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予測不能のVRゲーマー、スキル模写とバグ技で死のゲーム〈アークマギア〉を規格外に生き残る  作者: 甲賀流


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第7話


 俺たちはさっそく、目的地であるガチャ神殿の前まで到着した。


 ここはかつてアークスで「イベント広場」と呼ばれていたが、そのちょうど中央に明らか不自然な黒いドーム状の建造物が堂々と佇んでいた。


 石造りの階段を登った先、開けた広場の中心だ。


 丸みを帯びたその外観は、近未来建築のようで、街のレトロな雰囲気とは明らかに異なる。


 まるで、後で取ってつけたような。


 そんな違和感が俺の中に存在する。


「……よし、入るか」


 隣の三人は、無言で頷いた。


 静かな同意。

 その重さが、この場の緊張を物語っていた。


 俺は手を伸ばし、黒い扉に触れる。


 カシャンッ。


 鉄と石が噛み合うような音。

 直後、空中にバシュッと何かが展開されるような感覚が広がった。


〈ガチャ神殿へようこそ〉



 目の前に現れたのは、巨大な光のウィンドウ。

 画面いっぱいに広がるその文言に、皆が目を見開いた。


「……わ、わあ……っ」


 思わず漏れたシュエナの声は、戸惑いと恐れが混じっているようだった。

 

 そして次々と文字が浮かび上がってくる。

 

〈所持チケットまたは現金によって、レアアイテムを獲得できます〉


【利用規約】

・本施設では、ガチャチケットまたは現金を使用したアイテム召喚が行えます

・現金ガチャは、一回10万円、および一回100万円、の2種類をご用意しています

・ガチャの内容は内部で確認可能です


「ひゃ、ひゃくまんえん……っ!? ゲームなのに、そんな額……」


 シュエナが胸元を押さえるようにして小さく震えていた。


「さすがに高すぎだろ……」


 レイジが喉を鳴らす。


 だが、俺はむしろ合点がいった。

 あれだけの現金配布が行われた理由を。


 つまり、ゲーム内で使えということだ。


 もしかして運営は『命を賭ける対価』として、現金を与え、それを使わせる意図があるんじゃないか。


 ただの遊びじゃなく、生きるか死ぬかの選択を迫る賭博性。


 もしそれを見て楽しんでいるんだとすれば、相当性格の悪い奴らだ。


 なんて憶測が脳によぎる。

 

「……とりあえず、中に入ろうか」


 カズの言葉で、俺たちは神殿の中へと足を踏み入れた。


 中は神聖な雰囲気に包まれていた。


 ドーム状の天井からは柔らかな光が差し込み、中心には巨大な水晶の柱。


 左右には、直径三メートルはある水色の球体と金色の球体がそれぞれ宙に浮いている。


「……なんだこれ?」


 まず俺たちは水晶の柱に近づくと、目の前にガチャの一覧が浮かび上がった。


 

【チケットガチャ ラインナップ】

・HP増強ポーション

・ランダム防具(初級)

・ランダムアクセサリー(初級)

・スキルブック【体力向上】

・スキルブック【集中力】

・ステータス強化チップ

・限定アバター「エルフ風衣装」

……他、全500種類


【現金ガチャ:10万円】

・レア防具(中級)

・スキルブック【武技系】

・ユニークアクセサリー

・MP回復薬(大)×5

・一時的なバフアイテム

・限定称号「課金者の証」

……他、全400種類


【現金ガチャ:100万円】

・★3武器確定

・スキルブック【奥義系】

・装備強化石(高確率)

・属性耐性指輪(高性能)

・特殊召喚石(?)

・称号「先駆者」

……他、全30種類


 ←チケットガチャ

 →現金ガチャ


「な、なんだこのラインナップ。チケットとはレベルが違いすぎるぞ……」


 レイジが呟いた。


「とりあえず、チケットから引いてみるかい?」


 カズの意見はもっとも。

 まずはある物から使わないと。


 ということで、満場一致。


 俺たちは案内通り、左側の水色の球体へ足を進ませ、順にガチャを引いていく。



 そして全員が引き終わった。


 

「こういうガチャ? なんて何年ぶりだろう。子供の頃はよく、小銭を入れて回していたけど、やっぱり大人になっても、心は弾むものなんだね」


 と満面の笑みのカズに対して、他レイジ、シュエナの表情は優れない。


「……つってもガチャ内容がなぁ」


「ま、まぁ実質無料ガチャですしね」


 結果が良くなかったんだろう。


 カズに関しては、聞くところアークスどころかこういった媒体で遊ぶことが初めてらしい。

 今回βテストに応募したのも友達に誘われてよく分からず応募したと、このガチャ神殿へ向かう道中で言っていた。


 だからこその笑顔なんだろうが、一方の俺たち三人はガッチガチのゲーマーだ。


 おそらく全員、ラインナップの時点であまりそそられなかったんだろう。


 ちなみに俺のガチャ結果はこうだ。

・ステータス強化チップ【攻撃】

・俊足のブーツ(初級)

・スキルブック【集中力】


 正直そんなに悪くはなかった。

 どれも活用できそうな代物だと、名前を見ればよく分かる。


 他三人が当たったアイテムまでは分からないが、全員が自分のウィンドウを見て眉を細めている姿を見ると、あながちハズレばかりでもなさそう。


 そしてその後、話題が現金ガチャへ以降しようとした時、シュエナが一番に口を開く。


「あの……やっぱり現金を使ってガチャを引くのは、少し抵抗があるかも、です。本当に必要な物が出るか、分かりませんし……」


「だよな! 本当のゲームならまだしも、これは明らかに現実。 それよりも今あるお金で、武器やアイテムを揃える方が確実だと思う」


 続いてレイジもそう言う。


 たしかにここは現実だ。

 さっきのクエストクリア報酬が現金だってことは、このアークマギアではこのお金の使い道が生死を左右するといっていい。


 ここで現金ガチャを引かないというのは、堅実な選択肢だと俺も思う。


「アークス出身のみんながそう言うなら、そうなんだろうね。僕は初心者だから、みんなのやり方に従わせてもらうよ」


 カズが賛成したことで、この場ではガチャを引かないが優勢になった。


「となると……次の行動は決まったな」


 俺もこの場の空気に合わせよう。

 実際、今の間に武器やアイテムも揃えなきゃいけないんだ。


 現金ガチャなんていう博打は、今すぐしなきゃいけないわけじゃない。


 だからまずは必需品を、だ。


「「武器とアイテムを」」


「選びに行こうぜ!」

「手に入れましょう!」



 絶妙にハモらなかったレイジとシュエナの掛け声に合わせて、俺たちは次のクエストの準備を始めたのだった。



 * * *



 必要なものは揃えた。


 HP、MPの回復アイテムから状態異常に対しての解毒薬、各クラスに合わせた武器や、今売っている範囲で一番防御力の高い防具など。


 計50万ほどかかったが、まぁ必要経費だろう。


「じゃ、そろそろ僕は帰ろうかな。一度ここから出て、会社にも休みを貰わなきゃ行けないしね」


「……なんて言うんですか?」


 カズに対して、シュエナが問う。


「まぁこんなこと言っても、信じてもらえないだろうから、もちろん私用でお休みは貰うよ? その後のことは……とりあえず次のクエストをクリアしてから考えるかな」


「そうだ、いっそのこと警察に、この事を相談しちゃったり……」


「いや、きっと取り合ってくれないだろうね。いくら人が死んでると言っても、その証拠の死体もない。あのテスト会場にもAIしかないわけだし、助けてくれと言ったところで、僕たちがクエストの時間に転移されてしまうのなら、警察だって助けようもないさ。それに……下手なことをして、運営に目をつけられでもしたら、何をされるか分かったもんじゃないよ」


 レイジの案に、カズは具体的な解答を返す。


 まさに返す言葉もない完璧な答え。

 俺が抱いていた懸念を、全て言語化されたような感覚だ。


 やはりカズは一歩大人なだけじゃなく、かなり頭の切れる人なんだろう。


「……じゃ、じゃあこのまま帰って、次のクエスト時間まで、それぞれ待機って感じですね」


 シュエナはそう言って、自身のウィンドウを開きスクロールし始めた。


「ここからログアウトすれば、現実世界に戻れるんですよね?」


「今はクエスト中じゃないからおそらくは。だけど試してみなきゃ、分からないな」


 そう、あの時は【クエスト受注中はログアウトができません】と表示が出た。


 そういう仕様なら、逆に今ならログアウトできるということだ。


 だが確実性がないため、俺はそう答えた。


「わ、わかりました。ちょっと試してみます……」


 すると、突然シュエナの体が淡い光に包まれた。


 そしてスッ……と空気ごと一瞬でこの場から天に昇るように姿を消していった。

 

「おぉ……これがログアウト」


 驚きつつも、次は自分だとばかりにカズもウィンドウを開き始める。


「では二人とも、また数時間後に」


 軽く挨拶を交わしたのち、彼もこの場からログアウトしていった。


「じゃ、オレたちもいくか」


 レイジが目配せをしてくるが、俺はそれに返事をしなかった。


「……? どした、ミド?」


 レイジは眉をひそめ、俺の顔を覗き見る。


「あぁ……俺はちょっと、確認したいことがあるから、もう少し残るよ」


「……ま、らしいっちゃらしいな」


 と、わけも聞かず一瞬で理解してくれるところ、旧友のありがたみを感じる。


「じゃっ、先行ってるわ」


「おう」


 あと数時間後、誰かがまた死ぬかもしれない。

 そんな現実から目を背けたくて、俺はあえて軽口で手を挙げた。


 

 そして、再び静寂が訪れる。


 

 * * *


 

 しばらく俺は、始まりの街を一人で歩いていた。


 そして改めて思う。


 この街の構造は、やはりアークスの始まりの街と全て同じ。

 家屋の配置、階段の角度、ショップの立地に至るまで、まるで写し取ったような完全な再現。


 だが――


「……やっぱり、ここだけはおかしいな」


 視線の先、石畳の広場にぽつんと存在する、黒いドーム状の建造物。


 ガチャ神殿。

 アークスには存在しなかった異物だ。


 ここだけは、他と明らかに毛色が違う。


 中も改めて確認した。

 見た目は奇抜だが、運営の痕跡や秘密の通路といったものは見当たらなかった。


 このゲームの核心を突けるかと思ったが、どうやら見当違いだったようだ。


【現金によるガチャ利用が可能です】

※ご自身の口座からの引き落としも選択可能。


 金色の球体に近づき過ぎたのか、目の前に現金ガチャの案内ウィンドウが現れた。


「……なるほどな」


 先ほどは気づかなかったが、どうやら報酬とは別に、自分の現金を使うこともできるらしい。


 俺の手元には、残高150万円。

 さらに自分の口座から引き出せば、あと150万円分は使える。


 最大三回、100万円ガチャを引けるが……なんだか運営の術中にハマっているようで癪だ。


 しかし正直、興味の方が勝っている自分がいる。


「まぁ……物は試し、だよな」


 これまでも、どんな高難度のゲームだって試行錯誤で道を切り拓いてきた。


 ガチャだって、結局は確率と判断材料の集積。

 失敗したら次を考えればいい。

 ただそれだけの話だ。


 俺は深呼吸ひとつ、ゆっくりと金色の球体に手を伸ばした。


 指先が球体に触れた瞬間、光の粒子が弾け、眩いウィンドウが浮かび上がる。


 回数選択――【100万円ガチャ/3回】


「さあ、見せてもらおうか」


 青白い演出が空間を包み込む。


 淡い緊張が、背中を這い上がる。


 俺は、固唾を呑んでその瞬間を見届けた。



 * * *


 

 数時間後――


 

 俺は街で一番広い土地、中央広場へと足を運んでいた。


 空には、変わらず数字が刻まれている。


【次回クエスト開始まで:00:01:12】


 残り、約一分。


 アークスの頃は、この中央広場の真ん中にある転移門から様々なステージへ移動していた。


 もし仕様が同じなら、他のβテスターたちはここに集められるだろう。


 そして、その予想は見事的中――


 光の柱が降り注ぎ、地面が淡く揺れる。


 最初に現れたのは、カズだった。


「……やっぱり、本当に転移するんだね」


 その後、次々と姿を現す仲間たち。

 シュエナ、レイジ、ミユとケイタ。


 そしてその後、見知らぬ若者や派手な装いの女性、次々に見慣れない面々がこの場に降り立っていく。


「へぇ、これがアークマギアか!」

「すっご……めっちゃリアルなんだけど〜」


 無邪気な声が、妙に場違いに響いた。


 そうか。

 たしか今回の参加人数は12人。

 足りない分は新しいメンツを揃えるんだ。


 だから彼らはまだこのゲームの本質を知らない。


「くっそ、結局逃げられねぇのかよ……!」


 一方のケイタは苛立ちを隠さず口に出す。


「ケイタ……」


 ミユは青ざめた顔で、ケイタの手を握っている。


「ミド、いくか」


 一方のレイジは、いい意味でいつも通り。

 気の抜けたような笑みの奥には、確かな覚悟がある、そんな表情だった。


 シュエナ、カズも同じ。


 朗らかな表情だが、どこか余裕がある。


 ともに戦う仲間がいるから、ってことだろうか。


 そんな二人は、目が合うと力強く頷いた。


 だから俺も頷き返す。


 

 ――そして、時刻は0を告げた。


【次回クエスト開始まで:00:00:00】


 空間が揺れる。


『戦闘任務02/10:ベルカ街の亡霊討伐』

ベルカ街に現れたボスの討伐ならびに、市街にある3つの「未供養墓地(瘴気発生源)」の破壊を行ってください。


 足元から浮遊感――空間が歪む。

 それは、現実が切り取られる感覚だった。


 そして俺たちは、この場から再び転移を果たしたのだった。

 

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