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アルモニア・デッラ・フランケッツァ 率直の和声2/2

「あたしたちは、ネクサス・ウンブラのこの宙域全体のヴァースを完全に理解していない。今のところ」

「なるほど」

 カオルが背後からおどけた手つきで、大げさに両手で中将を指さす。その表情から、連邦海軍や中将もヴァースを完全に理解していないと言いたいのだろう。中将は第六感でカオルの行動に気づいたようだが、あきらめたように今回は振り向かない。

「あたしたちの理解は、比較的最近からなの。もともとは、侯爵がネクサス・ウンブラの存在に気づいたのち、彼らの薬物工場を一時は庇護し、ネクサス・ウンブラはその見返りに侯爵へ上納金を提供するとともに、侯爵が支配を広げたい星系群に薬物汚染をはびこらせたところから始まる。彼にはほとんどヴァースに対する意図はないまま、十分に社会が混乱した星系群に秩序をもたらすことで権力を広げようとだけ考え、その第一歩として侯爵がネクサス・ウンブラの中枢である薬物工場群を強襲した。ネクサス・ウンブラが瓦解し、薬物でようやく社会維持している星系たちもまた崩壊する。これを彼が平定するという策略だったわけよ」

 美咲は深呼吸をするために一度言葉を切る。

「薬物汚染が広がる星系の一部は、もう後戻りできないほど蔓延が広がっている。まさに薬物中毒患者そのもののよう。もう薬物でなんとか保っている感じ。薬物で延命している感じ。薬物が切れたら社会不安が一気に加速し、壊滅的に瓦解する。その予測は、情報局でも海軍でも一緒?」

「まず間違いなくそうなるだろう」中将と視線を合わせたクライブは冷酷に告げる。中将は無言の同意を示す。

「これについては、とんでもないことだし悔しいけど、どうしようもない。一方、薬物取引ができなくなると、ネクサス・ウンブラはその大きな資金源を失うことになり、大きく急速に衰退する。その副作用としてネクサス・ウンブラのヴァースは証拠隠滅などのため、先だって意図的に破壊される。テレパスたちは処分される。少なくとも私たちはそう知った」

 美咲は一度大きく深呼吸をして自分の気持ちを確かめる。

「でもあたしたちはセリアを救出して以降、社会で差別され迫害された挙句、コンステラツィオーネの片棒を担がされ、最後は処分されるテレパスたち社会的弱者が存在することに気づかされた。彼ら社会的弱者を見過ごせなくなったのよ。いずれにせよ星系の瓦解は避けられない。でも、テレパスたちに寄り添う人がいたっていいじゃない!」

 意外なことに、中将が骨ばった手を伸ばして、美咲の手をつかむ。「全く同感だよ、元情報局大尉」

 美咲はその手を握り返す。

「侯爵が急襲に転じた時、あたしたちはクライブの支援で、48時間先んじて薬物工場群に向かうことができた。そこでネクサス・ウンブラの工場群が上層部と共に破壊されたとき、宙域のヴァースを維持するネクサス・ウンブラの司令塔たるサスキアを救い出したのよ。そして、そこでネクサス・ウンブラの最高命令を正しく発出したの。現状維持し、3か月後にゼータ・サルガタナス星系に連絡船を集合させろ、と。逆に言えば、あたしたちはまだヴァースを完全には掌握していない」

「具体的にはどうやったのだ?」

 美咲が答えあぐねていると、カオルが助け舟を出す。

「それはまだ秘密と言うことよ、叔父様!」

「営業秘密と言うことだな。よかろう」

 なるほど、彼女はまさにホームとしてのヴァースの味方。私たちの味方でもあるということか。海軍としての価値観を維持しつつ、テレパスとしての個性も持つなんて、なんて美しい。きっとセリアやサスキアにとってもいい刺激になるだろう。なんだかうれしく、そして心強く感じ、美咲は再び話し出す。

「だから、あたしたちは、ゼータ・サルガタナス星系で、改めてヴァースの維持を命令しなければならない。そうでなければヴァースはいち早く証拠隠滅のために破壊されかねない。あたしたちは、侯爵を脅して命令をさせるつもりだった。先だっての侯爵の攻撃は、ネクサス・ウンブラの上層部の内輪もめだということにして」

「しかし、侯爵が暗殺されて、その策がとん挫しているわけだな」

「その通り」

「でどうするわけだ?スワンズよ」

「どうするかって?さっきまで何の案もなかったわよ!でも、あなたのおかげで気持ちが定まった。感謝するわ。あたしたちは、この混乱にあって、あたしたちの期待であるヴァースの保全を、ネクサス・ウンブラの期待に反して命令させる気でいた。だからこそ、命令を強制させうる顔であったり権威を必要していたの。でも、逆だと思い知ったわ。彼らの期待に沿う命令を出して、結果的にヴァースを保全させればいいのよ。それであれば、顔だったり権威が必要にならない」

 美咲は声のトーンを一段上げた。

「あなたがあたしの手を握ってくれるということは、気持ちだけ?海軍をあげてスワンズに協力なさい。でも海軍に、ヴァースは渡さない。だって、あたしたちのホームだもの。代わりに、あなたがたをヴァースに受け入れるわ」

 中将は相貌を崩し、さらに強く美咲の手を握る。「詳しく話しなさい。できることをしよう」

「でもちょっと前に、スワンズに確認取らないと。あたしの独断ではまずいし」

「いや、テンポも大事だろ。任せるよ」マーカスは気楽に言う。

「あなたの思い通りでかまわないわ、美咲」

「俺は、君の方針に従うことがよいと思い知らされてきた。たとえ理解できない場合もね」

 クライブは不満を感じないでもなかったが、特に別案があるわけでもない。「ここまで来たら、一蓮托生だ」

「あたしたちも、美咲を信じてる」セリアとサスキアの声は明るい。

「ありがと、みんな!」

 美咲は、仲間にはとても魅力的に、敵には恐ろしく見える笑みを浮かべて、中将に向けて宣言する。中将はそれをどちらの笑みとして受け取っただろう。

「あたし、今からとんでもないこと要求するわよ?覚悟しておいて!」


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