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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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わたくしは辺境で魔法を得る~魔力量は凄いのに魔法が使えないからと捨てられましたが、初恋は決して諦めません~

作者: 赤林檎
掲載日:2026/03/22

 侯爵令嬢ヴァレリーは、初恋の相手であり婚約者の王太子イザークに捨てられた。


 イザークは、王立学園で出会った男爵令嬢ニコルを愛してしまったのだ。


 ヴァレリーが漆黒の髪や夜空の色の瞳を持つのに対し――。


 ニコルは華やかなピンクブロンドの髪とエメラルドグリーンの瞳を持っていた。


 イザークは『ヴァレリーが魔力量は多いが魔法を一切使えないこと』を突破口として、ヴァレリーとの婚約を破棄した。


 これまでは、王族の妻は、家柄に加え、魔力量を重視して決めてきた。


 だが、イザークは、「魔法が使えないならば、魔力の量がどれだけあっても意味がないだろう」と言い出したのである。


 人々はイザークの言うとおりだと思った。


 ヴァレリーの両親や兄弟ですら、イザークの言葉に納得した。


 さらに、イザークは治癒魔法の使えるニコルを『聖女』などと呼んで愛でた。


 そのニコルが、予言めいた言葉を吐く。


「いずれヴァレリー様は内なる魔王を解き放ち、この国を滅ぼしてしまうわ」


 人々はヴァレリーの黒髪や暗い瞳の色に、邪悪なものを見るようになった。


 国王や王妃ですらも、ヴァレリーに疑いの目を向けるようになった。


 そして――。


 王立学園の卒業パーティーで、ヴァレリーはイザークとの婚約を破棄された。


 その場ですぐに、ヴァレリーには辺境伯の妻となるよう王命が下された。


 辺境伯ジル・グラビスは七五歳。子はいない。


 辺境伯家の老執事にも、子や孫はない。


 辺境騎士団の騎士団長にも、副団長にも、最強の騎士にも、心から愛する妻がいた。


 ◆


 ヴァレリーと辺境伯との初夜。


 ヴァレリーは古風な夜着を着て、寝台に座っていた。


 辺境伯はだいぶ夜が更けてから、夫婦の寝室に入ってきた。ロマンスグレーの髪をきっちり撫でつけ、騎士の儀礼服を身につけ、腰に剣を佩いて――。


「辺境伯閣下」


 ヴァレリーは驚きながら夫を呼んだ。


「我が妻よ……」


 辺境伯は辛そうな笑みを浮かべた。


「はい」


 ヴァレリーは困惑しつつ辺境伯を見ていた。


「私はこの国を守る『辺境の処刑人』と呼ばれて久しい。だが……、その二つ名は、隣国への威嚇のためのものであると信じていた」


 辺境伯の目から、涙がこぼれ落ちた。


「閣下……」


「我が最愛の妻が亡くなる時も、私は戦場にいた。この国への忠義があったからだ。私は国王陛下と王妃殿下、民たちを守るという使命を果たした。妻を看取ることもせずに……」


 辺境伯は顔をうつむけた。その目からは、さらに涙があふれた。


「辺境伯閣下の献身に、我が感謝を捧げます」


 ヴァレリーは寝台から下り、ひざまずいた。


「その私が……、若い娘への刑罰と見なされるとはな……。これほどの屈辱はない……。あるいは……、若く美しい娘を娶れば、私がさらに多くの敵を殺すだろうと思われたのか……?」


 辺境伯は昏い目をして、王都のある方向をにらんだ。


「閣下……、閣下、申し訳ありません」


 ヴァレリーはその場に伏して、辺境伯に詫びた。


 辺境伯はヴァレリーの憐れな姿を見て、さらに涙を流した。


「私のこの国への献身は、ここまでにさせていただく。そのまま伏せていなさい」


 辺境伯は剣を抜き、その場で己の首を切り、果てた。


 ヴァレリーは辺境伯に這い寄り、血に塗れた身体を抱いた。


 ――辺境伯ジル・グラビス。


『辺境の処刑人』と呼ばれた、火炎魔法の名手。


 ヴァレリーはその血を啜ることで、火炎魔法を手に入れた。


 ◆


 王宮が燃えていた。


 女辺境伯ヴァレリー・グラビスは、辺境騎士団を従えて王都へと攻め上り、ついに謁見の間へと到達した。


 辺境伯ジル・グラビスの弔い合戦である。辺境騎士団には、命を惜しむ者など一人としていなかった。


 謁見の間には、国王と王妃、王太子イザーク、イザークと婚約したニコルがいた。


 辺境騎士団の騎士団長は、国王と王妃を切り捨てると、彼の剣の主であったジル・グラビスの跡を追った。


「ヴァレリー様にお供できるのは……、ここまでです……」


 騎士団長は死の間際に、ヴァレリーに剣を渡した。


 数多の敵国の兵、辺境伯ジル・グラビス、国王と王妃、辺境騎士団の騎士団長の血を吸った剣だった。


 ヴァレリーの前に、イザークとニコルが連れて来られた。


「貴様! なにが辺境伯の弔い合戦だ!」


 イザークが顔を歪めて叫んだ。


「みんなを、みんなを、どうか許してあげて……!」


 ニコルは悲劇のヒロインを演じて、ヴァレリーを追い詰めようとした。


 ヴァレリーの怒りの炎が、謁見の間に下げられている赤い飾り布を灰に変える。


「魔法が……、使えるようになったのか……?」


 イザークが問いかけると、ヴァレリーは美しい笑顔で「はい」と答えた。


 莫大な魔力量を誇る女が、『辺境の処刑人』が使った火炎魔法をその身に宿し、王都に帰還した。


 イザークには、その意味がわからなかった。


「なんで……!? どうやって……!? 嘘でしょ……!?」


 ニコルは暴れたが、騎士たちの腕力の前では無意味だった。


「知りたい?」


 ヴァレリーは剣でニコルの頬を軽く叩いた。


「ひぃっ」


 ニコルが小さく悲鳴を上げる。


「辺境伯ジル・グラビス閣下の血をこの身に浴びて、わたくしはかの方の魔法を得たの」


 ヴァレリーは笑った。声を上げて笑った。


 狂気を含んだ笑い声を上げながら、手に持った剣でニコルを処刑した。


 辺境伯ジル・グラビスは、この剣でこの国の敵を討ってきた。


 女辺境伯ヴァレリー・グラビスもまた、『辺境の処刑人』として、国賊ニコルを討ったのだ。


「イザーク様」


「ニコル……! 貴様……! なんということを……!」


 イザークはヴァレリーに吹雪や氷塊を放った。


 だが、それらはすべて、激しい炎に呑まれて消えた。


「命乞いをなさいませ」


 ヴァレリーはイザークにも剣を向けた。


「なん……だと……?」


「生き延びたくば、わたくしに許しを乞えと申し上げたのです」


「クソッ」


 イザークは吐き捨てると、両脇にいる騎士の腕をふり払った。


「そう……、それでいいのです」


 ヴァレリーは満足げにほほ笑んだ。


 イザークはヴァレリーの前でひざまずき、両手を掲げる。


「ヴァレリー……、君を愛している。我が妻になってほしい」


「もちろんですわ、イザーク様。わたくしは今も純潔のまま、イザーク様だけを愛しております」


 ヴァレリーは剣を投げ捨て、イザークに右手を差し出す。


 イザークはその手をとると、指先に口づけを落とした。


 回り道もしたけれど、ヴァレリーは初恋の相手を手に入れた。


 ヴァレリーの歓喜は炎となり、二人のそばに転がるニコルの亡骸を焼き尽くした。


「幸せになりましょうね、イザーク様。それこそが、一番の復讐だと聞きましたわ」


 ヴァレリーの復讐は、まだ終わらない――。

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― 新着の感想 ―
結婚が罰って普通に屈辱ですよね。 聖女の予言は正しかったかもしれないけど、人のプライドを踏みにじったはがりにやべえ女にヤバい能力が備わっちゃった因果応報に。狂乱のヒロインの今後も相まって続きが気にな…
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