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私の世界~後編~

ここで終わりにするつもりでしたけど、あまりに

半端なので、後日談としてもう1つまで行ってしまいました。

そちらも出来ればUPしようと思います。

2人は病院裏手に位置する研究施設へと到着していた。日が沈みかけており、

人の気配は、もうなかった。そんな無人と化した研究施設の中庭を通り

正面玄関から中へと入る。自動ドアは、まだ作動中の様だった。

エントランスホールには受付があり、待ち合い者用の椅子が設置されている。

しかし、受付にも人はいなく、広い空間は静寂が支配していた。

2階まで吹き抜けの造りとなっており、開放的な雰囲気でもある。


巧の歩みが止まり、横目に後ろを見る。


「巧、どうした?」

真奈美を抱き直しながら、女が言った。


「緋色は先に行け、諦めの悪い馬鹿を始末したら、俺も行く」

巧が不敵に笑うと、口元に鋭い牙を覗かせた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「あぁ、そうだ!猫の森研究所の付属病院裏手!そう、研究施設だ!」

焦燥感を露にしながら、武が言った。電話の相手は一也だ。


携帯をしまうと、2人が入って言った正面玄関を目指した。広い中庭を

疾走とも言える速さで駆け抜ける。

人の存在を感知し、自動ドアが開いた。静寂の中に自動ドアの開閉音が

広いエントランスに不気味に響いた。

と、同時に奥にあるエレベーターの中にいる女と目が合った。

真奈美を抱えている緋色悠という女性だ。


「待て!!」

健は足の筋肉全力で地面を蹴った。走り出しから最高速で、一気に

エレベーターまでの距離を詰める。


エレベーターは、まだ閉まりかけていなく、その速さを以ってすれば

余裕で間に合うかのように思えた。しかし、健は直線にエレベーターに

向かったのだが、途中で横に大きく跳んだ。

ただならぬ殺気を感じたからだ。


「よ~、ここまで追ってくるとはな」

待ち合いの椅子に腰掛けていた男が悠然と立ち上がる。蛇狩巧だった。


「・・・!お前か!」

手負いの健には厄介な相手だった。汗が頬を伝うのを感じた。


「さてと、第2ラウンドと行くか・・ね!!」

すかさず、蛇の呪いを解放し健へと突進を繰り出す。


手負いとは言え、それすらも軽々と跳躍して回避する健。両者の

位置関係は当初とまるっきり入れ替わっていた。突進は見事に

壁にぶつかり、衝撃の凄まじさは破壊された壁が物語っている。



巧は自分の後ろに跳んで避けた健に向き直ると、口元を

にやつかせ、牙を見せた。

「常人とは違うなと思ったが・・・呪い持ちの系統だったか」


「人目もないし、この姿はお前にしか見られないからな」

狼の呪いを解放した健が言った。


「あ?」と大蛇は不思議そうに首を傾げる。

「てめーは呪いにコンプレックスでも持ってんのか?」と訊いた。


「人に怖がられたくないからな」至極真面目に健が答えた。


エントランスに笑い声が響く。

「呪いは選ばれた者にだけ与えられるんだよ!

疎まれ、畏怖され、時に祀られる・・・それが『呪い』だ!

その家系の者にしか現れない希少なスキル!」

言いながら、巧は大きな口を開き、健に噛み付こうとした。

この大きさで噛まれれば、一溜まりもないだろう。


向かってきた口に健は近くにあった椅子を放り投げる。大蛇はそれを

吐き出すと、今度は横薙ぎに尻尾を振った。待ち合い者用の椅子を

次々とふっとばし、長い尾は健へと向かう。

健は跳びつつ避けると、同時に尾に対して鋭い爪で切裂きの一閃を

放った。頑強な皮膚も堪えられず、皮膚が裂け爪跡の筋ができた。

そこから鮮血が舞う。


「狼をあまり舐めない方がいい」、華麗に着地すると健が言った。


「てめぇ、やりやがったな!!!」

今度は太く長い尾を縦横無尽に暴れさせる。その1回1回が的確に

健の位置にやってくる。


向かってくる尾に対し、捌きつつ爪を立てて応戦するが、

微々たるダメージしかなかった。1回避けた尾が凄まじい速度で

切り替えされてきた。


「くっそ!」

直撃してしまったが、狼の姿になっていたお陰で身体への

影響は少ない。しかし、壁に打ち付けられ、大きく体勢を

崩すことになってしまった。そこに避けられない速度で

牙から毒を滴らせた大蛇が接近してきていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


一也は健からの電話が終わると、すぐさま光へと電話をかける。


(早くでろ、早く!!)


健との電話で焦燥が伝わってきていた。電話口から光の声がする。


「なに~?僕今、病院にいるんだけ・・・ど?」

語尾が疑問形になったのは、言い終わるより早く、一也が大きい声で

訊いたからだった。

「どこの病院だ!?」


一也達の焦りを理解出来る筈もなく、いつものトーンで光が答える。

「猫の森病院。なんか風邪っぽくてさ~」


「そのまま、裏手の研究施設へ行け!俺と月夜も向かう!」と、一也。


「えぇ?どうし・・・て??」

再び語尾が疑問形だが、今度は電話が切られてしまったからだった。

ツーツーという音が携帯から光の耳へと鳴っていた。


「今、一也と月夜ちゃんも来る・・・?たまに起きる

軽い地震と関係でもあるのかな」

切れた携帯を見ながらポツリと呟く。再び軽い地響きが起こる。

その地響きが光の足を裏の研究施設へと向かわせたのだった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


光が着くと、そこは椅子は散乱しており、壁にはいくつもの穿った跡があり

ただ事ではない雰囲気をかもし出している。

見たこともない程の巨大な大蛇が壁に打ち付けられたのであろう、狼に

大きな口を開けて迫っている。直感的に光は電気弾を大蛇へと投げつけた。

大蛇は痺れ、怒りに満ちた表情で光に向き直った。


無意識の内に光は口を開く。

「健君、大丈夫!?」


その声に健が応える。

「光か・・・?」

大蛇の気が光に向いたところで、すかさず跳躍し光の横へと並んだ。

「危なかったんだ、助かった・・・痛っ!」


「助かってないよ、その傷!一也に言われたから来ただけで

事情がさっぱり・・・」困惑の表情を浮かべながら光が言った。


光の話には耳を貸さず、伝えるべきことをだけを伝える。

「いいか、よく聞け。お前は、向こうにあるエレベーターに乗って

地下に向かえ。最下層に向かって行けば、途中チビを見つけられる筈だ」


ここで自動ドアがこじ開けられる音がする。一也と月夜の2人も

研究施設へと辿り着いた。


「今の話の流れからすると、こいつの気を引く役が必要なわけね」

と月夜。尚も続けて、

「あたしが引き受けるわ。3人はエレベーターで地下に向かいなさい」

そう言うと、まず、健と一也をエレベーター向けて超高速で投げつける。


「うおわぁあああああ」

「この女は何なんだぁ」

一也、健の悲鳴が響く。続けて、月夜の手が光の首根っこを鷲掴みにする。

「っひ!」光の顔がこれから起こる恐怖で歪んだ。それに対して

月夜の顔は楽しげに微笑んでいる。次の瞬間、光も投げ飛ばされ、3人は

エレベーターの中へと見事に収納された。


「行かせるか!!」と大蛇がエレベーターを破壊しようと、突進する。


「くっそ!」

一也が防御のために手をかざす。その瞬間、大蛇は床に吸い寄せられ

そのまま叩きつけられる。身体が地面に押し付けられ、一切の自由が

利かなくなった。


「てめぇ!!!」苦悶の表情で大蛇が叫ぶ。


一也は何が起きたかわからなかったが、これ幸いとばかりに

エレベーターの開閉ボタンを操作し、エレベーターは動き出した。


一也達が行ってしまうと、大蛇に自由が戻り、月夜へと振り向いた。

「まぁ、いい。あの狼野郎と闘るより、てめぇとの方が楽しめそうだな」

口元をニヤつかせながら、大蛇、巧が言った。


ふっ、と鼻で笑うと月夜が残像を残し、突然大蛇の眼前に現れる。

月夜の蹴りが大蛇の顔へと炸裂し、その巨体が吹き飛ぶ。その衝撃で

低い地鳴りが轟いた。


大蛇は首を振り、体を起こす。何が起こったのかわからないままに月夜を見た。

「てめぇの、『それ』は何だ!?」

瞳が揺れ動き、とても混乱している。大蛇の瞳には2枚の漆黒の翼が

映っている。それらは月夜の背中から出ているもので、今、月夜は空中に

滞空している状態だった。


月夜は空中から大蛇を見下ろしつつ、冷たい微笑みを浴びせかける。

その笑みは見る人を魅了してしまいそうな程美しいものでもあった。

「同じ呪いでも『格』が違うのよ。でかいだけのトカゲごときに

何かできるとでも思ってたの?楽しむ?笑わせないで」


この台詞で大蛇はキレた。

「だとぉ!??」

密かに月夜の近くまで忍ばせておいた尾を瞬時に月夜へと向ける。確実に

当たる距離だったし、大蛇の目には月夜を払う尾の映像が届いていた。

しかし、払ったと思われた月夜の像がブレる。残像だった。

「なっ!?」驚嘆の声を上げる大蛇。


そして、大蛇は最後に自分の後頭部の方から悪魔の囁きを聞いた。


「トロすぎるのよ」


月夜の一撃が後頭部に直撃する。会心の一撃に大蛇は、そのまま

倒れ伏してしまったのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

一也達はエレベーターを降りると、地下1階から地下2階へ行くための

エレベーターを探し走っていた。研究施設のエレベーターはややこしい造りで

直通で最下層の地下2階へは行けないようにできていた。


光が弱音をあげる。

「なんで、こんな入り組んでるの~?!」


「もう少しだ、頑張れ光!」と一也。


すると、3人は広い場所へ出た。向けた視線の先にはエレベーターがあり、

階下へ行けることを示している。しかし、そのエレベーター前の広い場所に

1人の女の子がいる。一也らと同じ学校の制服を着ていた。


「えっとぉ、楠君と紺野君・・・?」

女の子、凪は目をパチくりさせながら言った。


「なんで、神谷がここにいるんだ?」と一也。


「構わないで、下に行くぞ!」

健がエレベーターへ向かって走り出した時だった。


「だめっ、行かせない!影法師!!」

エレベーターホールに凪の声がこだました。

言下に、凪の足元から影が伸び、健の影をしっかりとロックする。


健が声を荒げる。

「っく、なんだこれは!?」


「祓い屋のスキルだ。捕まると動けなくなる!」一也が叫ぶ。


「でもさ、僕ら、もう全員捕まっちゃってるんじゃない?」

いつもののほほんしたトーンで光が言った。光の言った通り

一也・光・健の3人の影には凪から伸びた影がしっかりと

くっついており、その場に固定されてしまっている様だった。


「でも、大丈夫」

そう言うと、光が手元で放電し火花を散らせる。

電気をスパークさせたのだった。一瞬ではあるが、一面明るくなり

影が消えた。

「今の内に2人は行って!」


光の声に反応し、一也と健は駆け出し凪の横を通過。もう少しで

エレベーターに乗れるというところまで差し迫った。


「あ、もう!!」

再び、凪は2人に影を伸ばすが、その瞬間足元で電気弾が炸裂した。

「きゃっ」


「光、任せた!!」

一也の言葉と共にエレベーターは閉まり、階下へ向けて動き始めた。


泣き目になりつつ、凪が光を見た。

「もう!ここ(研究施設)は依頼沢山くれるお得意さんなのに、

後で怒られちゃうじゃん!」


「そういうわけで、凪ちゃんはここにいるんだね」

と、しどろもどろになりながら光。


凪は涙を拭いながら、

「こうなったら、紺野君だけでもやっつける!!」

と、光へと影を伸ばす。あっさり、捕縛されてしまう光。逃げる様子も

全く見せなかった。


「あのさぁ・・。言いづらいんだけど」

影に捕まり圧倒的不利な状況な中、光が口を開いた。


「なによ!?」まだ拗ねている口調で凪が言った。

足元には影が蠢いており、祓い屋としてのスキルはしっかり

持っていることが窺えた。

それだけに、光がこれから言うことは、とても言いずらい事だった。


「僕達のスキルって抜群に相性悪いと思うんだけど・・・」

不利状況に置かれながらも、申し訳なさそうに光が言った。次の瞬間、

手元で電気をスパークさせ、辺りを光りで満たした。結果としては

当然、影が消滅し、光を捕縛していた能力も解除される。


その光景を目の当たりにし、落胆の声を上げる凪。

「そ、そんな~。うぅ・・・」

再び、瞳を濡らして、その場にへたり込んだ。


頭を掻きながら、気まずそうな表情で立ち尽くす光の姿があった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


地下2階、大きな扉を蹴破り入ると、そこには3人の人間がいた。

1人は真奈美で、椅子に身動きをとれないように座らせられている。

頭から顔を覆うヘッドセットをつけ、映像・音楽共に何か刺激を

与えられている様だった。抜け出そうともがいているのがわかる。

そして、残りの2人。緋色という女性と蔵元だった。


目を見開きながら、

「先生・・・?なんでここに?」と一也。


蔵元は笑みを浮かべた。数時間前に見せた、あの人当たりの好い笑みだ。

「ちょっとした、実験中でね」

傍らで暴れる真奈美を見ながら言った。


「ふざけるな!!」

勢い良く、健が真奈美についているヘッドセットなる装置を破壊しにかかる。

しかし、健に凄まじい風圧がかかり、壁へと押し当てられてしまった。


「実験の邪魔はダメだよ、狼君。君の呪いも興味深い・・・」

腕を組みながら、蔵元が言った。


感情を高ぶらせながら、一也が

「一体何の実験だよ?!そんな小さな子を使って!」


「この子のスキル『脳内投影』(マイワールド)の次なる段階だよ」

大仰に天を仰ぎつつ言った。


「脳内投影・・・?」

「マイワールド?」

一也、健が呟く。


「んん?」と言う風に蔵元は眉根を寄せる。

「君たちも、この子の知り合いなら、何か特別な現象が起こる事位

体験済だろう?そのスキルの発展を今促しているんだよ」


2人は目を点にして、聞いていた。それを見て、蔵元は説明を続ける。

「何でもいいんだよ。ほら、身体が動かなくなるとか、物が勝手に

浮くとか・・・」

身振り手振りで説明する。


一也にしては健と戦った時に急に身体が動かなくなる時があったのを

覚えていた。健にしては目の前で大蛇が浮かび上がるという事も

目の当たりにしている。


「全部、チビのスキルだったのか・・・」健が呟いた。


それを聞いて、

「ん、どこか思い当たる節があった様だね。そう、この子は

自分の脳内を現実に投影することができる。

my-worldとはそういう能力だ」と蔵元。

「しかし、幼い故に、精神も未発達で自由自在という訳にはいかないがね」

最後に溜め息をつきつつ、説明を加えた。


「だからって、それをどうするんだ!?」一也が声を荒げた。


真剣な顔つきになり、人の好い笑みは消えた。

「世界の争い、戦争・抗争をなくせるとは思わないかね?」

尚も蔵元は続ける。

「私が医者だった頃、抗争の絶えない国にボランティアの医師団として

派遣されたことがあってね、もちろん自ら望んで行ったんだ。」

目はどこか遠くを見ている様だった。遠い場所に思いを馳せている

様子である。

「そこで、不運が『彼女』を襲ったよ。彼女は流れ弾に足をやられた

少年を助けようと、銃弾の飛び交う公道へと飛び出した・・・

銃撃戦は程なくして、止んだが、彼女はもはや息はなかった」

ここで、吐息をつき、一呼吸おいた。

「それから私は私を呪ったよ。あの時飛び出して一緒に死んでれば

悔いなんて残らなかったんじゃないか。自分に何かしらのスキルが

あれば、彼女を助けてやれたんじゃないか・・・。自分の無能さに

死にたくなった」


「それと、これとは別だ、チビを放せ!」

風圧に抗いながら健が口を開く。


「いいや、この子の能力が私には必要なんだ。私が平和な世界を

創世する!!そのためにもこの子には戦争があるという『現実』を

目で見て、耳で聴き『自覚』してもらわねばならない。

そして、それを無くしたいという深層心理での『強い願望』が必要だ。

それこそが『脳内投影』の条件だ!」

蔵元がらしくもなく、乱暴な口調で言った。

「しかしながら、先程も言ったように、この子の精神は未発達で

戦争の『現実』を植えつけただけで、『脳内投影』が発動するかは

わからない。そこで私のスキルを使う」


「え、先生、スキル持ちじゃないって言わなかったか」

目を見開きながら、口を開く一也。


「確かに、俺もそう聞いたぞ」と、健も続いた。


「私は自分に能力なんて無いと思っていた。脳波・精神鑑定・夢のパターン

・・・その検査で私の検査結果はめちゃめちゃなものだったんだ。

一般人のそれともスキル持ちのそれとも違う。だから能力なんて無いと

私は思い込んでいた。君ならわかるよね、一也君?」


一也にも似たような体験がある。似たというより、まさしく同じものだ。


「それって、未だ解読されてない検査結果パターンじゃ・・・?」

一也が緊張しながら話の後を促す。自分が酷く緊張しているのがわかった。


「なぜ、規則性と外れた検査結果パターンが出るか。私はある1つの

仮説を立てた。今、その答えが出る・・・」

そう言うと、緋色に蔵元は合図を送る。それに応えるように

緋色は一也に向けて、強風を当て付けた。風圧に押され、健同様

一也も壁に押し付けられ、身動きが取れなくなってしまった。


「一也・・・!!」健が隣で心配そうに叫ぶ。


「くっぐあ!」

一層強い風圧を送り込まれ、呼吸もままならず、一也の顔は苦痛で

歪んでいく。腕を前に出し、防ごうとするが身体が言うことを利かない。

頭が白くなり、意識が飛びかけた頃だった。風が不意に止んだ。

咳き込み、大きく呼吸する一也。今風は緋色と一也の両者の中間点で

激しくぶつかりあっている。この影響で、健も風圧から解放された。


「これは・・・」緋色が無表情のまま呟く。


それを引き継ぐように蔵元が口を開いた。

「そう、緋色の風圧砲に対し、一也君も同じ能力を

同じ強さで同じように発動させたんだよ」


蔵元は拍手をしている。一也に対してだ。

「これで証明された。一般人の規則性にもスキル持ちの『既存』の

規則性にも属さない規則性を示す者も立派なスキル持ちだ。

規則性を示さない規則性・・・これもスキル持ちの一種の規則性だ。

検査結果のパターンに革命を起こす、素晴らしい発見だ」


呼吸を整えながら、一也が訊く。

「ど、どういうことだ・・・?」


隣にいる健が口を開いた。

「そういうことか」

驚愕で目を見開く。


「話の続きをしてあげよう」と蔵元が話し出す。

「私の立てた仮定とは検査結果で規則性を示さないのは

『その者のスキルが誰か別の人間の能力に依存するのではないか』

というものだ。そして、スキル持ちでない君は今!

緋色の風圧砲に同等する威力の風を逆風として相殺している。

思い返してごらん、近くにいる人間の能力を自分のものとして

使ったこととかあったんじゃないのかな?」


確かにこれまでに、一也自身、光の電気を使用できたことがある。

そして、先程、大蛇を地面に這いつくばせた能力は、港のスキルの

『反重力』なのではないか。そんな考えが頭を過ぎった。


一也の様子を窺いつつ、蔵元が

「どうやら、そういう経験があるらしいね」と言った。

腕についた時計を見つめ、蔵元は真奈美に近づく。

「そろそろ、私のスキル『精神乗っ取り』-mind jack-を

披露してあげよう。私も規則性を持たない人間でね。他人依存型の

スキルなんだ」


そして、蔵元が自分のスキルを発動しようとしたところで室内に

銃声が響く。

「な・・に?」

弾丸は蔵元の腹部に命中し、蔵元は血の海に跪いた。汗を滴らせ

苦悶の表情を浮かべる。

「my worldの暴走か・・・」


「蔵元さん!」緋色も普段に見せない慌てぶりで蔵元に駆け寄るが

2発目の銃声が室内に響き、緋色も倒れてしまう。

続けて、銃声が響き、それらは一也・健に放たれたものだった。

しかし、健の反応が良く、一也を抱えて避けることに成功する。

2人は研究機材の物陰に隠れる。


部屋には迷彩服と言った、戦争現場に見られる格好をした人間が

数人存在していた。今までは存在していなかった人間だ。


「これが『脳内投影』・・・?」一也が口を開く。


「らしいな、これはまずい。戦争をなくすどころか

これだと、戦争が拡がる方に行っちまう。とりあえず、チビに

着いてる機材をぶっ壊して助け出そう。この現象が止まる可能性がある」


一也と健は無言で頷き合うと、健は物陰から飛び出した。

当然、部屋に点在する兵隊は健に向けて銃を構える。


「させるか!」

銃を構えた兵士達に向けて、一也が強風を送り込む。

兵士達は風圧に耐えかねて次々へと飛ばされていく。


「おらぁ!!!」

健は真奈美に装着されている機械を破壊し、真奈美を抱きかかえた。

今や、真奈美は戦争の映像プログラム、音を聞かされており、それに

耐えかねて、気を失ってしまっている様子である。

「どうだ、『脳内投影』は止まったか?!」

健が一也に振り向いた時だった。乾いた銃声が響き、弾道は健の

足を貫いた。

「ぐあっ!なんで止まらねぇ!?」

膝からガクっと崩れ落ちる健。


一也の風圧に当てられながらも、兵士達は健に向かって銃で

狙い定め、トリガーを引いた。乾いた銃声がいくつも響き渡る。

健は目を伏せた。抱きかかえている真奈美を守ろうと、強く

抱きしめた。


「健ー!!!!」

一也の悲痛な叫びが轟く。健を庇おうと、銃弾と健の間に

飛び込んだ。




1秒2秒・・・・5秒。一也の身体に痛みが伝わらない。


「あれ・・・?」キョトンした様に一也が口を開く。

周りを見渡すと、兵隊達は消えている。


「あいつらは、どこいった?」健が警戒を解かずに訊いた。


「さぁ、いなくなったな」と一也。

ここで一也は健が自分を見つめていることに気付いた。

「な、なんだよ?」


健が悟ったように口を開く。

「これは『脳内投影』による『脳内投影』の打ち消しとしか思えない」

急に顔を明るくして、真奈美を抱えたまま、一也の肩をバンバンと

力強く叩いた。

「お前のお陰だ、やったな一也!!!」

撃たれた足に痛みがないのか、ピョンピョンと飛び跳ねている。


「なぁ、健、足大丈夫なのか?」


「痛えぇーーー!!!」

建物中に、地下から地上まで健の叫びが届いた。


次のエピローグに話をまとめようと思います。

思いのほか長くなってしまいました。。。

読んでいただき、ありがとうございます!

感想もどんなものでもお待ちしています!!

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