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予測不能のVRゲーマー、スキル模写とバグ技で死のゲーム〈アークマギア〉を規格外に生き残る  作者: 甲賀流


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第16話



 クエスト開始からすでに数分が経過。

 俺はまだ自室のゲーミングチェアから動けずにいた。


「……さて、どうする」


 デスク前、未だPCのモニターにはさっきまでの解析ログが流れたままだった。

 視線は自然と、その横に置いたVRゴーグルに向く。


 確かに、今回の転移は行われなかった。

 だが原因は、何一つわかっていない。


 もしかしたら、次の瞬間いきなり転移が発動する可能性だってある。

 あるいは、このまま除外されたままなのかもしれない。


「……確認するしかないな」


 俺は意を決して席を立つ。


 行こう、〈A.M. Gate〉へ。

 原因を突き止めるためにも。


 俺はあのテスト会場へ向かうべく、自宅から急いで飛び出した。



* * * 



 数十分後、俺は再び〈A.M. Gate〉のβテスト会場があるビルの前に立っていた。


 今日は週末ということもあり、ここへ来るまではかなりの人通りだったにも関わらず、ビルの前にくると一変。


 突然人気がなくなった。


 一見すると少し古びたテナントビル。


 入り組んだ路地にあることも含めて、改めて異様さを感じつつ俺は中に入る。


 この中に入るのはこれで二度目。


 迷わずエレベーターに乗り、地下二階を押す。



 そして会場内へ。


 俺は無言のまま歩を進めた。


「……おい」


 これまで、俺たちに繰り返しアナウンスを行ってきたポールの目の前に立ち、呼びかける。


「今回、俺はなぜ転移されなかった?」


 ポールは、微動だにしない。

 当然、音声応答もない。


 もう一度、声量を上げて問いかける。


「今回の参加者は12人。この前の生き残りが七人ってことを考えると、俺が省かれる理由はないはずだが?」


 ……応答無し。


「……そうか」


 俺は軽く息を吐く。


 応答しないことはまぁ想定内。


 だが改めて考えると、参加者の人数からして俺が参加しないのは明らかにおかしい。


 前回のクエストでは、足りない人数を初参加のβテスターで埋め合わせていた。


 今回だってそうだ。

 不足した五人を初の参加者で補うものばかりだと思っていたが、始まってみればこのとおり。


 これで除け者が俺だけなのならば、


 明らかに、意図的な遮断。

 運営側、もしくはAIが明確に操作した結果こうなったということになる。


 ならば、今の俺ができることはなんだ?


 そう思考を巡らせている時、


 ポケットの端末が震えた。


 

【チャット受信】


〈シュエナ〉

『テンリさん、今回のパーティリストに名前ありませんよ!? もしかして、まだ現実にいるんですか?』


〈カズ〉

『ミドくん、何かトラブルかい?』



 シュエナとカズからだ。

 同時にということは、今二人は一緒にいる可能性が高そうだな。


 そしてどうやら、チャットはクエスト中のプレイヤーとも繋がれるらしい。


 俺はメッセージを打ち込んでいく。


『今回のクエスト、俺は省かれたみたいだ』


〈シュエナ〉

『えぇっ!? 私たち、どうすればぁ……』


『とりあえず色々試してみる』


 と、返信。


 試すといっても、今思いつくのはダイブシートからのログインくらい。


 とりあえず自分のダイブシートに座ってみた。


 いつも通り起動してみるが、行き先はやっぱり始まりの街くらい。


 どうするかと迷ったが、とりあえず向かってみることにした。



 そして意識はアークマギアへ。



 石畳が整然と敷き詰められた広場に、レンガの家とオランダ風の木造建築。


 始まりの街へ到着だ。


 ウィンドウを開くと、気づけばチャットに1件の通知。


 


〈レイジ〉

『ミド! どうなってんだよ、これ!』


 二人も気づいたのか、シュエナに少し遅れてメッセージが送られてきた。


 俺は即座に返信を打つ。


『分からないが、俺は今回、取り残されたらしい』


 少し間を置いて、続けてカズから返信が入る。


 

〈カズ〉

『……なら仕方ないね。今回はミドくん抜きで、頑張ってみるよ!』


〈シュエナ〉

『今回はみんな早めに合流できましたし、協力して乗り切っていきましょう!』


〈レイジ〉

『しゃーねぇ! ミド、お前は次のクエストまでゆっくり休んでな。チャチャッと攻略してくるわ!』



 端末の画面を見つめながら、俺は自然と微笑が漏れる。


 さっきまでかかっていた心のモヤが一気に晴れた感じだ。


 俺が心配することはない。


 みんな二度のクエストを乗り越えて、強くたくましくなっているのだ。


 この感じなら三度目のクエストも、無事にクリアしてくれるだろう。



『了解。……何かあったら、知らせてくれ』



 今、クエスト不参加の俺にできることはない。


 せいぜいこうやって、みんなとやり取りするくらいのもの。

 


〈カズ〉

『じゃ、また終わったら会おうね!』


〈レイジ〉

『今回のボス報酬はオレのもんだぜ!』


〈シュエナ〉

『また連絡します!』



 ここで一区切り。


 メッセージは一旦終了した。



 さて、俺はどうする?



 始まりの街で武器やアイテムの新調。


 貢献度メダルの交換所とやらをのぞいたり、ガチャ神殿に行くこともできる。


 何からしていくか。


 ……と思ったが、どうも気分が乗らない。


 心配ないと言いつつも、本心ではクエスト中のみんなが気になって、正直気が気じゃない。


「……帰るか」


 せめてクエストが終わるまで、しっかり体を休めておこうかな。

 

 俺はウィンドウのログインボタンをタップして、再び自宅へと向かうことにした。



 * * *

 


 帰宅して、俺はそのままベッドへと倒れ込んだ。


 心身ともに緊張が続いていたせいか、無意識に深く息を吐いていた。


「……はぁ」


 しばらく天井を見上げたまま、ただ時間を流す。


 今回、俺は――除外された。


 間違いない。

 これはバグや偶発的な不具合などではない。

 何者かの明確な意図が働いている。


 AIか。

 それとも、さらに上位の管理層か。


 けれど、不思議だった。


 俺は今こうして、一時的に解放されている状況にある。

 

 そのことに対して、


 ほんの少し安堵している自分と、やるせない自分の対称的な二人が心の中に棲んでいた。


 たった二日、三日で、俺はもうすっかりアークマギアの住民になってしまったということか。


 自嘲気味に笑ってしまった。


 つい数日前まで、ただアークスフィア=コードの最新版VRだと思っていた。


 VRゲームもフルダイブという新時代に入ったんだなと心が弾んでいた。


 それだけだったのに……。


 今は違う。

 仲間がいて、命のやり取りをして、互いの生死を懸けている世界。


 その世界から置いてけぼりにされたことに、あろうことか、俺は遺憾の念に駆られている。


 ……くそ。


 俺は、無意識にあの残酷な世界で生きることを望み始めているのか?


 命を懸けた真のゲームに悦びを感じてしまっているのか?


 思わず額に手を当てた。


 そもそも、だ。

 運営はこんな状況を作り出して、一体何を狙っている?


 生殺与奪を握るデスゲーム。

 強制参加。

 不完全なルール設計。


 こんな歪んだ感情まで生ませて、プレイヤーに何をさせたいんだ。


 そんな思考の渦に囚われていた、その時――


【パーティメンバー〈シュエナ〉 HP70%以下】


「……っ」


 一瞬で意識が現実へ戻った。


 すぐさま端末に視線を移す。


【パーティメンバー〈カズ〉 HP50%以下】

 

「……っ、マズいッ!」


 反射的にベッドから身を起こしていた。


 さっきまでの迷いも安堵も吹き飛んでいた。


 今、アイツらは戦いの渦中にいるんだ。


 自分だけ安全圏にいて、何もできないという状況が、今はただただ歯がゆい。


「……くそっ」


 スマホ型の端末を掴み、すぐさまチャットウィンドウを立ち上げる。


 キーボードに指を走らせた。


【送信先︰グループチャット】


 

『誰でもいい、答えてくれ。今のクエスト名、ステージ名を!』


 

 送信ボタンを押す。


「頼む……! 何か、少しでも情報を!」


 焦燥感に胸が締め付けられる。



 程なくして、通知音が鳴った。



〈レイジ〉

『ミドか! 今回はアークスの第20エリア『空中庭園』の中央ブロックと同じステージだ! 悪いが、中央のどのブロックかは忘れちまった』


「空中庭園か……」


 その名を聞いた瞬間、頭の中のデータベースが自動で回り出した。


 レイジの言うとおり、アークス時代の中盤エリアに、同じステージがあった。


 たしかに空中庭園の中央ブロックにもすり抜けバグが可能な区域があったはず。


 当時はバグの管理が甘く、一部エリアから壁抜けして内部に侵入できる裏技が存在していた。


 この間のゴブリン集落ではすり抜けが通用したが、今回も同じようにできるかは分からない。


 そもそもアークスとアークマギアが繋がっているかどうかも謎だ。


「……でも、試す価値はある」


 何もしないよりは遥かにマシだ。


 俺はすぐさまPCの横に置いてあったVRゴーグルに手を伸ばした。


「待ってろ、みんな――!」


 頭にゴーグルを被り、ログイン準備を開始する。


 試せる手段は、すべて試す。

 たとえゼロに近い確率でも、まずは動かなければ何も始まらない。


 起動画面が光を放つ中、俺の意識は再び仮想世界へと飛び込んでいくのだった。



 

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