第十話 バカは風邪ひかない ー尋音視点ー
「くっそー引き分けかよー」
「ということは一勝一分で私の勝ちだね!」
二日目の決戦。俺は昨日のコツを忘れずに全力で頑張った。けど、なぜか月島はうまかった。
結果は7ー7。ここにこれだけ魚が集まったことが驚きだけどやっぱそれ以上に悔しい!
「じゃ、出発する前に近くのトイレがあるので、したい人は済ませてきてください!」
「私行ってこよーっと」
「…おう」
俺はべつにいいや。そ、そこまで落ち込んでるってわけじゃないけど!
そ、それよりも、
佐々木さんは特別先生というわけでもなく、普通に川に詳しいだけの、だけのって言っちゃ失礼か。でもすっごい優しいし面倒も見てくれて、頼れる人だ。でもそれも今日でおしまい…。
「佐々木さん!」
「あぁ沢村くんか。」
「今までありがとうございました!」
「はは、私も楽しかったよ。……勝負残念だったね。」
「はい…でもすっげー楽しかったです!」
俺らの住む町は県の中ではまだ都会なほうだけど、東京とか、そっちのほうに比べればまだまだちっぽけかもしれないけど、でもそんなとこでさえなかなか川で遊ぶことはできない。だからすっごい楽しかった!
「そうか。なら私も頑張ったかいがあったよ」
佐々木さんと話をしてたその時だった。
「キャ!!」
川のほうから叫び声が聞こえた。すごく聞き覚えのある声。
「渚!!」
声のほうを見ると足を滑らせてそのまま川に流されて………………
というわけではなく転んで痛そうにしている渚がいた。
しょうがねえなぁと思いつつも走り寄る。
「ほら、大丈夫か?」
「ひ、尋音…」
手を差し出して起こす。
「怪我ないか?」
「うん…でも服がびしょ濡れで…」
「うわホントだ…」
前からちょっと抜けてるところがあるやつだけど、さすがにかわいそうだな…。
よし!
「ほら、俺と交換しようぜ!」
「え、でも…」
活動時間に着てるのは学校指定のジャージだからサイズも俺のほうが少しでかいくらいだから問題ないだろ。
「早くしないと長袖だけじゃなくて半袖まで濡れちゃうぞ。」
「う、うんゴメンね」
「ここはゴメンじゃなくてありがとうだろ」
「ありがとう…」
「じゃ、そっち行って着替えるか。」
べつに俺はいんだけどさすがに渚はここで着替えるのは恥ずかしいだろう。
我ながらなかなか優しいな!
「うわーちょっと大っきいよー」
「風邪ひくよりはマシだろ?」
「うん…でもそしたら尋音が…」
「安心しろ、バカは風邪ひかな…っ誰がバカだ!」
「くすっ今自分でいったじゃん!」
くっ!まぁ確かに勉強は得意じゃないけれど…。でもバカってわけじゃ…。
ない、うん…。
「早く戻るぞ!」
「あははー話そらしたー」
笑う渚をつれて、みんなのところへ戻る。
「大丈夫でしたか!?」
「あ、佐々木さん…すみません大丈夫です」
渚もすみません、と申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうか、ならよかった。……じゃ帰り道も怪我をしないよう気をつけて帰りましょう」
「「はい」」
日が傾いてきて少し寒くなってきた。
ただでさえ濡れてるんだしな…。
「またこけんなよー?」
少しいじらしく聞いてみる。
「も、もう大丈夫だってばー!」
まぁ正直心配してんのは事実なんだけどな。
「…ねぇ尋音?」
「なに?」
「今好きな人とかっていないの?」
「ぶっ!」
またしてもいきなりかよ!
ってか聞いてどうすんだ…。
…………ちょっとからかってみるか。
「もしいるって言ったらどうする?」
「えぇ!?いるの?」
「まぁとにかくさ。」
「………もしかして星香ちゃん?」
「え、星香って月島か?」
「うん。」
月島?なんで?まぁ確かに月島はモテるよな。でもそれはカンケーな…
「やっぱりそうなんだ…。せ、星香ちゃん可愛いもんね!性格いいし、顔も可愛いしスタイルいいし、髪だって長くてきれいだし…」
「ちょ、ちょっと待て!そもそも月島のことは好きじゃないし!俺に好きな人はいないから!」
あっぶない、渚が暴走するとこだった。
「そうなの?」
「うん、ガチで!それに月島はモテるかもしんないけど、俺はそういうので決めたりしないから!」
それに…。
「俺的には髪は長くないほうが好きだぞ」
「え!?」
「そうだな…それこそ、おまえくらいのショートがちょうどいいと思う」
「ふ、ふーん」
渚のショートで黒い髪はなんていうか、
さらさらしててふわふわで。
見てて普通に可愛いと思う。
まぁ月島だって綺麗な髪してるから可愛いんだろうけど。なにより動く時に邪魔そうだしな。
「好きなタイプとかはないの?」
「ん?……ってかなんでそんな聞くわけ?」
「え、えーっとその、と、とにかく!」
「まぁいいけどさ。……で、そうだなぁ。よく笑って、笑顔が似合うやつかな。」
うん。まぁ笑ってるやつと一緒にいて嫌な気するやつはいないよな。
あ、もちろんニヤニヤしたりだとかそういう意地悪なやつは除いて!
「そっかぁ」
「俺にだけ聞くのはズルいよな~。渚は?好きな人とかいないわけ?」
正直からかうだけのつもりだった。
たぶん顔を真っ赤にして全否定する。そう思ってた。
「…いるよ」
「え!?」
意外な答えだった。
いったい誰を…?
いる。と答えた渚の目は恋する女の子。まさにそんな感じだった。