それなのに私は……。
「でも渚は行動する前から諦めてる。それはちょっと、ってか絶対ダメだよ。」
「…うん」
「だからさ。勇気を出して。11年も一緒なんだよ?自分に素直にさ。………もう辛そうな渚見たくないよ」
「……。」
「足りないなら、私の勇気わけてあげる」
月海に手を握られる。
もう…我慢できないよ…。
「あり、がとう…グスッ」
どうしよう目から涙がとまんないよ。
「渚…あたしは渚の一生味方。だからもう隠し事は無しだよ。」
月海が抱きしめてくれる。
ちょうど私の顔が月海の肩くらいの高さ。
ゴメンね月海。ちょっと肩借ります。
思いっきり泣いた。でも夜だから大きな声は出せないから頑張って抑えた。
でもさすがに雪乃は気づいたんじゃないかな?
ありがとうね雪乃。
ありがとう、私の最高の親友。
次回はちょっと方向性を変えて月海視点を書くかもしれないです。
今後ともよろしくお願いします!