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予測不能のVRゲーマー、スキル模写とバグ技で死のゲーム〈アークマギア〉を規格外に生き残る  作者: 甲賀流


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第4話



 空を裂くような咆哮が、草原に響き渡る。


 高台の上、俺たち六人は構えていた。


 背後には、さっき駆け抜けてきた茂みと狭い通路。

 そして正面には、数十体のゴブリンと、それを率いる一際巨大な影――あれがゴブリンの長だ。


 俺の声と同時に、魔術師二人が詠唱を開始。


氷弾(アイスショット)!」


炎弾(ファイアショット)!」


 シュエナの氷魔法が、先頭のゴブリンの凍らせ、続くケイタの火球が、後続を一気に焼き尽くした。


 パリンパリンッ――


 死したゴブリンは半透明のポリゴン状へと姿を変え、天へ昇っていく。


 これがこの世界の消滅、というやつだ。


「おっしゃ、決まったな!」


 ケイタが高台から声を上げる。


 カズの矢が、残った一体の喉元を正確に貫く。


 続いてミユは両手を組んで祈るように構えた。


「風の精霊【ミュリス】、我が矢となりて敵を穿て!」


 そして生まれた風の小精霊が、小さな風の矢をいくつも作り出し、一気に放った。


 一つ一つの威力は大きくないが、何本もが重なることで、敵をたしかに撃退していく。


 ……全部、効いてる。

 初級スキルだけでも、しっかり当てれば倒せるレベルらしい。


 さすが、アークスのクエスト。


「……難易度は適切、ってか」


 俺は、草陰の斜面――高台へ続く唯一の上り口に、レイジと並んで立っていた。


「オレたちはここで仕留め損ねたゴブリンの迎撃だな」


「あぁ。後ろを任せた分、俺たちでここは食い止める」


 レイジはガントレットを両手に構え、俺は剣を強く握った。


「ギィィッ!!」


 噂をすればなんとやら。


 遠距離攻撃から運良く逃れた数体のゴブリンが、細道からグンと駆け上がってきた。


「きたぜっ、ミドォ!」

「あぁ!」


 殺されたβテスターたちのことを思うと、一瞬だけ足がすくむ。


 だけど、俺の隣にはレイジがいる。


 そして後方にはシュエナたち。


 これほど心強いことはない。


「斬撃ッ!」

「打拳ッ!」


 ゴブリンに対して、


 俺は剣で斬り伏せ、レイジは拳を突き出した。


「ギギヤァ……ッ!」


 パリンッ――


 よし、これくらいの相手なら問題ないな。


「す、すみません。MPの関係で、あまり魔法が連発できなくて……っ!」


「この先も何体が流れちまいそうだ!」


 魔術師組からだ。

 今の流れ弾ならぬ、流れゴブリンのことを言っているのだろう。

 

「あれくらいなら、大丈夫だ! なぁ、ミド!」


「あぁ!」


 視線が一気に向いたので、俺は首を縦に振った。


 その瞬間――


「ッギィィッ!!」


 巨大な咆哮に、空間がどよめく。


 明らかに他のゴブリンとは違うそれ。

 頭であるボスゴブリンは、口を大きく広げ、天を仰いでいる。


 背筋が凍った。

 剣を握る手が震える。


 異様な威圧感。

 背丈二メートルは平気で越す、筋骨隆々とした大きな体格。

 その背中には、まるで獣のような骨の装飾が生えている。

 

 アークスの頃、こんな迫力だったか?

 いや、もう少し弱々しかったような……。


「……おい、ミド。こいつ、アークスのときより、なんか強化されてねぇか?」


 レイジが、声を震わせた。


「だよなぁ」


 現実にそのまま現れたような、迫力と躍動感。

 

 見かけはアークスに出てきたボスゴブリンとほぼ同じはずなのに、雰囲気だけはまるで違う。


 これも、五感同期型のリアルさ故なのか。


「……ギィアァァァッ!」


 そして今日一番の喚叫。

 後方のゴブリン部隊が一斉に俺たちへ迫り来た。


「ミドッ! 止めるぞっ!」


「おう!」


 俺たちは、それこそ死ぬ覚悟で武器を握った。


 ここは絶対に通さない。


 全ての敵を倒してやる。


 そんな覚悟で。

 

「ギィィッ!」


 しかしゴブリンたちは俺たちのことは一切見向きもせず、そのまま抜けて、高台の方へ向かっていったのだ。


「くっそ!」


 数体逃したか。


「ギィアァァァッ!」


 追いかけたいが、俺たちの目の前にはボスゴブリンもいる。


「私たちなら大丈夫です! お二人はボスを!」


 シュエナからだ。

 高台から声が下りてくる。

 

「頼んだよ!」

「ボスを頼む!」

「お願いね!」


 順に、カズ、ケイタ、ミユの声も続いた。


 よかった。

 誰も戦意を失っていない。

 そう思えるほど、力強い声だった。


「レイジ。俺たちはボスに集中だ」


「へっ、当然ッ! しかしよ、こうやって並んで戦うのは、久しぶりだよな、ミドォ!」


「こら、気抜くなって!」


 そう言いながら笑うレイジに、俺もつい口元を綻ばせてしまう。


 ――そういえば。

 アークス時代、俺が一番多くパーティを組んだのがこの男、レイジだった。


『お前はもっと自分を大事にしろよ』


 そう言って、俺を守ってくれた時もあったな。


 仲間想いで頼りがいのある男。

 それは今も、変わらないようだ。


「ギィィッ!」


 ボスゴブリンが雄叫びと共に飛びかかってきた。


 ガンッ――


「……ッ!」


 剣で受け止めた瞬間、手首が痺れる。


 重い――!

 まるで鉄のような質量に、剣ごと押し潰されそうになる。


「ナイスだミドッ!」


 横からレイジの拳が炸裂し、ボスの体がたわむ。


 ……効いてる。

 ダメージは、ちゃんと通ってる!


「このまま畳みかけるぞ、レイジ!」


「おっしゃ、分かった!」


 俺たちは正面から立ち向かっていく。


 剣と拳で、同時に攻めるのだ。


 そしてヤツを打ち倒すッ!


 だが――


 ボスゴブリンは、背中に抱えた大きな剣を引き、溜める動作を始めた。


「ギィィ……」

 

 剣が赤く輝く。


「……!」


 これはアークス時代にも、ボスゴブリンが使っていたスキル。


 ここから、跳びかかるような突進が来る!


 足の軸の入れ替え、肩の溜め、視線のブレ。


 わかる……。

 相手の攻撃が。


 俺たちを仕留めるための、挙動一つ一つが。


 そして、

 

 踏み込みは今っ!


 ……でも。


 無理だ。


 あの技を知っているからこそ、分かる。


 今の自分の力じゃ、避けられないことを。


 そう悟ったとき、世界が歪んだ。


 ――ピコンッ。

 

 耳元で、聞こえるはずのない電子音が鳴った。


 視界の中央に、黒いウインドウが、割り込むように出現した。


〈スキル:模写眼(コード・リーディング)を取得しました〉


 俺は、何もしていない。


 ――ただ死ぬと確信した瞬間に、それは現れた。


 そして次の瞬間。


 視界が変わった。


 敵の踏み込みが、動きの構造が、まるで手に取るように全て視える。


【特異観察条件 達成】

〈模写眼により、スキル:裂走を取得しました〉


 そういうことか。

 これはちょうど今、あのゴブリンが放とうとしているスキルそのもの。


 俺は今、戦う力を得たのだと、

 

 そう理解した。


 でも、間に合わない。

 

 すでに俺へと向かうその刃が、


 目前に迫る死の予感が、


 俺にそう告げるのだから。


「ミドッ、危ねぇ!」


 刹那、視界からボスゴブリンが消えた。


 そして俺は、気づけばこの場から横方向に押し出されていた。


 そう、レイジのタックルによって。


 ズガンッ!


 レイジは俺の代わりに、その拳に着けたガントレットで攻撃を受けた。


「うぐっ……!」

 

 吹き飛ばされたレイジの体が、地面を転がる。


「レイジ!」


「オレは大丈夫だ……。だから、戦い中にボサっとすんなよ、ミド!」


 血を滲ませながらも、レイジが叫ぶ。


 そうだ。

 今はボス戦に集中っ!


 アークスの頃もそうやってきただろ!


「ギィィィッ!」


 ゆっくりとレイジに近づくボスゴブリン。


 狙うなら、今だ。


 俺は大きく息を吐き、構えを変える。


 そして覚えたてのスキルを唱えた。

 

「裂走――!」


 生まれた時からまるでその動きを知っているかのように、


 俺は力を溜め、


 地を蹴り、


 加速した。

 

 風が頬を裂くように吹き抜け、世界がスローモーションになる。


 俺は一気にボスゴブリンの懐へ――


「おらああああっ!!」


 ズバッ!


 渾身の一撃を、ボスゴブリンの胴へ叩き込む。


「ギギィィィ……ッ!」

 

 ボスが呻き声を上げ、数歩後退した。


「おい、ミド! なんだ今の!? またバグかよ!」


 レイジがゆっくりと俺の元へ来て、目を丸くする。

 

「いや……今、覚えたんだ」


「……ハハッ! ミドらしいな。よし、今度こそ決めてやろうぜ!」


「あぁ!」

 

 俺たちは二手に分かれた。

 次は同時に、左右から仕掛ける。


 ボスは一瞬迷ったのち、視線を完全に俺へ移した。


 その後剣を抜き、水平に振りかぶる。


 これなら裂走の方が速いな。

 

「いくぞ、裂走っ!」


 ブッブーッ!


 エラーの表示。


 ……うそ、だろ?


 裂走:クールタイムあと45秒


 そんなウィンドウが目の前に現れた。


 くそ、知らなかった。

 制限付きのスキルがあるなんて。


 アークスじゃ、そんなのなかっただろうが……。


 風を切る音。

 迫る斬撃。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!


 このままじゃ、死――


 ガンッ――


「世話が焼けるな、まったく……。後は頼むぜ、ミド」


 まただ、またレイジが庇ってくれた。

 その声と共に、レイジの身体が吹き飛ばされる。


「レイジ!」

 

 怒りが湧いた。


 目の前のボスゴブリンにもだが、


 一番は何もできなかった自分自身。

 

 仲間に守られるだけの情けない自分にだ。


「ミドォォッ!!」


 倒れたレイジが天に向かって叫ぶ。


 その声にハッとした。

 そして思い出した。


 頼むぜと言った、レイジの言葉を。


 俺は託されたんだ。


 このクエストの勝利、ボスの討伐を。


 倒さなくてはっ!


 今だっ!

 ゴブリンの足が浮いている、今がチャンス!


 だが、裂走のクールタイムはまだ戻らない。


 だったらどうする?


 初期スキルの斬撃を使うか?


 それで倒せる保証は……いや、しかし……。


 ピコンッ――


 するとウィンドウが、煌めいた。


 俺はそこに書いてある表示を見て、自然と口元が緩んだ。


「……こんなこと、ありえんのかよ」


〈スキル:月影斬を取得しました〉


 ――アークスで愛用していた、剣士スキルだ!


 何が起こった……?

 なぜ今スキルを覚えたんだ?


 この世界のルールが分からない。


 いや、それを考えるのはもう少し後でいい。


 今はこの世界でもまた出会えた運命に、感謝しないとな。


 俺は改めて、剣を構える。


 すでにボスゴブリンは体勢を整え終わっていた。


 しかしもうそんなものは関係ない。


 俺にはこのスキルがある。

 

「月影斬ッ!!」


 空気が止まった。

 呼吸も音も、世界のあらゆる動きが、一瞬だけ沈黙した。


 まるで重力だけが先に地面へ落ちたように、俺の体が深く沈む。


 そして、


 斬る――っ!


 半身で絞った身体から生まれた刃が、月を描いて空間を裂いた。


 その斬撃は、白い残光を残して宙を裂く。


 対峙するボスゴブリンの胸元にその光が走り、


 ――ズバァン。


 空気が裂けるような音。

 白い斬撃がボスゴブリンの胸を切り裂いた。

 

 その瞬間、巨大な体躯が震え、崩れ落ちる。


 パリンッ――

 

 断末魔が響く前に、奴の体はポリゴン状に消え去っていった。


 風が止み、静寂が戻った。


 俺は剣を地面に突き立て、息を整える。


「……相変わらず、規格外なのな」


 隣には傷だらけのレイジ。

 立っているのもやっとのはずなのに、すっと拳を向けていた。


「なんだそれ」


 俺は自嘲気味に笑い、レイジの拳に拳を重ねた。


 そして、今――俺たちβテスターは、最初の試練を乗り越えたのだった。

 

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