プレリュード・ミステリオーソ 神秘的な前奏曲 1/2
ブラック・スワンの通信コンソールが鳴り、美咲が受信した通信を確認した。プライベート周波数での着信だった。
「ヴァレリー、あなた宛てのサブセクター内一斉通信よ。お金かかるやつ。あたし、個人で受け取る人ほとんど見たことない。ご丁寧に暗号化されているわ。」
ヴァレリー・コスタは慌てた様子で観測席のコンソールに向かった。通常なら冷静沈着な彼女だが、差出人を確認した瞬間、顔色が変わった。
「ソーシャルケアからだわ...15年ぶりの連絡ね…なんで今頃?」
彼女は暗号を解読し、メッセージを読み進めるうちに、手が震え始めた。
「どうした?」エリックが尋ねた。
「セリア...私の娘が危険な状況にいるわ」
艦橋に緊張が走った。ヴァレリーに娘がいることは美咲でさえも誰も知らなかった。
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その夜、ヴァレリーは四人分のブランデーを用意し、自分の過去を語り始めた。彼女10代の時に産んだ娘セリアは、施設に預けられた。高校から大学を経て、グレイソン・インターステラー社での地位を築いた後、娘の消息を追ったが、すでに彼女は里親に引き取られていた。
美咲は、高校時代のヴァレリーが飛び級し有名な大学に進むのを見ていたが、その原動力には娘を迎えに行くために経済的に自立したいということがあったのかと今更ながら気づいた。
「ヴァル、苦労してたのね…あたし気づかなかった。ごめんね。あたし、高校時代になんか失礼なこと言ってなかった…?」
「そんなことないわ、美咲。ありがとう」ヴァレリーは美咲の手を握る。
ヴァレリーはみんなに向かって言った。
「私が経済的に自立して、娘の追跡を始めたとき、彼女はすでにカルディナル男爵の養女になっていたの。男爵は、連邦貴族だけど、実はセクターで最も危険なコンステラツィオーネであるネクサス・ウンブラの親玉の一人でもあるのよ。それで手が出せなかった」
「それがなぜ今になって連絡が?」美咲が尋ねた。
「セリアは...幼児の時から特別な能力を持っていたの。みんなにだけは話すけど、テレパシーとテレエンパシー。連邦では迫害される能力よ。施設では理解者―連絡をくれたソーシャルケアだけどーがいて、かくまってくれていたけど」
エリックが身を乗り出した。「テレパスなのか?」
「ええ。カルディナルは彼女の能力を使って、密輸網の連絡かなにかに利用しているようだわ。でも最近、セリアが知りすぎてしまったみたい。彼らは彼女を深く隠し、万一のときは...」
ヴァレリーの言葉が途切れた。
「始末するということだな」マーカスが低い声で言った。
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次の日、改めて作戦会議が開かれた。
「カルディナル男爵の本拠地はアルセスト星系」エリックがホログラムを操作しながら説明した。「娘を救出するには、まず情報が必要だ」
美咲は腕を組んで考え込んだ。「このミッション、純粋な救出作戦としてはおそらく難しすぎるわ。でも...もし彼女の能力が本物なら、戦術的価値は計り知れないわね」
「美咲!」マーカスが抗議した。「彼女はただの子供だぞ。利用するつもりか?」
「価値があるなら納得しやすい、そのために資金も投じやすいというだけのことよ。それに彼女を守るためにも、彼女の価値を理解する必要があるわ」
エリックは黙って聞いていたが、ここで口を開いた。「超能力とはいっても全く万能ではなく、社会が恐れるようなものではない。そもそも超能力は年齢に伴って、だいたい20歳くらいの頃突然消える。連邦の偏見は...間違っていると思う」
全員がエリックを見た。通常、彼はこのようなイデオロギー的発言をすることはなかった。
「なぜあなたがそれを知っているの?」
「俺の祖母はテレパスだった。彼の生まれた地方では、過去には超能力は尊ばれていてね。俺には超能力はなかったが、それがわかる前から超能力を制御する訓練は受けた。むしろ超能力を持っている場合にそれが連邦に露呈しないようにするための訓練さ。」
「そうだったのね…知らなかった」
「つまり?」ヴァレリーが尋ねた。
「救出後、セリアをクルーに迎えることを提案する。彼女は安全な場所が必要だ。我々なら守れる。そして、必要なら俺がトレーニングにも付き合える。」
マーカスは安堵の表情を浮かべた。「賛成だ。そんな子を放っておくわけにはいかない」
美咲は実利と情に揺れる様子だったが、最終的に頷いた。「私たちも危険を承知で取り組む価値がありそうね。でも先に、彼女の能力が本物かどうか確認する必要があるわね」
「彼女は本物よ」ヴァレリーの声には確信があった。
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アルセスト星系にジャンプアウトする前から、エリックはこの任務の難しさを理解していた。相手は単なるネクサス・ウンブラの上級幹部というではなく、政治力と軍事力を兼ね備えた連邦貴族だ。
「正面切っての突入は不可能だ」エリックは作戦会議で言った。「我々の強みは情報と機動力。まずは情報収集から始める」
美咲は軌道上に止めた船から高性能通信機器を駆使して、星系内の一般通信を傍受することにした。
「面白いわ」三日目の夜、美咲はデータパッドを手にコモンズに姿を見せた。「カルディナル男爵は、セリアを単なる道具としてだけでなく、ある意味で大切に扱っているみたいね」
「どういう意味だ?」マーカスが尋ねた。
「彼女の精神状態が悪いと能力も低下するからじゃないかしら。プライベートな楽しみも許されている。特に...」美咲は微笑んだ。「彼女はELCというジャズバンドのファンみたい」
ヴァレリーが身を乗り出した。「それがどう関係するの?」
「ELCが来週、アルセスト・シティでライブを行うわ。そして傍受した通信によると、カルディナル男爵は彼らを私邸に招待しようとしている。おそらく、セリアに聴かせるために」
エリックの目が輝いた。「チャンスだ」
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ELCのフロントマンにしてボーカルのルーク・エバンスは、ブラック・スワンの客室で腕を組んでいた。
「男爵の城でプレイするなって? 冗談じゃない、俺たちにとっては名誉なことなんだぞ。」
美咲は説得を続けた。「あなたたちの作り上げたイメージって貴族を喜ばすためのものじゃないでしょ。ファンはどう思うと思う?」
「でも、ギャラだって悪くない」バンドのサックス奏者が言った。
ヴァレリーが静かに前に進み出た。「同額払います。それで、アルセスト・シティのジャズ・バーで追加公演を手配するわ」
バンドメンバーは驚いた顔を見合わせた。
「あなたたちには、ただ男爵の招待を断ってもらうだけでいい」エリックが補足した。
ルークは疑わしげに彼らを見た。「なぜそこまでする?」
「個人的な理由だ」エリックは静かに答えた。「悪いことをするつもりはない」
ルークはしばらく考え込んだ後、頷いた。「だが、もし俺たちが巻き込まれたら...」
「そんなことはさせない」マーカスが力強く宣言した。
「わかった。」
「理解してくれて、感謝する」
「俺たちはストリートから生まれたバンドだ。貴族のペットになるつもりはないってことさ。」




