祓い屋編
呪い・祓い・科学の3すくみの1つ祓い屋なる人間を登場させました!
気が向けば読んでいってくださいね。
「夏休み明けに行われるクラス対抗風船割り大会のために合宿をしますっ!!」
夏季休業間近のホームルームの時間、学級委員の神谷凪の可愛らしい声が
教室中に響いた。軽快な雰囲気なので、黒いショートヘアーがとてもよく
似合っている。身振り手振りを加えつつ、
「しかし、まだ合宿予定地の下見等をしていません」
と語尾に行くにつれて落胆していくのがわかる声音で言った。
話の流れ的に下見メンバーを決めるためのホームルームだろうと
一也の直感が告げた。
「はぁ、面倒だな~」
「駄目だよ、そんなこと言っちゃ。聞こえちゃうよ!」
ヒソヒソ話をする一也と光。すぐ後ろの光にしか聞こえない程度の音量で
喋った筈なのだが凪にはしっかりと聞こえていた様だった。
一也・光をジーっと直視している。
「それで、合宿予定地の下見に行く人を選びたいんだけど・・・
楠君!おねがいしてもいい?もちろん私も行きます!」
顔をしかめつつ、苦笑しながら一也が言った。
「えっと・・・おれ?」
「是非、出来ればお願いしたいな!」と間髪入れずに凪。
「一也、諦めな。応援してるよ」
光は自分には火の粉が降りかからなかったのを良い事にニコニコしながら
一也の肩をポンッと叩く。
落胆の意を表し、うな垂れる一也の姿がそこにはあった。
ここで悪魔の策を思いつく。ニヤリと笑みを浮かべ、その笑みは
光に向けられていた。
「か、一也?」
光が不安そうに問う。次の瞬間、一也が元気良く手を上げた。
「なぁ、神谷、光も一緒に行きたいらしいんだけど、駄目か?」
「もちろん良いよ!人多いと楽しいもんね!」
すぐさま、OKの返事が返ってきた。続けて、
「紺野君、よろしくね!」
ニコニコ笑顔を伴った凪スマイルに光は断る事等出来る筈もなかったのである。
「う、うん、よろしく」
先程の一也の様にガックリしながら、光が答えた。
これとは真逆に一也は笑いながら、
「はっはっは、よろしくな、光!」
と、先程の光の様にポンッと光の肩を叩いた。
「安心しなさい、聞いた限り合宿予定地はそんな酷いところじゃないわ」
近くに座る月夜が一也と光に言った。一也・光は月夜の言葉に
顔を見合わせたが、これは後々わかることになる。
こうして、一也・光のこの土日の予定は決まったのだった。
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土曜日、朝10時に駅に3人は集合した。
電車に揺られて1時間、バスに乗ること30分、合宿予定地に着く。
天気も晴れていて、文句のつけようがない。街中からも離れており
空気も澄んでいて、緑も多い場所だった。「猫の森総合運動センター」
それが3人が下見としてやってきた合宿予定地の名前だ。
「えっと、ここはテニスコートからゴルフ温泉プールetcと
あらゆる運動を満喫できるように造られている施設です・・・」
パンフレットを読みながら、凪が説明する。
「それにしても、ひっろい場所だね~」
「うひゃー」と光が楽しそうに言った。
一也がくたびれつつも
「広すぎだろ!なんで駐車場から施設まで、こんな歩かなきゃ
いけないんだよ!しかも、見ろよ、あっちで森削って敷地広げるためか
まだ工事の跡あるじゃん!!まだ広くすんのかよ!」
と声を上げた。
3人は受付を済ませ、泊まる予定の3階の部屋に着く。建物の中身は
なかなか綺麗で、時間かけてやってきただけの甲斐はあるものだった。
部屋はと言うと、簡易なユニットバスに、ベッドがあるだけの
質素なものだったが、壁紙は白く綺麗で、ベランダに通じる大きな引き戸からは
太陽の光が降り注ぎ、とても開放的な雰囲気をかもしだしている。どこか
清潔感も漂っていて、シンプルにまとめた、という感じの部屋だった。
「「「おおおぉぉぉ~!!!」」」
3人揃って驚きの声を上げた。合宿予定地、それも学校の行事のためのもの、
となると、あまり良い場所のイメージは受けないが、そんなことはなかった。
良い意味で3人の期待を裏切った。
「こんな場所なら、俺はいくらでも下見隊やれるぜ!」
と、はしゃぎ始める一也。来る前とは大違いだった。
「でも、本当に良い施設だよね~。もっと劣悪な場所だと
思ってたよ!僕はウォータースライダーなんかで遊びたい!」
年甲斐もなく、ベッドの上で飛び跳ねながら言った。飛び跳ねている
感じからすると、結構フカフカそうなベッドだった。
「私もこんな場所だと思ってなかったわ。パンフレット詐欺とか
有り得る場所だと思ってたのに・・・」
ポカンと口を開けている凪。1番驚いている様であった。
ベランダに出て、辺りを見回しながら
「文句なしで、ここに決定でいいわね。それにしてもうちの学校と
こんな良い施設が提携してるってのが驚きだわ」
と凪。
「学校の理事って月夜ちゃんのお祖父さんとかじゃなかったっけ?
来る前に調べたけど、この施設も月夜ちゃんのお父さんとこの会社に
関連があったんだよ」
ふわふわベッドに横になりつつ、光が凪に説明をした。
「あいつの家って、でかいけど、やっぱすごいんだな。
あの言葉にはそういう意味があったのか」
改めて、氷室家の財力の凄まじさを認識する一也。
「それにしても」
ベランダに出て窓の外を眺める。
「敷地を広げるための、あの工事現場だけはリアルだな」
肩をすくめながら一也が言った。
「本当ね、あそこだけ現実的」
ベランダから森を見下ろす凪が言った。尚も続ける。
「あそこの工事現場には噂があって・・・」
語尾に行くにつれて、声が小さくなっていき全部は聞こえなかった。
「よし、施設探検に行こうぜ!」
と、現実から凪を引き戻すべく、一也。
顔を一気に明るくし、凪が賛同した。頷いた時ショートヘアーが
太陽の光を反射しつつ煌びやかに揺れた。
「うん、そうしよっか!」
「僕はいいや~、ふわふわしてたい~」
1名、ふかふかに負けてダウン。半ば夢見心地な光だった。
目は閉じかけで、とても幸せそうな表情をしている。
「まぁ、しょうがねぇか」と一也、凪の2人は部屋を出て、まずは
グラウンドに向かった。
社会人チームだろうか、グラウンドで練習している人達がいた。
一也は広いグラウンドを見渡しながら、
「グラウンドも広いし、しっかり整備されてんな~」
感嘆の声をあげる。その時だった。
「あぶなーーーい!!!」
社会人チームの方から声がした。
「・・・!!楠君っ!」
「ん?」
一也が上を見上げると、白い球が一也に目掛けて、綺麗な放物線を
描いて迫ってきていた。
「おわっ!」
両手でボールを防ごうとした。しかし、ボールは通常なら放物線を
描き、一也に直撃する筈だったのだが当たる直前で真下に落下した。
ボールはバウンドすることなく、地面に落ちる、というより吸い寄せられると
そのまま静止した。磁石に引き付けられたかのような動きだった。
「あ、あれ・・・?何だ、今の?」
一也が呟く。
「ごめんね、当たらなくて良かった!」
と社会人チームの1人がやって来てボールを拾って行ってしまった。
目の前で起こった不思議な現象に凪は首を傾げる。
「楠君のスキル?・・・スキル持ちだったの?」
首を横にぶんぶんと振る一也。
「いやいや、まさか!俺は生まれついての一般人だよ!」
2人のやり取りを見てる少年がいた。ただただ、じーっと見ている。
つば付きの帽子をかぶっていて、ハッキリとはわからないが
年の瀬は14~15位だろうか。光も幼く見えるが、それ以上に
子供っぽい顔つきをしている。気になり、和也が声をかける。
「なぁ、もしかして、今助けてくれたりとか~したのか?」
頭の後ろをかきながら一也が言った。
少年は何も言わずに、落ちてる石を拾った。そして、一也に歩み寄り
その石を一也に手渡す。その瞳が悪戯に光っていたのだが、
一也は知る由もなかった。
「ん、この石がどうかしたのか・・・!!!」
驚愕した。質量と重量が見合っていない石で、とてつもなく重い。
左手も使い、右手首を持ち必死に堪える一也。
「楠君?何してるの・・・?」
と訝しげに凪が聞いた。とても、不安そうな顔をしており
「この人は何してるの?」と言わんばかりの表情をしている。
それと同時に一也達に背を向け走り出す少年。と同時に勢い余って
帽子を落としていった。だが、振り返らず走り続ける少年。
「ぁ、待て、少年!!」
追い駆けようとするが、あまりの重さに重心を動かすことすらできない。
尚も、凪は挙動不審な一也を見つめている。本当はボールに当たって
どこか頭を打ったんじゃないかと考えていそうだった。
少年が遠くまで行くと、石は嘘のように軽くなり、何ともなくなった。
「え・・?」
一也は凪に不審人物に思われたままいるのが嫌だったので、説明しつつ
その石を凪に渡した。しかし、既に、軽くなっており、見た目通りの
重さになっているのではあるが。
「どうだ、重いか?」
眉根を寄せ、怪訝そうに凪は一也を見つめた。何も言わないで
一也から数歩後ずさる。
「なんでだあああああ!!」
一也の絶叫が施設内に響いた。落としていった帽子を一也は拾い上げると
帽子には森屋港と書かれていた。
「森屋港・・・か」
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悪戯少年の帽子を落し物係りに届け、その後は
施設の下見を兼ね、色々歩き回っているうちに夜になった。歩き疲れた2人は
部屋に戻り、感想を言い合っていた。充実した施設で、公共の施設なのだが、
どの年齢層にも楽しめるようなレジャー施設となっていた。
時間をかけてやってきただけはあるな、と思い、
「それにしても、すごい所だな!これなら合宿に反対するやつなんか
1人もでねぇよ!」
ご機嫌そうに一也が言った。
楽しそうに頷きながら
「うん、これなら大丈夫そうね!」
満足気に凪が答える。
部屋は真っ暗で、月の淡い光が差し込んでいた。ベッドでは光がすやすや寝ている。
たまに、むにゃむにゃしていて、観察のし甲斐がありそうだった。
呆れ顔で和也が口を開いた。
「こいつは土日を睡眠時間に使うやつなのか?」
昔から付き合いのある奴だが、ここまで寝るやつだとは知らなかった。
寝ている光の顔を見ながら、
「本当によく寝る子ね~。割には小さいけど」
もはや、その声音には感心の意が込められており、クスっと笑いながら
凪が言った。今は「よしよし」と撫でている。まるで小動物の様な扱いである。
程なくして、お互いの寝床につき、寝るようにした2人。
「楠君、今回は一緒に来てくれてありがとうね」
光を挟んで向こうに寝ている凪が一也に言った。
「俺は正直、楽しかったから、ありがとうはこっちの台詞だな」
「ありがとな」と一也は付け加える。
それを聞いて安心したのか、
「下見メンバーの話し合いの時、楠君・紺野君が行きたくてお喋りしてたのか
行きたくなくてお喋りしてたのかわからなくって・・・でも結局、楠君を
指名しちゃったんだけどね」
と、冗談めかして言った。
内心焦りながらも
「俺と光は行きたくてひそひそしてたんだよ!だから安心して
いいぜ!」
寝ながらにして、手振りを付け加えて返事をする一也。
「そっか、良かった。おやすみ!」
「あぁ、おやすみ」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・
・
(寝れねぇ!!!気分が高まってダメだ!!!)
「おやすみ」を言ってからどれくらい経っただろうか、一也はまだ
眠れないでいた。その隣のベッドでは光が爆睡の最中である。
すると、光の向こう側でごそごそと音がした。
(ん?神谷か?)
聴覚だけを頼りに探ろうとしていると、その音の主はベッドを出て
部屋からも出ていった様だった。静かに扉を閉め、出て行く音。廊下からは
コツンコツンと足音が遠ざかって行く音がしていた。
一也は起き上がり、寝ているであろう凪に声をかける。
「神谷、神谷!いるか?」
返事がなかったので、光のベッドを飛び越え、凪の寝ている場所まで
向かう。途中、光の手を踏んづけて、「うー!!」という唸りが
聞こえてきたが、気にしないことにする。
「神谷・・・?」
凪の姿はそこにはなかった。
(今しがた出て行ったのが神谷?こんな時間にどうしたんだ)
時刻は深夜1時を指しているところだった。
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部屋を出た足音を追跡していくと、ベランダから見下ろせる、あの工事現場に
辿り着いた。そこで凪らしき人物を見失ってしまい、一也は辺りを見回した。
森がざわめき、それと同時に一也の目の前にあったショベルカーが宙に
浮き始めた。ふわふわとしている。
「え・・・?」
マズイ、というような表情を浮かべる。
それは一也に向けて水平に飛んできた。意味があるはずもないが
反射的に両腕を出し、防御の体勢を取る。
しかし、それは当たる前直前に、直角に地面に叩きつけられたのだった。
まるで、昼間の野球ボールが一也に当たる前に地面に吸い寄せられた様な
光景だった。
「お?」
まだ、終わりではなかった。次々と工事現場にある機材や切られた木が
一也に殺到する。そのどれもが、一也を中心に一定の距離まで近づくと
次々と地面に落ちていく。水平に飛んでいたものが直角に落ちるという
不自然な動きだった。しかし、この現象に一也自身は気付いていない。
「もう、なんだってんだよー!!」
腕でガードしながら叫ぶ一也。その声に、全ての物体は動きを止めた。
「昼間のとろい兄ちゃん?」
木の陰から男の子が出てきた。声音からして、男だろうと推測できた。
一也は月光の下に出てきたこの男の子に見覚えがあった。昼間の
野球ボールと石の少年だ。確か名前は森屋港。
「これはお前の仕業かー!??」
和也が怒鳴り散らす。
港は顔をしかめつつ
「違うよ、これは森を削る人間への神様の怒りだよ」
と、森に対して特別な思いがある様に言った。
「はあぁ?!これがお前の仕業なら昼間のボールも石も
説明がつくんだよ!」
勢いの止むことの知らない一也。
「だーかーらー、森の神様が森を護ろうとしてるんだって!」
「それは、お前の意見なんじゃねぇの!?」
と、一也は反論する。
港は面倒そうに溜め息をついた。
「小さい頃からここで遊んできたんだ。動物だってたくさんいるし。
もう誰の意見でもいいよ、森がなくならなければさ」
「なるほど、そういうことだったのね」
一也の後方には凪の姿があった。声のトーンや口調は変わらないが
どこかいつもと違う雰囲気を漂わせている。
「ぉ、神谷!」
「あんた誰?」
一也と港が同時に言った。凪は一也には軽く手を振って応えると、
視線は港へと向けた。
「工事現場にて森の神様を演じて怪奇現象を起こしていたのは
君だよね?森屋港クン?」
「なっ、誰だよ、お前!!」
港の口調からは動揺しているのが窺えた。
「ここの施設から解呪の依頼を受けた祓い屋の者よ~」
と手を振りながら、ニコっと答える凪。
驚きを表しながら
「神谷、そんな事情もあってここ来てたのか」
一也が口を開いた。
「ごめんね、隠してて。でも学校とこれとは別物だったし・・・
だから、こうして夜にひっそりと行おうと思ってさ」
手を合わせて、凪はごめんねをしていた。
「くっそ!」
港は隙を窺って逃げようと走りだした。
しかし、ガクンと動きが止まってしまう。
「な・・んだこれ」
今や、港の動きはギコチなくなっている。油の足りないブリキの
ロボットの様な動きだ。今にもギギギと聞こえてきそうである。
凪が微笑んでいるのがわかり、港は近くに転がっていた木を凪へと
突進させた。
「仕組みはわからないけど昼間のボールにも同じことをしたのね
・・・なるほど」
自分に向かってくる木を見ながら、余裕を見せつつ言った。
「神谷、危ない!」
一也が叫んだ。しかし、その心配は無用だった様である。
凪に木が当たる前に木は空中で動きを止めた。今の港と
同じようにギシギシとした動きになっている。
「ふふっ、残念ね」
「まだだ!!」
港はショベルカー・木・トラックという工事現場にあるあらゆる
機材を宙に浮かせた。先程、一也が浴びた倍の数があり、それらが
空中を彷徨っている。ポルターガイストさながらの現象だった。
「その年で、こんなに沢山操れるのね・・・!」
予想していなかったのか、驚きを隠さない凪。
「これならわけわかんねー細工もできねぇだろ!
食らえ!!」
港の言葉を合図に全ての物体は凪に目掛けて殺到した。どれもが
対象目掛けて一直線に飛んでいるのがわかる軌道だった。
しかし、そのどれもが空中でその動きを止めてしまった。不自然に
空中で留まっている。
ここで、港はあることに気付く。
「お前の、その足元のやつは何だよ!!?」
と、荒々しく叫んだ。
「あら?暗くて月明かり程度じゃ見えてなかったかしら?」
一也も宙に浮かぶ物体に目を取られていて、全然気付いていなかった。
凪の足元からは通常じゃ有り得ないほどの影があらゆる方向に伸びていた。
むしろ影が出来すぎていて凪を中心に地面は真っ黒になっていた。
そして、宙に浮かぶショベルカー・機材道具・木の影と言った、宙を舞う
あらゆる物体の影が地面の影に繋がっていたのである。
「影ある物は『影法師』からは逃れられないわ」
凪が、そういうと港の体は凪の方へとズルズルと動き始めた。
引きずられているところを見ると、港の意思は
一切関係ない様だった。
「くっそー!!」
港の言葉に呼応するかのごとく、地面が揺れ始めた。森がざわめき
視界がぶれる。しかし、それもピタリと程なくして止まった。
「な、なんで・・・?!」
狼狽しきった港の声がした。
「地面全体に港君のスキルをかけようとしたんでしょうけど、
無駄よ」
地面全体には蜘蛛の巣状に影が張り巡らされていた。凪を中心に
とてつもない広さで影は広がっている。
「昼間のボール、機材の浮遊・・・そして一也君が重いって言った石。
総合すると、港君のスキルは超能力系統の重力操作ね?」
今や、目の前まで連れて来られた港に人差し指を向け、
自分の推理を披露する凪。今ではうな垂れうつむき加減な港。
港が口を開く。
「これは・・・」
「『反重力』だ!!」
と、自分で死角となっている背後から凪へと木を飛ばす。
が、地面から出てきた、人型の影に後頭部を殴られ、港は意識を失った。
その瞬間、浮遊していた全ての物体は全て地面に落ち、騒然とした。
辺りに夜の静寂が戻ると、
「これで任務完了ね」
凪の明るい声がした。
緊張が解け、大きく深呼吸をする一也。
「スキル持ちじゃない俺には刺激が強すぎる」
首を傾げつつ、
「あれ?楠君も同じようなスキル持ちなんじゃないの?
私が出て行く前にいくつも物体を叩き落してたでしょ?」
と、尋ねた。
「い~や、生憎俺にあるのは打たれ強さだけなんだよ」
苦笑しつつ、一也が答える。
2人はそのまま施設の人間に港を引き渡し、部屋に戻って寝た。
事情を知る一也としては港が可愛そうな気もしたが、こればかりは
しょうがないことだと踏ん切りをつけた。後々の話になるが、
港は強く怒られただけで済んだという。月夜の配慮があったとか
なかったとか・・・。
一也・凪も部屋に戻り完全に眠ってしまった頃。
先程まで、港vs凪が行われていた工事現場に人影があった。
赤茶の髪に若干パーマがかったミディアムヘアーの女性である。
誰かと電話しているのか声が聞こえてくる。
「えぇ、凪が上手くクリアしました。問題はなさそうです」
電話を終えると、女はその場を後にした。
読んでくれて、どうもです!
今後も気が向けば書いていきたいと思います。