第一話α 悠の出会い
------「 超時空☆喫茶 『地平線の先』 」-------
「…ナニこれ?」
私はやや呆れ気味でこの看板を読んだ。
漫画喫茶・メイド喫茶・猫喫茶というような「何々」喫茶というのが、最近流行りだというのは、
知識として知っていたが、超時空☆喫茶という名の喫茶店を私は今まで聞いたことがない。
というか絶対に、「今流行りの「喫茶」に新しいジャンル開拓しちゃいました☆」的なノリで作った飽きたらすぐ潰れるだろう喫茶店だろう。
この店の未来を心配しながら、私は辺りを見回した。店の両隣には、多分夕方から始まるであろう個人経営のスナックがあり、昼の今の時間営業しているのは、この喫茶店だけのようだ。駅前の大通りから1本外れただけなのだが、見回しても辺りに歩いている人は見かけられない。
というか、何をコンセプトに作ったらこんな名前の喫茶店が出来るのだろうか。
駅から少し外れた細い道にある重みのある茶色の煉瓦造りの喫茶店。
名前の割には外から店をみる限り、至って普通の、新聞を持ったおじさんがコーヒーを一杯飲みに来るような雰囲気の喫茶店である。
そんな雰囲気の店のどの辺りが「超時空☆」なのかやたら気になる。
その手の喫茶店にはほぼ行ったことがない私だが、胡散臭さの警戒心よりも好奇心のほうが勝った。
ちょうど駅前で本も買ったところだし、多分飲み物一杯ぐらいだったら値段も高くはないよね…。
私は心を決めて、店のドアを開いた。
からんからん、とドアに付いてる鐘が店内に響き渡る。
カウンター席と窓側のテーブル席に数席。
店外からみた雰囲気と変わらず、こじんまりとした普通の喫茶店だ。
この時間だからか店内の客数は奥テーブルにおじさん一人とカウンターに若い男の人一人。
「いらっしゃいませ~。」
とカウンター中からいかにもマスターという雰囲気のおじ様が白い布巾でグラスを磨きながらにこやかに声かけた。
「えっと...一人なんですけど。」
と私はおずおずとマスターに人差し指で一人と示しながら言う。
店によっては勝手にイスに座るところと店員が案内するところとあるので聞くが、私は始めて入る飲食店のここの部分が苦手なのである。店員によっては無愛想に勝手に座れと無言の人がいたり、適当にイスに座ろうとして「今席案内するので!」と迷惑そうに言う人がいるからだ。ましてや、なんとか喫茶と書かれているこの店のルールは独自のものがあるのかもしれないと身構える。
「あー、お好きな席座って下さいねー。あとで水お持ちしますから。」
と店のマスター(←決めつけ)は愛想良く対応してくれた。
最初の難関を潜り抜け、私はほっと一息をつきながら、
奥のテーブルのおじさんとちょうど真反対の一番隅のカウンター席に近い窓際のテーブル席に座った。
窓際は思ったよりも外の光が適度に入り、
テーブルには今の時期花屋で見かける小さなひまわりが飾ってある。
良く使い込まれた木のテーブルとイスだが、それがまたこの店によく合っていた。
箇所箇所に植物が置いてあり、ナチュラルイメージの店。
中に入ってみても、やはり特別変わったところはない普通の喫茶店だ。…名前以外は。
「はい、お待たせしました。こちらがメニューです。」
マスターは、コトっと氷の入ったお冷とメニューを持ってきた。
「あ、はい、ありがとうございます。」
と私は顔を上げ、マスターはにっこりと素敵な笑顔をくれた。
にこやかなそのマスターの笑顔は接客によく向いていて、昔は本当にモテテいただろう。
いや、今でも私の同じ歳の子でもおじ様好きの子ならキャーキャー言っていそうだ。
そう、名前にするならセバスチャン。
「えっと、何か冷たい飲み物をいただきたいんですけど。お勧めのものって何ですか。」
「そうですね。今日は暑いですし、ハーブが大丈夫であれば、アイスミントティーはいかがでしょうか。ミントは自家製なんですよ。」
「あ。じゃあ、それで。」
と私は応え、メニューを渡しマスターがカウンターに入るのを見てから、
私は買ったばかりの文庫本を出して読む。
「おまたせしました。」
と数ページ読んだあたりでマスターがアイスミントティーを持ってきた。
新鮮ななミントが香るアイスティー。
ちょうどよい大きさのボリュームのジャズのBGM。
静かな落ち着いた雰囲気の店内。
これは良い喫茶店を見つけたなと私はほほ笑む。
名前のことなど、この時には既に忘れており、大満足で私は穏やかな時間を過ごした。
・・・アイスティーの氷も溶けきり、そろそろ帰ろうかなと思った時に来た時と同じ場所にいるカウンターの男の人の前にいるマスターに声を掛けられた。
「お客様はご来店は初めてですか。」
「はい。ちょっと店の名前が気になって。」
「ああ、まあ、少し変わってますからね。」
「どの辺りが『超時空☆喫茶』なんですか。」
と私は思いきって聞いてみた。マスターは苦笑しながら、
「一見さんだと分からないですけどね、たしかにココは超時空喫茶なんですよ。最初は誰もが不思議がりますが。常連さんだと分かったりしますよ、ね。」
とマスターはカウンターの男の人に話を振る。彼はびくっとしてから、ちらっとこちらを見る。
「えっ!?ま、まあ。そうだよね。・・・っていうか君はこの店初めて来たのか。」
「あ、はい。一見さんです。」
「そっか。そうなんだ。」
と彼は少し伏目になり、困ったような笑みを浮かべる。
「・・・?」
私は彼のその意図が読めなく、首を傾げる。
そして、彼はバッと顔を上げ、次はしっかりとした笑顔で話しかけてくる。
「あ、じゃあ、今日の記念に1杯奢らせてもらってもいいかな。」
「えっ!?いやいや、そんな悪いですから。」
「ううん。全然悪くないよ。あ、じゃあ、今日のことどうか忘れないでもらえたらそれでいいから。」
と彼はよく分からない条件を出しながら、あたふたと言う。
「いや、奢ってもらう意味分からないし、初めて会った人にそんなことされても…。」
と私は少しいぶかしながら、首と手を横に振る。
「いいから、奢らせて欲しいんだ。気になるなら、またいつか返してもらえればいいし。あ、でもこれはナンパとかではなく、返してほしいわけじゃなく、ただ奢りたいからで…。」
と彼は顔を真っ赤にしながら、必死さをあらわに話す。
「まあ、彼がここまで言っているんですから。アイスティーを飲めたと得した気分で奢らせてあげてくださいませんか。」
と素敵な笑顔とともにマスターが彼の弁護に入る。
友達とご飯食べ行く時も割り勘の私には申し訳ない気持ちも大きいが、
まあ、貧乏大学生としては、無料でアイスティー飲めたのは結構ありがたい。
何より、ここまで言ってくれたのに意地で要らないというのも悪い気がする。
「うーん、、、じゃあ、ありがたくご馳走になります。えと、ありがとうございます。」
「いやいやっ、何か無理に頼んじゃってっっ、こちらこそありがとう。」
と私よりもいくつか上であろうスーツ姿の彼は満面な笑みを浮かべていた。
「僕はこの店がとても気に入っててね。
この店で僕はとっても幸せな時間が過ごせた。
どうか君にとってもこの店に居る時間が楽しい時間になりますように。
じゃあさようなら。・・・またね。」
と彼は先ほどとは変わり、なんだか口は笑みを作りながら少し寂しそうな顔で手を振った。
ちょっと変わった人。でも、少し可愛い人だなというのが印象に残る人だった ――――――
********************************************
―――― ・・・彼女がこの店を出る後姿を僕は目に焼きつけ、僕はため息をついたとともに目に涙が滲む。
「マスター、今日だったんだね。今日が最後だったんだ。」
彼女の席に残った空のコップを下げているマスターに向けて僕が呟く。
「そうですね。“彼女”は結末は言わないでと言っていましたので黙っていましたが。」
「ちゃんと“彼女”が知っていたような日にできただろうか…。」
「ええ、大丈夫ですよ。あなたは“彼女”の思い通りの出会いが出来ました。お疲れ様です。」
僕はマスターのその言葉を聞いた後、「地平線の先」のこの店で思いっきり泣いた。
*********************************************




