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連立離脱します!〜公明党、与党から抜けて日本の足を引っ張る立憲と共に自爆します〜

作者: 地獄巡 春
掲載日:2026/02/09

妻の顔は、半分しか残っていなかった。


冷たく固まった手を握った。握り返してこない。もう、二度と。


「どうしてこうなった」


公明党代表、斉藤鉄夫は呟いた。息子も、孫も、もういない。


-----


きっかけは些細なことだった。


二〇二五年十月、高市早苗が第百四代内閣総理大臣に就任した。憲政史上初の女性首相。自民党総裁選の決選投票で小泉進次郎を一八五対一五六で下し、維新との連立で「決断と前進の内閣」を発足させた。


片山さつきを財務大臣に据えて積極財政へ舵を切り、小泉進次郎を防衛大臣に起用した。防衛費のGDP比二パーセントを二年前倒しで達成すると所信表明で明言した。国家情報局の創設、スパイ防止法の制定。安全保障関連三文書の前倒し改定。


日本が、変わろうとしていた。


私はそのすべてにおいて……足を引っ張った。


連立政権合意に盛り込まれた外国代理人登録法。これが成立すれば、大陸から流れる資金の動きが白日の下に晒される。献金の出所が可視化される。それだけは防がなければならなかった。


だから私は公明党を自民党の内側に置き続けた。二十六年間続いた連立の座を利用し、与党の中から法案を骨抜きにし、予算を削り、審議を遅らせた。


憲法改正の議論が始まれば慎重論を唱え、防衛費の増額案が出れば財源問題を持ち出し、スパイ防止法には「国民の権利が侵害される」と声を上げた。十一月、党首討論で高市が「速やかに法案を策定する」と宣言しても、公明は内部から抵抗し続けた。


表向きは良識の府。実態は……


-----


二〇二六年四月。


台湾近郊での中国軍の軍事演習中、両軍に衝突が起きた。中国海警船が台湾海軍の巡視艇に体当たりしたのだ。


火は瞬く間に燃え広がった。


台中関係は目に見えて悪化した。中国国家主席は低迷する国内の支持率を反転させるべく、情報操作で世論を味方につけた。愛国心という名の火種を全土にばらまいた。


そして公明党及び大陸からの献金を受けたマスメディア各社は、この衝突を大した事案ではないように報じた。


台湾海峡の緊張は連日高まっていた。米国のトランプ大統領は内向き志向を強め、太平洋の向こう側への関心を失いつつあった。それでもなお、テレビのワイドショーは芸能人のスキャンダルを追いかけていた。


「どうしてこうなった」


憲法改正を潰した。防衛予算の足を引っ張った。スパイ防止法を骨抜きにした。


献金と議員報酬。それさえ受け取れれば、それで良かった。


-----


台湾で起こった爆炎は、隣国の日本にまで火の粉を運んだ。


最初の火の粉は九州に降った。


与那国島の自衛隊駐屯地が真っ先に標的となった。続いて佐世保、岩国。中国軍は台湾侵攻と同時に、南西諸島への制圧作戦を展開した。自律型AIを搭載した無人ドローンが数万単位で空を覆い、ウクライナ戦争で実戦データを蓄積し進化した新型の精密誘導弾が降り注いだ。


日本の装備とは、比較にならなかった。


防衛予算はGDP比二パーセントに届いていなかった。私が……公明党が……与党の内部から削り続けたからだ。インテリジェンス機能の強化も、対外情報庁の創設も、すべて「時期尚早」の四文字で葬った。


開戦から七十二時間で南西諸島の制空権は完全に奪われた。中国軍のAIドローンは自律的に目標を識別し、迎撃システムを飽和攻撃で突破した。陸上自衛隊の対空ミサイルは数が足りなかった。


同盟国との情報共有体制も穴だらけだった。ファイブ・アイズへの参加を打診しながら、スパイ防止法の不在を理由に機密情報の共有を制限されていた。敵の動きを読めなかった。


そして第三国のロシアが、この機会を逃すまいと動いた。北方領土に駐留軍を増強し、北海道への進軍を開始した。


日本が、二つの方向から燃え始めた。


そしてアメリカからの支援は……なかった。


-----


戦火の広がる速度は圧倒的だった。


五月。東京にも火の粉が届いた。


個別に埋葬するには、死体が積み上がりすぎた。国会議員である自分の家族でさえ、個別に埋葬してあげられないほどに。


逃げ遅れたのだ。国会議事堂で対応に追われていた午後、老齢の妻は一人で自宅にいた。敵のミサイルとドローンが都心に数万単位で降り注いだとき、避難する足はもう残っていなかった。


迎撃できたのは、そのうちの三割にも満たなかった。


……国民など知らない。愚かな群衆だ。私とは関係のない生物の暮らしが苦しくなろうと、どうでもいい。税金など知った事ではない。愚か者の年収なんてたかが知れてる。愚か者は愚か者らしく、少ない額でその日暮らしをして慎ましく生きれば良いのだ。私には家族と孫を守るだけの財力がある。私は選ばれた人間なのだ。


……守れる、はずだった。


妻の手の冷たさに、ハッとした。あまりの現実に、現実逃避をしてしまっていた。


守りたい者は、もう……。


「……どうしてこうなった」


何度となく、妻の手を握りながら呟いた。流す涙はない。私の決断が私の妻を殺した。誰に泣いて詫びればよいのか。


-----


その時だった。


『戻らせてあげましょうか?』


不意に、幼い子供の声が聞こえた。


幻聴だろうか。願望から妄想をしてしまったに違いない。ここには自衛隊の方と私、そして死体。それだけしかいない。


『戻らせてあげましょうか?』


声が聞こえる。確かに聞こえる。


私は悲しみでおかしくなってしまったのだろう。悲しむ資格など、ない。政治的失策をあまりに多く犯した。献金をくれる相手の言いなりになった。欲に目が眩んだのだ。


戻れない。私のせいだ。小さな選択の積み重ねが、妻と子供と孫を殺した。


『戻らせてあげましょうか?』


なんなんだ、この声は。戻れるわけがないだろう。日本の防衛力を削ぎ、情報機関の設立を妨害し、スパイ防止法を潰した。その結果が、この焦土だ。


何度も何度も、幻聴が繰り返される。


「……戻れるのなら、戻るに決まっているだろう。もう、戻れない。妻には、もう……会えない」


妻の手を握ったまま、本音が溢れた。


『戻らせてあげましょう』


幻聴の台詞が……変わった。


その瞬間、あまりに強い光が斉藤の目に入った。車のハイビームを至近距離で浴びせられたかのような、白い光。


眩しさに目を閉じた。


再び目を開けた、そこには……。


-----


二〇二五年、九月七日。


テレビの画面に石破茂首相が映っていた。退陣を表明する記者会見。トランプ関税への対応、防災庁の設立、賃上げ……次の首相への課題を語っている。


見慣れた永田町の風景。崩壊していない国会議事堂。空にドローンの影はない。


斉藤鉄夫は、自分の手を見た。


血は付いていない。


皺はある。だが、あの瓦礫の中で握りしめた妻の冷たい手の感触が……まだ、残っている。


スマートフォンの日付を確認する。二〇二五年九月七日。テレビでは石破首相が、トランプ関税への対応と防災庁の設立を次の首相への課題として挙げている。


七ヶ月前。すべてが始まる前。


総裁選が始まる。高市早苗、小泉進次郎、林芳正、茂木敏充、小林鷹之。五人が立候補するはずだ。そして十月四日、麻生太郎の票回しを決定打に、決選投票で高市が勝つ。


斉藤は知っている。すべてを、知っている。


高市内閣が発足し、維新と組み、防衛費の増額とスパイ防止法の制定に動く。あの未来では、自分がそのすべてを内側から妨害した。


だが……もう一つの道がある。


自分から離れればいい。


公明党を自民党との連立から外す。内側からの妨害をやめる。それだけではない。野党に回り、高市内閣の邪魔をする勢力そのものを弱体化させる。


立憲民主党。あの党と組めば……道連れにできる。


自ら野党に落ち、立憲と合流し、選挙で共に大敗する。公明の組織票を立憲に流し込んだように見せかけて、実際には立憲の地盤を食い荒らす。水と油を混ぜれば、どちらも使い物にならなくなる。


その間に高市内閣は防衛費を積み増し、安保三文書を改定し、対外情報庁を創設し、スパイ防止法を成立させる。衆院で三分の二を取れば、憲法改正の発議すら可能になる。


二〇二六年四月に来るあの日までに……間に合わせなければならない。


妻を。家族を。この国を。守るために。


-----


斉藤は動き始めた。


二〇二五年十月。公明党は自民党との連立を解消した。


表向きの理由は裏金問題をめぐる意見の食い違い。二十六年間の連立にピリオドを打ったと報じられ、政界は騒然となった。


十一月。「中道改革」の旗を掲げた。現実的な外交・防衛政策と憲法改正、政治改革と選挙制度改革の五本柱。


斉藤は知っている。この五本柱が立憲民主党の野田佳彦を引き寄せる餌になることを。かつて新進党で行動を共にした野田は、中道路線に弱い。「高市政権で右に傾く路線が多い」と語る野田は、必ず食いつく。


十二月。高市政権はスパイ防止法の検討に本格着手した。木原稔官房長官が「外国からの不当な干渉を防止する意義は極めて大きい」と記者会見で述べた。自民党のインテリジェンス戦略本部は小林鷹之政調会長のもと、国家情報局の創設と外国代理人登録法の具体案を詰めていく。


……いい。このまま進め。私が邪魔をしなければ、すべてが動く。


二〇二六年一月十五日。野田と斉藤は国会内で会談し、新党結成で合意した。


一月十六日。新党名は「中道改革連合」。略称は「中道」。シンボルカラーは青。


斉藤は記者会見で語った。


「分断と対立が続く世界の中にあって、国際協調主義、そして近隣の国々とも対話できる、友好関係を保つ。日本の経済の安定と平和を保っていくということが中道だ」


……すべて嘘だ。


一月十九日、綱領と基本政策を発表。「生活者ファースト」を掲げ、食料品消費税ゼロ、ベーシックサービスの拡充を打ち出した。


一月二十二日、結党大会。立憲から百四十四人、公明から二十一人の計百六十五人が参加。一次公認として二百二十七人の名簿を発表した。


「政界再編のうねりにつなげていきたい」と野田が気勢を上げた。


……再編ではない。これは野党の自殺だ。


一月二十三日。高市首相は通常国会冒頭で衆議院を解散した。電撃解散。「中道」が浸透する時間を与えないための、完璧なタイミング。


……知っていた。こうなることを。いや、こうなるように仕向けた。


一月二十七日、公示。二月八日、投開票。


-----


二〇二六年、二月八日。大雪の予報が出ていた投開票日。期日前投票は過去最多の二千七百一万人を記録した。


深夜、全議席が確定した。


自由民主党……三百十六議席。


戦後最多。単独で衆議院の三分の二にあたる三百十議席を超えた。一つの政党がこの数字を叩き出したのは、戦後初めてだった。一都三十県の小選挙区で自民が議席を独占した。


日本維新の会……三十六議席。与党合計三百五十二。


中道改革連合……四十九議席。


公示前の百六十七から三分の一以下に崩壊した。立候補者二百三十六人のうち、当選できた割合はわずか二〇・七パーセント。


安住淳、共同幹事長。落選。小沢一郎。落選。岡田克也、比例重複なし。議席喪失。枝野幸男。落選。玄葉光一郎。落選。長妻昭。落選。


立憲民主党の看板だった大物たちが、次々と消えた。


野田佳彦は開票センターで「万死に値する」と述べ、辞任を示唆した。


だが……公明出身の候補者に限って見れば、二十八人全員が当選していた。二〇二四年の前回衆院選で公明党として獲得した二十四議席を四議席上回る結果だ。


……計算通りだ。


公明の組織票は健在だった。創価学会の結束力は揺るがない。だが立憲の地盤は公明との野合に有権者が失望し、溶けて流れた。「数合わせ」という批判は狙い通りに機能した。水と油は、混ざらない。


ネットには「公明高笑い」「公明は議席増!?」「公明の作戦勝ちだろ」という書き込みが溢れた。


……作戦勝ち。その通りだ。ただし、目的はお前たちが想像するものとは違う。


-----


二月九日未明。全議席が確定した後、斉藤は一人、議員会館の自室に戻った。


窓の外には東京の夜景が広がっている。崩壊していない。燃えていない。ビルの明かりが静かに瞬いている。


スマートフォンの画面にはニュースの通知が並んでいた。


「自民316議席、歴史的圧勝」

「中道惨敗、野田氏辞任へ」

「参政党・チームみらい躍進」


斉藤は目を閉じた。


衆院の三分の二。参院で法案が否決されても衆院で再可決できる。憲法改正の発議が可能になった。


スパイ防止法が成立する。国家情報局が創設される。対外情報庁が動き出す。安保三文書が改定される。防衛費は確実にGDP比二パーセントに届く。ファイブ・アイズとの情報共有体制が強化され、中国への抑止力が確実に高まる。


……そして、南鳥島。


あの未来では、誰もがレアアースを中国から買い続けるしかないと思い込んでいた。依存は自覚されながら放置され、いざ有事になれば半導体も電子部品も枯渇した。


だが今、日本は南鳥島沖の海底でレアアースを自分の手で掘り始めている。まだ試掘だ。商業生産は二〇二八年以降。それでも……「自分で掘るカード」を切ったという事実は、この国の交渉力を根本から変える。


中国はそれを見ている。レアアース輸出規制を「一年間停止」してみせた。解禁ではない。カードを握ったまま、引き出しにしまい込んだだけだ。来年の十一月になれば、いつでも引き抜ける。


表では互いに強硬な言葉を投げ合い、裏ではレアアースと半導体と観光客の数字を睨み合って、仕方なく対等のふりを続けている。……あの未来の「一方的に殴られる関係」とは、少しずつ、確実にずれ始めている。


まだ足りない。だが、方向は合っている。


あと二ヶ月。二〇二六年四月に来るあの日に……今度は、間に合う。


あの未来の記憶が蘇る。冷たくなった妻の手。半分しか残っていない顔。数万単位で降り注ぐドローン。焦土と化した東京。


もう……あの未来には行かせない。


高市早苗。あなたの邪魔はもう、しない。


防衛費を積め。スパイ防止法を通せ。対外情報庁を作れ。国家情報局で情報を統合しろ。憲法を改正しろ。


全部やれ。この国を、守るために。


私の妻が笑って暮らせる未来のために。


「……どうしてこうなった、とは、もう言わせない」


斉藤鉄夫は、誰にも聞こえない声でそう呟いた。


窓の外の東京は、静かに朝を待っていた。


本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

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