私の世界~前編~
2編に渡っての少し長いやつですけど、読んでくれれば嬉しいです!
「君の夢、精神テスト、脳波・・・それらから調べてみても
既存するスキル持ちの人達とは違うものだね」
初老に入りかけているが、まだ若さの残る男、蔵元重明が言った。
「は~やっぱり、俺はただの人間か~」
肩を落としがっくりする一也。
「スキル持ちって言う方が珍しいのに、何言ってるの」
と、これは月夜だ。
2人は今、氷室グループの所有する研究所の直轄機関の病院に来ている。
一也の希望で自己分析をしてほしいとのことで、月夜が連れてきたのだ。
そして、一也にとって残念な検査結果が報告されたところである。
「いや、でも・・・一也君の検査結果は一般人のそれとも
ちょっと違う結果でね。まだ、何とも言えないっていうのが
正直なところなんだよ」
頭を掻きながら、やや当惑した表情で蔵元が口を開いた。
「って、ことは先生・・・!?」
一気に元気になり、自分の前に座っている蔵元へと身を乗り出す一也。
「普通は精神テスト・夢・脳波と規則性があるものなんだ。もちろん
スキル持ちにも同じことは言えるけど、彼らのそれにはどこかしら
普通じゃない部分がある。普通では見られない規則性がある、ということだ」
「そ、それで・・・?」
と、一也は蔵元の目を真っ直ぐ見て、説明を促す。
眼鏡をかけ直し、手元にある検査結果に再び視線を戻す。
「君の検査結果には規則性という規則性が一切ない。
機械の誤作動と思ったけど、他の患者さんに対しては
いつも通り機能しているし、それはないだろうということになったがね」
蔵元の説明によれば、呪い持ちは『夢のパターン』、『精神テスト』の
結果が基本の人の結果と異なる規則性を示すという。そして、科学的な
能力、超能力をスキルとして持つ人間は『夢のパターン』と
『脳波』が一般人と違った規則性を出すというのだ。
「でも、君の結果は『脳波』『夢』『精神鑑定』の全てにおいて
一切の規則性を持っていなく、一般人のそれとも、スキル持ちの
それとも違ったものになっている」
実に興味有り気だというように、検査結果の用紙に見入る蔵元。
検査結果の用紙を横から見つつ月夜が
「本当にハチャメチャですね、先生」と言った。
冷たい目で一也を見る。
「そうなんだよ、それで私も困ってしまってね」
苦笑を浮かべ、蔵元が言った。
「私は精神現象学をやってきて、あらゆるパターン・規則性を
見てきたが、この手のものは見たことがない」
「じゃあ、先生、俺って何か『スキル』があっても
おかしくないってことですか?!」
「う~ん」と蔵元は唸った後に、
「現状では、その可能性もあるし、そうじゃないかもしれない。
本当に何もわからないってことしか言えないかな」
言葉の後半が否定的なせいもあってか、一也は再びうな垂れる。
「そっか、残念だな」
「ぁ、でも」と蔵元。
「この結果は、どういう適正があるのかを調べるもので
適正があるなしに関わらず、スキルを発現する人はいるよ。
『精神的にどんな現実を望むか』・・・この願望とも言うべき
精神力が強ければ能力は発現すると私は考えている。でも、人間は
深層心理では、自分にストップをかけちゃうからね。だから何でも
というわけにはいかず、1人が持てるスキルは1つまでというのが
とても興味深いところだね」
「そんなことがあるのか~」
と素っ頓狂な声をあげる一也。
「そう。だから私は祓い・超能力は全て
精神が及ぼす精神現象学という括りにまとめることができると
考えているんだ。呪いに関しては、生来その人が持つべきもので、
その人の祖先が、呪いをかけてきた動物に何かしたからだろう、
というのが有力な見解かな」
ここで、一也は蔵元のデスクの上に写真立てがあることに気付いた。
そこには若い蔵元と1人の女性が写っている。女性は蔵元に寄り添う様に
立っている。2人ともとても穏やかな表情をしている。
「先生、その写真って?」
「あんた、何聞いてんの?」と呆れ顔で月夜。
「あぁ、いいんですよ月夜さん。・・・これは私が医者で
まだ、こっちの世界に足を踏み入れてない頃の写真だね。
彼女は当時お付き合いしていた女性だよ」
「まぁ、今は彼女はもういないがね」と、最後に付け加えた。
その時、瞬間的に蔵元の顔が陰ったのを見過ごさなかった一也は
悪いことをした気分になった。蔵元の視線は写真を見ながらも
どこか遠くを見ている様だった。
「それでは、用事もすみましたし、今日はありがとうございました」
「先生ありがとうございます!」
月夜に続き一也もお辞儀をする。
「ん、あぁ、何か気になったらいつでもおいで。君はとても
興味深いからね」
と、一也を見ながら蔵元が言った。続けて、
「月夜さんも、また用事があれば、いつでもどうぞ」
人当たりの好い笑みを浮かべ会釈をする。
2人が蔵元の部屋を出て行くと、蔵元は自分のデスクの引き出しから
あの人物の検査結果書を取り出し、それを一也の物と見比べてみた。
「やはり、同じだ。規則性がないという事も一種の規則性という
判断は間違っていないということか」
蔵元が見比べている一也ともう1人の検査結果書はパターンがなく
どちらもメチャメチャなものであった。自然と笑みがこぼれる。
そこに一本の電話が入った。
「どうした?私だ」
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2人が病院を後にして、帰路を歩いてるところだった。帰るには、街中の
商店街を抜け、少し歩く。その街中と住宅街との間には様々な施設があるのだが、
その1つでとても賑わっているところがあった。
街中を通り抜け、公道が続き、その歩道を歩いている2人。いつもなら
そこまで人出があるわけでもない。なぜなら、街中へと続く道路が
敷設されてるだけで、言わば、通り道でしかないからだ。しかし、この日は
少し違った。ペット連れの人々がやたら多く、1つの施設へと向かっている。
人の賑わいを見ながら
「今日って何かあるのか?」と、一也。
「目的は、あそこらしいわね」
視線で、その場所を月夜が示した。
そこは健と最後に戦った場所で保健所でもある場所だ。門のところには
『動物ふれあい広場』と掲げた立て看板が出ている。幼稚園の学芸会の様な
優しいタッチで描かれていた。
「ちょっと、見ていきましょ」
「って、おい、月夜!」
さっさと行ってしまう月夜を追いつつ、一也も施設内に足を踏み入れる。
月夜の意識は完全に、動物ふれあい広場に向いていた。
施設内には簡易な囲いが設置されており、その中にはたくさんの種類の
犬達が走り回っていた。人もその中に入って一緒に遊べる様になっている。
その囲いの中に一際大きく、身長の高い男が混ざっていた。施設の
スタッフの様であり、腕にはスタッフの人達が付けている印を巻いていた。
その男も、一也達に気付き2人の方へとやってきた。
「よぉ、あの時は世話になったな」と犬神健が言った。
「もしかして、この催し物は健が・・・?」
と、顔を引きつらせながら一也訊いた。
「もちろん俺が施設の人間に頼み込んだ!おれ自身、
犬と遊ぶのは大好きだからな!」
屈託のない眩しい笑顔で答える健。
「行動力はすごいあるな」
「誰にも負けないんじゃないかしら」
一也・月夜の2人は驚きながら言った。
この行動力こそが、健を保健所荒らしに駆り立てたと言ってもいいだろう。
今の健はとても優しい顔つきをしており、活き活きしている。
「俺達は適当に遊んだら帰るから、健は引き続き頑張・・・!?」
一也が言いかけた、その時だった。施設の一角が倒壊し、そこに
胴回りは数メートルはあろうかと言う程の大蛇がいたのだった。
土煙が舞い上がり、下の方は見えないが、全長もかなりの長さだと
推測できる大きさだ。辺り一面パニックに陥っている。
人波とは逆の方向に健が駆け出す。
「あそこにはチビが・・・!」
「け、健!!!」一也が呼んだが、健は振り返ることはなかった。
一也と月夜は顔を見合わせると無言で頷き、健の後を追うのだった。
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時は、一也・月夜の2人が病院を出たところまで遡る。
犬神健は今は保健所で犬のふれあい広場でスタッフとして動いていた。
囲われたケージの中から犬達が逃げたりしないように、また、来訪者と
犬たちが適切なスキンシップを取れるように教えたりする役だ。
小さな女の子の声がした。
「犬のお兄ちゃんっ!」
「お?」
そこには小さな女の子がいる。傍にはダックスことシェリーも一緒だ。
なぜか、シェリーは健の回りをぐるぐるし始める。歓迎しているのだろうか。
「あの時のチビッコか!」と、頭をくしゃくしゃしてやった。
ぐるぐる回るシェリーも撫でてやる。
「チビッコじゃないよ、真奈美だよ!」と、ぷーっと頬を膨らませ
ご機嫌ななめの反論する。
一緒にシェリーも「うー!!」と唸りだす。完璧なコンビである。
「はは、わるいわるい」と頭を掻きながら謝る。ここで健は
今日の自分の立場を思い出した。
「俺はやることあるから、ちょっと行って来る。今日はたくさん
遊んでいけよ~!」
健の最大の失敗は真奈美を独りにしてしまったことだった。
見られているということに気付く筈もなく、健は真奈美から離れてしまった。
健と真奈美を見張る人間が保健所内に2人いた。休憩所にて
休んでいる様である。1人は赤茶の髪をしている女性で無表情で
その女性は誰かに電話をかけている最中だった。
「ターゲットを発見しました。もう少し様子を見ますか?
・・・・・。了解しました。それでは」
事務的な口調で話しつつ、電話を終わらせると
「暗くなるまで待て、らしいわ」
と、告げた。
告げた相手は誰かと言うと、この女性の前の休憩用の椅子に
座っている男性である。華奢な身体つきをしており、一也達の通う
学校の制服を着ている。肌は白く、眼光はするどい。
「こんな、簡単な仕事、今やっちまおうぜ」
不機嫌そうに、窓の外にいるターゲットを見ながら言った。
「・・・!ほら、ちょうどでかい奴もどっかいったぜ?
それじゃ、さてと」
そう言い、立ち上がると徐々に肌の色が変わり始めた。まず目が
爬虫類の持つそれになり、口が耳の辺りまで裂け始め、牙を覗かせていた。
斑模様が浮かび上がってきて、縦に縦にどんどん大きくなる。
それに伴い胴回りまでもが太くなっていった。
「・・・?!」
身の危険を察知した女は、音速とも言うべき速度で遠ざかった。
残像を引きつつ、距離を取った直後に、呪いを解放した『それ』の
大きさに耐えれる筈もなく、建物の一角、休憩室の辺りは残骸と化した。
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遠目から見ても、その大きさはわかってるつもりだったが、遥かに想像を
越える巨大さだった。健が真奈美の元に到達した時には、大蛇は真奈美に
顔を寄せ、大きく口を開いているところだった。真奈美はシェリーを抱きしめ
恐怖でその場にへたり込んでいる。
「チビ!」
すかさず、超俊足で近づき、大蛇の顔に右拳を叩き込む。
皮膚が硬く、殴った健にもダメージがきてしまった。
殴られた大蛇の瞳が気味悪く動き、健に向けされた。
「んだ?てめーはっ!!!」
尻尾を健へと叩きつける。衝撃で地鳴りが轟いた。
素早く、真奈美を抱きかかえ、遠くへと跳ねる。
「ここにいろ」と、下ろし、怯えている真奈美を元気付けようと
頭をぽんぽんっと叩いてあげた。優しさを込めて。
「お前、喋れるってことは呪い持ちの人間だな?」
大蛇に訊いた。
大蛇は蛇独特のシュラララという音と発しつつ顔を上げ
数メートルの位置から健を見下ろす。
「ったりめーだろうが!呪い持ちじゃなかったら何なんだ?
俺は蛇狩巧、よろしく・・・な!!」
すかさず、尻尾を健目掛けて横薙ぎに振る。しかし、避けるのは容易く
空中に高く飛んで避けた。そのまま、着地すると再び跳躍する。しかし
今度は大蛇の頭へ向けて飛んでいた。
「もう1発お見舞いしてやるよ!」
そう言うと、右拳を強く握り締めて思い切り大蛇の顔へ向けて
叩き込んだ。いや、正確には叩き込もうとした、だった。
当たったかと思われた直前、大蛇は俊敏な動作で、身体を横へとずらしていた。
「当たるか、馬鹿がっ!!」
大蛇は避けると少しの遅延もなく、滞空中の健を大きな口で咥えた。
健はそのまま、地面へと叩きつけられた。
「がっはっ!」
肺から空気が抜け、一瞬目の前が白くなった。呼吸するのが
難しくなり、息遣いが荒くなる。起き上がろうとした時に周りが
黒い影に覆われたことに気付いた。次の瞬間、大蛇の尻尾が
振り下ろされる。それが何度も続き、地面は健を中心にへこみ
始めていた。服はボロボロになり、土埃が舞い上がっている。
「そろそろいいだろう」
甚振るのを楽しんだ大蛇が健を真上から覗き込む。
「くっそ・・・」
健は多大な打撃を受けながらも、意識はしっかりと保っていた。
「!?まだ気があんのか・・・なら、大人しく眠れ!」
牙から毒をしたらせながら、健に噛み付こうとした。
「な・・んだ?」
その瞬間金縛りにあったかのように、大蛇は動けなくなり。少しずつ
その巨体は空中へと持ち上がっていく。
「こ、これ以上、犬のおにいちゃんをイジメないで!」
泣きじゃくりながら、真奈美が言った。
(喋れねぇ?!身体がバラバラになりそうだ・・・!
あらゆる場所へと引っ張られてる!)
大蛇は苦悶の表情を、その瞳で表している。
(このガキがぁぁぁああ!!)
「きゃっ!」
真奈美の鼻と口元にハンカチを押し付ける女の姿が、そこにはあった。
先程、休憩室で巧と一緒にいた女だった。
すーすー、と規則正しい寝息を立て真奈美は眠らされてしまった様だ。
それと同時に大蛇を縛っていた不可視の力も解け、巧は呪いの力を封印する。
「っち!ガキが!」悪態をつく巧。
「油断しているから、こうなる」と、事務的な口調で女。
何とか起き上がり、立ち上がった健が呟く。
「チ、チビ・・・!」
まだ呼吸が荒く、また身体のそこら中青あざが出来ていた。
「健ー!!!!」
一也の叫び声がした。
「誰か来る、退きましょう」
女がそう言うと突風が吹き、その風に乗って真奈美を抱えた女と巧は
飛んでいってしまった。
遅れて一也・月夜がやってくると、目の前には見ていられない程に
痛々しい姿になった健の姿があった。
「大丈夫か、健!!!」
2人は健に駆け寄る。
息も絶え絶えに健が口を開く。
「チビが、連れてかれた。助け出す・・・!」
そう言うと、その身体のダメージからは信じられない程の跳躍を見せ、
真奈美が連れて行かれた方へと飛び出したのだった。しかし、それは
明らかにぎこちない動きで、無理をしていることが誰にでもわかる
動きだった。シェリーの悲しそうな鳴き声が響いていた。
次で、この話は完結します。よんでくださり、ありがとうございます!!