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呪い狩り編~その1~

2人は公園のベンチでだらけていた。それもしょうがなく、朝からうだるような暑さなのだ。涼しい場所を求めて家から脱出した所で、ばったりと2人は遭遇したのである。そして、無言で頷き合うと安らげる安息の地を求めて、歩き出したのだった。ようやく、木陰の涼しそうなベンチを見つけ出すと、すぐさま占拠した。長めの背もたれ付きのベンチを悠々と2人だけ独占する。公園では夏休みのせいもあってか、昼間から小さい子達がはしゃぎ回っている。猛暑の中、走り回る勇ましい姿に呆気に取られながら一也が口を開いた。


「あいつら、あんな走り回って暑くねぇのかな・・・?」


ガックリうな垂れた頭をゆっくりと持ち上げると、光は今にも逝ってしまいそうな目線で子供達を見やる。暑さのせいなのだが端から見れば、とても危ない人間に思われたことだろう。程良くお洒落に天然パーマがかった髪も汗でべっとりとしていた。普段は活き活きしている顔も今や、危ない人の顔になっている。


「元気だねぇ~。僕は、もう・・・」


声も危ない。そして、またガックリとうな垂れてしまった。勢い良く隣に座る光に向き直ると、一也は叫んだ。


「ひ、光!頑張るんだ、生きろ!立ち上がるんだ!!」


少年漫画でありがちな台詞を放つと、光が力もなく答えた。口をパクパクさせており、酸欠の金魚の様で弱々しさが窺える。


「ぼ、僕が死んでも、お前は生きろ・・・!うっ!!」


ふざける余力があるらしく、まだ大丈夫なのだろう。しかし、その顔つきだけは危ない人のままであった。そのうち口から魂が飛び出していくのではないかと疑った一也である。そんな2人の目の前に人影が現れて、一也が正面を向く。光は力もなくずっとうな垂れている。何やらぶつぶつ言っている様子で、実は危ないところまで来てるのかもしれなかった。


目の前にいたのは月夜で、実に爽やかそうにしている。夏?汗?何それ?そんなことを言ってもおかしくないくらいだった。月夜に限って、そんな意味不明な発現はしないだろうが。この暑さの中、黒のワンピースを着ている。すらりと伸びた四肢の色白さが合わさって見る者を惹き付ける美しさがあった。地味な服装なのだが、月夜が着ていると地味とは言えなかった。


「そこに混ぜてもらうわ」


そう言うと、光の首を引っつかみ、一也へとパスした。パス、と言えるくらい軽々しく放ったのである。


「ぎゃっ」

「おわっ」


投げられる者と受け取る者の声がした。空いたスペースにゆったりと月夜が腰を下ろす。元々涼しげな様子だったのだが、木陰のベンチというシチュエーションを得たことで、尚一層のこと涼しさ力がアップした様だった。


投げられた光はと言うと、一也の隣で背もたれに背中を預け、顔は真上へと向けている。両腕を大きく開き、背もたれの後ろでぷらぷらさせていた。顔を上に向けていることで、さっきより表情が見えるのだが、やはり危ない人の顔になっている。


「それにしても月夜ちゃんは涼し気だよね~」


「そんなことより」


月夜は光の話をぶった切ると、腕組しながら不機嫌そうに話し出した。何かあったのだろうか、とてつもなく怒っていることがわかる。いつもの不機嫌だろうと一也は思ったのだが、話を先を促す。


「で、月夜どうかしたのか?」


「昨日襲われたわ」と、ぶっきらぼうに言った。


「え?!」

「え?!」


見事に一也と光の声が重なり、2人して顔を見合わせた。今まで死人の様な顔をしていた光の顔に活気が戻り、興味津々と言った感じである。襲われた、と言うと危ない意味に取れるが月夜の場合は別だろう。もちろん2人は、そこらへんの意味はしっかり汲み取っている。


「大丈夫だったのか?(相手の人は)」


一也が気の毒そうに訊いてあげた。心配そうな顔をしていて、月夜相手に襲撃を仕掛けてしまった人を本当に憂いでいる様である。光は無言のままだったが、その目は復活していて、いつもの輝きを取り戻しており、早く続きを話してよ、と視線を放っているのだった。


「上手く逃げられたわ、思い出すだけでもムカツク!」


右足で地団駄を踏み、とても悔しがっている。逃げられてしまったことが、よっぽど悔しかったのだろ

う。


「それならよかったね。何も被害がなかったんでしょ?(相手の人に)」


光も同じように訊くが、もちろん気遣うべき人間は相手の人である。月夜の怪力さ加減は知っているし、この場合は加害者が被害者に成ってしまう。安堵の表情で訊いたのだったが、月夜のプライドに

触れてしまった様だった。


「良くないわよ、返り討ちにしてやるのがポリシーなのよ」


返り討ちをポリシーに持つくらい襲撃を受けるのかはツッコミを入れないとしても、大分危ない女の子だ。苦笑しながらも一也は改めて、月夜の怖さを実感した。不用意な発言をしてしまった光は蛙を射抜くがごとき蛇の眼光で睨まれていた。月夜としては、そこまで睨みを利かせている訳ではないのだが、端整な顔立ちの人間が、そういうことをすることで大分威力がある様だった。光も負けじと視線に視線をぶつけている。う~、等と唸り声を上げているがさほど効果は無い様子である。顎をやや上げ、見下すような月夜の視線に光は負けてしまった。誤魔化す様に光が話を切り出した。


「でも、最近は危ないよね。昨晩だけで3人だかが襲われたんだって。誰も何も盗られていないし、被害はなかったみたいだけど」


手で扇ぎながら、一也が首を傾げた。


「被害なし?じゃあ、何で襲ったりしたんだよ」


「・・・『呪いの力』を無くしたんじゃないのかしら?」


一也の台詞に被せるように月夜が言った。その答えは的を射ていたのか光が月夜の方を見た。


「正解!月夜ちゃん、よくわかったね。話の落ち、なくなっちゃった」


少しガッカリと、でも当てられたことの驚きの方が大きいらしかった。光は、再び上を向き両腕を背もたれの後ろでぷらぷらさせ始めた。


「襲われた3人とも呪い持ちの人で、気がついたら呪いが使えなくなっちゃってたらしいよ~。そもそも呪い持ちの人って、実際にあんまり見かけないしよね」


他人事の様に話しているが、まさしくその通りで、呪いを持たなく超能力の分野に分類される光には大して怖くない事件である。


「ふ~ん、成る程ね」


不機嫌だった月夜の顔には、いつもの余裕が戻り何か考えている。空の一点を見つめ、何かを思い返している様子でもあった。

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