表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予測不能のVRゲーマー、スキル模写とバグ技で死のゲーム〈アークマギア〉を規格外に生き残る  作者: 甲賀流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/17

第13話



 ギィ……ギギギギ……


 巨大な斧を地面に引きずる音が響く。


 再生を終えたアグリオスが再び俺の方へ迫ってきている。


 霧が晴れかけた街の広場に、再び重苦しい瘴気が立ち込めていくのを感じた。


「こいよ、怨霊将軍。第二ラウンドだ」


 俺は剣を構え、呼吸を整える。


 こっちのHPは残り八割ほど。

 攻撃にだって、ある程度は対応出来ている。

 霊気装で手応えも得た。


 だが回復する以上、攻めて続けても意味がない。


 今必要なのは、耐えることのみ。


 問題は、どう時間を稼ぐかだが……。


「ヴァアアアアッ!!」

 

 アグリオスの紫炎が、一段と膨れ上がった。


 ヤツの纏う霊気が、斧に注がれる。


 そして一振り、軽やかに振り下ろした。


 バシュッ――


 青白い斬撃が空を斬り、俺へ真っ直ぐ迫る。


 当たったらヤバいと、直感が警鐘を鳴らす。

 だから急いでサイドに飛び退いた。


 それに、


「俺の記憶が正しければ……」


 バシュッ――


「後方跳躍っ!」


 このまま二発目もくるっ!


 予想通りの次手に、俺はスキルでなんとか躱すことができた。


 これには見覚えがある。

 たしか怨霊将軍との戦闘で、一定時間経過すると開放されるモーション。


 俺の記憶じゃ、少なくともあと数発は……。


 バシュバシュッ――


 ほら、やっぱり。


 何度も撃って来るんだ。


 飛ぶ斬撃を。


「……うっ!」


 くそ、分かっていても全て避けきれない。


 それからも幾度となく放たれたそれを、俺は経験とスキルでなんとか躱していくが、数発に一度、体をわずかに掠めてしまった。


 そしてちょうど十発ほど撃ち終わった後、


 フシューッ!


 突然アグリオスから霊気が抜け出ていく。

 そしてガクッと片膝をつき、俯いてしまった。


 間違いない。

 連撃の終わりを示した合図。

 オーバーヒートだ。


 今が完全な攻め時。


 しかし、俺には別の問題が浮上している。


〈HPが50%を下回りました〉


 これに加え、


〈契呪の指環を発動しますか?〉

〈YES/NO〉


 これらの表示。


 傷を負った横腹の痛みに視界が揺れる中、俺の目の前にはこんなウィンドウが現れていた。


 

 あの時、100万円ガチャで引き当てた装備。


 その説明が、脳裏に蘇る。


〈契呪の指環〉

 HP50%以下で装備可能。

 以降、全ステータス2倍。

 ただし、クエスト終了まで外せず、HP・MPの回復もできない。


 まさに呪われた契約。


 今使えば、確実に攻めの一手が打てる。


 だがその代償は、「もう後がない」という事実。


 ポーションも回復魔法も効かない。


 一歩間違えれば即、死。


 その覚悟が、本当にあるのか?


 そんな問いを、自分に突きつける。


 でも――


 ここで使わなきゃ、終わるのは俺だけじゃない。


 背後には、仲間がいる。


 見供養墓地を破壊してくれたレイジも、カズも、シュエナも、ミユも、


 ここで俺が踏みとどまらなきゃ、彼らの努力の全てを踏みにじることになる。


「……いいだろう、上等だ」


 俺はウィンドウを指で弾いた。


 すると、指に装着された指環が淡く禍々しい赤光を放ち、俺の全身を飲み込んでいく。


 ズンッと心音が重くなる感覚。


 同時に、身体の感覚が明らかに変わる。


 筋肉の動きが速い。

 剣も軽い。


 そしてステータス。

 ちゃんと2倍になっている。


 

【名前】ミドウテンリ

【職業】剣士(Swordman)

【レベル】9

【HP】210/460

【MP】88/122


【ステータス】

・攻撃力  :144

・防御力  :100

・俊敏   :116

・知力   :64

・精神   :80

・会心率  :6%

・行動速度 :1.10


【パッシブスキル】

・集中力


【戦闘スキル】

・斬撃

・月影斬

・後方跳躍


【模写眼スロット】2/3

・裂走

・霊気装


【装備】

・俊足のブーツ(俊敏+5/移動速度+10%)

・初級剣士のロングソード(攻撃+10)

・軽鎧ジャケット(防御+8)

・契呪の指環(※HP50%以下時に発動/ステータス2倍/クエスト中装着固定)



「……検証といくか!」


 俺は霊気を纏い、足に力を込める。


「月影斬っ!」


 白銀の斬撃が、音を置き去りにして放たれる。


 ズガァン!!


  霊気を帯びた一撃が鎧を貫き、硬質な甲冑に亀裂が走る。


 その巨体がグラついた。

 効いてる、確実に。


 いいぞ!

 スキルの威力も段違いだ。


 しかしアグリオスも動きを見せる。


「ヴァァッ!」


 再び斧を振るったのだ。


 青白い斬撃。

 ズパァンと迫り来る。


「よし、問題ない!」


 俺はサイドに飛び退いた。


 間違いない。

 俊敏さも上がっている。


 いや、それだけじゃない。

 攻撃も俊敏性も。

 ゲーム数値としての「倍」ではなく、実感としての爆発力がそれ以上にある。


 これが、現金ガチャの★3装備。


 使い方によっちゃ、今後の攻略もかなりスムーズに行ける気がする。


 そんな時、


 アグリオスの動きが鈍った。

 霊気の濃度も、目に見えて下がっている。


 体をわずかに屈め、


「ヴォ……ア、アアア……!」


 唸りをあげた。


 そして、


 ピコンッ――


 チャット通知。


『ミユ:破壊完了!』


「……っ!!」


 その言葉が脳に響いた瞬間、全身に血が巡るような感覚が走った。


「ミユ……ありがとう!」


 ついに全ての墓地が、破壊された。


 あとはこの怨霊将軍アグリオスを討伐して、この戦闘任務をクリアするだけ。


 今、完全に追い風だっ!


 そう思った時、


「オオオオ……ヴァアアアア!!」


 狂ったようにアグリオスが咆哮した。


 紫炎が激しく瞬き、次の瞬間――


 ズズンッ!


 強く振り下ろした斧が地面を引き裂いた。


 ドドドドドドドッ――


 俺の直下まで地割れが迫り、


 そして一気に爆ぜた。


 バコォォンッ――


「や、ば……っ!?」


 前もって避けたつもりだったが、地鳴りと爆風で俺はバランスを失った。


「後方跳躍っ!」


 しかしなんとかスキルの補助で後退。


 ダッ――


 だがそれでも地面を蹴り、距離を詰めてくるアグリオス。


 眼窩の紫炎はより膨大となり、鎧の隙間からはこれまでにないエネルギーが常に漏れ出ている。


「これは……っ!」


 怨霊将軍がHPを全体の10%を切った時、発動する『暴走モード』。


 そしてそのモードでのみ使用できる大技が、今まさに放たれようとしている。


「霊断の一撃……!」


 斧が霊気の刃に変貌し、俺をまっすぐ叩き斬らんとする。


 全てを断ち割るような一閃。


 それは、目で追えても体が反応できないレベルの一撃だった。


 ズガァァン――


「ぐっ……!」


 なんとか攻撃の軌道から身を逸らすことだけで精一杯。

 その破壊力に、体ごと吹き飛ばされる。


 だが、タダじゃ転ばない。


「月影斬っ!」


 俺は飛ばされながらも、宙でスキルを放つ。


「ヴァァァッ!」


 見事命中。


 今まで何千何万と撃ってきたんだ。

 たとえ自分がどんな状況でも、どんなに的が小さくても、この月影斬だけは確実に当てられる。


「ハァッ、ハァ……」

 

 だが、アグリオスに一切の怯みはない。

 こっちはもう、体力の限界なのに。


 さすが『暴走モード』といったところだ。


「ヴァアアアアアア……ッ!!」


 それから再び距離を詰められ、


 霊断の一撃が嵐のように連打される。


 ズガンッ――


 地面が裂け、霊気が弾ける。


 ズガンッ――


 避けた先をなぞるように斬撃が迫る。


 ズガンッ――


 反撃の隙もない。


 ズガンッ――


 気づけば、俺の動きは守り一辺倒になっていた。


「クソッ……っ!」


 ステータス二倍とはいえ、まともに食らえば間違いなくゲームオーバーだ。


 何か一つ、きっかけが欲しい。


 この猛攻を掻い潜る何らかの……。


 いや、あるぞ。

 というかむしろ今しかない。


 俺はアグリオスの攻撃と攻撃のわずかな間に、ウィンドウからアイテムを取り出した。


〈時遅の鈴〉


 使用すれば、敵全体の動きを三秒間だけ止めることができる、100万円ガチャ産のアイテム。


 ただし、これは敵だけではなく仲間の時間までも止めてしまう。

 さらに一つのクエストにつき一度までという制限もあって、使いどころに迷っていたが、


 使うなら、今しかない。


 自分の成すべきことをやり遂げるためには。


 この力が必要なんだっ!


 彼らは全員、最後までやり遂げた。


「俺だって……!」


 鈴を振った。


 チリ……ン。


 高く透き通る音が街に響いた瞬間、アグリオスの動きが、ピタリと止まる。


 その巨体も霊気のゆらぎも、時の監獄に閉じ込められたように全てが静止している。


 だけどたった三秒だ。


「終わらせてやる!」


 俺は全身に霊気装を纏った。

 全てのMPを使う覚悟で。


 深く呼吸を整える。


「裂走!!」


 剣に纏った紫の霊気が一閃する。


 バシュッ――


 まずは一撃、アグリオスの胴体を貫いた。


 そして立て続けに月影斬。


「終わりだっ!」


 ザシュッ――


 ちょうど三秒。


 ズガァアアアアアッ!!


 少し遅れてアグリオスが吠える。

 爆風と共に、断末魔が響き渡った。


 紫炎がかき消え、鎧が一部砕け散る。


「ヴォォオオオオオオオ!!」


 しかしアグリオスはまだ倒れない。


 それどころかもう一撃俺に与えようと、斧を全力で地に振り下ろした。


 ズガンッ――


「コイツ、まだ……!」


 霊気を帯びた大規模な地割れが、街の石畳を壊しながら迫ってくる。


 あれは、さっき爆発したスキル!


「後方跳躍!」


 俺は即座にバックステップで間合いを取り――


「終わりだ、アグリオスッ! 月影斬!」


 霊気装と契呪の指環、全ての力を一点に集中させた、おそらく今日一番の最大火力。


 これが本当に最後の一撃っ!


「オラァァ――ッ!」


 空気を裂く白銀の刃が、光の軌跡を描きながらアグリオスを貫く。


 頼む、倒れてくれ……!


 切実な祈りと共に、爆発音が街に轟く。


 バコォォンッ――


 爆音とともに俺はまた吹き飛ばされた。


 そして、


 ポリゴン状となった巨体が、静かに崩れていく。


 ピコンッ――


【戦闘任務02/10:クリア】


「……終わった、のか?」


 剣を支えに立ち上がろうとするも、膝が笑った。


 地に手をつき、ようやく気づく――自分が震えていることに。


 これは恐怖でも、疲労でもない。


「……はっ、やった。やったんだ、俺は」


 ただただ、生きていた。


 いや、生き残ったのだ。



 こうして俺たちは、怨霊将軍アグリオスを撃破し、二つ目の戦闘任務を終えたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ