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予測不能のVRゲーマー、スキル模写とバグ技で死のゲーム〈アークマギア〉を規格外に生き残る  作者: 甲賀流


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第19話



 レイジ視点。



 樹海の奥へと進むにつれ、空気が変わった。


 先ほどまで漂っていた霧は薄まり、代わりに妙な静けさが支配していた。


 風の音も、虫の羽音も、どこか遠ざかっている。


 ……これは、嫌な予感しかしねぇな。


 仲間の数もようやく揃ってきた。

 逃げ散ってた連中も、ほとんど合流は果たせた。


 残念ながら重傷で動けないやつも数名出ちまったが、ミユさんが後方に結界を張り、そこに一時避難させてある。


 その分こっちの支援に割ける力が限られてしまうが、その結界は、モンスターよけにもなる優れものらしい。


 アークスの頃にはなかった精霊使い。


 とんでもねぇな。


 そして今ここにいるのは、当初の八割程度。

 戦闘準備も万端だ。


「レイジくん、どうする?」


 カズがすっと隣に並ぶ。


「……このまま進む。アークスとステージが同じなら、この先にいるはずだからな。ボスの翠影獣が」


 オレは拳を強く握った。


 絶対に今いるメンバー、誰一人欠けることなくクリアしてやる。


 そんな気概を心に灯す。


「よっしゃ、いくぜ!」


 掛け声とともに全員に軽く頷く。

 隊列を整え、さらに奥へ進んでいった。


 

* * *


 

 数分後――。


 目の前の樹々が途切れ、ぽっかりと開けた空間に出た。


「っ……!」


 全員が息を呑んだ。


 巨大な石畳のような広場。

 そこに、ヤツはいた。


 翠影獣。


 四足の巨獣。


 黒緑色の毛皮は艶めき、全身に翡翠色の瘴気を纏っている。


 肩甲部からは棘のような骨質の突起が伸び、獣の瞳は不気味な金色に光っていた。


 そして――尋常じゃねぇ気配。


 威圧感が空間ごと圧し潰してきやがる。


「……なんだよ、あれ」


 誰かが震えた声で呟いた。


「前とは……違う……」


 シュエナが小さく言った。


 オレも一瞬で悟った。


 こいつ、アークス時代のただの四足ボスじゃねぇ。


 纏ってる気配が、まるで別物だ。


 それに……翠影獣の背中には、膨れた苔状の瘤が形成されていた。


 その表面が、時折、不気味に脈打っている。


「グゥオォ……オ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!」


 樹海が震えるような低音。

 木霊する咆哮。


 その振動だけで、体が沈みこんでしまいそうだ。


「気をつけろ! こいつ、普通じゃねぇぞ!」


 オレは叫んだ。


「パーティ、陣形維持! 遠距離は回り込んで狙撃! ミユさん、後衛補助頼む!」


「了解っ!」


「任せてっ!」


 即応する声が返ってくる。


 このパーティの少なくとも半分は、ベルカ街を越えてきた経験者だ。


 そしてその背中を見た初参加たちも、なんとか気持ちを奮い立たし、後に続いている。


 怖がりながらも、全員脚は止まってねぇ。


 よし……行ける。


「いくぞっ!!」


 オレは先頭を切って、翠影獣へと突撃した。


 まずは初撃、


 オレは拳を叩き込んだ。


 ガァンッ――!


 重い。


 筋肉の鎧だ。

 だが通らないわけじゃない。


「叩けっ! 削れぇっ!!」


 弓が唸り、魔法が炸裂する。


 翠影獣は咆哮を上げて跳びかかってきたが、すかさず側方跳躍サイドダッシュで回避。


氷弾(アイスショット)!!」


 シュエナの氷魔法が脚を凍らせ、オレはその隙に再度拳を撃ち込む。


 カズの矢が、継続的に体力を削っていく。


 彼ら遠距離部隊へ、翠影獣の視線が走るが、


「挑発っ!」


 なんとか注意を逸らして、今の陣形を維持。


炎弾(ファイアショット)!」

水冷弾(ウォーターショット)!」


 おかげで初参加のみんなも、着々と攻撃を繰り出せている。


 オレだってそうだ。


 みんなのおかげで派手なスキルを、


 ぶち込みやすいっ!


「いけ、爆砕衝ッ!」


 拳による小範囲ノックバック+爆破ダメージ。


 レベル10のオレが発動できる、現状最強の必殺とも呼べる戦闘スキルだ。


 ドカンッ――


 直撃とともに火力が跳ね上がり、翠の巨体が大きくグラついた。


「……グ、ガアアアアアアァ!!」

 

「よし……っ!」


 いける。

 このまま押せば、翠影獣を……倒せるっ!


 ……そう思った矢先だった。


 翠影獣の背の瘤が、ぼこり、とさらに大きく膨み始めた。


「なんだっ!?」


 ズオオオオオオ――――!!


 瘤が弾け、濃緑の煙が噴き出したのだ。


 視界が一気に霞む。


「し、視界が……っ!」


「皆さん、吸っちゃダメですよ!」


 咄嗟にシュエナがそう叫ぶ。


 彼女の判断はおそらく正しい。


 これはただの煙じゃねぇ。


 体に浴びただけなのに妙に重たい。

 手足の感覚も鈍ってきた。


「ミュリスッ! お願い!」


「キュイィィッ!!!!」


 ブワァァァァ――


 足元から突風が舞い上がる。

 それとともに、樹海の景色がパァっと開かれた。


「助かったぜ、ミユさん」


 おかげで濃緑の煙が消え去り、周りの景色がよく見えるようになった。


 だが、


 ドタッ――


「……うっ」


 少し後方、カズが片膝をついた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 一番近くのシュエナが駆け寄る。


「……少し、煙を吸ってしまったみたいだ」


 そう言って、カズは胸を押さえ込む。


 さっきの旋風、タイミングは完璧。

 だが、あの煙を人が吸ってしまうには、十分すぎる時間だった。


 そしてそんな中、


「きゃぁぁぁっ!」


 誰かの悲鳴があがる。


「うわぁ、なんだよこれ!」


 それに連鎖して、次々声があがっていく。


 その声で、オレもやっと気づいた。


 今の絶望的状況に背筋が凍りつく。


 石畳には苔のようなものが広がり、空気はなお重苦しい。


 そして木々の影から、


 ずるっ……ずるっ……。


 蠢く影。

 

 森の奥から別の敵が現れたのである。


 狼型、蜘蛛型、飛行型……。


 続々と姿を見せる別種のモンスターたち。


 しかも動きが整然としてる。

 

 明らかに異種族が混じっているはずなのに、あくまで一つの集団として統制がとれてしまっている。

 

「囲まれた!?」


 そしてオレたちの周囲を、緩やかに、だが確実に包囲してきていた。


「……まるで、翠影獣の命令で動いているような」


 シュエナの声に、オレも同意するしかないほどの、見事な統率力。


 このままじゃ、間違いなく全員……


 死ぬ――。


「全員、退く準備を……」


 いや、ダメだ。


 その選択肢も、とっくになくなってた。


「う……っ」

「はぁ……っはぁ……」


 この場の数人が、地に伏せている。


 呼吸を荒らげ、苦しんでいた。


「さっきの煙か……」


「レイジさん……すみません、私も……」


「シュエナッ!」


 バランスを失い、体が傾いていく彼女を、オレは急いで抱え込む。

 

「うわぁぁ、もう終わりだぁぁ」

「痛いのやだ、怖い、痛いの怖いよぉぉっ!」


 

「クソ、俺ぁここで死んじまうのか……」


 

 全員の空気が、一気に沈んだ。



 喉が詰まり、声すら出せなかった。



 目の前のモンスターたちは、ただこちらの動揺を見据えていた。



 奇妙な静寂。



 踏み出す足音もなければ、咆哮すらない。



 代わりに、遠巻きに囲んだ敵たちの呼吸音が、いやに耳につく。



 ずる……ずる……。



 草を擦る音。



 蜘蛛の細い脚音。



 誰かの喉が、ごくりと鳴った。



 ……もう、逃げ道すらない。



 これじゃまるで、



 終わりみてぇじゃねぇか。



 喉の奥が凍りつく。


 

 そう思った、瞬間だった。



 ドォンッ!!

 

 

 閃光。


 

 空が裂け、蒼白い光が樹海の中央に降り注いだ。


 

「な、なんだ……っ!?」


 

「光の柱……っ!?」



 オレたちは戦いの最中、その場で動きを止めた。


 

 光の中から、ゆっくりと一体の存在が姿を現す。


 

 白銀の鎧を纏い、蒼きマントを翻す。


 

 それは冷たいほどに透き通った青い刃を携えた長身の女性剣士だった。


 

 静かに剣を構え、翠影獣と取り巻くモンスター群を見据えていた。


 

 ……この場の誰のものとも違う。


 

 プレイヤーの装備でもない。


 

 NPCの挙動でもない。


 

 それら明らかに異物だった。


 

「な、なんだアイツ……っ」


 

 全く理解が追いつかねぇ。


 

 オレは無意識に息を呑んだ。


 

 次の瞬間、剣が振るわれた。


 

 まるで風のように。


 

 目で追えない速度だった。


 

 ヴォォォン……!


 

 僅かな残光が線となり、その軌跡を残す。


 

 その瞬間、翠影獣の周囲に集まっていたモンスター群がまとめて霧散していた。


 

 全員、一撃。


 

 跡形も残さずに、だ。


 

「……う、うそだろ……」


 

「いま、何が……?」


 

 誰かの声が震えていた。


 

 オレ自身、全身に冷たい汗が流れていた。


 

 ……なんだ今のは。


 

 アイツ、いったい……。


 

 オレはふと、視界の端に映るパーティリストへ目をやった。


 

 さっきまではなかったものが、


 

 そこに連なっていた。


 

〈ミドウテンリ 【特殊召喚中】〉


 

 ……見間違いじゃない。


 

 理解が一気に押し寄せてきた。


 

 あの時ステージ名を聞いてきたのは、この特殊召喚でオレたちに手を貸すため。


 

 それしかねぇよな。


 

「……ミド」


 

 こんな芸当、やれるのはアイツしかいねぇ。


 

 オレは拳を震わせながら、思わず笑っていた。


 

 どうやってこんなことやってのけたのか、全く想像もつかねぇ。


 

「ったくやり過ぎなんだよ、いつもよ」


 

 だが、


 

 今はこの状況に乗らせてもらう他ないぜ!


 

「今だ!! 攻めるなら今しかねぇ!」


 

 オレは叫んだ。


 

 翠影獣はモンスター群を失い、態勢を崩している。


 

 チャンスは今しかない。


 

「は、はい!」

 


 無事だった数人のメンバーが、遠距離から魔法を打ち込んでいく。

 


 カズさん、シュエナ、ミユさん。


 

 皆、さっきの煙で力なく倒れ込んでいる。


 

 オレしか、いねぇか。



 覚悟を決めた。

 この拳で、翠影獣を仕留める。


 

 オレは全力で踏み込み、拳に全てを込める。


 

「らぁぁあああっ! 爆砕衝ッ!」


 

 翠影獣の心臓部を、渾身の一撃で叩き抜く。


 

「オ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!」


 

 パリンッ――


 

【戦闘任務3/10:クリア】


 

 目の前に青白いウィンドウが浮かび、ようやく静寂が訪れる。


 

 ふと見ると――女戦士の姿は、いつの間にか霧散していた。

 そしてミドの名も、リストから消えていた。

 


 オレは無意識に空を見上げる。

 


「……結局最後には助けられちまったな」


 

 ふと、そんな言葉が漏れる。


 

「この借りは、ぜってぇ返すからよ」


 

 誰にともなくそう呟き、オレはこの翠影の樹海を後にしたのだった。


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