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象の身じろぎ

 何回かのミッションを経て、メンバーは気が合うこと、それぞれの能力と役割が補完的であることを意識し始めた。船名をブラック・スワンに変えて登録しなおし、正式にビジネスに乗り出すことにする。

 美咲は、全員をスワンのラウンジに集める。ラウンジと言っても、今回の航程ではコモンズにまで交易品を詰め込んだ結果、通路の真ん中にテーブルを置いてあるだけ。美咲以外は小柄ではないので、大変狭苦しい。

 美咲は、小さな咳払いをして話し出す。

「ここには健康な男性と女性がいるじゃない?」

「なにごと?」「それが何か?」

「それが今後、小さい船で過ごすのよ。それこそ時には何か月も」

「海軍ではいつものことだ」「商船だってそんなものよ」「耐えられると思うぜ?」

「だから!性衝動も起こると言っているのよ!」

「うむ…」「まあ…」「そうね…」

「それで、誰が誰と付き合うとか陰でこそこそとか嫉妬とか妬みとかが起こるわけよ」

「まあ…そういうこともあるかもな」

「だから、この四人では、誰が誰と寝ても文句を言わないってこと、いい?」

「…」「…」「…」

 三人は顔を見合わす。

「面倒くさいわね、要するにあたしが、エリックと寝ても、マーカスと寝ても、ヴァレリーと寝ても、誰も文句言わないでねってことよ。恋愛感情とは別に、したいもの同士でしていいってこと。あたしの船でかくれてこそこそしないで。まあ二人はヴァレリーと寝たいと思うんだろうけどさ…」

「なぜ、私?!」

「魅力的だってことを美咲は言いたいんだと思うぜ」

「ありがと。でも、美咲だって魅力的だと思うけど」

「二人とも美人の方向性が違うよな」

「それを言うなら、あんたたち二人だって…」言いかけてヴァレリーは口をつぐむ。

 なんだか、変な空気が流れる。

「ともかく!そもそも、寝てもいいと思えないような人と船で一緒にいたくないでしょ?客船で一緒になるんじゃなくて、一緒に長い間過ごして働くんだからさ。だったら、寝てもいいってことよ」

「美咲、なんかこう、慎みとかないの…?」

「慎みでは、象はいなくならないの!」

 美咲は、孤立無援に感じて、急に弱気になる。

「なんか、あたしばかり破廉恥な女になってない…?なんか、あたしばっかり性衝動過多な感じじゃない…もう、勘弁してよ…」

「いや、重要なことを持ち出してくれたと思う。ちょっと唐突に感じただけで」エリックがつぶやく。

「ぐすん」

「美咲がキャプテンにふさわしいことはわかった」エリックが再びつぶやく。

「…は?」

「この船に内在するリスクを洗い出して、船の将来の危機を救ったわけだ。その視点、行動力、うん、美咲がこの船のキャプテンだな!」

「なんか、破廉恥なことを言いだしたからキャプテンと言うことなら、なんかちょっとこう女子としての品格を失ったというか…それにあたしは船以外については何とも自信がないし…まあ人付き合いについては何とかなるとしても…」

「船以外のことについては、エリックに任せればいいんじゃないかしら?」

「善処するよ」

「任せたぜ」

「荒事はマーカスが得意だろ、頼んだぜ」

「得意と言うか、荒事の基本は、トラブルを避けるということなんだがな」

「その言葉がすでに経験に裏打ちされていて頼もしいわ!」

「経済のことはヴァレリーが仕切ればいいだろ」

「信頼してくれてありがと」

「俺の財布すら預けたい気持ちだ」

「え、ちょっと待って、それはありがたいけど、そうするとあたしは船の雑用だけを任される感じ…なんか不本意…」

「何言ってんだよ、船を任せるって、俺たちの命を預けるってことじゃないか。頼んだぜ、キャプテン!」

「なんかあたし、だまされてない…?」

 テーブルに両手を放り投げて突っ伏しかける美咲を、ヴァレリーが抱き留める。

「何言ってるのよ、あなたらしくないわ、美咲!」

「え?」

 顔を上げた美咲に、ヴァレリーが突然キスをする。「あなたはいっつも責任感が強くて、ちょっと空回りしかける勇気があって、何より実行力があるんだから。高校時代にはファンもとっても多かったのよ」もう一度キス「ちょっと私が踏み込めないくらい」

「え?」ヴァレリーの激しいキスに戸惑う美咲。「な、なにごと…?」

「あなたが、この船では誰と寝てもいいと言ったじゃない。私とだって。」

「え?ちょっと待ってそれは言葉の綾で…ええっ?」

「というわけで、今日の美咲は私のもの!あなたたちは好きにすればいいわ」

「いや俺たちはちょっとそういう感じじゃない、よな」「違うよな、うん」

「え?あたしの自由意志は…?」



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