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犬神編

人vs人。まだ、主要人物と言ったスキル持ちの能力は隠してます。

主役も同じく謎めいたやつってことにしてます。

科学が発達し幽霊・妖怪・呪い・超能力と言った非科学的とされていた存在が

認められるようにった時代。世界では、人とそれ以外の種族の垣根も

取り払われつつある。不思議生き物(未発見動物)も次々に発見され

世界の発展は留まることを知らない。それに伴い犯罪の多種・多様化。

過激思想の増加等マイナス面も増えている。それでも世界は

呪われし者・祓う者・超能力者の3種の力によって均衡を保っていた。

これらの能力を有する人々をスキル持ちと言い、このスキル持ちの人達が

織り成す物語。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



深夜1時すぎ人の気配はなく、ケージに入れられた犬達も眠りについていた。

彼らは数日後にはガス室行きが決まっている。もちろん里親が現れれば話は別だが

そういった事例は珍しいし、犬や猫が殺処分されている現状は事実である。

と、犬達が突如起き始め、ケージの中でくるくる回ったり、吠えたりしだした。


哀れみの視線でケージを見つめる人物が一人いた。

「てめーらの勝手で捨てやがって・・・」


腕を振り上げ、人間離れした速度で振り下ろす。ケージについていた鍵を破壊し

犬がケージから出てきた。金色の綺麗な毛の色をしたゴールデンレトリーバー。

前足を下げお尻を上げて、尻尾を振っている。『遊んでよ!』の合図だ。


男は首を傾げた。

「毛並みも綺麗だし血統だし、なんでここにいるんだ?

それにしてものん気なもんだ」

と、男はその犬を撫でてやった。


次々にケージの鍵を破壊し、犬達を出していく。全てのケージを壊すのに

幸いにも時間はかからなかった。男は全ての犬を解き放ってやると、

保健所から出た。満月の綺麗な夜で男は月に向かって咆哮し施設を後にした。

犬達もそれに倣って吠えると男の後に続いた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






日も沈み、暗くなってしまっていた下校途中を2人の人間が走っている。

一人は逃げ、一人は追う側である。楠一也は迫り来る発電マシンから必死に

逃げているところだった。年齢が上がるたびに能力も強くなっていき今では

発電マシンこと紺野光の静電気はとても危険なのだ。もはや、『静電気』

なる程度では済む威力ではない。


「ねぇ!頼むよ、新しいスキルの使い方わかったんだ!試させてよ!!」


そう言いながら、いつものニコニコしたあどけない表情で追ってくる。

その瞳は悪戯に輝いており、とても楽しそうである。

表情と言葉のミスマッチ感に一也は逃げながらもブルっときた。


「もはや、『静』電気じゃないだろうが!俺で実験すんなー!!!」


逃げながらも気づくとある建物の敷地内に入り込んでいたようで広い

敷地内を駆け抜け建物の正面玄関まで辿り着いてしまっていた。

振り返ると、光の放った電流が空気中をほとばしりながら向かってきている。


「ぎゃあああああああああああす」


パリパリと大気中で電流が光っており、一也に直撃したことを示していた。

へなへなっと一也はへたり込む。

起き上がろうとすると、目をきらきら輝かせた男の子が立っていた。

満面の笑みを浮かべている。この表情から察するとどうやら実験は

大成功らしい。一也が起き上がるのを待ち、起き上がったところで、


「どうだった?」


「充分効いたわ!!!」


と必死に一也が抗議し、「まぁまぁ」と両手でなだめている光。

建物の押し開き式の扉が開き、暗い建物から人が出てきた。

恐らく男だろう。その後にはたくさんの犬が続いている。


「なんで人がいるんだ」

と呟いた。


一也は慌てふためきながらも、必死に言葉を探す。

「いぇ、すみません、迷い込んじゃった様で・・・」

光も後に続き、

「そうなんです、ちょっと追いかけっこしてたら、迷い込んじゃって!

健全な高校生はもう帰りますね!!あはは」

と、2人が踵を返し、その場を後にしようとした時だった。


重く低い声が人気のない敷地内に響いた。

「待て、見られたからにはこのままは返せないな」


2人は振り返り一也が弁明しようとした。

「俺達、何もしてないし、見てま・・・・あれ?」

語尾まで言うことができなかった。その目の前のものに驚き、

上手く言葉を発することができなかったのである。


一気に顔から血の気が引いた。今までいたはずの男の姿はそこにはなく、

代わりに堂々たる体躯をした狼が立っていた。2足歩行で1歩ずつ2人に

歩み寄ってくる。口元からは時折発達した牙が覗き、

狼独特の呼吸音が聞こえてくる。月の光に照らされた銀色の毛並みが

とても良く映えていた。


唾を飲み込み光がかすれる声で呟く。

「スキル持ち・・・狼男」


狼男は腕を横薙ぎに放った。光は後方に退くことで避けることに成功したが

一也は間に合わず数メートル吹き飛ばされた。


「一也!!」

光のらしくもない声音で叫んだ。


「大丈夫、腕で少しは守れた・・・それよりっ!!!」

と、一也は苦笑いで返す。


狼男は一也を一瞥すると、目の前の光をじろりと見下ろし腕を振り上げる。

瞬間、光は狼男に対して腕を振り払い、電気をぶつけようとした。


「お前もスキル持ち、か」


そう言うと、恐ろしい反射神経で電撃を回避すると卓越した跳躍で

光の後ろに跳びそこから素早く手刀を繰り出そうとしていた。


「止めろーー!!!!!」


一也の叫びと同時に、狼男の傍に落雷が起こった。空からはゴロゴロと

竜の低いうなり声にも似た音が轟いている。

先ほどとは変わり月は隠れ、今にも雨が降ってきそうな曇天が広がっていた。


狼男は空を見上げると、鼻を鳴らし

「運が良かったな、お前・・・お前もな」

と、光と一也に言い放ち、そのまますさまじい跳躍を見せつけ

その場から去っていった。

一也と光も急いで場を離れ、何とか事無きを得たのだった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





次の日は授業中も昨晩のことで頭がいっぱいだった。同じクラスの光は何事も

なかったかのように爆睡している。チャイムが鳴り、その日1日の授業が終える。

帰りの支度をし机の中の物を鞄に移す。用意が終わり立ち上がると光が立っていた。


「昨日のことなんだけど!」


テンションが高く、今まで寝てた奴とは思えない。一也は返事をする。


「ん、どうかしたか?」


「・・・ニュースになってた。あそこは保健所でさ、ほら・・・

たくさん犬もいたでしょ?」


「わけわかんねー生き物もいたけどな」


うんうん、と頷く光。光は話を続ける。


「ここ連日での保健所における、犬の大量失踪事件。僕達は、その現場に

出くわしちゃったってことだよ」


一也は首を傾げた。何か考えている様だ。


「えっと、つまり・・・?」


光は一也の鈍さに溜め息をついた。あからさまなオーバーな溜め息だ。


「つまり、あれが一連の事件の犯人だったってことだよ!!」


と同時に机をバンっと勢いよく叩く。とても興奮している様である。


「まぁまぁ、落ち着け。でもそうなると、あいつは何で

あんな事してるんだろうな?」


「それは・・・僕も考え中だよ」


2人があれこえ考えて話し合っているところに、突如、明るい声がした。


「2人揃って何やってるの?あたしも混ぜてもらうわ!」


一也、光の視線の先には同じクラスの氷室月夜がいた。

若干茶色がかった綺麗で女の子らしい長い髪、整った顔立ちという

パーフェクト美人な事からクラス、学年中からの憧れの的となっている存在である。

見た目と裏腹に性格は奇抜なやつなのだが、幼馴染の一也と光しか知らない。

事の詳細を話すと、先ほどよりも明るい声で玲は提案した。


「じゃあ、今晩あたし達でそいつを待ち伏せしましょう!!」


「えぇ、危ないよ!」

光が抗議するが、全く聞かない月夜。


有無を言わさず、一也・光は女の子のそれとは思えない力で月夜によって

連行されてしまったのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「それにしても、どこの保健所も警備すごかったね~。」

光の平和な声。「うんうん」と頷く一也。


「連日ニュースになってるし、こんなもんでしょ」

と、月夜が不機嫌ながらに答えた。


3人は放課後に適当に時間を潰すこともなく、警備が施されていない

無警戒の保健所を探すまでに相当の時間が掛かった。それにより

歩き疲れてしまったのか、月夜は若干機嫌が悪い。


「でも、時間潰せたお陰でこんな時間になったんだし、良かったろ」

溜め息まじりに一也が言った。


今、保健所の庭園の垣根の根元で3人は身を潜めていた。保健所の

入り口も見える位置で待ち伏せするにはうってつけの場所だった。


「それにしても、ヤツはいつ現れるのよ・・・」

不機嫌を通りこし、キレかけの声で月夜が呟く。


月夜の機嫌悪くなると、当り散らされるのはいつものパターンで行けば

一也だ。何か機嫌を良くしようと、一也が考えているところに、人影が

保健所の入り口に向かって歩いていっているのが窺えた。


「あっ」

1番に気付いた光が声をあげた。それに倣って2人も光の見ている方向に

視線を投げかけた。


目を細めつつ、一也が呟く。

「なぁ、あれって違くないか?」


「普通の女の子ね、ぜんっぜん関係なさそうだわ」

キッパリと月夜が言い切った。闇夜にも関係なく自信の篭った言い方だ。


女の子がか細い声で何か言っている様である。

「すみませ~ん・・・誰かいませんか~?」


その声に反応するかのように、保健所の扉が開いて中から体格の良い

長身の人間が出てきた。後ろにはたくさんの犬が続いている。

背格好からして、昨夜に一也、光が遭遇した男だ。


「ねぇ、あれって・・・」

光が身を一層とかがめながら言った。


「あぁ、背格好はあいつだな」

と、一也が答えた。


「あいつ、なのね」

月夜が気分を高揚させながら言った。傍目に見ても楽しそうなのが

はっきりとわかる。


「さ、行くわよ!」

月夜がいきり立ったところで、一也が制止の声を発した。

「ん、ちょっと待った!」


「なによ?」


光も一也に続き、提案する。

「様子がおかしいよ、ちょっと見てから行かない?」


女の子の声がする。声に活気が出て明るくなった様である。

「あの、その後ろの・・・!」


男は目の前にいた小さな女の子にたった今気付いたのか

「あ?なんだ、お前は?」

と、言った。

一也・光と会った時と違い、相手が少女だからか警戒はしていない

様子であった。呪いも発動させていない。


「そこにいる、小さなダックス・・・私のなの。」

と、男の後ろに控える犬達の1番先頭の犬を指差し言った。


「シェリー、おいで!」

保健所にやってきた頃とは調子がすっかり変わり、とても明るくなっていた。

シェリーは女の子の回りをくるくる楽しそうに走っている。


この光景を目にして、男は口元を優しく綻ばせつつ、

「逃がしでもしちまったのか?大事にしてやれよ」


「うん!ありがとう!」

と元気に女の子が言った。


男がその場を去ろうとした時、月夜は飛び出していた。

「見つけたわよ!連続保健所荒らし犬脱走犯っ!!」

と、男に向かって指差した。


一也と光はネーミングセンスには触れないことにした。


男の顔から一気に先程の優しさが消え、眉根を寄せつつ

「ぁ?お前は誰だ?」


月夜を追い駆けてやってきた、2人の姿を見て男は呟いた。

「そういうことか」


光が口を開く。

「今のやりとり見て思ったけど・・・でもやっぱり、君のしてることは

悪いことだよ」


男は鼻で笑いながら、

「鳥・猿・イノシシ・クマだって野生にいるんだ。

捨てられた犬達を野生に返して・・・自由を与えて何が悪いんだ?」


言い終わると、地面を足で強く蹴り、一也・光・月夜に向かって

一直線に突撃してくる。そのまま右手で3人に急襲をかけたのに対し、

月夜が軽々と片手で受け止めた。


「あたしが叩きのめしてもいいけど・・・」

そう言いつつ、月夜は横目で保健所の敷地への入り口、門の方を見た。

「警備会社の人が来そうね、そっちを止めるわ」

と、受け止めた手を払い、そのまま門の方へと向かっていった。


男は月夜の後姿を目にしながら、

「あの女は何なんだ、なんで俺の力を受けきれた・・・?」

独白するように呟いた。


「月夜も何かしらのスキル持ちだしなぁ、教えてくれないけど」

一也が肩をすくめながら言った。


その言葉で男は一也・光の存在に改めて気付いた。

「で、お前らは俺をどうするんだ?捕まえて警察に渡すか?」


「やっぱり、いけないことだし、見過ごせないよ」

光が戦闘態勢に入る。


一也も頭をかきながら

「不本意ながら参戦する」

と光に続いた。


「じゃあ、しょうがねぇな・・・」

と、数メートルの距離を無視するかのような速さで

男は一也に殴りかかった。


しかし、解ってたかの様に綺麗に身を後方に退くことで上手く避けた。

「こういうのは慣れてるし、読めればな」


その回避に合わせて、男は次なる一撃を左拳で突き出した。それをも上手く

後退しながらやり過ごす。しかし、そのまま男が突きのラッシュを一也に

浴びせ続け、終に一也が捌き切れなくなった一撃を放った。

体勢的にも確実に入る一発だった。男が口元に不敵な笑みを浮かべた。


「おいおい、これは、ちょっとマズイんじゃ・・・」

焦りを口にする一也。


突如、大気が光り輝き、閃光が男に向かって走った。


「っち」


一也に決まる筈の一撃だった手を引き、身を翻すことで

閃光、光の放った電気の弾を上手く受け流した。

男の標的が光に変換される。俊足で距離を縮めると、右手を振り上げ

光に振り下ろす。横に跳び、かわす。回避しながらも、光は男の視線が

自分に向けられていることに気付いた。それも、男は不気味に笑って

いたのである。

男の腕は、そのまま、光のいたであろう場所の地面を穿った。


「もう電気はチャージしてある、食らえ!!」


そう言って、電気弾を撃つモーションに入った時、光に

土が飛んできた。男が地面を穿った時に土を握り、それを

光に投げつけていたのだった。

電気弾の対象設定をしくじり、それは男の丁度横側に逸れて、

地面に吸収された。と、ほぼ同時に光は、かすれる視界の端に

男が迫り来る姿を捉えた。その瞬間、体に重い衝撃が走り

吹き飛ばされてしまったのだった。


「光ーー!!」

意識を失う前、光が最後に聞いたのは一也の叫びだった。


「さて、まず1人。お前は少しは耐えられるか?」

「くっく」と含み笑いをしながら視線を一也に向ける。


「安心しろ、俺がてめーをぶっとばしてやるからよ」


この台詞を聞いて、急に大笑いし始める男。

「はぁあ?呪い開放してない俺に防戦一方じゃねぇかよ!

あんまり、調子に乗ってんじゃねぇ!!」


「呪い解放して、100%の力で来てくれてもいいぜ?」


「小さい女の子の前だ。怖がらせることが・・・できるか!!」


言い終えると、一也に向かって急襲を仕掛ける。

腕を十字に構え、受けようとした一也だが、男の突きが当たる直前で

一也を中心とする、半円の電気の壁が発生し、それが男の攻撃を退けた。


(光の電気か・・・?)

内心、一也は考えたが、この考えは即座に否定された。

光は今や、吹き飛ばされ横たわっており、完全に意識も飛んでいる。

それ程の一撃を直撃で受けてしまったのだから、超能力を使える筈もない。


「今のは焦ったな~、お前もヤツと同じで電気が使えんのか?」

痺れた腕を振りながら、男が言った。まだどこか口調からは余裕が

窺える言い方だった。


「あんまり、調子乗ると黒コゲにすんぞ!

わかったら、大人しく・・・って、おい!」

一也のハッタリ作戦も虚しく男は皆まで聞かずに再び襲い掛かった。


「あのバリア程度のか弱い電気なら、ビリって来るって

知ってれば、怯むこともねぇんだよ!!」

と、電気の防壁を厭わない突きのラッシュを浴びせる。何とか突きを

捌き切る一也に対して、男は何度も電気の壁から電気を受けている筈だが

本当に効いていない様で、構わず攻撃している。


(防戦一方じゃ駄目だ、俺にも光と同じ能力があるなら・・・!)


一也は男に大振りの一撃を誘い、男の体制が若干崩れたところで一気に

後方に退き、男に向かってコンダクターの様に腕を振り下ろす。

男のすぐ傍に電気の柱が降り注ぎ、地面の土を舞い上げた。


「イメージと大分違う・・・。いや、これはこれでチャンスか!」

そう言うと、巻き上がった土埃を利用し、一也は男の後ろに回りこんだ。


「なかなか高威力じゃねぇか・・・。ん?あぁ、そういうことか」

男は嘲笑いながら、尚も続ける。

「狼の嗅覚を舐めるなよ?・・・バレバレなんだよ!!」

振り向きざまに一也のいる位置に的確な右ストレートを放つ。


距離的にも高さ的にも、確実に一也の顔に命中している筈だった。

しかし、その一撃は虚しく空を切った。


「お前、単純すぎ」

その言葉と同時に一也は右ストレートを放った男とすれ違う様にして

背後に回り込みつつ、男の首の後ろに肘鉄を打った。

直撃を受け、男は倒れこむ。同時に土埃も収まり始め、視界が

はっきりとしてきた。


「流石に気絶してんだろ~」

と、安心する一也。


「く、くそっ・・・」

男は力気なく、起き上がったが、一也の方に向き直ると再び倒れこむ。

呼吸音も荒くなっていた。


「おいおい、もう観念しろ。普通、人間なら気絶モノだぞ?」

と、苦笑いを浮かべながら一也が言った。


「ふん、生憎、この状態でも少しは呪いの力を解放出来てるんでな」


「まだやるってんなら、さっきの一撃を直にお見舞いするぜ?」

脅し半分ならぬ、脅し100%で言った一也だったが、これに対して

思わぬところから横槍が入った。


「駄目だよ!このお兄ちゃんはシェリーを返してくれたんだからっ!」

先程の女の子が手を広げ、男と一也の間に立ちふさがった。「キッ!」と

一也を睨みつけている・・・つもりだろうが迫力がない。その隣で

小さなダックスことシェリーも「ウー!!」と一緒に唸っている。


「おいおい、大丈夫、もう何もしないよ」

と一也なりの精一杯の笑顔で応対し、和睦の証に手を差し伸べたところで

体が一切動かなくなった。


「あ、あれ・・・?」

悪寒が背中を走る。何か見えない力で一切の動きを抑圧されて

口以外が動かない。

女の子は一也の差し伸べられた手に気付き、

「仲直りの握手できる?」

と、子供独特の口調で言った。


そして、一気に一也に掛かっていた見えない力が解除され、今までが

嘘のように動けるようになった。一瞬の出来事で、今のが一也の

思い過ごしかどうかもわからなかった。しかし、動ける現実が今は

ある。


「おい、起きろ、仲直りの握手だってさ」

一也が仰向けに倒れている男に手を差し出す。


反応がない。


「ねぇ、犬のおにいちゃん・・・?」

女の子が心配そうに男の顔を覗きこんだ。

一也も一緒になって、見てみる。

「あ~、大丈夫。息もしてるし、お兄ちゃん寝ちゃってるんだよ!」

女の子を安心させる事を言う一也。


そこに丁度良く、月夜が戻ってきた。男が地面を穿った跡や

光や一也の落とした電撃の跡を見て「ふ~ん」と言うと

「あたしの出番はなしか」

と呟く。


残念そうに一也が口を開く。

「いや、こいつあいつ運ぶの手伝ってくれよ」



そうして、一也・女の子・男と光を引きずる月夜は、その場を後にした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


男・・・犬神健はベッドの上で目を覚ました。並んだベッドには見覚えの

あるようなないような男の子が寝ている。とても幼く見える顔立ちだった。

急に、寝ている健の上に、ぬっと顔が現れた。


「おわぁっ!!」


一気に退く健。それに対してジト目を向ける月夜。


「図体はでかいくせに、肝っ玉は小さいのね。同じ学校の犬神健君?」


「あぁ!てめぇは!!?」

健は全て思い出した、昨夜こいつら3人組と争った事、最後に体中が

動かなくなり、そのまま気を失ってしまったこと。そして・・・


「なんでお前は俺の名前を知ってんだ!?」

言った瞬間、健は襟元を月夜に鷲掴みにされ、ぐいっと引き寄せられた。

「朝から、うるさいのよ。少し静かにしなさいよ」

健の知っている女の子像が、そこにはなかった。らしくもなく

迫力に負け、静かになる健。

「あ、あぁ、悪い・・・」

襟元を掴んでいた手から解放される。


「財布の中身の学生帳見せてもらったわ」

悪気もなく月夜が言った。


「はぁぁぁああ!!?」


この一声は月夜の睨みで瞬殺された。


「今は一也も光も眠ってるわ。あんたは運んでもらったあたしに

感謝しなさい」

窓際で椅子に座りながら器用に眠る一也を見ながら月夜が言った。


「これに懲りて、今後はあんなことは止めるべきね。あたし達が

止めたから良かったけど、他の人に知られてたら捕まってるわよ」


「悪い事なのはわかってたけど・・・どうも抑えが効かなくてな。

犬とか猫は悪くないのに、たくさん処分されるのが嫌だったんだ。

でも、飼うこともできないし・・・。」


溜め息まじりに月夜が口を開く。

「もっと違う方法で人に呼びかけることは考えなかったの?

何もやる前に、方法たくさんあるでしょ」


子供が拗ねた様に不機嫌そうに健が

「・・・思いつかなかった」


月夜の大きく溜め息をつく。


「あれ、そいつ起きたの?」

と、欠伸をし両腕を伸ばしながら一也。


「あれ~、ここは?」

これは光。


一也・光は揃って健に視線を向けた。

「よぉ、起きたか」

「あー!!君はっ!!」

落ち着いている一也に対して、慌てる光。


月夜が話の経緯を2人に説明すると、和也が口を開いた。

「そういう、保健所の動物と触れ合う交流会とか開けばいいじゃん」


腕を組みながら光も

「確か・・・そういう交流会ってたまにあるよね。頻度がどれ位か

とか、規模がどの程度かとかは知らないけど」


「そ、そうなのか!?そういうのあるのか!??」

目を見開きながら健が言った。


「・・・普通あるわよ」

健のテンションとは真逆に呆れながら月夜がぼやく。


「うん、あるよ。ただ回数とか規模がわからないから。こういうのって

ボランティアでやってみてもいいんじゃないかな?」

光が何気ない提案をする。


「よし、俺が絶対それを広めるし、実行してやる!!!」

一気に勢いつく健。


にっこりした満面の笑顔を健に向けながら

「そういうことなら俺達も協力してやるぜ?健」

一也が言った。


「あぁ、是非頼む!」




こうして連日賑わせていた保健所荒らしのニュースはパッタリと

世間的には静かに幕を閉じた。しかし、この4人にとっては

パッタリとではなかったかもしれない。




犬神編-完

前から書いてみたくて書いてみちゃいました!

それにしても書くのって楽しいですね~

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