表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/38

骸骨は紫色

 スワンズたちは働き疲れて眠りにつき、リビングルームに、美咲とクライブだけが残った。美咲も本当に疲れていたが、クライブの冷たい目線は、カエルをにらむ蛇のよう。美咲はおびえつつも次に起こることについて腹を決めていた。

「さて、ナディア、いろいろと聞かせてもらおうか」

「うくっ。仕方ないわね…これって尋問じゃないんでしょうね?」

「尋問されても仕方がないということだな。今のところ自白剤を使う予定はない」

 クライブは、セリアとサスキアに美咲の嘘の判別を頼もうとはしていなかった。何より、彼女らがクライブの味方をするとは到底思えなかったし、未成年を巻き込みたくはなかったからだ。

「ひい…」 美咲はクライブの配慮にも気づかず、音にならない叫び声をあげる。


「オルディナ星系を出る際に、俺や情報局に連絡を入れなかったことは、理解できないでもない。どこにネクサス・ウンブラの耳があるかわからず、局内にも内通者の存在さえ疑われるなか、いくら暗号通信であろうと控えたということだろう。そのまま混乱を利用して星系外に出たのはわかる」

「…理解いただいて助かります…」

「俺はそれを予期し、オルディナ星系からジャンプ1回で到達できるすべての星系に連絡をしておいた。君らはイスファハン星系で探知された。情報局は、君らが追加の作戦を行う可能性を感じ、直接の接触は避けて監視した。君は、イスファハンで情報局に連絡を取ろうとは考えなかったのか」

「あなたがここまで大規模に情報局を動かしていると思わなかったのよ。あなた自身は中央からの派遣でも、ローカルではせいぜいオルディナ支局しか話が通ってないと思っていたのよ」

「それについては俺も伝達不足だったと思っている。侯爵との接触から、タラントのリングへ向かう君らと俺が離れるまでが急すぎた」

「ほっ」

「ではなぜそもそもイスファハンに向ったのだ?いつから計画していた?」

「無計画だったのよ。タラントのリングでサスキアを救ったのち、とにかく星系を脱したかった。サスキアがもう一人優秀だと言ったテレパスが、イスファハンに向う連絡船で脱出したので彼を次に救おうと考えて、イスファハンへのジャンプ・ポイントが遠くなかったのをいいことにとにかく急いで出たということ」

「では、計画的ではなかったのだな?」

「そう…」

 そして美咲は、サスキアがネクサス・ウンブラの最高司令を出す役割を持ったテレパスであることを説明した。さらに、タラントのリングでの小競り合いの際に、サスキアから全ネクサス・ウンブラに対して緊急の現状維持命令を送ったことを説明した。クライブはかなり突っ込んだ質問をしてきたが、最終的には美咲の判断と行動について、むしろ称賛の意を示した。美咲はちょっと安心し始めた。

「改めて確認すると、イスファハンに向ったのは、全くの計画外だったということだな?」

「その通りよ」

「では、君がナガハマの宇宙港に着床したのち、すぐにピア12に向ったことはどう説明する?最初から計画していたのではないか?」

「計画してないわ…上空から、ピア12に知っている船が停泊しているのを見つけたから、船を訪ねたのよ」

「それにしては、周到だ。着床したスワンからすぐに出た君を尾行した情報局の局員4名のうち、3名までが完全にまかれ、一人だけが君をピア12に向ったことを突き止めえた。これも、計画的ではないというのか」

「うっ。計画的ではないの。ピア12に向おうとしたけど、ちょっと躊躇もあって、あっち行ったりこっち行ったりうろうろして、街でちょっと髪をカットしてもらったりしただけで…尾行を巻こうとしたわけではないのよ…」

「信じられると思うか?ドローンまで投入しての追跡だったそうだ。たまたま一人の局員が機転を利かせることができて君の行動を追跡できただけで、君の尾行への対応は真に”独創的”だったという報告だったぞ」

「そんなこと言われても…あたしそんなに優秀じゃないし…本当に」

「ではまあ、そうだとしよう。そして、ピア12で君が会っていたのは、サスカチェワン子爵だな?」

「そうよ…」

「…」

「…」

「ナディア、普通、一星系の領主と、無計画に会えるものか?君は子爵とすぐに接触し、広いピア12のど真ん中で人払いをしたうえで二人だけで話をしていたと報告が上がっている。子爵は、君と話をするために、2件の予定を急遽キャンセルしていたこともわかっている。何を話したんだ?」

「二人で立ち話をしていただけよ…」

 そう言いながら美咲は、脚が震えていることに気づき、寒気を感じて自分を抱きしめた。スナイデルが自分のために無理に時間を作ってくれたことを知り、スナイデルが軽妙にふるまって見せていただけで、急に訪問した自分を大切に思っていたかもしれないと思い至ったのだ。スナイデルは、美咲の方に急速に近寄ってきてくれたのだ、今回。その事実は、美咲を安心させるのではなく、何か大きなことに巻き込まれたかのような恐怖に近い感情を引き起こした。

「何を言っているんだ。遮るもののないピア12で半径100mに人を立ち入らせないようにして行う話が、立ち話なわけないだろう。密室での会話よりも秘匿性が高い状況じゃないか。元局員の君に説明する必要もなかろう」

 美咲はおののく自分に驚きながら、何とか声を絞り出す。

「それは成り行きでそうなっただけで…」

「と言うことは、期せずして上空から見かけた子爵を訪ねることにして、たまたまプロの尾行を巻き、そのまま子爵と会え、子爵に自発的に時間を作らせ、成り行きで密室めいた会話をした、と」

 美咲ですら、それが事実と知っていてさえ、胡散臭く聞こえることに同意せざるを得ない。

「あるいは、ネクサス・ウンブラへの襲撃後、予定通り子爵のいるイスファハンに急行し、子爵にいち早く詳細を報告したのか。君は何らかの密命を帯びた子爵のスパイ。子爵は伯爵への陞爵のうわさもある。そのための情報収集か特殊工作が密命だろうか」

 なるほど、それが事実ではないと知っていてさえ、どこか真実味をもって響く。なぜだろう。

「…」

「ナディア、本心を言うとな、君が本当の話をしているだけだと俺の感覚は言っている」

「ふぇっ?そうなの?」

「今までも君は局員としては珍しいほど表裏を見せないし、今回はそうではないという理由はない。そしてこんな怪しい言い訳しかできないことは、普段から創意工夫豊かな君に全く似合わない」

 クライブはため息をつく。

「君と子爵の間に何があった?」

「ふぇっ?な、な、何もありません…」

 美咲は、反射的に赤面し、そうした自分に気づいてさらに慌てる。

「君は、マーガレットとしてサスカチェワン星系に潜入捜査をしていただろう。入局してまだ4年目頃。普通は潜入捜査に投入されるには早すぎると判断される時期だ。そして、そこでの活動報告がどうして俺でもアクセスできないような機密なんだ?新人は、そんな機密が絡む仕事に投入されることはない。あの活動報告の機密レベルはいくつなんだ?」

 本当はそれも言ってはいけないことではあるが、口頭であるし言ってしまうことにした。「レベル7」

「と言うことは、俺のアクセス権限の3つ上と言うことか。星系の領主でもアクセスできない情報と言うことだな」

 美咲は自分の顔を両手で挟んで冷やしながら何度かうなずく。

 クライブは改めてゆっくりと聞いた。「これまで君と子爵の間に何があった?」

「と、特に何も…」

「機密だから言えないという言い訳をしないところが君らしいな。とすると、本当に機密とは無関係に、君自身が話したくないことが君と子爵の間にあるということだな」

 クライブが美咲を見つめる目から冷たさが去り、美咲はこれ以上ないほど赤面した。彼女は、顔から火が出るとはこのことだと本当に思った。魚が焼けそうだ。

「ちょ…そ、それは…ようやく最近でも自覚しただけで…個人的なだけで…まだ真偽は審議中で…ってあたし、何言ってんだろ…」

 クライブは録音装置を切り、ノートも閉じる。彼の言葉に明るさが加わる。「わかった、ナディア。ここまでにしよう」

「ここまでで許してくれるの?」

「許すも何も、君に連邦政府や連邦情報局に対する造反があるわけでもなく、君が裏切っていることもない以上、情報局の関心ごととしてはここまでで十分だということだ。個人的なことに踏み込むのは、俺も本意ではない」

「あ、ありがとう、クライブ」

 それにしてもクライブの機密アクセス権限はレベル4か…思ったより高いことに美咲は驚いた。美咲が情報局を辞するときの機密アクセス権限はレベル2であった。

「個人的には、下世話な意味ではなく、ナディアをここまでの状態にする内情をもっと知りたいとは思うがね」

「うっく…話せるようになったらきっと話すから」

 クライブは少し笑みを浮かべてうなずく。そして小さくため息を漏らす。

「後はこれを、局が納得するようにどう報告書に書くかだな…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ