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予測不能のVRゲーマー、スキル模写とバグ技で死のゲーム〈アークマギア〉を規格外に生き残る  作者: 甲賀流


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第18話


〈戦闘任務3/10 翠影獣を討伐せよ〉



 レイジ視点。



 空中庭園〈翠影の樹海〉にて――

 


 視界が変わる。

 一瞬、浮遊感とともに意識が深い森の空間へと引き込まれた。


 霧に包まれた静謐な森林――否、樹海。


 重なり合う巨木の枝葉が天蓋のように頭上を覆い、僅かな光が緑のカーテンを抜けて差し込んでいる。

 空気はひんやりと湿っていて、足元の土は柔らかい。


「ここが、今回のステージか……」


 オレは周囲を見渡し、唸った。


 転移直後の混乱もあったが、どうやら幸運にβテスターの半分ほどが同じエリアに集まったらしい。


 そこにはミユさん、前回の生き残りである二人、そして新人βテスターが五人ほど。


「うおぉ! すげぇな、βテストォ!」

「リアルすぎます……っ!」


 舞い上がる初参加者に対して、


「……くそ、まただ、またこのゲーム……」

「私たち……どうなる、の」


 その場にしゃがみ込み、絶望する二回目参加者。


 それを見て、どうするべきかと目を泳がしているミユさん。


 ……どう考えても、ここで指示すんのはオレの役目、だよな?


「初参加の人、まずはこのゲームの説明をするから、近くへ集まってくれ」


「え? せっかくのβテストなんだし、ちょっとだけ冒険したいんですけど?」

「……私、アークス出身だから、別に説明なんていらないわ」


 なんとなく、似たような返事がくるとは思っていた。


 オレは装備をONにする。


 

【装備】

・鋼鉄のガントレット(攻撃力+20)

・硬革のチェストガード(物理防御+15%)

・鋼鎖のグリーヴ(ノックバック耐性+15%/移動速度+3%)

・軽量ヘルム(魔法耐性+5%)

・筋力増強の腕輪(筋力+5/スキル威力+3%)



「装備、持ってないだろ?」


 アークス経験者……いや、ゲームを少しでもやったことある人はこの姿を見たら分かるはず。


 オレがこのアークマギアを、ある程度熟知しているということが。


「ちょっと安価なものだけど、必ず役に立ってくれるはずだ。欲しい人はこっちきてくれ」


 そう言うと初参加の人たちは、互いに顔を合わせ、意見が揃ったところでこちらに歩みを寄せてくる。


「ありがとう。レイジさん」


 ミユさんもホッとした様子。


 それから、順に装備を配っていく。

 中には完全な初心者もいたので、ステータスの開き方から、装備の装着方法まで、できる限り細かく指導していった。


 最低限の回復アイテムまで行き渡ったところで、いよいよ本題。


 これが死のゲームだということを伝えなければいけない。


 が、ここは事前の相談で決めてある。


「みんな、このアークマギアは知ってのとおり、五感同期型の最新フルダイブシステムが導入されてる。痛みまで現実そのままなんだ。だから、死ぬ気で挑んでくれ!」


 そう、死については伝えない。


「痛み? マジですか……?」

「ほんとだ、つねったら痛い」

「え、急にそんなこと言われても……」


 この通り多少のパニックは予想済み。


 だが、多少だ。


 本当の『死』を知った時の比ではない。


 仮にこの事実を知ってしまった時、オレたちは経験済みだから分かるが、恐怖で足元は竦み、全身の筋肉は強ばる。

 頭の中は真っ白、声すら出せない状態になってしまう。


 つまりそんな状態で戦うよりも、可能なポテンシャルを引き出す方が優先と考えたのだ。


 初参加者の彼らには悪いが、この事実は無事クエストが終わってから伝えさせてもらう。


 ここまでがオレたちの見解である。


「そんなアークマギアでどうやって戦っていくのかオレたちが教えていくからよ、今だけはオレたち経験者についてってくれねぇか?」


 最後にこう伝えた。


 これで納得してくれるかどうかは正直半信半疑だったが、思ったより早く、ここの全員が首を縦に振ってくれた。


「分かりました」

「私も貴方たちについていかせてもらいます」


 なんとか同意がとれたようでよかった。


 

 それより、他のメンバーとどう合流するか。


 シュエナやカズさんはどこにいる?


 互いの場所を知るため、ここはチャット機能を活用するのが一番だよな。


 と、ウィンドウを開こうとしたその時、


「レイジさんっ!」

「レイジくんっ!」


 オレを呼ぶ声が耳に届く。


 あの二人のことを考えた瞬間だ。

 そんな都合がいいこと、マンガじゃねんだから起こるわけがない。


 まさか幻聴が聞こえるほど、精神が追いやられていたとは。

 気づかねぇもんだな。


 と思ったが、実際目の前に。


 あれ、幻覚まで……。


「レイジくん、どうしたんだい?」


 傍まで寄ってきたカズが、オレの顔を覗き込んできたところで、ようやく頭がハッキリした。


「シュエナとカズさん!?」


「今回は早く集まれてよかったです……!」


 シュエナが胸をなで下ろす。


 その後ろには二人の新顔。


「これで12人、全員揃ったみたいだね」


 どうやら現実だったらしい。


「……よかった。合流できて」


 ミユさんも安堵の息を吐く。

 


 ひとまずその場で簡単な情報交換が行われた。


 オレ、ミユさん、カズさん、シュエナを中心に、現状の整理をしていく。


 どうやらカズさん側も、オレたちと同じように武器、アイテム配布とアークマギアの説明を済ましたところだったらしい。


 そしてもう一つ大切な情報。


 オレたちが知り得なかったことだ。


 シュエナがふとウィンドウを操作しながら小さくつぶやいた。


「……さっき転移直後にパーティリスト確認したんですけど……テンリさんがいませんでした」


「マジか!?」


 オレは咄嗟に辺りを見渡す。

 ウィンドウを開いて確認もした。


「ミドの、名前がねぇ……。なんで……なんでこんなことになんだよッ!」


 いても経ってもいられず、オレはミドにメッセージを飛ばす。


『ミド! どうなってんだよ、これ!』


「私もすぐメッセージ送ったんですけど、ミドさんが言うには……」


 ピコンッ――

 

ミドウテンリ

『分からないが、俺は今回、取り残されたらしい』


「――とのことです」


 シュエナからの説明と同時に、ミドからの返答も届く。


 つまり、誰も理由は分からないってわけか。


 シュエナが心配そうに端末を見つめながらつぶやいた。


「どうしよう、テンリさん……」


 その沈んだ空気。

 どんよりと暗い雰囲気を断ち切るように、レイジが拳を鳴らした。


「ま、今はこっちの攻略に集中だ! ミドがいなくても、やってやろうぜ!」


「うん、やれることをやろう」


 カズがうなずく。


「……私も、みんなで乗り切りましょう」


 少し間が空いて、シュエナも微笑んだ。


 オレたち以外のプレイヤーは何が起きてるかも分からず、揃って唖然としていたが、出発の雰囲気を感じ取って、気分が昂り始めた人もいた。


 今回はこれだけの人数が、協力して戦える。


「ぜってぇ、大丈夫だ」


 オレは思わずそう漏らす。

 虚勢にも似た、願望のような言葉を。


「さて、そろそろ進もうか」


 カズの声をきっかけにオレたち12人の小隊は、樹海の探索を始めたのだった。



 * * *



 翠影の樹海を進んでしばらく。


 地形は樹海のわりに一本道。

 探索をしつつ、現れたモンスターの除去。


 これを繰り返すことで、総勢12人の小隊は、ある程度の形を成すことができてきた。


 オレを先頭に、盾役の新人、剣士などの近距離クラスが続き、その後方にカズと初心者の弓兵組、さらにシュエナと魔法系メンバーが展開。

 ミユと他の精霊使いは、後衛で補助とヒーリングを担当する。


「よーしっ! βテストだからか、かなりサクサク進めますねっ!」

「アタシも大分慣れてきたっ」

「もうちょい、強いやつ来ねぇかなぁ〜」


 この環境に少しは慣れた証拠なのか、明るい声が飛び交い始めた。


「ち……っ! あんま調子乗ってっと、おめぇら痛い目みるぜ! なんたってここで死にゃあ……」


「ちょっとちょっと! 君、急にどうしたの!?」


 カズが急いで男の口を塞いだ。


 アイツ、たしかベルカ街で生き残った男。

 たしかハルキ、つったか。

 

 ここまで大人しくしていたが、いよいよ我慢できなくなっちまったようだな。


「おい中年、離しやがれっ!」


 ハルキは乱暴に、カズの手を払い除ける。


 そして二人はいがみ合う。

 いや、いがんでいるのはハルキのみか。


「し、静かに……っ!」


 今にも何かが勃発しそうな中、珍しく大きな声を上げたのはシュエナだ。


「なんだよ」とハルキが問い質そうとするも、彼女は口元に人差し指を当て、何かを探っているかのように黒目を転がす。


 静まり返った樹海の中。


 時折、枝葉を揺らす風の音と、どこかで羽音が混じる。


「……?」


 シュエナが眉をひそめた。


「この音……妙に多い……」


「気のせいじゃねぇな」


 オレも感じた。

 この翠影の樹海ステージで、この音。

 ふと心当たりが浮かんだ。

 

「前方、何か来るぞ!」


 ブワァァァァァァ――!!


 答え合わせをする暇もなく、その無数の羽音は、オレたちに殺到してきた。


「蜂だっ!!」


 カズの叫びが響く。


 飛来してきたのは、巨大な毒蜂型モンスター。

 その体長、人間にも負けないほど。


 ヴェノムホーネット。

 

 奴らは大群を成し、高速で突撃してくる。


「全員、散開して構えろっ!!」


 オレは指示を飛ばすが――


「ひゃっ……ひっ!!」

「いやぁっ!!」


 初心者たちの一部は恐怖で完全に硬直していた。


 その間にも蜂群は一気に距離を詰め、先頭の盾役の青年へ――


 ドスッ!


「ぎゃああああっ!!」


 鋭い毒針が突き刺さった。

 瞬時に青年の腕が異様なほど腫れ上がる。


「痛いぃいいい! 痛い痛い痛い痛いぃぃ!」


 彼は叫びながら、地にのたうち回る。


「解毒薬! 解毒薬を使って!!」


 ミユが叫び、慌てて駆け寄った。


 その間にも蜂たちは左右から殺到。


「落ち着け! 敵の動きは速いがパターンは単純だ!」


 カズが冷静に射線を定め、次々と矢を放つ。


 だが追いつかない。


 散開し始めたパーティは形が崩れ、恐怖に支配された参加者たちは、この場から背を向けて一目散に逃げ出した。


「くっそ……このままじゃ、崩れる……!」


 さらにヴェノムホーネットは、長距離から毒針を発射し始める。


 アークス時代に経験済みの攻撃。

 故に、オレはガントレットで弾いていく。


 だが――


「っ!?」


 他のメンバーは違った。


【パーティメンバー〈シュエナ〉 HP70%以下】

【パーティメンバー〈カズ〉 HP50%以下】


 盾がない分、避けられる数は決まっている。


 蜂の大群から放たれる膨大な数の毒針に、為す術なく受け続ける仲間たち。


「くそ……こんな時、ミドなら……っ!」


 何か解決策を提示できたはず。

 そして勝利へと導けた。


 ……オレは、違う。

 アイツのように、きっとできない。


「レ、レイジさん……っ!」


 立ち尽くすオレに、シュエナが呼びかける。


「一旦、引きますか?」


 ここに残るのはカズ、シュエナ、ミユ。


 ベルカ街のメンバーと、


 残り数人の遠距離クラスの人たち。


 怯えつつ、なんとか戦いに参加してくれている。


 避けきれない毒針は、ミユの精霊魔法でなんとか弾いて耐え忍んでいる状態。


 そうだ、どうにかしねぇと。


 ここにミドはいねぇ。


 アイツはオレたちを信じて、


 きっと帰りを待っている。


 

 ――ピコンッ!


 

〈スキル:挑発を取得しました〉



 ウィンドウに現れたスキル名。

 名前だけで、その効果は一目瞭然。


「助かったぜ、アークマギアのシステムよぉ!」


 オレは前方へ大きく跳び出した。


「いくぜ、挑発っ!」


 吼えるように叫び、拳を構える。


 全身に一瞬、火が灯るような感覚――それが周囲へ波紋のごとく広がっていく。

 

 次の瞬間、蜂たちの視線が一斉にオレへ突き刺してくる。


「おらぁ!! こっちだ蜂どもっ!!」


 ヴェノムホーネットたちの半数以上が、一斉に突撃してきた。


 ブワァァァァァァ――!!


「いけっ!! 今のうちだっ!!」


 蜂がオレ以外を視界に捉えられなくなったところで、他三人が即座に攻撃を重ねた。


 矢が蜂を次々と撃ち落とし、氷の魔弾が羽を凍りつかせる。

 そして精霊の風が蜂をまとめて薙ぎ払う。


 それでも押し寄せる蜂群を、


 オレが隙を見て、拳で叩き落とす。


 危険だと判断した場合は、


側方跳躍(サイドダッシュ)


 横方向へ、スムーズに避けていく。


「まだまだぁっ!」


 そうやって躱しつつ、オレは拳によってヴェノムホーネットを確実に殲滅していった。



 * * *



 蜂群の大半をようやく撃破し、辺りは静寂を取り戻したが、


 ――パーティは半壊状態。


 腕に重度の毒を受けた初心者、散開して行方不明になったメンバーも多数いる。


「……はぁっ、はぁっ……とりあえず状況確認だが、何人残ってる?」


 オレは荒い息を整えながら、周囲を見渡す。


「今のところ、後衛は私の側に……」


 一、二、三人か。

 初めての状況で、よく残ってくれたな。


「散った仲間……回収に行かないとね」


 ミユさんが不安げに言った。


「しゃーねぇ、二手に分かれたいところだけど……この人数だ。まとめて見回るか」


 オレがそう言うと、


「だね。僕もそれがいいと思う」


 カズさんが賛意を示す。


 他の人も快く頷いてくれた。


「なら、行くぜっ!」


 作戦は決まった。

 まずは逸れた仲間の回収だ。



 傷だらけの体と、チームが半壊したという厳しい現実。


 今にも崩れそうな心を無理やりに奮い立たし、オレは足を踏み出した。


 そんな時、ウィンドウの通知に気づいた。



 ミドウテンリ

『誰でもいい、答えてくれ。今のクエスト名、ステージ名を!』



 文面だけで分かった。

 ミドが、どれだけ取り乱しているか。


 

 そんな姿を頭に思い浮かべると、


 

 こんな状況にも関わらず、ふと笑いそうになってしまう。


 

 ミドの慌てぶりはもちろんのこと――



 一番は……自分の情けなさ、だ。


 

「……外にいるお前に、心配させてどうするよ」


 

 口に出してみたら、余計に悔しくなった。


 

 アークスの頃含めると、オレは何度だってアイツに助けられてきた。

 危ねぇ時は不思議なことに、大抵お前がいた。



 でもな、今ここにいるのは……オレたちだけ。

 ミドウテンリは、ここにはいねぇ。


 

 拳を強く握る。



 オレたちがやらなきゃ、誰がやるってんだよ。


 

 ここで止まるわけにはいかねぇ。

 アイツがいねぇ今こそ、踏ん張るときだろ。


 

「だったら……やってやるさ」


 

 精一杯、全力で。



「……な、ミド?」



 なんとなくアイツの想いが近くにある気がして、オレは天を仰ぎ、そう問いかけたのだった。

 

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